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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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2.5-4話『隠し技』

 特訓を始めて今日で五日目。


 廉は基本的に悠真、叶奏、美桜の三人に課題の内容にもある射撃、悠真との組手のための体術を教えてもらっていた。

 平日は放課後、食堂の時間が開くまで特訓。射撃、組手、交互に鍛えている。

 休日を挟んだ日もあったため、その日は一日中特訓、地下射撃場とグラウンドを行き来して射撃と体術を鍛えて磨く日々。


 同時に三人に共通して言われた体力づくりも並行して、毎日取り組むようにしていた。

 たった五日だけど、最初の頃より確実に成長出来ている。廉はそう確信していた。この調子なら、絶対に課題をクリアすることが出来るはずだと。


 そんな景色を、ある二人の生徒はそっと遠くから眺めていた。


「――世羅(せら)、ずっと窓の外眺めて……何見てるんだ?」


「……ん? ああ、(はるか)か。数日前から、多分一年一組だと思うんだけど、グラウンドで特訓してるのを見かけて。よくやってんなぁって思ってさ。詳しい事情は知らんけど」


 二人は一年二組所属の九条 遥と風間 世羅。

 世羅はここ数日ずっと特訓をしている一年一組のメンツが気になって、暇な時は窓からそれを見ていた。


「ほんとだ。熱心な奴らだな」


「聞こえた範囲でだけど、あそこの、四人の中で一番背高いあいつ。廉……だったかな。あいつの課題をクリアするために四人で特訓してんだって」


「敵同士なのに……呑気っていうか、絆されすぎっていうか」


 一年一組の特訓の光景を立って見ている世羅の隣に立ち、窓の縁に手を置いて不思議そうに眺める遥。やはり他区画と仲良くするという行為は気になるようだ。

 視線は一切外さずジッと眺めている世羅に対し、


「それを笑み浮かべながら見る世羅もほんと物好きだよな。最初は冷たかったくせに、同室で少し話すようになったら猫みたいに態度変えて」


「遥猫好きなんだからちょうどいいじゃん。それで言ったらお前だって最初はクールな感じで自己紹介したと思ったらただの話すの下手なやつでさ。……な? コミュ障くん?」


「おまっ……気にしてんだから言うな!」


 痛いところをつかれ焦りながら反発する遥を見て、世羅はゲラゲラと豪快に笑う。笑って涙が出たのか世羅は軽く目元を擦り、もう一度特訓している一年一組に視線を戻し、ポツリと呟く。


「俺はこの光景が好きなんだよ。それに、この学校の方針もやり方も気に入ってる。……俺は出来るなら、地元になんか戻りたくねーし」


「……好きだとか言って、お前も俺と似てるくせに」


 お互いに毒を吐きながら、二人は黙って窓の外を見つめていた。



                 ◆◇◆◇◆◇



 視点はグラウンドになり、廉達は悠真との組手に向けて最終調整のようなものをしている最中だった。


「今日で五日目だけど、最初の頃と比べたら成長はしてるんじゃない? ま、これもアタシとの組手の成果でしょうけど!」


「ちょっとちょっと、体術に関しては僕も一緒に教えたんだからね?」


 美桜は腕を組み満足げに自画自賛。そんな美桜を横目に自分も、と主張を挟む悠真。

 実際悠真に体術を教えてもらい、それを組手で美桜と勝負し良かった点、直したほうがいい点を教えてもらってそれを取り入れる。最初の頃より形には出来ているとは思う。


「そっちも成長してるけど、射撃の腕も確実に良くなってきてるよ。美園先生が言った的の範囲が十点から五点の間。最近の廉くんはその範囲を撃てるようになってきているから、あとは当日緊張で手元が震えないようにしてほしいかな」


 廉の隣に立つ叶奏も、これまでの成果を報告してくれる。三人からのお墨付きのようなものをもらえた廉は嬉しさで内心騒がしい。


「三人に言われると、不思議と自信がつくよ。本番の日、絶対に課題をクリアしてやるぞー!」


「はいはい、その心意気は素晴らしい。もう時間がないんだから早く訓練に戻るわよ」


「わ、分かった。分かったから制服引っ張んないでー……!」


 美桜に引っ張られながら、廉は訓練に戻る。



 その日の夜、部屋で悠真と廉は訓練の振り返りを行っていた。

 二人はクラスメイトであり六年間共に暮らす同室の関係でもある。


 初日の訓練から、悠真の提案で訓練の振り返りを行った方が廉自身も気を付けるべき点を確認出来るし、悠真はそれを把握しておけば次の日の訓練で教えるときに役立つから、という理由で毎夜欠かさず行っているもの。


「五日目はどうだった?」


「今の所、射撃は上手くなっていってる。体術も悠真くんの教え方が上手だから最初より動けるようになってきた。組手はまだ……美桜ちゃん相手だと、全然勝てないや」


「訓練だとしても美桜は全力で戦ってるからね」


「まだ勝てないけど、美桜ちゃんに沢山投げられたり殴られたりしたから、受け身の取り方は上手くなった気がするよ」


 訓練での日々を思い出す。

 正直美桜は強い。廉との身長差、男と女の力の差、身体的なステータスなら廉が勝っている部分もある。だけどそれらの差なんて美桜には関係ないみたいに、一切歯が立たない。


 それぐらい、学校に入学する前の美桜は努力してきたんだと思う。勿論、学校に入学してからも努力は続けているんだろう。


「それと廉。今日の美桜との組手で足、捻りそうになってたよね」


「え、気付いてたの? でも実際に捻ったわけじゃないから大丈夫だよ」


「駄目だよ。それが影響して明日の最後の訓練で足やっちゃって、当日に悪化して課題が出来なかったらどうするの? ほら、足出して。マッサージするから」


 答えようとしたときには悠真は椅子から降りて、座ってる廉に跪いていた。その行動の速さに、廉は大人しく面倒を見てもらうことに。


(教えることも出来て、マッサージも出来て……やっぱり悠真くんはなんでもできるなぁ。……あ、気持ちいい。皆で訓練をするようになって、授業以外も体を使ってるから疲労が多かったんだよね)


「……よし、終わり。廉、終わったよ? おーい、廉くーん」


「はっ」


 意外に悠真がしてくれるマッサージの気持ちよさに意識がボーっとしてしまい、悠真の覗き込みながら自分を呼ぶ声でハッとする。


「ふふふ、そんなに気持ちよかった?」


「うん。まあ……」


 マッサージの気持ちよさに浸る前に、廉はすぐさま時計を確認して今の時刻を把握する。今は八時五分だった。

 焦りを覚えすぐに支度をする。


「ちょっとお手洗いに行ってくる」


「最近長めのお手洗いに行ってるよね。……何か理由があるのかな?」


「……まあ、色々だよ! いってきます」


 部屋を出た廉はすぐに寮を出て、あまり他の人に見られないようにする。そして廉は、構え、拳を突き出した。


 その場にいるのは廉ただ一人。だが廉はまるで相手と戦っているかのように、拳を突き出し、足を上げ蹴りをお見舞いしたりと、一人で組手のようなものを行っていたのだ。


 廉は訓練を始めて二日目から、寮が施錠されるギリギリの時間までこうして外に出て一人で特訓をしていた。それはもっと力、技術を身に着けて課題を達成したいから。

 三人から教えてもらったことを、こうして一人で実践して鍛えている。


(もっとスピードを付けて、判断が遅くならないように戦わないと。悠真くんは美桜ちゃんと同じくらい強い。課題までにもっと僕の短所を直さないと。じゃないと悠真くんには届かない)


 三人に訓練を見てもらって五日。最初より確実に成長している廉は、どうしても直せない短所が一つだけあった。

 それは判断力。三人に見てもらって体力も技術も確実に上がっている。だけど廉は相手のペースに持っていかれると、思考することが出来なくなる。簡単に言えばパニックに陥ってしまうのだ。


 これじゃあ、せっかく身に着けたものが活きない。


「……ふぅ。まだ時間はあるし、もういっか……い……?」


 寮の入口から何か人影が見えた気がした。気になり、入口の方に目をやる。


「――あ」


 二人の人物と目が合い、廉含む、計三人の声が見事にシンクロ。


 寮の入口に立っていたのは、水色の髪をした少年と白髪の少年だった。


「えと、君たちは……」


 三人はお互いに無言になってしまい、空気感が辛く感じた廉はそっと入口にいる二人に声をかける。


「俺は、一年二組の九条 遥」


「……風間 世羅」


 水色の髪の少年は遥、白髪の少年は世羅というらしい。廉はこの二人を見たことがあった。特に世羅だ。それはただすれ違ったとかではなく、しっかりと。


「俺達がグラウンドで特訓してる時によく見てるよね? 特にその、世羅くん。遥くんは、今日世羅くんと一緒に見てたよね」


「……よく観察してんのな」


 ぶっきらぼうに世羅は言い放つ。放課後の出来事を遥は思い出し、世羅を見て、お前も人のこと言えないだろ、と呆れた目で見つめる。


「お前はこんなところで何してるんだ? もうそろ消灯の時間だろ」


「えっと、俺は自主練をしてて」


 そこで遥と廉の会話は途切れる。遥は慌てて、廉は少し気まずそうにしている。それを見ながら遥に対しお前もなと言うように盛大なため息をつく世羅。

 廉は気まずい空気を振り払うようにもう一つの話題を出す。


「二人は、なんでここに? この時間帯は外っていうか、部屋から出る人も少ないのに」


「あー、俺達は喉渇いたから水でも飲もうと思って部屋出たら、世羅が今誰か寮から出ていったっていうから恐る恐る見に来たっていう……感じかな」


「それが俺だったんだね」


「……なぁ」


 遥と廉の会話の中、世羅の声が響く。


「なんでお前、あの三人と一緒に特訓してんの?」


「えっとそれは、話すと長くなるんだけど……」


 首に手を当てている世羅が低い声でそう問う。理由をそのまま言ってもわかりずらいだろうと考えた廉は課題を受けることになった経緯を話す。そこから三人のことも一緒に。


 話し終えた廉が二人の顔を見ると、すごく驚いたような表情をしていた。二人というか主に世羅が、だ。正気か、と思っているような顔にも見える。


「射撃はいいとしてよ。組手はクラスメイトと対決で、その対決相手でもある悠真くんに体術を見てもらってるんでしょ? ――お前馬鹿って言われない?」


「え」


 ぼそぼそと独り言かのように呟く世羅に、最後は廉の方を向いて真面目な顔で言われる始末。そんなに自分って馬鹿に見えるかな。


「組手自体は美桜ちゃんに見てもらってるんだからまだいいか。……いいのか? うーん、いや、五分五分だなぁ。悠真ってあの人畜無害そうな噓くさい笑顔張り付けてる奴でしょ? うわー……」


 また独り言のように言葉をスラスラと並べ、一人で勝手に悩んで、勝手に落ち込んで。その速すぎる変化に廉と、そして遥も戸惑いの色を隠せない。


「なぁ廉、もいっこ質問。その三人と一緒に訓練してお前は自分で成長してるって思ってる?」


 飛んできた質問に少しフリーズしてしまうが、この質問に関しては明確な答えがある廉は自信満々に迷いなく、


「うん、そう思ってる! 叶奏ちゃんは優しく丁寧に指導してくれて射撃練習に付き合ってくれたし、悠真くんはずっと隣で教えてくれて、振り返りとかそういうものも一緒にしてくれる。美桜ちゃんは全然敵わない俺に根気強く厳しく教えてくれた。最初の頃より絶対成長してる。俺はそう思う!」


「……あはは! 二組以外にもこんな純粋で能天気な奴がいたんだな! ははっ、俺好きだよ。お前みたいななんにも疑ったことないみたいな奴」


「えぇ……」


「どうした世羅、お前ほんとに。この短時間でキャラ変わり過ぎだろ……」


 廉の言葉に顔をクシャっとして笑う世羅を見て、廉は戸惑い、遥は若干引いている模様。

 ひとしきり笑ったあと、目元を拭いながら隣にやってきた世羅は廉の肩にどしっと手を置く。


「廉、俺が悠真との組手に勝つためのアドバイスをしてやるよ! ――少しズルくて場合によってはフェアじゃないって思われるかもしれない方法か、的確な急所をついた方法か。お前はどっちで勝ちたい?」


「え、えっと、俺は……」


 課題まであと一日。時間にすれば十五分もない短い時間で、廉は世羅からアドバイスを貰うのだった。



                 ◆◇◆◇◆◇



 課題前日、最後の訓練を終えて――課題当日。

 廉は放課後、美園先生、そして訓練をしてくれた悠真、美桜、叶奏の三人と共に地下射撃場に来ていた。課題の最初は射撃から。


「では、これより廉の課題を始める。まずはここで射撃分野を見る。射撃が成功した場合、グラウンドに行き、悠真との組手をする。ちゃんと休憩時間を取るつもりでいるから、全力で挑むように」


「はい!」


 美園先生から説明を受けた廉はレーンに着く。


「廉くん、頑張って! 訓練を思い出して。いつも通りやればきっと出来るよ!」


 後ろから叶奏の応援が聞こえる。悠真除く叶奏達二人は観戦と応援の名目でここにいる。美園先生に話したら観戦の許可をもらえた。


「ルールは最初に話した通りだ。僕が指定した五点から十点の間を三発撃てるかどうか。――では、始め!」


 射撃は、すんなりクリアすることが出来た。叶奏の教え通り、緊張があったがそれよりも集中力に全ての力、神経を注ぎ、最初の三発全てを的の範囲内に撃つことが出来たのだ。


 これにも美園先生も驚きを隠せない。主に射撃を教えていた叶奏は無事成功した廉を見て安堵の表情を浮かべている。



 次は組手。悠真との対決だ。


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