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放浪

「さっきの、オルテガ君だった。知り合いみたいな感じだったけど?」

「昔、僕の弟だった。今は他人だ。」

 オルテガの兄の話は有名だが、もう一人兄弟がいるとは初耳だ。

「僕は下級職だから、いないことにされたんだ。わりとよくある話。」



 記憶が戻る前のリースは無意識に身体強化を使っていたので、僕はそれを少し進化させるだけでよかった。家出前の僕は、遠距離攻撃の手段として魔力弾を練習した。近距離でしか使えない振動剣を補う手段が必要だったのだ。どちらも目途が付いたところで、僕は家出を実行に移すことにした。


 僕はこの頃、資金を稼ぐためにあちこちでアルバイトをしていた。パン屋、肉屋、八百屋、どれも生き抜くための知識やスキルを得るためだった。パン屋で発酵種を手に入れ、肉屋で解体と肉の扱いを教わり、八百屋では食べられる植物の知識を得た。狩人の助手をして狩猟を学んだ。農園でアーモンド収穫もやった。以前テレビで見た、木の幹を機械で揺らす光景をヒントにして振動スキルで代用してみた。とてもはかどったので、農園主から喜ばれて破格のアルバイト料をもらえたこともあった。

 

 水と塩と保存食、小麦粉を買えるだけ買って、僕は家を出た。森に潜伏しながら移動し、国境を越えた。索敵スキルを頼りに、強い敵を避けながら移動した。それでも時には危険な目にも遭った。深手を負って数日間動けなくなった事もある。そうやって僕は経験値を稼ぎ、レベルアップしていった。



 月の神竜との出会いは唐突にやって来た。家出から2年ほど経っていた頃だった。

「何だろう、このエリア?」

 ある日僕は索敵に反応のない場所を発見した。大森林地帯の中心辺りに、何の反応もないのはかえって怪しい。近くにサイクロプスがいるようだが、その反応が時々、消えたり現れたりする。

「認識阻害エリアだろうなあ。」

 仮説を立て、検証に向かうと、その場所は深い霧で覆われていた。方向感覚を狂わせる術があるのか、中にに向かおうとしてもいつの間にか外へ出てしまう。

「あからさまに怪しいじゃないか。」

 だが僕には、コウモリをヒントに開発した超音波レーダースキルがあった。夜間戦闘のために身につけたものだったが、これが役立った。座標を把握できれば迷うこともない。僕はついに中心部へたどり着いた。


 高さ20メートルほどある三角形の岩がそこにあった。側面には洞窟の開口部が見える。

「さあ、鬼が出るか蛇が出るか。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だったかな。」

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