1-3話『一年三組』
気を取り直して、左横に座っている明るめの茶髪をミディアムショートにしている女の子をチラッと見てみる。左横の子も緊張していなさそう。というよりすごくニコニコ笑顔だ。そういえば、入学式のときすごく目を輝かせていた気がする。
「じゃあ順番は……廊下側からいこうか。諒から後ろにいって、一番後ろの彼汰までいったら前に戻って彗斗にいく感じで、その繰り返しで沙良が最後になるね」
小豆沢先生の指示通りなら翠は五番目。まあ翠の席は九席ある中の一番ど真ん中だからどこから始めても順番は変わらないが、だけど一番最初と最後にならなくてよかったと思う。
一番最初はどうやって言えばいいか分からない、だから他の人がどんな感じで自己紹介するのか見たい。だけど一番最後も少し嫌だ。最後だから色んな自己紹介サンプルが沢山存在するけど、自分が最後で終わってほしくない。だって最後が一番印象に残りそうなんだもん。
「第二十四区画出身の稲浪 諒です。僕は武器とか銃についてもっと学びたいです。よろしくお願いします」
翠から見て右斜めの席、プラチナブランドみたいな髪を靡かせ眼鏡をかけ、顔が整っている男の子が席から立ち上がり、翠達の方を向いてザ・定型文な自己紹介をやり遂げていた。
「はいはい! 俺の名前は浦風 伊月です! 出身は第十六区画で、好きな食べ物は~大体なんでも食べれて~……、あと好きな色は紫! あとはスポーツも大体好きで! あとあと!」
「伊月、学校案内の時間もあるから! もう少し簡潔に!」
「え~、小豆沢先生のケチ! ……えっと、俺ちゃんと立派な兵士になるためにこの学校来たけど、それよりも皆と喋ってみたい! よろしくお願いしまっす!」
翠から見て右隣の席の紫の髪を伸ばしている男の子、浦風 伊月は翠が予想してた以上に明るい性格らしい。
諒の自己紹介が終わった瞬間に勢いよく席から立ち上がり、元気に名前と出身区画だけでなく他の情報まで漏らしていた。小豆沢先生の注意を受け残念そうな顔をするが、元気と笑顔で自己紹介を終えた。
「俺の名前は鬼塚 彼汰。出身は第十二区画だ」
翠から見てちょうど見えない位置にいる右斜め後ろの席の灰色の髪の男の子、鬼塚 彼汰の自己紹介を聞いたときほぼ小豆沢先生以外の全員がえ、と驚き声を上げた。
彼汰は、他の人達は分からないが少なくとも翠と彗斗と伊月と諒にとっては同い年でも、仮に四人が同じ区画に住んでいたとしても、とても位が高い存在だ。なぜならこの東の国に住んでいる人全員が桜木教育学校と同じくらい『第十二区画の鬼塚』という名字は有名だからだ。
彼汰が言った第十二区画。そこの主力軍隊の一番高い位の『大将』そこに席に座っているのが鬼塚、おそらく彼汰の父か祖父だろう。だけど名前はあくまで後付けだ。有名なのは名字ではなく成し遂げたものだった。
昔、東の国の内部戦争が始まった頃、意見が合致する区画同士で同盟を組んだり、ガンガン他区画に侵入して土地を奪ったり色々あった。色んな区画がある中、第十二区画主力軍隊はこの国で一番他区画との戦争に勝利し、土地を自分の物にした区画だった。現在で三区画を自分の領土にしている区画。そしてそんな主力軍隊の大将の家系だ、驚くのも当然だった。
「……俺はもう主力軍隊の教育機関を三年受けて卒業している。この学校に入ったのは知見を広めるために入った。よろしく頼む」
行儀よくお辞儀をして彼汰は席に座った。表情も常時無表情で、喋り方もずっと淡々としていた。無表情だと心理が読みづらいからこのクラスの中で一番の要注意人物に認定だ。
(主力軍の教育機関を卒業してるってことは、あの人本当に強いじゃん……)
主力軍隊が運営している教育機関は三年。三年の間に知識、銃の扱い方、人の殺し方、全部を教わる。それを卒業しているということは彼汰はこの三組の中では一番強いということだ。体力もなく、運動神経がそれほど高くない翠より。
「名前は金河 彗斗。出身は第七区画。まあ、よろしくお願いします」
彗斗の自己紹介はすんなり終わった。翠から見て彗斗は少し不機嫌に見えた。それはただ単純に他区画の人達に情報を言いたくないからだと思う。彗斗は表情とか隠すのがうまいから、多分翠以外は気付いていないんじゃないか。
そしてついに翠の番。言いたい、言いたくないの前に自己紹介は皆に注目されるから少し苦手だ。うまく言えればいいけど。
「……ぼ、僕の名前は、守蔦 翠です。出身は第七区画で……えっと、将来立派な兵士になるためにこの学校にきました! よ、よろしくお願いします!」
ぶんっと勢いつけてお辞儀をして自己紹介終了。席に座りほっと息をつくと、また右隣の伊月が翠に向けて笑顔でひらひらと手を振っていた。
「第三区画出身の勿堂 功雅です。俺はー……銃、とか、まあ色々学びたいです。よろしくお願いします」
翠の後ろの席の青色の髪の男の子は同じく緊張していたのか、少し声がこわばっていた。だけど顔が他の人よりいかつい感じがして、第一印象でいったら少し怖い。
「……えっと、な、名前は……藍原 優依、です。出身は……第二十区画、です。よろしく、お、お願いします……!」
翠から見て左斜め前の席のくすんだ水色の髪を下に一つ結びにしている子。後ろから見てて分かるくらい緊張しているのが分かっていたが、それは本番でも健全だったみたい。
優依は自己紹介のとき、少し顔を俯いて、手をずっと握ってなんとか緊張を紛らわそうと頑張っていた。
「第五区画出身の雛本 來香です! 立派な兵士になりたいし、めちゃくちゃ強くなりたいし、この学校で色々なこと学びたいし、ほんとは敵だけど皆と喋ってみたいし! やりたいことやってみたいこといっぱいあります! よろしくお願いします!」
翠から見て左横の席の明るめの茶髪をミディアムショートにしている子。伊月と同じく明るい性格らしい。翠の両隣は明るく元気な性格の二人が揃ってしまった。ちょうど明るい人達に両サイド囲まれている。だけど前には彗斗がいる、それだけでなんとか安心はできる。
「私の名前は夜見 沙良! 出身はそこの藍原 優依と同じ第二十区画! そして私は第二十区画の武器製造を司る夜見家の娘! 故に私は昔から銃や武器の分野をずーっと教えてもらった! 仮に兵士としての才能がなくても武器の使い方はここの誰よりも詳しいはず! だから皆俺つえーなんて思ってたら私がすぐ抜かしちゃうんだからね! よろしくお願いします!」
翠から見て左斜め後ろの席の紫とピンク色が合わさったような髪を一つにして上に縛っている子。自己紹介の最後だから張り切ったのかなっていうくらい、翠には沙良の自己紹介には圧倒された。結構自信家の子なのかもしれない。
だけど武器製造の家系なら、沙良が言っていたことはほぼ事実なんだと思う。
各区画には軍の銃や武器関係を担う家系が存在する。武器製造というより工場を持っていて、その家系は銃や武器を製造し主力軍隊や隊に提供するという役目がある。これは各区画だから翠と彗斗が住む第七区画にも武器製造を担う家がある。つまり沙良の自己紹介の時に言っていたことが本当の場合、第二十区画の武器製造は夜見家が務めていることになる。
おそらく沙良は自己紹介通り武器製造の家系故に幼い頃からその辺りの知識を学んでいたんだろうと思う。いつか武器工場を継ぐために。
沙良で最後。とりあえず一年三組の生徒達の自己紹介が終わった。小豆沢先生は最初に自己紹介をしているから次は学校案内だと思う。
「皆、自己紹介ありがとう。意外とノリノリの子もいたからびっくりしたよ。一応これでお互いの名前を知れたと思うから、皆仲良くね! 僕はもう最初に名前言っちゃったから、自己紹介はこれでおしまい! 次は学校案内だ。皆僕についてきて」
皆席を立ちあがり入学式と同じように小豆沢先生の後をついていく形で学校案内が開催された。
「翠、翠」
「あ、彗斗。ねえ僕、ちゃんと自己紹介出来てた? 変じゃなかったかな?」
小豆沢先生の後ろに皆、その一番後ろに翠はいた。横から彗斗も合流したため、翠が一番悩んだ自己紹介のことを皆に聞かれないように小声で聞いた。一応人並みにはできていたと思う。自己紹介に人並みもないが。
「俺は緊張してんだなって分かるけど、他の奴らは全然気付かないと思うぞ?」
「ほんと?」
「ほんとにほんとに。別に噛んだわけじゃないし、間違えたわけでもない。小豆沢先生が言ってた通り名前と出身区画ちゃんと言えてたじゃん」
「そっか……!」
彗斗にそう言ってもらえてちょっと安心。初対面、且つ敵同士。あまり弱さを見せるような第一印象を抱いてほしくない。だけど、右隣の席の伊月には結構色々見せてしまったかも。
「彗斗はさすがだね。スマートって感じだった!」
「だろ? 敵だからな、ちゃんと警戒対象として見てもらわないとな」
「だったらもっと怖い感じっていうか……こう、強い感じを出した方がよかったんじゃない? 彗斗不機嫌だったし」
威圧感というか得体がしれない感じでいうと彼汰が一番だった。彼汰に関しては名字のおかげでもあるかもしれないけど、ずっと無表情だったから色々読めなかった。
「それはさっき夜見も言ってただろ、俺つえーなんて思ってたらって。自己紹介の第一印象も同じ。あからさまに俺強い感出したら大体は嘘だなって見破られる。本当に強い奴ってわざわざやらなくても分かるもんなの」
「こう、気配とか、勘とか本能で分かる感じだね」
「そう。俺は別に強いわけじゃないから、だからわざと何も感じさせないようにやったんだ。動揺とか緊張とか出さないように。そしたら何も第一印象で分からない分少し警戒してくれるかもだろ?」
「おー……すごい、参考になる!」
「相手に翻弄されないで余裕な態度でいることが一番効果的なんだと思う。まあ、これで皆俺に警戒してくれるかって言ったらまだ分からないけどな。癖強い奴いっぱいだったし」
彗斗はそう言うが、舐められたくないと思いながらもどうやったらそうならないかを全然分からなかった翠より全然すごい。彗斗は頭もいいほうだから、自然と対処法みたいなのをぽんぽん思いついちゃうのだと思う。
もっと彗斗を見習わないと、と意気込む翠なのだった。




