2-4話『どの委員会にしよう?』
無事勧誘を受けずに部屋に戻ってこられた翠は、二人が戻ってくるまで机に小豆沢先生から配られたプリントを出した。
どの委員会にしようか。翠としては自然委員会は絶対に行きたい。だけどこれは二人が戻ってきてから決めよう。
翠は教科書を読んだり、やったプリントを見直してたりして時間をつぶしていた。家にいるときと違って時間をつぶせるものがない。かと言って部屋の外に出ればまた委員会の勧誘に会うかも。だから大人しく部屋にいた。だけど、
(遅いなぁ……)
案外時間はつぶせた。だけども遅い、二人が帰ってくるのがとても遅いのだ。時計の針は四時を過ぎている。
掃除の時間はホームルームが終わったあとにやる。三時半のチャイムが掃除の時間の合図だ。しかし今日は委員会体験週間の説明のために六時間目の途中から説明があって、その分ホームルームも早く終わった。だから今日は二人も掃除を早めに始めていた。とっくに帰ってきてる時間のはずなのに。
(どうしたんだろう。図書室とかに寄ってるのかな。でも二人で?)
あの日から一応無視はしなくなった彗斗だけど、まだ他区画の人間という事実は変わらない。だから奥底では警戒してるはず。そのはずなのに、諒と二人でどこかに行くのだろうか。
(それか……安全委員会は特殊だから担任の推薦がないと所属できないって言ってた。もしかしてその件で呼ばれてるとか?)
だとしたら片方はその件で呼ばれてて、もう片方は図書室とかに行っているっていう方がまだ納得できる。実際、諒は図書室でよく本を借りている。
「だとしても遅いよなぁ」
様子を見に行きたい。だけど部屋の外には委員会の勧誘が待っているかもしれない。その可能性を捨てきれず、翠の頭の中はぐるぐると思考が回っている。
すると、ガチャ、と部屋のドアが開いた。そこにはぐったりとした様子の彗斗と諒の二人が立っていた。
「あ、おかえり二人とも!」
少々小走りで帰ってきた二人の元に向かう。そうして二人の前に立ったのはいいのだが、相当疲れているのか、何も喋ってくれない。まるで桜木教育学校の入学式の日、道中で体力が尽きてボーっとしてしまった翠みたいだ。
「……はぁぁ、本当に疲れた……」
彗斗の第一声はまるで全ての愚痴を吐き出すかのような声色。隣にいる諒も賛同するように無言で頭を縦に振っている。
二人の疲れは異常じゃないと確信し、とりあえず二人を座らせるか、ベットに行かせるかした。翠は椅子に座り、改めて二人の話を聞いた。
「僕らが掃除終わって部屋に戻ろうとしたとき、寮に入った瞬間ロックオンされたみたいに沢山の委員会の勧誘にあったんだ……」
「え、まだ勧誘行われてたんだ」
事情を説明してくれた諒の言葉に翠は驚く。まだ少なからず勧誘している委員会もいるのだろうな、と思ってはいたが、二人がこんなげっそりとなるまで行われていたという。翠が勧誘されたときは行っている人数は少なかったのに。
「あ、もしかして……二人は掃除が終わったあとに帰ってきたからいっぱい人がいたのかも」
翠は掃除が行われている時間帯に寮に帰ってきたからまだ少なかった。だけど掃除が終わったことによって掃除当番の人も勧誘に加われば、相当な人数で勧誘を行える。
「しかも質悪いのが、上級生も一緒に勧誘してたから上手く断って逃げ切れなかったんだよ……」
ロフトベットに寝転がっている彗斗がひょこっと顔を出し、物憂げな雰囲気で会話に参加する。彗斗はそう言うと「はぁ……」と言いながら起こしていた顔を枕に倒した。
「勧誘が終わったと思ったら、また別の委員会の人達がやってきてまた勧誘……それの繰り返しだったよ……今日はもう部屋の外出れないね」
「ま、まあ、気を取り直してさ! 二人はどの委員会を見に行くか決まってる?」
二人の様子に大変だったんだなと思いつつ、翠が一番二人に聞きたかったことを聞く。このためにずっとずっと帰りを待っていたのだから。
「俺は監査委員会と図書委員会。俺計算出来る方だし、監査委員会は意外とやっていけるかなって思って。図書はまあ、本が近くにあるんだし、色々学べることも多そうだしな」
質問に、体を起こしロフトベッドのはしご部分に足を乗っけて座る彗斗はそう答える。監査委員会は翠自身も彗斗ならやっていけそうと思っていたところだ。
「僕は整備委員会。ここに所属する前提で見学したい」
「おー、諒くんはもう入りたい委員会決まってるんだ」
諒は自己紹介のときでも武器などについて学びたいと言っていたし、整備委員会に入れば間近で武器を見られるし諒にはうってつけの場所だ。
「なんで諒は一番に学びたいものが武器なんだよ。自分が使う武器を知るのも大切だけど、兵士になるためにはまず戦う技術を知ることじゃないのか?」
ロフトベッドにいる彗斗が首をかしげながら質問をする。それは翠も純粋に気になっていたことだった。
「――ああ、それは僕が第二十四区画の武器製造を司る家系だから」
その瞬間、諒除く二人は目を見開き凍り付いた。その時の二人の顔といったら、なんて間抜けな顔をしていたでしょう。当の本人は笑顔でサラッと言ったが、それ結構重要な情報なのでは、と思う二人。いや、絶対そう。
「ええ!?」
「はあ!?」
固まる二人だがすぐに驚きの言葉を諒に放つ。お互い反応は一緒で、声色も表情も何一つ一緒だった。
二人の返しにふふっ、小さく笑う諒。翠としてはそういう情報を初日手に入れたかったのに。
「ふふっ、じゃねーよ!」
「だから初日から図書室のことでも武器について聞いてたの!?」
「いや、まあ、あはは……」
二人に詰め寄られさすがに冷や汗を零す諒。彗斗なんてロフトベッドに座っていたはずなのに聞いた瞬間、ベットから飛び降りて諒が座ってる椅子まで行くという行動力。
「二人は分からないと思うけど、まず全区画の武器製造の家の名字を覚えるところから勉強がスタートするんだよ、武器製造の家は」
「諒は初日の自己紹介のとき、夜見のことも知ってたのか?」
「うん、違う区画だから姿は知らなかったけど、名前は聞いた瞬間に分かったよ。沙良ちゃんも僕のこと分かってると思うな」
「じゃあこのクラスには武器製造の家の奴らが二人もいることになるのか」
「最初は言おうか迷ったけどどうせ名前聞けば分かるし、それに――僕は兵士じゃなくても、第二十四区画のためにってなるなら情報漏洩は気をつけなくちゃね♪」
その不意に笑った諒の顔がひどく翠には惨めに覚えた。その通りだって思ったから。翠がどれだけ頑張ろうも、考えることは一緒なのだから情報なんていうそんな誇れるものを手に入れられるわけないだろって。
でも、翠も負けない。例え有益な情報が手に入らなくとも自分が変わることができれば、第七区画主力軍隊の戦力として加わることができる。情報はとても大事だ、けど情報だけあっても勝つことはできない。情報を活用し、戦うことができなければ勝つことはできない。自身が変わる、それもまた必要なことなのだから。
「僕の話で話題が逸れちゃったね。翠はどこの委員会に興味あるの?」
「え! あ、うん。僕は自然委員会と飼育委員会かな。本命は自然委員会だけど」
ペットというものを飼ったことがない翠。お世話できるか分からないという点はあれど、動物に触ってみたいと思ってしまう。翠の家も周りに住んでいる人達もペットなんて飼っていない。たまに野良犬とか野良猫とかを見かけるくらいだ。
「ちょうど委員会が五つ出たな」
彗斗が言った通り。三人で行ってみたい委員会で五つ出た。委員会体験週間は月曜日から金曜日まで、五つしか見学できない。彗斗が言った監査委員会と図書委員会。諒が言った整備委員会。翠が言った自然委員会と飼育委員会。
五つ出たのでそれに当てはめて曜日を決める。
「委員会体験週間も三人で行かない? 一人はちょっと緊張するし、だったら僕は翠と彗斗と一緒に行きたいな」
「僕は別にいいよ。彗斗はどうする?」
「あー、まあいいよ。どうせ諒は断っても、いいよって言うまで駄々こねるんだろ」
その発言に諒は「ちょっとー! 僕はそんな子供みたいに駄々こねません!」と彗斗にぷくっと頬を膨らませる。その光景に翠は吹き出しながらも机に置いていた委員会体験週間のプリントを手に取る。
「行く委員会は決まったんだし、次は何曜日に行くか決めようよ」
まだにらみ合いっこしていた二人にそう呼びかける。諒はまだ怒りんぼな表情、彗斗は若干呆れ顔。そんな二人でも翠が声をかければ返事をしながら集まってくれた。
「じゃあこの委員会はここにして……」
「俺はどこでもいいぞ」
「じゃあ僕、ここの日貰っていい?」
そうして三人で話し合い、三人で巡る委員会体験週間の予定表が出来上がった。
月曜日は自然委員会。彗斗に一番最初を譲ってもらい翠が一番行きたい自然委員会が最初に決まった。
火曜日は整備委員会。一番最初は翠がもらってしまったため、その次の日を整備委員会にしてほしいと諒から申し出があった。
水曜日は図書委員会。彗斗はどこでもいいと言ってくれるが、自分達の行きたい委員会を全部最初にするわけにもいかないため、水曜日に図書委員会を入れた。
木曜日は監査委員会。正直翠はあまり行きたくはないのだが、金曜日にするとそれはそれで翠はきついんじゃないか、と彗斗が言ってくれたため、木曜日となった。
金曜日は飼育委員会。監査委員会をどこの曜日に入れるかという話になっていたとき諒が、最後は飼育委員会にすれば、翠は楽しかったって思いながら委員会体験週間を終えれるんじゃないかという意見から、金曜日は飼育委員会になった。
「よし、できた! 来週の委員会体験週間楽しみ!」
「あとはこのプリントを月曜日の朝までに小豆沢先生に提出するだけだね」
「ほかのやつらはどこ見にいくんだろうな」
翠達の部屋では委員会体験週間の話で大盛り上がりだ。今この時もどこかの部屋でも同じ話題が浮かび上がっているのだろう。
三人は月曜日と言わず今プリントを小豆沢先生に提出しようという話になり、部屋に出た。すると談話室にはまだ勧誘集団が待ち構えていたようで、さっぱり忘れて部屋を出てきてしまった三人は勧誘の嵐にあい、寮を出られたのは三十分後だったとさ。




