1-4話『学校案内』
彗斗との話に夢中で皆に置いていかれそうになった二人は長話を一旦中断しちゃんと小豆沢先生についていく。
歩き、廊下の窓から見えたのはさっき入学式のときにも行った校庭、グラウンドだ。
「あそこが校庭。さっき入学式のときにも行ったけど、普段は実技とか体力育成とかの授業で使うかな」
小豆沢先生が指を差す校庭。実技と体力育成、これから習う授業の内容。明日辺りから始まる授業なのかも。
「学年の教室は一二年生は一階、三四年生は二階、五六年生は三階って分かれてるんだ。で……ここが職員室。僕とか他の先生がいる場所。隣が理事長室で貴野江理事長とその側近の人が常にいるかな」
小豆沢先生が言った側近はさっきの入学式のとき理事長の側にいた黒髪の人と白髪の人達のことを言っているのかもしれない。あの二人は他の周りの人と距離感が違った気がしたから。
「ここは保健室だよ。授業中に怪我とか体調不良があった人がここで診てもらうんだ。入学式でも言ってたと思うんだけど、近々委員会を決めるからその時に使う教室や部屋もあるから、学校案内は中までは見ないことになってる。そこは自分達で直接入ってみてねってことなんだと思う」
翠は保健室を見たとき、保健室のドア以外に周りにドアがないことに気付いた。実はもしかしてこの保健室相当広いのではないかと考えた。
一応桜木教育学校は兵士を育成する学校。学年が上に上がるにつれて厳しくも過酷にもなってくるであろう授業内容。それを考えれば、保健室という唯一怪我を治療できる場所の空間が広いというのも納得できる。
今まで紹介された部屋は全部一階だった。翠達はここから階段を使い二階に上がった。翠達が使った階段のすぐそばにあった部屋が、
「ここが図書室。結構色々な本が置いてあるから、借りにいく生徒も多いよ」
「あの、当然銃や武器などが書かれてる本もあるんですよね?」
紹介する小豆沢先生に質問をしたのは諒だった。彼は自己紹介の通り銃や武器関係を学びたいと言っていた人、当然気にする点だったのだろう。聞かれた小豆沢先生は笑顔でちゃんとあるよ、と答えていた。
「学校には所々使ってない空き教室がいくつかあるんだ。その教室を一部の委員会の活動場所として使ってたりもする」
そう言って小豆沢先生は階段を下りるのを皆もついていく。
階段を下り廊下をまっすぐ左に歩いていく。歩いているとあ、と声を上げた小豆沢先生は皆の方に振り向き、
「今歩いている廊下を反対方向に進んでいくと飼育部屋があるんだけど、そこは元々空き教室みたいな感じでそこの部屋に入るのは飼育委員会が主にだから、今日は案内しません」
委員会の種類は皆入学式で夢咲 愛里で言っていた総務委員会、そして今小豆沢先生の口から出てきた『飼育委員会』。委員会の種類は沢山あるのだろうか。全部これから兵士になる翠達に授業以外に必要なことを教えてくれるのか。翠自身は飼育委員会は兵士になるために必要な知識かと言われたら、絶対にいいえと答える自信がある。
小豆沢先生についていくと渡り廊下が見えてきた。渡り廊下の先には窓があまりない大きめの建物があった。
「この建物は武器庫。授業で使う銃や武器が全部保管されてる場所だ。上級生や、僕や他の先生達が使ってる銃もここから使われてるかな。武器庫だけど倉庫としても使ってて、実技で使う銃の的とかがしまわれてる」
「ねー、先生、武器庫の中は見れないの?」
「あ、それは俺も気になります」
小豆沢先生が武器庫紹介をしているとき、武器庫の中に興味を示す伊月とそれに賛同する功雅。二人が先に聞いたことにより「そうよ、中見たい!」「私も見たい! 武器庫の中入りたい!」と沙良と來香が先生に向かってねだる。
結果、伊月、功雅、沙良、來香に囲まれ武器庫の中を見せろと申す四人を小豆沢先生はどうどうとなだめる光景が生まれた。翠も正直言って気になるが、代わりにあの四人が自分の気持ちを代弁してくれてるからいいやと思った。
「四人が見たい気持ちは分かるけど……ここは厳重に施錠されてるから入れるのは先生か、生徒でいったらまあ……五六年生か整備委員会委員長ぐらいしか入れないんだよ」
委員会の新たなキーワードが出てきた。『整備委員会』言葉通りなら何かを整備する委員会。だけど小豆沢先生が言っていた武器庫は生徒だと五六年生か整備委員会委員長ぐらいという言葉から、整備委員会は銃や色々な武器の整備、メンテナンスをする委員会だと予想できる。
「よし、じゃあ次の場所行こうか!」
離れてくれない四人をなんとかなだめ次の場所に足を動かした。次向かったのは二階でも一階のどこかではなく、地下だった。小豆沢先生に着いていった先には階段があったのだが、それは上に行くためではなく下に行くものだった。
下りた先にあったのはコンクリートの壁に囲まれた無機質な空間。空間の奥には横に並ぶ何台もの的。そして手前はレーンになっていて、両隣に透明なしきりもついている。側には銃が置いてあり、そこに立って奥の的に向かって銃を撃つという感じだろうか。
「ここは地下にある室内射撃場。普段は外で銃を撃つ授業をするんだけど、なんで地下にあるのかというと雨になったときだね。雨の時はここで授業するんだ」
「側に置いてある銃は本物なのか?」
「弾が違うだけで、この銃は本物だよ。だから触らないように」
「ほ、本物……!」
軍の教育機関を卒業している彼汰は本物の銃をもう使ったことがあるのだろうか。いつ見ても表情は変わらなくて喜怒哀楽が分からない。
彼汰と小豆沢先生の会話にボソッと本物の銃と聞いて怯える優依が一人。だけど翠も内心は少し怖い、本物の銃を見たのは初めてだから。だけど将来これを使って戦場で戦うことになる。きちんと使い方と知識を学ばないと。
「ここが食堂。皆がご飯を食べる場所。今は開いてないから入れないけど、朝昼夜は皆ここで食べるんだよ」
地下から一階に戻ってきた翠達が案内された場所は食堂。ガラス製のドアから中が覗ける。全校生徒プラス先生達全員が食事をする場所、中は結構広くて配置されたイスとテーブルも多い。奥に厨房ぽい部屋も見える。
「実は体育館もあるんだけど……ちょっと前に体育館のバスケゴールが壊れちゃって今は修理中で中に入れないんだ。体育館も授業で使うこともあるし、その時に見ておいてほしい。……よし、最後は皆が気になってる寮に行くよ」
学校案内の最後、翠達の部屋もある寮。寮は校舎とは別の場所にあるらしく、校舎を一度出て向かう必要があった。小豆沢先生に着いていくと、学校とはまた別の建物を二軒発見。
「あそこが皆が暮らす寮だよ。建物が二つあるのは下級生と上級生で別れてるから。二階が女子、一階が男子。トイレお風呂、洗面台も一階と二階、男子女子で別れてる」
初めて入る。これから六年間翠達が暮らす場所。
寮の中に入ってすぐに広間みたいな空間があって、テーブルやイスがばらばらに配置されている。そのテーブルとイスに何人かの同じ制服を着た生徒が一緒に座って話したり、また別の生徒達は一緒にプリントみたいなものをやっていたり、なんだか自由にやりたいことをやっている感じだった。
「入ってすぐは談話室になってる。今談話室のテーブルに座っている子達は皆二三年の先輩、これから委員会とかで関わりが増えてくると思うよ」
「あの、部屋って一人部屋なんですか? それかもし何人かでなら、その同室の人達はいつ知れますか?」
「いい質問だね、彗斗、これからその話に入ろうとしてた所だ。寮の部屋は三人で一つの部屋になってる。それぞれの部屋のドアに紙が貼ってあるから、それを見て確認してみてほしい」
相部屋になる人は彗斗以外絶対他区画の人達だから、部屋もできれば彗斗と一緒がいい。だけどクラスも一緒で席も近くて、そして寮の部屋も一緒、そんな幸運巡ってくるだろうか。
「男子はあの廊下を左に。女子はあそこの階段をのぼって右に行けば部屋があるからね。……よし、これにて学校案内はおしまい! じゃあ、ここからは自由とする。……あ、部屋には皆の自宅から送ってくれた荷物があるから荷解きしておいてね。部屋には寮のルールとかが書いてあるしおりと、時間割と明日の持ち物が書いてあるプリントが置いてあるから、よく見ておくように! もう少しで昼食の時間だから時間になったら食堂に行って昼ご飯を食べること!」
小豆沢先生の解散、という言葉を聞いて翠達はそれぞれ動き出した。
翠と彗斗はまず部屋の確認、荷解きもしておこうと思う。食堂がいつ開くのか分からないけど、小豆沢先生が言っていた部屋に置いてある寮のしおり、多分そこに必要なことは書いてあるんだと思う。
「翠、行こうぜ」
「うん」
見ればもう他の人達は先に行ったようだった。翠と彗斗も自分達の部屋を探しに向かう。
「部屋も一緒になれるといいね」
「だなー……でも三人で一つの部屋って言ってたし、仮に二人一緒の部屋になれたとしても他区画の奴一人は絶対一緒になるんだもんなー……」
「僕はそれでもいいよ。彗斗と一緒の部屋になれれば二人でいられるし。僕が一番怖いのは彗斗と同じ部屋になれなかったときだよ。知らない人と一緒の部屋はちょっとやだし……」
彗斗と同じ部屋になれれば他の区画の人がいたとしても、彗斗がいるなら彗斗と一緒にいればいい。そうすればあんまり関わらなくてすむ。情報は取れないかもしれないけれど、六年間一緒にいるならいくらでも情報を取る機会はある。最初だけだ。
部屋に向かったとき、二つのドアの前で翠と彗斗以外の三組男子が集まっていた。二人は皆の隙間から一つ目のドアに貼られている張り紙を見た。『森蔦 翠』『金河 彗斗』そして最後『稲浪 諒』と三人の名前が書かれていた。
「翠くん、彗斗くん」
名前を呼ばれ二人は反射的に振り返った。そこにはプラチナブランドみたいな髪を靡かせ眼鏡をかけている男の子、これから同室になる稲浪 諒が笑顔でこちらに微笑みを向けていた。
「――よろしく!」




