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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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4-6話『疑問に思うことへの答え』

 あれから数日かけて翠、功雅、沙良の三人は皆にばれないように花見計画を練っていた。


 会議をするために必須条件なのは、三人揃うことと周りの人がいない空間。

 唯一その条件が揃う場所で花見計画会議ができるのは、最初の会議で使った図書室の奥。図書室は皆机で本を読んでいるから奥まで来ることはほとんどない。


 翠と沙良、功雅の二人は委員会が違うため放課後に集まれないというのが難点だった。だけど沙良曰く花見計画は四月が終わるまでには行いたいということ。


 最初は昼休みだけで会議をしようかと、結構限定的な花見計画会議を開催していたのだが沙良の言葉により、日数も限られているし条件を気にしていれば計画は一行に決まらないと感じた三人は思い切った場所で会議をすることも増えるように。


 時には座学の授業のとき、沙良の机に集まって互いに教え合いをしているのかと思えば小声で周りにバレないように会議をしていたり。


 実技で三人一組で何かをやるときは積極的に翠、功雅、沙良で組んで美園先生や皆にバレないように密かに会議をしていたり。


 食堂でご飯を食べるときも三人で食べるようになっていた。食堂は逆に色んな人で賑わっているから三人が余程大きい声を出さなければ周りにバレることはない。

 だがここで一番気を付けないといけないのは周りの声で自分達に近づいてくる人に気付けないこと。そこさえ気を付けておけば食堂での会議も可能だった。


 そして翠の自然委員会と功雅、沙良の総務委員会の休みの日が重なればその放課後の時間も談話室の壁際、一番奥で会議。


 あと昼休みは欠かさず図書室の奥での会議。


 休みなく、開いた時間さえあれば会議をしていたおかげで数日で大体のことを決めることができた。

 実行の日は平日の夜。反対する人が絶対いるということで、決行の日、当日に三組全員に知らせ、少し強引かもしれないがゴリ押しで皆であの桜の大木に行って花見をするという感じで計画は進んでいる。


 今日は食堂で昼ご飯を三人で食べたあと功雅と一旦別れて図書室の奥、花見計画の概要が書かれている紙を持つ沙良と隣にいる翠は先についていた。


「必要なことは決めることが出来たし、あとは決行日を決めるだけね」


「いや、まだ持ち物をどうするか決めてないよ。功雅くんが皆でお喋りするなら座れるレジャーシートみたいなやつを持っていった方がいいって言ってたじゃん。それをどこで調達するのかも決めないと」


「あ、そうだった! そうね、それも決めなきゃ……」


 頭をシャーペンを持つ片手でかきながら、沙良は渋い顔をする。


 功雅は今私用で、同じ総務委員会らしい一年一組の羽鳥 悠真の元へ行っている。同じ委員会の沙良が言うには総務委員会で絶賛学んでいる最中の企画立案・運営について悠真に聞きたいことがあるのだとか。

 そんなに時間は掛からないから先に図書室に行ってて、と功雅から伝えられたため二人は先に図書室に。


 翠は唸らせながら今言ったことを考えている沙良を見て、


「……なんで沙良ちゃんは花見計画をやろうと思ったの?」


 ずっと三人で計画を練っていたからこそ、一番にやろうと発した沙良がどうしてそう思ったのか。翠の思ったそれは純粋な疑問だった。


「まあ、前に翠に言った総務委員会っていう役になったからやってみたいっていうのもあるけど……もしかしたら、私があんまり外の人と関わったことがないから……そう思うのかも?」


 沙良は頭を傾げて疑問そうに答えるのに、どうしてそう思うのか隣にいる翠に問いかけるような喋り方だ。

 翠に向けられる疑問の目をしている沙良に、なんていえばいいのか分からず翠は顔を逸らす。沙良の事情なんて第七区画出身の翠には絶対に分からないものだ。だからただ黙って沙良から言葉を紡がれるのを待つ。


「でも別に関わったことがないからっていう理由でそう思うものなのかしら……?」


 自分で発した癖にその言葉に疑問しか感じられないらしい沙良は顔をしかめて悩む。


「……沙良ちゃんも家から出たことがないの?」


 ずっと隣で「うーん……」と唸り続ける沙良を見て、いつまでも伝わることのない言葉の意味を知りたくて、引き出すなんてことはできない翠はこちらから何か話題を提供する。


 沙良は驚いたように目を丸くするも一瞬の内に納得、といった顔をして、


「もってことは諒から何か聞いた? もしかして」


「うん、まあ」


 沙良の返答はほぼ翠の聞いたことが合ってるという風に見て間違いないだろう。

 やっぱり諒や沙良みたいな武器製造を司る家は皆自分の家から出たことがない。翠みたく外に出て彗斗みたいな『友達』と遊ぶということをまったくやってこなかった人達なんだ。


 なんとなく自分がそっちの人間だったらと考えると、大前提で第七区画の為に努力することは当たり前として。彗斗のような友達に出会うこともないということを想像したら、そんな生活、少し寂しい気もする。


「そんな悲しそうな顔しなくても、私は別に今までの生活が嫌だって思ったことはないのよ?」


 思っていたより分かりやすい表情をしていたのか沙良に指摘される。そこから沙良は得意げに自分のことを語った。


「確かに私は家から出たことないわ。だって家から出なくても屋敷内で全て完結するもの。まあ、だからあの自己紹介のときまで優依が同じ区画出身だって知らなかったけど。……だけど、兵士として戦場に出ることができなくても、私には兵士が戦うための武器を作るっていうある意味柱のような役割を持つ家に生まれることができた! 私が学んできたこと全てが第二十区画のためになるっていうなら、これ以上の幸福なんてないじゃない?」


 その語りに敵なのにも関わらず共感してしまった。決して自分が絶対役に立つなんて、そんな大層な人間ではないと分かっているけど。

 もし自分がしたこと全て第七区画の役に立てたと、そう思える出来事があったなら、今まで感じてきたことのないような幸福感に包まれるに違いない。


「だから初日のときは理事長や夢咲(ゆめさき)先輩、小豆沢先生の言ってることには耳を疑ったわよ」


「そうまで思ってるのになんで花見計画を実行しようなんて考えたのさ」


「……今は優依しか信用してないし、敵と仲良くなることにメリットなんてないと思ってるけど。でも、過去の卒業生たちは、それをしたから実力も申し分ない立派な兵士になることが出来た。だったら、一年生の今は功績を残した人達と同じことをした方が無難なんじゃないかなって」


 翠はそれを聞いて、思わずハッとした。

 沙良の言う通り、先輩達も一年生の頃から翠が小豆沢先生達に言われていることをやっている。黄甲に初めて会ったあの時、渚や陽向に注意をされたとき、銃声が聞こえても二人は冷静だった。例えそれが安全委員会のものだったとしてもだ


 『仲良くなる』それをすることでそんな強さを持つことが出来るなら、今、ずっとずっと、翠が感じているこの気持ちは、素直に従ってもいいものなのか。


 この気持ちは感じても問題ないし、その感情に従うことは何一つ自然なこと。沙良が言ったことは、翠にはそうとも捉えられることだった。


(だったら、別にいいのか。この感情に素直に従っても……)


 諒を加えた彗斗と三人で一緒にいて楽しいと感じることも、終盤、お話会が終わるときに來香、伊月と彼汰と、次々いなくなっていって寂しいと感じることも、心優に泣いて抱きつかれて自然委員会の皆に心配されて嬉しいと感じてしまったことも、全部全部、何一つ変なことじゃないんだ。


 結局、感じることに意味があるならこの感情に疑問を持つのは時間の無駄だ。将来立派な兵士になるっていう翠の夢に近づくことが出来るなら、学校にいる間は喜んでその感情に飲み込まれてくれよう。


「そうは言っても、本音は前も言った三組を巻き込んだことをやってみたいから花見計画を持ってきただけ。結構単純な理由よ」


「そっか、そっか……! ありがとう、沙良ちゃん!」


 翠はお礼を言うと沙良は「なんでお礼……?」と不思議そうに首を傾げた。


 その後一年一組の羽鳥 悠真に用があった功雅はその用事を終わらせて帰ってきて、二人のいる図書室の奥に遅れてやってきた。


 花見計画もラストスパートと言っていい。大体のことは決め終えているから。

 あと本当にどうにかしないといけないのは持ち物の件。皆で座れるレジャーシート。そんなに大きいものはないだろうから、小さいものでも二、三枚は持っていきたい。


「わざわざ花見するためにレジャーシート持ってくるやつなんていないからなぁ……」


「だったら來香に聞いてみるのはどう? 來香は整備委員会だし、学校案内のとき小豆沢先生が武器庫の中に倉庫もあるって言ってたわ」


 持ち物として花見計画に持っていきたい九人座れるレジャーシート。その確保に頭を悩ます功雅に沙良が思いついたように意見を言ってくれるが、


「うーん……來香に探してきてもらうだと……」


 來香だといつの間にか色々な人を巻き込みそうだ。そしてそのうち、誰かが言った「なんで來香はレジャーシートを探してるんだ?」という言葉に、翠、功雅、沙良の三人の内の誰か、もしくは全員に無邪気な顔をして理由を聞きにきそう、と翠の中では予想がついた。


 その不安を話すと同じくして「ああー……確かに」と二人重なって言葉が出される。


 そもそも三組を狙っての花見計画ではあるが、誰にもバレてはいけないものでもあるため、他の人に頼った時点で計画が感づかれる可能性がある。

 そうなったらせっかくここまで練りに練った花見計画が全部白紙になってしまう。だったら調達も全部自分達でやるしかなかった。


「自然委員会の見学のとき、集合場所の空き教室にブルーシートが置いてあったんだけど……あれをレジャーシート代わりってのは……」


 思い出しながら話す翠の言葉に二人は「うーん……」と唸らせながら、


「そのブルーシートって自然委員会が使うやつで……多分花壇とかをカバーするのに使うよな、あと植木鉢置くとか……」


「夜ご飯とお風呂を済ませてから行くわけだし、あんまり汚れた状態で帰らないようにしたいんだけど……」


 二人の言い分はなんとなく理解できる。要は自然委員会は花壇、畑、植物をメインで育てる委員会だから翠が言ったブルーシートは土などが付いてて汚いんじゃないか、ということだろう。翠もその可能性が頭によぎったから話すのを少し渋った。


 その後もあまりいい意見は出ず、昼休み終わりのチャイムが鳴り図書室の奥での会議は終了となった。


 だけど、沙良が言ってくれたことでモヤモヤが解消されたからか。翠が感じていた感情全て従っていいんだって気付いたから。

 功雅が合流したあとの会議は、初めての感情に疑問に思うことに囚われることなく純粋に楽しいと思えた。


 まだ最後、持ち物の件が片付いていないけど、二人がいてくれるなら最良な案を出すことができるだろうって、翠は信じている。

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