4-5話『花見計画チーム結成!』
「なんでこんなことに……」
「それは俺も聞きたいんだが……」
翠、そしてもう一人――勿堂 功雅の暗い声が響く。
二人の傍にいるのは表情が緩み、ウキウキ気分で今は周りが見えていない様子の沙良。こうして三人で一緒にいるのは偶然ではない。翠と功雅は沙良によって集められたのだ。
今は実技の授業で三組全員グラウンドで準備運動やストレッチを三人一組で行っている最中。
時間は沙良と翠で桜の大木を見に行ってから一日経過。つまり翌日。
話は昨日の出来事に遡る。
二人で桜の大木を見に行き、沙良から花見計画を手伝ってほしいと言われた翠はその場では断れず、どうしようか悩んだ結果強引に話を変えて即座に寮に戻るように誘導し、沙良に話をさせないように寮に戻ると翠はすぐに部屋にダッシュで入った。
部屋に入ってしまえば、寮のルールで異性を部屋に入れてはならないというものがあるため、沙良も流石に部屋にまで入ってくることはなく無事、花見計画の話を有耶無耶にした状態で話を切ることができた。
だがそれは間違っていたのかもしれない。どうしてあんな手段で逃げ出したのか、翠はひどく後悔した。
そして翌朝、食堂、教室で沙良とすれ違ったとき、会ったときは何も昨日の花見計画のことについて聞かれなかった。
翠は自分の口では『手伝わない』とは言っていなかったが、沙良はもしかしたら察してくれたのだと一人で安心したのも束の間。二時間目の実技の授業での最初の準備運動、ストレッチをやるために三人一組でやらなければいけないのだが、いつもだったら同室の彗斗と諒で行っているのを横からやってきた沙良によって翠は強引に連れていかれ、そこには功雅の姿もあった。
翠と功雅は二人して「え?」といった顔で見合わせ、そしてまたも二人して連れてきた沙良の顔を見たのだった。
話を聞くまでもないが、功雅も沙良に強引に手を引かれ連れていかれたのだとか。
翠はどうしてと聞こうとしたとき、美園先生の声が響いて各自準備運動を始めるように、と指示が聞こえた。のため、とりあえずグラウンドを走りに行く。
走っているときは話せないため、それが終わったあとのストレッチで翠は話を聞いた。
「ねえ、なんで今日は功雅くんと僕が集められたの?」
沙良が強引に翠と功雅をさらって三人一組を組んだのを見た美園先生は「今日はいつものメンバーじゃなくて別のやつと組め」と指示をする。結果、彼汰、彗斗、來香の三人。諒、伊月、優依の三人でのチームとなり、一瞬見えた彗斗のげんなりした顔を翠は見逃さなかった。
翠は地面に座り足を開いて手を伸ばしてストレッチをしている沙良の背中を押す。
「何ってそりゃあ……花見計画のことについてに決まってるじゃない!」
「え」
「花見?」
沙良の当然というように言われた言葉の内容に翠の体は時が止まったように硬直し、一人話についていけてない功雅は首を傾げる。
「実は昨日……」
と、何も知らない功雅に沙良から昨日の出来事の説明が入る。
沙良の背中を押しながら翠は昨日の自分のやり方について深く後悔した。
「……というわけ!」
「ええー……」
事情を聞いた功雅の表情は言わずもがなちょっと嫌そうな「ええ……?」と言った顔だ。何言ってんの、みたいな表情にも見える。
「まず日にちと、時間帯……皆で行くから放課後とかの方がいいかもしれないわね!」
(え、これもしかしてもう決定してる?)
沙良の表情は変わらず明るい。翠の心の声はおかまいなしに進んでいく内容に、翠は本当に後悔した。
こんなことなら昨日話された花見計画の話を有耶無耶にして逃げ出すのではなく、ちゃんと断っておけばよかったと。逆に話を有耶無耶にしたせいで自分はもう計画に賛同するほうに決められていた。
そうして今に戻るのだった。
二人抜きで花見計画の話を進める沙良に翠と功雅は互いに顔を見合わせる。
(本当にやるのかな……?)
(元々翠の地図が発端だろ……)
「二人とも聞いてる?」
沙良の言葉で二人の顔は沙良の方へ。もう翠は花見計画に参加するということはもう決まっているんだな、ともう諦めの境地に。
功雅の方も、二人は同じ総務委員会で一緒だから男子の中では沙良のことを一番理解してる。だから功雅も功雅の方でこれはもう止められないな、と理解しているのだと思う。そういう表情をしていた。
もう逃げれないと分かったら沙良と同じく、花見計画に参加するのみ。
「……それで、まず何を決めればいいの? 僕は総務委員会じゃないし、沙良ちゃんと功雅くんの方が分かるんでしょ?」
花見計画を実施して、その後色々な先生、先輩から怒られる覚悟を決めて翠は沙良の話に入る。
「ああ、でもその前に、今この時間で全部は決めれないから、どこかで集まって話し合おう」
「じゃあ今日の昼休みに図書室に集合ね」
三人全員ストレッチを終え、美園先生の元に集合するために立ち上がる。立ち上がった沙良は皆に聞こえないぐらいの声で、
「――花見計画チーム結成よ!」
と片手を空に突き出してそう宣言するのだった。
・・・・・・
昼休み、食堂で昼ご飯を食べ終えた翠は彗斗と諒に断りを入れて遠くで手招きしている沙良と功雅の元へ駆けだす。
「よし、じゃあ図書室にレッツゴー!」
沙良、翠、功雅の三人はいかに図書室までの道のりで自然体のように、秘密なんて抱えていませんよと思わせられる振る舞いを心掛けるかが勝負だった。
一番ばれたくないのは先生。最悪花見計画を白紙にされる可能性もある。
それを気を付けつつ図書室まで行き、三人は図書室の一番奥に。
図書室自体机に座って本を読む人がほとんどで、立ち読みをする人はいない。三人があからさまに机で花見計画を練っていたらばれるし、図書室では静かにと注意も受ける。
図書室では本を取りに来ることはあれど立ち読みする人はいない。だから逆に図書室の奥の方が誰も来なくて安心なのだ。
三人は図書室の奥で花見計画について話し合う。
「まずいつやるか、よね」
「とりあえずやる時間帯とかその他を決めれば、あとは皆の都合を合わせるだけだから他から考えようぜ」
さすが総務委員会所属の沙良と功雅。翠は何も発していないのに会話がそれっぽい感じになってきた。
「花見って言ったら明るい時間帯とかにやるイメージだけど……平日は僕達授業だからそんな暇ないよね。休日も……三組だけで移動するのも周りからどこか変って思われそう」
休日は大体の委員会はお休み。飼育委員会の飼育小屋の当番や図書委員会の図書室の当番、保健委員会の保健室当番などがある委員会を除いて。
上級生は分からないけど、休日は天候に問題がなければグラウンドや体育館を使用してもいいことになってるから伊月とか來香、二、三年生の先輩達が遊びに行くのを見るぐらい。
インドア派な生徒は自分の部屋や談話室で賑わっているイメージ。
「そうだよな……休日にわざわざ全員で図書室行かねえし、全員でグラウンドに行くわけでもないしな……」
「休日の明るい時間帯は逆に一目につきそうね。だったら夜の方がいいのかしら……」
夜は、翠の個人的にあまりオススメしたくない時間帯だ。何故なら渚や陽向、詠田先生の注意を思い出すから。
夜はそういう輩が活動しそうな時間帯だと思うし、そこで万が一のことがあったらと思うと。素直にそれを推せることはできない。
「夜桜っていう言葉もあるから、休日の夜に花見でもいいとは思うが……そうすると暗くなるまで待たないといけない。就寝時間の三十分前に寮は施錠されるからそれも考えなきゃな……」
盛り上がっていた沙良も功雅の話を聞いて表情に曇りが発生する。
逆に平日の夕方、という案も三人の中では出たのだが、そうすると全員の委員会が終わるまで待たないといけない。そうそう遅くなる委員会はないとは思うが、そうなると彼汰の所属する安全委員会が計画の足枷になってしまう。
安全委員会は門庭の見回りが担当だから他の委員会よりいつも終わるのが遅い。そうすると時間的に間に合わなくなり、食堂と入浴の時間も決められているから今度はそっちに間に合わなくなる。
お先真っ暗状態。まだ学校に通っていない状態の翠や二人なら余裕だ。桜木教育学校という箱庭の中のルールに縛られなくてすむから。
だけどここに通って、暮らしている以上ルールに従わないといけない。
そこをどうするか。まずそれを決めないといけなかった。
「だったら逆に……平日の夜とか、どう?」
いい案が浮かばなくて黙ってしまう二人から降り注いだ沙良の言葉。
沙良の言葉に二人は驚くしかない。平日は次の日も授業もあるし、皆あまり夜に出歩きたがらないのではないか。
「あまり目立たないで寮から出て桜の大木まで行くんだったら平日の夜の方がいいんじゃないかなって。夜ご飯とお風呂を済ませたあとって、皆基本的に部屋に戻るから談話室にほぼ人がいないでしょ? それなら誰かに見つからないで寮から出ることが出来るわ!」
その言葉に確かに、と二人は不覚にも思ってしまった。
「確かにそれなら目立たないで桜の大木まで行くことはできる。……聞いてなかったけど、沙良ちゃんの花見計画は皆で桜を見て終わりなの? それともそこで何かするの?」
「花見といったら、弁当とか持って桜を見ながら食べたりだよな」
「……お弁当までは考えてはなかったけど、お喋りぐらいはしたい……って思ってた」
翠の質問と功雅の言葉に、少し考えながら発する沙良の意見。
何かゲームとかしないのであれば、時間もあまり取らないでいける。短時間で、とはいかなくても大幅に時間を取らないでばれずに寮に帰ってこれるかもしれない。
「平日の夜にするなら、全員早めに夜ご飯とお風呂を終わらせれば……結構時間に余裕ができるな」
「とりあえず、平日の夜っていう案でそのあとを考える?」
功雅と翠の言葉は沙良に強く、そして深く響いた。
なんでこんなにも胸が高鳴って嬉しいのかは分からない。だけど沙良が始めた花見計画に二人が真剣な顔をして一緒に考えてくれていることが、沙良にとって嬉しいのかもしれない。
「――よし、一旦それで行きましょ!」
花見計画を提案した一人として。最初はただの思いつきと総務委員会の活動の企画立案・運営を好奇心でやってみたかった、なんていうわがままから始まったこの計画を絶対に成功させてやると。
沙良は強く誓ったのだった。




