残酷な現実
「お兄さんが賢者だというのは有名ですよね。彼は先生方から特別扱いされていました。」
マグダレーナは話す。
「筆記試験ではずっと私が一番で、実技でも負けていなかったのに、私はいつも二位にされていました。」
この子は学院の生徒だったのか。もう卒業の時期だから、その後の配属先を決めるための試験がこれなのだろう。
「しかしリース、ちょっと度が過ぎていないか、これ。スケルトン複数の討伐なら、正規の聖騎士団で対処する案件だろう?」
「合格させたくなかったんだろうな。」
社会人時代の社内コンペを思い出す。僕のアイディアが上司を通じて同期の社員に流れ、そいつのものにされたこともあったな。彼は常務の息子だった。コネ入社で、仕事はさほどできる奴でもなかったのに、コンペの勝者になっていた。
「では、そろそろ引き返すか。」
だが、マグダレーナは奥まで行ってみたいと言い出した。
「もちろんお二方のことは秘密にします。でも、助けて頂いたのも事実です。しるしは持ち帰りません。けど、奥まで行って、見てみたいんです。」
エスターはリースの顔をチラッと見た。リースは迷っていたが、決心がついたようだ。
「わかった。じゃ、剣を出して。」
瘴気で汚染された剣にリースは聖水を振りかけた。黒い刀身がわずかに輝きを取り戻した。
「これでちょっとは戦えるだろう。ついておいで。」
奥に行くとまだアンデッドが襲ってきた。マグダレーナは落ち着いてそれを倒してゆく。剣の腕は確かなようだ。そして三人はとうとう奥の祭壇の間に着いた。
そこには陰惨な光景があった。鼻をつく異臭がした。
「何なのこれ?」
祭壇前に横たわる動物の首のない死骸。山羊だろう。首は‥‥祭壇に供え物のように置いてある。そこに掛けられた血塗れのロザリオ。エスターは顔をしかめた。
「うっ!」
マグダレーナは口元を手で押さえた。
「知らない方が幸せなこと‥‥。汚い大人のやり方‥‥。」
リースは呟いた。
「帰りましょう。」
「そうだな。」
マグダレーナもエスターも、それ以上進もうとはしなかった。
重苦しい空気が流れていった。
「私が失敗することは、決まっていたんですね‥‥。」
マグダレーナは低い声で呟いた。
「で、この後どうするの?」
リースは聞いた。
「どこかの近衛隊に入るか、冒険者になるかもしれません。」
マグダレーナは迷っていた。
「私たちはここでお別れだけど、何かあったら相談に乗るよ。私は【ブルームーン】リーダーのエスター。で、彼がリース。」
「本業はベルガー商会の従業員なんだよ。」
マグダレーナは一人、洞窟を出た。死にそうになり、途中から引き返してきた。そう報告するしかなかった。
(エスターさんみたいに、強くなりたい)
憧れていた聖騎士団入りは何故か、色褪せて見えて仕方ないマグダレーナだった。




