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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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2-1話『初日、初めての授業』

 諒と硬く握手を交わした翌日、翠達一年生は今日が初授業だった。

 三人は少し早めに起床し、朝の支度をして、食堂で朝ごはんを食べる。


 部屋に戻った三人は時間割をよーく確認し、教室に向かった。三人が手に持っているのは教科書。国語だったり数学だったり、武器についての教科書だったり色々だ。制服の胸ポケットには筆記用具などをしまっている。


「重い……」


 翠が呟くその言葉にあとの二人も答えた。


「それを言うなよ……翠」


「さすがに、この量は重いけどね……」


 三人の手はぷるぷるしていた。昨日、自分達の部屋の机に置いてあった教科書たち。時間割には六時間あり、一二三時間目は教科、四五六時間目は体力育成という文字も書いてあったのだが、なぜすべての教科書を持っていかないといけないんだ。


 教室に着くと翠、彗斗、諒の三人以外の男子三人は既に席に着いていた。女子達はまだ教室に来ていないようだった。


「翠、彗斗、諒、おっはー!」


 伊月が元気よく挨拶する。それに続いて「三人ともおはよう」「おはよう」と功雅と彼汰も三人に挨拶をした。


「……おはよう、朝から元気だなぁ……伊月くんも僕達と同じ量の教科書持ってきたんだよね?」


 席に着いた翠は若干呆れ顔で伊月に挨拶を返した。


「確かに重かったけど、二分もあれば手の疲れは回復した!」


「はぁ、今はそれが羨ましいよ」


 翠は少し時間が立った今でも手がぷるぷると震えているというのに。これも体力がないからだろうか、伊月は確か自己紹介で運動も好きと言っていたから、それなりに運動神経も力も強いんだろうな。


 そこから数分後、優依、來香、沙良の三人が朝のホームルームの始まりを知らせるチャイムが鳴ったと同時に教室に入ってきた。なんとその後ろには小豆沢先生もいた。


 三人は「重い~」とか「疲れた……」とか「やっと着いたー!」など色々言いながら席に座っていた。


「はい、全員揃ってるね。皆、おはようございます。これから朝のホームルームを始めます」


 午前八時二十分、チャイムの音とともに朝のホームルームの時間が始まる。

 ホームルームは今日の予定の確認みたいなことを話された。小豆沢先生の話はまとめると、今日が初授業で緊張するかもしれないけど頑張ってね、ということだった。


 一時間目の授業は『国語』だった。


「なあ翠、これなんて読むんだ?」


「これは『紫陽花(あじさい)』。花の名前だよ」


 国語の授業は基本文字の読み書きや漢字の勉強、あとは教科書に載ってる色々な話を読んだりした。

 区画には桜木教育学校みたいな学校はないから、結構頭の良さは個人差が出てたりする。現に今読み物を読んでいる最中、分からない漢字があると伊月は翠に聞いていたり。


 二時間目は『数学』だった。


「ねぇ彗斗ぉ、かけ算してたら計算がごっちゃになっちゃったぁ……」


「前にも教えただろ? ……はあ、翠、二桁のかけ算の計算で弱音吐いてたら三桁の計算出来なくなるぞ?」


「漢字とか読み書きなら出来るんだけどなぁ……」


 翠が一番苦手な計算の問題。対照的に彗斗は勉強は大体なんでもできて、その中でも計算はすごく得意でよく教えてもらっている。


「お、彗斗は計算が得意なんだな」


 皆を見て周っていた小豆沢先生が翠と彗斗のやり取りを聞いて二人のプリントを覗き込む。


「彗斗くん、私も分かんない! 教えて教えてー!」


「あ、俺も俺も! 分かんない!」


 話を聞いていた翠の左横に座ってる來香と右横の伊月が計算プリント片手に彗斗の机にやってくる。


「いや俺、今翠に教えてんだけど……」


「なんでなんで! 私にも教えてよー! 翠くんだけとかずるい!」

「彗斗しか分かる人いないんだよー! 俺にも教えてよ!」


 わーわーガヤガヤと、彗斗に大きい声で教えてほしいと訴える來香と伊月。声量で言えば教室内に響くぐらいにはでかい声だ。そんな二人の大きい声を一番近くで聞いている彗斗は最初は無視しようとしていたが、あまりの声量に呆れ声で根をあげた。


「あーもう、分かった! 分かったから、耳元で大きい声出すな! 教えるから椅子持ってこい!」


 二人は「やったー!」とはしゃいで翠と彗斗の机の周りに椅子を置いて、彗斗が講師の元、翠、伊月、來香の三人は徹底的に教えてもらうことになった。


「ふふ、彗斗人気者だね」


「そう思うなら手伝ってくれよ、一人で三人教えるのは大変なんだから」


「そうだね、外から四人を見るのも楽しそうだけど、その輪に入ったほうがもっと楽しそう♪」


 柔らかく笑いながら、四人の輪の中に諒も投入された。


「功雅は大丈夫?」


「あ、はい、大丈夫です。今計算終わって彼汰と合ってるか見比べっこしてました」


 後ろの席で隣同士の彼汰と功雅は二人分のプリントを見てどっちも合ってるか確認していた。二枚のプリントを持って見ていた彼汰は功雅に返す。


「勿堂の答え全部俺も一緒だ。だから大丈夫だと思う」


 小豆沢先生は二人のやり取りを見てほっと息をつき、まだ話しかけていない残りの二人の元に行く。

 沙良と優依は、優依の机に沙良がいて勉強を教えているようだ。


「二人はどう?」


「えっと……分からない問題があったんですけど、沙良ちゃんが来てくれて、教えてもらいました」


「私は全部終わって暇だったからね。優依の様子を見に行ったら手が止まってたから私が教えてあげたわ!」


 優依と沙良の二人も教えてもらいプリントを仕上げることができたらしい。

 小豆沢先生は全員がクラスメイトの誰かに苦手な問題などを教えてもらい、解けるようになるこの状況に嬉しさを感じていた。

 この国は戦い、殺し合い、奪い合うことを許容している、いや、それが当たり前の常識になっている。明確な敵もいないのに。だけど、今この時だけは区画など関係なく手を取り合って助け合っている。誰かに教えて、誰かに教えてもらう。この景色が小豆沢先生にとって何より嬉しさを感じるには充分だった。


 三時間目は『武器』についての勉強だった。

 最初にやった国語と数学、この二つにはそれぞれ一つずつ教科書がある。この二つ以外にも当然教科書があり、そっちの方が多いのだ。


 国語、数学、そして『武器』について書かれている教科書、『戦術』などが書かれている教科書、『体術や体の動かし方』などが書かれている教科書、全ての教科書を今日は持参しないといけなかった。


「僕の授業は教科を担当していて、これから武器についてや戦術、色々教えていくことになるけど、僕は基本知識だけしか教えない。実践的な授業は実技担当の先生に教えてもらうことになる」


 小豆沢先生は『教科』。だから武器や戦術、体術を教えてはもらえるが、それはあくまで知識としてだった。だから銃の撃ち方、体術などの実践を必要とするものはまた別の先生に教えてもらうことになる。四時間目からの授業は全部実技担当の先生が翠達に教えていくことになる。



・・・・・・



 三時間目の武器についての授業は終わった。銃の構造、使うことによって反動をどう防ぐかなど、過去の桜木教育学校の卒業生や五六年の先輩達が主に使っている銃以外の武器について、色々教えてもらった。


 そして四時間目、ここからは教科ではなく実技に入っていく。四時間目から授業する場所が教室ではなくグラウンドになるため、十分休みの内にグラウンドに移動する。


 翠達がグラウンドに着いたとき既にもう誰かが待っていた。灰色の髪に右目に黒い眼帯を付けている男性がグラウンドに立っていた。


 四時間目開始のチャイムが鳴ると同時に実技の授業が開始する。


「僕の名前は美園(みその) (はじめ)。一年生の実技担当だ。僕からは主に実戦的なことを教える、銃の撃ち方や体術など、あとは組手をしてもらうこともある。一年生の間は体力、筋力を鍛えたり、銃の撃ち方を教えることが多い。本格的な実戦訓練は上級生になってからだ。……さて、君たちの名前は名簿と小豆沢先生からの情報で既に知っている。初日は体力育成だ。準備運動をしたのち、女子はグラウンド二周、男子は三周走れ、休憩は十分ずつで繰り返していくぞ」


 翠達は準備運動をしたのち、この広いグラウンドを走ることになった。

 翠は彗斗と諒と一緒に走っていた。


「数でみれば少ないけど、このグラウンド広いからな……三周でも相当疲れそうだ」


「だね。僕は家で勉強を頑張ってたくらいで、運動はあまりだから……すぐに疲れちゃそう」


 始まったばかりの運動、まだ余裕の彗斗と諒は喋りなから走る余裕があるが、それすらない人が一名、初めは同じ位置で走っていたのが今は二人の後ろで頑張って走っている状況だ。


「はあ……はあ……」


 翠は体力なんて全然ない。もう少しで一周走りきるというところでもう限界に近くなっていた。

 今ぶっちぎりで先頭を走っているのが彼汰。二番目に伊月、ほぼ同じ位置で走っている彗斗、諒、功雅。その後ろをなんとか走っているのが翠。來香、沙良、優依の三人は翠の後ろを走っている。


 女子の中では優依が翠と同じくらい体力がないのだろう。もう既に息を切らせている。


 彼汰は軍の教育機関を卒業しただけあって疲れたと感じさせない表情で今尚走っている。


 その後は翠はペースが落ちていき、二人も翠にペースを合わせていたが申し訳なさから翠は先に行ってほしいと二人に頼んだ。結局、翠はほぼ最下位で一回目の走り込みが終了した。美園先生が言っていた終わったら十分休憩というのは全員が終わったらスタートらしく、ほば最下位の翠は早く終わった彼汰達に比べ休憩時間は短かった。


 これを続ける体力もなく、男子では翠、女子では優依が最下位だった。

 四時間目はこれの繰り返しで、終わる頃には翠は足が震えて立てなくなっていた。


 昼休みは少し地獄だった。疲弊している翠の体にご飯が喉を通らなかった。お腹は空いているはずなのに食べる気が起きず、結局彗斗と諒に「食べないと午後が持たない」と言われ、なんとか頑張って食べた。


 遠くのテーブルには翠と同じくあまり食べ進めていない優依がいた。優依もほぼ翠と同じことが起こっていて、優依は沙良と來香の二人に応援されながら頑張って完食していた。


 五時間目は走り込みではなく、スクワッドや上体起こし、様々な運動。これにも回数が指定されていて、それが終わって十分休憩というルール。昼休みで全部の疲れは消えなかった翠はここでもだいぶ遅れてスクワッドなどが終わった感じだった。


 六時間目はまた四時間目と同じ走り込み。翠は四時間目の体力育成でほぼ全ての体力を使い切ってしまった。


(あ、彗斗と諒くん、走り込み終わったんだ……いいな、二人は僕より休憩できて……)


 自分以外の終わった皆を羨ましい目で見てしまう翠。この時は、少し苛立ちと諦めもあった気がする。

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