2.8-1話『皆で決める委員会決め』
「――委員会の説明は以上だ。さっき配ったプリントに見学したい委員会を記入し、来週の月曜日のホームルームまでに提出すること。委員会体験週間はこれから所属するために大事な選定材料になる。じっくり考えて決めるように」
この日の六時間目は一年二組の担任――晴峯先生のこれから行われる委員会体験週間とやらの説明だけで時間は過ぎて行った。
(……委員会、かぁ)
憂鬱とまではいかないがいい気分にはなれない。黄緑色の髪を下に一つ結びにしている少女は思わずため息をつきそうになる口を押える。
――物部 咲弥は委員会の主な仕事内容、委員会体験週間を行う意味を聞いて、少し嫌な記憶を思い出した。
◆◇◆◇◆◇
「咲弥ちゃーん!」
「……わぁ! 果帆ちゃん? ど、どうしたの?」
掃除終わり、いきなり背中から何かが衝突したような衝撃を受ける咲弥。
名前を呼ばれた時に聞こえた聞き覚えがある高い声と、振り向いた時に背中にしがみつくピンク髪が特徴の自分より背が低い少女で、誰かはすぐに分かった。
――喰楽 果帆。ピンクの髪をミディアムショートにしている女の子で明るくて元気な子。
「あのね、部屋に戻って穂佳ちゃんとどの委員会に行こうかなって話してたら、咲弥ちゃんが何を選ぶか気になっちゃって!」
「だからわざわざ部屋から教室まで来てくれたの?」
「うん!」とパァっとした笑顔を向けながら返事をする果帆に、眩しい程のニコニコ笑顔につい顔を緩んでしまう。
「――か、果帆ちゃーん……!やっと追いついたぁ。ここにいたんだね……!」
二人が話している時に息を切らしながら教室のドアにもたれかかる茶髪の少女がやってきた。
「あ、穂佳ちゃん!」
――花野 穂佳。茶髪を下に二つ結びのしている女の子で、内気で控えめなだけどすごく優しい子。
「もぉ、果帆ちゃんひどいよ! お話の途中でいきなり部屋飛び出してどこかに行っちゃうんだもん」
「ごめんね穂佳ちゃん! 咲弥ちゃんの話も聞きたくなっちゃって!」
咲弥の背中から離れ穂佳に駆け寄る果帆。
頬を膨らませて拗ねたような表情をする穂佳を見て謝罪の言葉を真っ先に挟む果帆のやり取りは見ていてほんわかする。
他のクラスは知らないが、咲弥は思う。二組ほどクラスメイト同士がこんなに仲がいい所はないんじゃないかと。まだ一か月も立ってないのに。
最初はもちろん緊張していた。入学式では聞いたことのない価値観の話をされるし、周りは皆敵だらけだしで。だけど教室戻って自己紹介を終えて学校案内を皆で回っている内に、果帆から話しかけてもらって、隣にいた穂佳とも少しづつ喋るようになった。
一年二組は女子が三人しかいないため寮の部屋も同じ、同室というやつだ。
むくれ顔の穂佳の手を引いた果帆達二人が側にやってくる。
「それで、咲弥ちゃんは行ってみたい委員会ある? あ、そうだ。私と咲弥ちゃんと穂佳ちゃんの三人で委員会体験週間一緒に行こうよ!」
「私は別にいいけど……咲弥ちゃんは?」
元気よく告げられた提案に、穂佳は悩みながらも了承。訪ねてくる穂佳とつぶらな瞳で見つめてくる果帆に、少々悩んだが、
「う、うん。一緒に行こっか」
咲弥の返事に果帆は「わーい!」と喜ぶ。本当に元気な子だなというのが感想の一番最初に出てくる。
果帆は本当に元気で明るくて、敵である自分らと一緒にいようとする。悪い言い方をすれば異質だ。果帆からは敵意とか戸惑いを感じたことがないのだ。ただ楽しそうに自分達とおしゃべりして、皆一緒にいることを望む友好的な態度。
穂佳は咲弥と同じで、使命は理解しているがまだこの環境に慣れていないのと戸惑いの方が顔に出る。
三人は席に着き、聞かれた委員会のことについて話す。
「私は委員会ぜーんぶ興味あってね! 穂佳ちゃんは保健委員会が特に興味あるんだって!」
「三人で行くなら行きたい委員会をちゃんと決めないとだね」
咲弥は二人の話を聞くことに専念する。正直、興味ある委員会は答えられない、というより興味を示さないように六時間目は過ごしていたから。
多分次くらいには、果帆辺りに自分はどこの委員会が興味あるのか聞かれるだろう。なんて答えて切り抜けようか。
「私達ばっかり喋っちゃってる! 咲弥ちゃんはどの委員会に行きたい? 興味あるのはどこ?」
「……えっと、その……」
行きたい、興味がある委員会を答えないでこの場を上手く切り抜けられる言葉が思いつかなくて、必然的に黙ってしまう。二人は答えを濁す咲弥を不思議そうに見つめる。視線がすごく痛い。
「たーのーもー!」
「!」
咲弥が黙っていることによって二人も待つために声を出さず、教室はシーンとした空間に。静寂の一年二組教室に、大きい声を出しながら入ってきた男の子達を見た。
いきなり聞こえた大きな声で三人は肩をビクッと揺らす。ドアの方に目を向けると、笑顔で教室に入ってくる世羅と、彼に引っ張られてきて不服そうな顔をしている遥だった。
「世羅くんに遥くんだー!」
「おっすおっす、果帆!」
果帆と世羅の二人は会って早々テンション高めの「イェーイ!」と言いながらハイタッチを交わす。
なんとこの場に一年二組が集合するという奇跡が。
――風間 世羅。銀髪の少年で、自己紹介の時は冷たい印象があったが、果帆や他の皆と話している内に明るくなって最初のイメージが嘘のように変わった人。
――九条 遥。水色の髪をした少年で、唯一このクラスで他のクラスメイトと一定の距離を保っている。あまり積極的に喋っているところを見たことないけど世羅に振り回されてるのを何度か見たことがある。
突然やってきた世羅はお構いなく自分の席の椅子を持ってきて咲弥達の側に座る。今だにふてくされたような顔をしている遥も一緒にセットで。
「二人はどうしてここに?」
「俺らはもう委員会どこ行くかっていうの決まったから、晴峯先生んとこ出しに行こうと思って部屋出たら……果帆と穂佳が走って寮を出てったから二人で追いかけてきたってわけ」
「俺はお前に引っ張られてきただけなんだけどな……わざわざ追いかける必要はなかっただろ」
咲弥の問いに、世羅は普通に答えてくれるがその隣にいる遥は呆れ気味だ。
「世羅くん達は委員会どこ行くのー?」
「ちょうどプリントあるから見せてやんよ」
世羅はプリントを机の上に出す。見る限り世羅と遥は一緒に委員会体験週間に行くようだった。
月曜日、監査委員会。火曜日、飼育委員会。水曜日、自然委員会。木曜日、図書委員会。金曜日、整備委員会。これが二人の見学予定の委員会。
(行ってみたい委員会……)
二人はもう決めてる。果帆も、穂佳も行きたい委員会がある。
自分は踏み出せない。前に進むのが怖い。また一人で突っ走って、あの時みたいに――、
『女の子二人が階段から落ちた!!』
『庇って下敷きになってる子がいる! 意識がないです、早く病院へっ!!』
嫌な記憶だ。いや、自分はこれを嫌な記憶を言ってはいけない。だって全部――、
■のせいなんだから――。
「――弥ちゃん。咲弥ちゃん……大丈夫?」
「えっ、……あ、ごめん。ちょっと、ボーっとしてた」
穂佳に肩を揺すられ、咲弥は沈んでいた意識を取り戻す。皆は心配そうに自分を見ていた。
「どしたん? 保健室行くか?」
「いや、大丈夫だよ。ボーっとしてただけで具合が悪いわけじゃないから」
真剣な目でこちらに提案してくれる世羅に、遠慮を挟む。言った通り具合が悪いわけではないのだ。
「具合が悪くないなら、さっさと委員会を決めたらどうだ。そのために三人は集まったんだろ?」
「親切心がないねぇ遥くんは! こういうときは助けるのが優しさなんじゃないんですかぁー?」
「敵に優しくするメリットないだろうが」
遥の冷たい言葉に、世羅が横から野次を入れるように咲弥のことをさりげなくフォローしてくれた。世羅の言葉にふんっと横を向いて答える遥は相当勝手にここまで連れてこられたことが怒りとして溜まっているのだろう。
「あのさ……私、まだ行きたい委員会思いつかなくて……どこの委員会が、いいと思う?」
小さい声で恐る恐る聞いてみる咲弥。皆は一瞬ポカンとした顔になったが、すぐに難しい顔になり考えてくれたのだ。
「俺は監査委員会とかいいんじゃねーかなって思う。雰囲気が咲弥っぽいし」
「咲弥ちゃんすごい真面目だから図書委員会とか似合いそう!」
世羅と果帆からは監査委員会と図書委員会が。
「飼育委員会とかどうかな。……遥くんはどう?」
「……え、俺も? ……総務委員会」
穂佳と遥は自然委員会と総務委員会が候補に。咲弥にとって皆の意見はなるほどと思うものも多かったが、遥が言った総務委員会だけ自分がそこにいるイメージがなかったのだ。
「総務委員会……」
総務委員会はクラスの学級委員長、副学級委員長が所属する委員会。
仕事内容は学級委員長らしく自分のクラスの管理に学校イベントの進行と企画立案。桜木教育学校は総務委員会主催のイベントが開催される。その運営に携わる。
クラスのリーダーと副リーダーが所属する委員会。考えれば考えるほど自分に一番合わないんじゃないかと感じてくる。
「選んだのはなんとなくだけど……咲弥は周りを見てるし、優しいし、真面目だから人の話を真剣に聞いてくれるし。俺は逆にすごいリーダーシップバリバリある人ちょっと苦手だから……」
意外にも皆はなるほどといった顔をしていて納得しているようだった。疑問を浮かべているのは咲弥一人だけ。
(もしかして結構合うのかな。総務委員会)
「よーし! じゃあ――」
そう言って果帆は取り出したプリントに決まったようにスラスラとペンを走らせる。
書き終わったプリントを皆に見せるように向けて、
「これでどうかな! 行く委員会を私の独断で決めました! 皆が言ってくれた委員会も候補として入れてみたよ! 曜日は適当です!」
「はい果帆さん。俺が言った委員会が入ってない件について」
「監査委員会は内容から難しそうだったので除外しました!」
律儀に手を挙げて聞く世羅と答える果帆は無視して、書かれたプリントを手に取る。
月曜日、保健委員会。火曜日、飼育委員会。水曜日、総務委員会。木曜日、整備委員会。金曜日、図書委員会。これが来週の月曜日咲弥、果帆、穂佳の三人で回る委員会らしい。
「果帆ちゃんのおかげで行く委員会も決まったし、寮に戻ろっか」
穂佳の言葉に五人は椅子から立ち上がろうとすると、
「――果帆、ここにいたのか」
一年二組の教室に低い声が響いた。目を向けると教室のドアからこちらに歩いてくる晴峰先生が。
なんだかデジャヴを感じながらも、近づいてきた晴峰先生は果帆の前で止まった。咲弥達を見つめる瞳はなんだか笑みを浮かべている。
「これは……皆でここで何していたんだ?」
「俺と遥は追いかけてきただけ。三人は委員会体験週間どこ行くか決めてたんだって。あ、先生俺らもう決まったから今出していい? 遥と一緒に行くから」
「分かった」と言って世羅からプリントを受け取る晴峰先生。
「先生、今私の名前呼んでたよね。何か用事ですか?」
「ああ、少し話があってな」
「じゃあ二人は先に部屋戻ってて! 私晴峰先生の用事が終わったら戻るね!」
「あ、先生、これ委員会体験週間のプリントです」
果帆と晴峯先生の会話の最後に、咲弥は遠慮気味に入りプリントをそっと提出する。
晴峰先生は二枚のプリント、そして五人を交互に見つめてクスッと嬉しそうに笑った。
「じゃあねー、皆!」
そう言って果帆と晴峰先生は教室から出て行った。背中を見送り、残った四人は各自部屋に戻るのだった。




