砂漠を走る船
翌日。
サンドリアの街の南側、砂漠に面した場所にエスターはいた。
(これが…砂船)
釣り船のような小型船が一隻だけ桟橋につながれていた。20メートルほどの大きさ。ほかに船はない。
(意外と小さいのだな)
積み込みが終わったようで、人夫が引き上げてゆくところだ。エスターは彼らと入れ違いで船の横まで行き、そこにいる少年に話しかけた。
「ベルガー商会の船で合ってるだろうか?」
「ええ、そうです。」
「エスターという。ギルドから来た。」
「リースです。よろしくお願いしますね。」
二人は握手をかわした。
(いい剣を持ってるな。腕は立ちそうだ)
(メイプルの割に落ち着いてるな)
お互いの第一印象はそれであった。
まもなく準備が整い、船は出港した。砂船は揺れることもなく滑るように進んでゆく。
エスターはしばらくデッキにいたが、ここは灼熱の砂漠。目に映るのはただ砂ばかり。早々に空調の効いた船内に戻ってきた。
談話室で、エスターはリースに話しかけた。
「タグ、まだ新しいな。」
「昨日15になったので登録してきたんです。」
リースの胸元には真新しい木製の冒険者証が下がっている。
「腰に下げている珍しい剣は何だい?」
リースの剣に興味があるようだ。
「剣というよりも道具かな。マチェットといって、森の草刈りなんかに使うものですが、護身用に持ってます。」
この世界では平民に帯刀が許されない。護身目的の短剣やナイフ、鉈などは長さ60センチ以下なら黙認されるが、過ぎれば処罰される。
「そうなんだ。」
「頼れる相棒です。」
リースはニヤリと笑った。
翌日の昼過ぎ、リースはエスターをデッキに誘い出した。
「ずっと読書とポーカーで退屈だよね。」
「それはそうだが。」
「お仕事の時間ですよ。もうすぐ魔獣が襲ってくるので、迎撃の準備をしてください。」
いきなりで困惑するエスター。だが、気配を感じて厳しい表情に変わると、サーベルを抜いた。
エスターが度肝を抜かれたのは、そのあとすぐだった。
襲ってきたのは数十匹のサンドラット、ネコ位のサイズの、発達した後足で数メートルのジャンプをする魔獣。次々と船に飛び込んでくるそれを、リースはなんと素手で捌きながらエスターに話しかけてくる。
「エスターさん、こいつら」
ボカッ、ドカッ!
「攻撃力もないけど」
ドスッ、ボコッ!
(いや、ツノウサギ並みの危険度はあるだろ!)
「船をかじるんでこうやって」
ガツン、ドコッ!
「駆除しなきゃ」
(つか、何で普通に会話してるんだ、君は?)
「ダメなんですよ」
死角から飛びついてくるのをノールックで裏拳、羽虫を払うようにあしらうリース。手刀、貫手、正拳突き、後ろ蹴り。エスターとて上級冒険者、サーベルで難なく切り伏せているが、リースの動きはとても商人とは思えない。
数分後、サンドラットはすべて駆除された。倒された魔獣は魔石に変わりデッキに散乱している。
「終わったー。」
エスターはフウーと息を吐いた。
「まだです。前見てください!」
船の前方に、大きな魔獣が砂から姿を現した。




