オアシス
「あれはなんだ?
「サンドワームという魔獣です。」
巨大なミミズのようなのが数匹、5メートルほど立ち上がりうねうねしている。先端には大きな口があって歯がある。
「咬みつきだけだから、頭を落とせば終わり。」
どこまでも冷静沈着なリースである。
「両側からくると思います。僕が左を片付けるから、右のヤツはお任せします。」
船は魔獣の群れに真っ直ぐ向かっていく。エスターはサーベルを両手で握り締めて、間合いを測る。右舷にいるのは2匹。近いほうには刃が届きそうだ。
「そこッ!」
エスターは太さ60センチはあるワームの首下へ、横薙ぎを放った。向こう側の皮一枚残ってしまったが、
頭を落とすのに成功した。
(リースのほうは?)
リースは左脚を引いて腰を落とし、居合抜きの構えから抜刀。
「ソニックブレード!」
(あれは届かない?)
だがしかし、3つ並んだサンドワームの頭がスパッと落ちた。魔獣の体が粉々に弾け、リースの足元に魔石が転がった。
「君は…一体…何者なんだ!」
再び船内。
リースに詰め寄るエスター。顔が怖いよ、リースは心の中で呟く。
「えっと、君には色々と聞きたいことが。」
「ナンノコトデショウ?」
とぼけるリース。
「さっきの体術とか、剣技とか色々とな。そもそも君はなぜ商人なのか?」
農民、狩人、錬金術師、鍛冶師、様々な職業には専門的なスキルがあるが、商人は冒険者と同様に特定のジョブの持ち主を意味しない。肉屋は狩人、八百屋は農民が経営していたりする。
「僕は最初、商会長の護衛でしたね。」
一年前、盗賊に襲われている馬車を助けたことがきっかけで、リースはベルガー商会に雇われたという。だが、それ以上は話したくない雰囲気だったので、エスターも追及をやめた。
(冒険者一本でも、相当やれるだろうに)
その後は何事もなく、砂船は3日の航海を終えて無事、オアシスの町カルナックに到着した。
高い塀に囲まれているのは砂嵐と魔獣から守るためである。周囲1キロ弱の町の中心には湧水池があって椰子も生えている。
「これからギルドへ行くけど、エスターさん一緒に来ますか?」
「ああ、そうだな。行こうか。」
二人はギルドへ向かった。エスターは報酬の受け取り、リースは魔獣の出現報告を終えて、魔石の買取も依頼することにした。
「リースさんは、F級に昇格です。」
「いや、このままでいい。」
ギルドの職員は困惑している。
「僕は商人なんで、昇級はいらないよ。悪目立ちしたくない。」
後々、『無敵のメイプル』の二つ名で呼ばれることになると、リースはこの時には思いもよらずにいた。




