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空間魔法

「リースが?」

 ロマリア王国は宗教都市ロマリアのみの都市国家で、聖教会の総本山のある小さな国家だ。だが、世界の中心でもある。教会付属の魔法士団の自室で、賢者ミュラーはオルテガと話をしていた。サンドリアの魔獣事件のことで、オルテガが意見を求めて来ていた。話の中で、リースの話題が出たのだ。

「生きていたんだな。」

「ああ、商人になってた。メイプルの札を下げてた。」

 3年前に行方知れずになった弟が生きている事をミュラーは喜んだ。オルテガとの確執はともかく、自分にとってはどちらも大事な弟だ。


「聞きたいのは、何もない場所に魔獣を出す魔法があるのか、そこなんだよ。」

「ない、と言いたいが‥‥。」

 ミュラーは言った。

「人間族以外なら、あるかも知れない。」

「エルフとか?」

「エルフの魔法は精霊召喚。何かを呼び出す点では似ているが、呼べるのは精霊だけだよ。」

「魔族?」

「生き残りが居れば、可能性がある。」

「兄貴でもよく分からないのか。」

「何か分かれば教えるよ。」


 オルテガが帰った後、ミュラーはずっと考え事をしていた。空間魔法が使われたことは間違いない。犯人をこのままにしては置けない。都市の防護壁の高さとか一切無視で、いつでも攻撃可能な犯人は、極めて危険だ。

(何が狙いだ?) 

 翌日、ミュラーはロマリアの大図書館にいた。一般に開放されていない閉架書庫に向かうと、先客がいた。

「ルクレツィア皇女殿下!」

「やあ、君か?ミュラー。」

 小柄で童顔、けしからん巨乳の女性は、ロマリア皇帝の次女ルクレツィア。皇位継承権を放棄し、魔法の研究に没頭している変わり者の魔法オタク。魔法の実力はミュラーも一目置くほど。政争の道具にされるのを嫌い、魔法に打ち込みたくて皇籍を離れている。

「殿下はやめてくれ。もう皇族じゃないんだ。」

「では姉上とでも?」

 ミュラーの婚約者は皇帝の七女だが、子供のいないトゥルガウ公爵の養女になった。なのでルクレツィアは、いずれミュラーの義姉になる。

「姉さんはところで今日は何を?」

「目的は同じかと思うヨ。」

 ルクレツィアは悪戯な笑みを浮かべた。

「失われた魔法‥‥。転移、召喚」

「そうだよ、義弟クン。勇者の物語にも出てくるね。」

「魔族の秘術。空間魔法。」

「東国に伝わっているかも知れないんだ。」

 少なくともこの大陸にはない魔法だ。

「ご自身で確認されるおつもりで?」

「魔法を知らないと務まらないよ。」

 ミュラーは頭を抱えてしまった。止めても無駄と分かっている。しかし、一人で行かせるわけにもいくまい。ああ、どうすればいいんだ。腕の立つ冒険者が護衛につけば‥‥。

(いるじゃないか)

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