4-8話『準備も大詰め、そして決行当日』
「という理由で、優依が追加されたってわけだ」
ここまで沙良の代わりに説明してくれた功雅に感謝しながらも、翠はもう一つの感情を抱いた。
「――沙良ちゃんから始めた計画なのに、一番最初にバレてるじゃん!」
「う、うるさいわね! そういう翠だって今日ずっと彗斗と一緒にいたくせに! どうせ翠も彗斗にバレそうになったんでしょ!」
「感づかれはしたけど僕はバレてないもん!」
翠と沙良の言葉はまるで子供じみた言い合いだ。完全に蚊帳の外にいる功雅は若干呆れ気味。優依はわたわたと慌てながらも二人の言い合いを見守っている。
段々と二人の言い合いはヒートアップしていき、声量が大きくなってきていた。ここでは静かに、それが図書室のルールだ。二人はそんなことさえ気にしないまま、周りにも迷惑がかかるぐらい、声が大きく、うるさい喧嘩に達していた。
「おい、二人とも、ここ図書室なんだからもうちょい声抑えろって……」
「――翠くんと……隣の女の子。図書室では静かに、だよ。二人とも、もうちょっと声抑えられる?」
ヒートアップしてきた二人の言い合いに、流石にヤバいと感じた功雅が注意をする。その時、本棚の影から現れた図書委員の四年二組、真宵 莉子が人差し指を口元に当てて、二人に軽く注意を促した。
「……あ、はい。ごめんなさい!」
「……ご、ごめんなさい!」
莉子に注意を受けた翠と沙良はハッとなり、言い合いをずっと見守っていた功雅と優依の慌てた表情に気付き、ようやく二人は今の言い合いが周りにも迷惑をかけているものになっていることに気付く。
「ここ数日、ずっと本を読まないでここで何か話しているのを図書委員会は黙認してるから。せめて本を読んでる皆の迷惑にならないようにね?」
優しく諭すように二人に言い聞かせる莉子。その振る舞いに翠と沙良は深く反省したのだった。
「えっと、強く言い過ぎちゃってごめん。沙良ちゃん……」
「元々は私のせいだし……私こそ翠に色々言っちゃったから……ごめん!」
注意を終えた莉子が戻ってすぐ、二人はお互いにさっきのことを謝った。その姿を見て、功雅と優依は安心したようにホッと息をつくのだった。
「無事に仲直りできてよかったよ……っと、昼休みはもうそろ終わりそうだな」
「私が沙良ちゃんを驚かせちゃったから……本当にごめんなさい」
「優依のせいじゃないって。そもそも部屋で計画用紙を開いてた沙良も沙良だし。部屋でも教室でも一人でいる環境がないから、だからまあ……これは不慮の事故みたいなもんだよ。俺達の行動に気付いてる人はいる。俺も伊月に結構聞かれてんだ。いずれ誰かかしらバレることはあったんだと思うよ」
自分のせいで、と落ち込んでしまった優依を功雅が慰める。
ここは学ぶ場ではあるけど、それ以外は皆と共同生活しているようなもの。部屋というのは落ち着ける場所だと思うがここでは三人で一つの部屋。桜木教育学校に来てからあまり一人になる瞬間がないのは確かだった。
「もう時間がない……僕は今日委員会ないんだけど、放課後は皆空いてる?」
「いや、今日は俺と沙良は委員会があるんだよな……」
「むー……レジャーシートの件さえ解決すればすぐにでも花見計画を実行できるのに……」
翠は今日委員会がない。もし、と思ったが功雅と沙良が総務委員会があるらしい。翠と功雅は喉を唸らせながらもう時間がないことの焦りが募る。
桜って思ってるより花が散っていくのが早い。五月に入れば大体もう葉桜になってしまう。だから沙良は四月までに花見計画を実行したいと言ったのだろう。翠もそれを分かっているからその案には賛成だった。
あと一個。あと一個なのだ。レジャーシートの件をどうにかできればあとは皆で花見をするだけ。
まだ入ったばかりの一年生だから自分達でできることには限りがある。これが六年生だったら、色々なところにも入れるかもしれないし、許可が必要なく持っていっていいものがあるかもしれない。
そんな二人を傍で見ていた優依は、まだ自分のせいなのでは、という意識が残っている。だけど成り行きがどうであれ自分も花見計画チームの一員となったのならば、何かできることがあるかもしれないと思った。
「ねえ、沙良ちゃん、翠くんが言ったレジャーシートがあれば花見計画を実行できるの?」
「そうね、それさえ揃えば、すぐにでもできるけど……」
沙良は計画用紙を見ながら優依に抱えている問題を説明する。優依は「見せて」と言い沙良から計画用紙を受け取り、それに目を通しているときに昼休み終わりのチャイムが鳴ってしまう。
「チャイム鳴っちゃった。優依、二人とも、教室に戻るわよ」
沙良がそう言って戻ろうと促すも、優依だけは計画用紙を眺めたままその場を動かない。
「優依ちゃん……?」
あまりに真剣な表情で計画用紙を眺める優依に翠は心配で名前を呼ぶが、反応はなし。声が聞こえていない優依にどうしようと思ったとき、急にばっと顔を上げ三人の方を向いて、
「あ、あの! レジャーシートの件……一回私に任せてくれないかな!」
「もしかして、優依には何か心辺りがあるのか?」
「うん、私の中でレジャーシートの代わりになるものがあって……その確認をするから、明日また報告させて。あ、沙良ちゃんには後で部屋に戻ってから伝えるね」
功雅の質問に普段の、いつも沙良や來香の後ろに隠れている優依ならありえないほど流暢に返答を述べる。
「俺達じゃいい案思いつかなかったし、一旦優依に任せるか。明日、いい報告を待ってるよ」
「うん、私頑張るね!」
張り切った返事を返した優依を見て功雅は少し安心する。
三人はとりあえず優依に任せてみることに。この件に関しては三人は打つ手なしの状態だから、優依に何かいい考えがあるなら任せてみようと考えた。
明日、優依からいい報告を聞けるといい。三人はそう願って教室に戻った。
・・・・・・
優依加入から少し日数が立ち、今日の日にちは四月三十日。四月最後の日の昼休みに、一年三組の教室では何やら秘密の説明会が行われているもよう。
その日は全員が昼休み、何もない日だった。伊月なら昼休みの生物小屋の当番があったり、諒だったら昼休みの図書当番があったり。
始まりは総務委員会所属、三組の学級委員長の功雅と副学級委員長の沙良が教卓に移動したことからだった。
彗斗はいきなりの出来事に困惑を隠せなかった。なぜなら、沙良と功雅以外の二人――翠と優依が教室の扉の前で何か見張っているように見えたからだった。
「これから俺達から話すことがあるんで……特にまだ何も話してないのにはしゃいでる伊月と來香、静かにしてくださーい」
「「はーい!」」
教卓に上がった功雅から注意された二人だったが、返事が元気すぎて本当に分かっているのか不安になる彗斗。それは功雅も同じようで、若干呆れ顔になっていた。
今度は横にいた沙良が教卓に立ちバンッと両腕を置き、
「――今日の夜、三組の皆で花見をやりたいと思います!」
そう勢いよく宣言したのだった。
「沙良ちゃん、声が大きいよ……!」
おそらく『あっち』側なのだろう優依から声を指摘され「ごめんごめん」と謝る姿を見て、それを見てる人達はまだ沙良が言ったことについて理解できていない。皆目を見開いている。
だけど彗斗はその言葉だけで、ここ数日翠の様子が変だったことへの解答がこれだと確信した。いつの間にか優依もあっち側に入ってることへの疑問はあるが。
「私と功雅と翠、そして最後に事情があって仲間になった優依の四人でずっとずーっと! 考えてたものなの!」
次に沙良から説明されたのはその花見をする場所への行き方。行かないという意見を言う隙もなく、話は進められる。
まず、数日ずっと練ってたんだよなと思うほど雑な行き方。食堂で夜ご飯食べたあとにすぐお風呂に入って、そのままバレないように寮から脱出。そして花見をする会場に出発。
数日使わなくても思いつきそうな行き方に彗斗は呆れるも、自分はその輪に一切入ってないため何も言わないことにする。
沙良からの説明は以上で、その後自主的に手を上げた諒と彼汰は『勝手に寮を出てもいいのか』『そもそもこの花見は自分達しか知らないのか』など質問が主にその二人から寄せられたが「後から行かないはなし! これは強制参加だからね!」と沙良に付け足され一蹴される。
今日初めて知らされた彗斗達は皆で花見をするということに強制的に参加させられたのだった。
話終わった沙良と功雅は教室の扉にいた翠と優依と合流。聞き耳を立てて話を聞くと、翠と優依は教室に誰か入ってこないように、それと他の生徒、先生、小豆沢先生にバレないように見張りをしていたとのこと。
この花見の話は小豆沢先生除く三組の皆で行うものらしい。
机に戻ってきたとき、授業中、休み時間、時間があるときにどこで花見をするのか聞いた。沙良から伝えられたのは花見会場にどうやって行くかだけ。どこでやるのか言っていなかった沙良に彗斗は疑心を抱く。
それなら翠にと思ったが、頑なに秘密と言って教えてくれない。
そもそも自分は同じ第七区画出身の翠以外とあまり過度な馴れ合いはしたくない。全員、全て敵なのに。いずれ殺し合う敵なのに。何が楽しくて敵と仲良くしないといけない。
情報収集も大事だが翠のそれは、まるで自分と一緒にいるときみたいだ。
どうしてそんなに心をさらけ出せる。どうしてそんなに仲良くできる。全員――敵なのに。
時間は過ぎて、皆は小豆沢先生、それぞれの委員会の先輩、一組と二組にバレることなく授業と委員会を終えた。そこからは沙良が言った通り食堂で夜ご飯を食べて、素早く入浴を終えた男子達は功雅と翠の誘導で寮の玄関に急いだ。
まだ女子達は来ていない。彗斗はこんな男子全員で玄関にいれば行く前にバレてしまうのでは思ったが、不思議と談話室には誰もいなかった。
数分後、入浴を終えた女子達が戻ってきた。その中で優依だけ何か布のようなものを持ってきている。花見の時に使うものだろうか。
「……よし、全員いるわね。じゃあ、花見会場にレッツゴーよ!」
人数確認を終えた沙良は片手を宙に上げ、声を張り上げてそう言った。
そのまま事情も知らない、会場に着いたとして何をするかも知らされていない彗斗達は四人が計画した花見とやらに付き合うことになったのだった。




