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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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1-2話『他区画の人間』

 教室には九個の椅子と机があり、一つの教室に生徒は九人といったところか。翠と彗斗で最後だったらしく、二人に声をかけた担任の先生は全員揃ったことにより話をし始める。


「学校に入るときに紫雨さんから教室に担任がどうのって言われたと思うんだけど、僕が一年三組の担任、小豆沢(あずさわ) 拓真(たくま)と言います。皆よろしくね」


 生徒全員は先生の自己紹介に対して無反応だ。いや、どう反応するか、そもそもこの環境への緊張が解けないのだろう。翠もそうだ、彗斗がいるからまだ安心できる。他の人はどこの区画出身かは知らないが、皆の反応を見るにこのクラスでは翠と彗斗しか同じ出身はいないのかもしれない。


「……まあ、皆緊張してるよね」


 苦笑いを浮かべる小豆沢先生は、緊張している生徒皆に続けてこう言った。


「けど、この桜木教育学校においては他区画の人間とかは無しだ。このクラス所属になった皆は六年間共に過ごすクラスメイトであり、仲間。そういう認識をしてもらいたい」


 正直翠は小豆沢先生を言っていることを理解できなかった。自分と彗斗が住む第七区画こそ正義、他区画の人間は全員敵。自分たちは皆共通の敵なのに、どうして他区画の人間に対してクラスメイトだとか仲間だといえるのか。翠含め皆理解できないといった表情だった。


「そろそろ時間だな。これから校庭で入学式が行われるから皆行くぞ。入学式には僕以外の先生も現生徒の皆も、君たちと同じように今年入学する一組、二組の生徒たちもいるからな」


 先生に促され、九人の生徒は先生の後について歩き校庭へ移動を開始。


(この人たちが全員他区画出身なんだな。卒業すればいつか戦うかもしれない、その時に備えて僕はここで強くなる!)


 校庭に出ると自分たち以外の生徒はもう揃っていた。紺色の制服は上級生、四年生から六年生が着る制服だ。流石上級生といったところで、自分達より圧倒的に強いという気配のようなものを感じる。


 翠たちは端っこに案内される。隣にはさっき先生が言っていた一組と二組の生徒、自分たちと同じ今日からここに通う者たちだろう。


(敵はこんなにいる。いつか僕ら第七区画が全て倒せば……)


 そんな夢見がちな妄想はもう少し自分に何か特技があってからいうべきだ。今の自分は体力も何もない弱い人間だというのに。


(ここで俺らが学校の情報だけでも掴めばいつか兵士になったときに役立つはずだ)


 彗斗は彗斗で翠と似たようなことを考えている。いや、二人だけではなく、他の一年皆そう思っているはずだ。仲良しこよしするなんて信じられない、これはどれだけ己を鍛え、そしてどれだけ相手の情報を掴めるか。彗斗が言ったようにもう戦いは始まっているのだ。


「――あ、あー、マイクは大丈夫ですね。皆さん、おはようございます。これから第十八回、桜木教育学校の入学式を始めます」


 全生徒が並ぶ前に朝礼台が用意されていた。その上にはマイクスタンドが置いてあり、緑色の髪を三つ編みにして肩に垂らしている男性がマイクに向かって話し始めた。


「まず、私の名前は緑仙(りょくせん)と申します。桜木教育学校の校長を務めています、以後お見知りおきを。入学式の司会進行は私がさせて頂きます」


 そう言って緑仙は朝礼台から降り、下で新たにマイクを持ち司会進行を務めた。


「まず初めに、五年一組 総務委員会副委員長の夢咲(ゆめさき) 愛里(あいり)さんに歓迎の言葉をいただきます。夢咲さん、お願いします」


 その言葉に合わせて朝礼台の下で待機していたピンク色の髪を腰辺りまで伸ばしている女性が朝礼台に上りマイクの前で一つお辞儀をする。


「はい、ご紹介に預かりました、五年一組 総務委員会副委員長の夢咲 愛里でーす! 一年生の皆よろしくね!」


 一応正式な式だよね、といった風に一年生のほぼ全員が困惑を隠しきれなかった。だってとても明るい笑顔と高い声で話し始めたのだ、困惑もする。


「桜の花が咲き始め、暖かい日差しがーとかそんな堅苦しいことは言いません! 一年生の皆さん、入学おめでとうございます! 在校生一同皆が入学する日をとても楽しみにしていました。私たち生徒は一年生の皆と楽しく学校生活を過ごせたらなと思っています!」


 愛里はテンションを崩さずそのまま続ける。一年生以外の生徒は何も感じていないようだ。こんなに友好的に接してくるなんて、絶対に何か企んでいるに違いない。


「――ここでは敵とか味方とか関係なく、ただ楽しく過ごして、知識を学ぶ場所だと思っています。だからそんなに嫌悪せず、ぜひ仲良くしましょうね! あ、あと近い日委員会を決めると思うので、よければ総務委員会に興味があったら来てくださーい!」


 終わります、といって台から降りていった愛里の翠の第一印象は『変な人』だった。価値観が合わないというのか、それともこの学校に洗脳でもされているのか。敵とか関係なく仲良く、なんてできるわけがない。何度も言う、他区画は全員敵だ。


「夢咲さん、ありがとうございます。続きまして、理事長の貴野江(きのえ) 修司(しゅうじ)より皆様にご挨拶いたします。貴野江理事長、お願いします」


 緑仙の言葉で朝礼台に上がってきたのは、この中で一番のご老体だった。

 しわくちゃの顔、伸びっぱなしの白髪(しらが)、足腰が悪いのか杖をついている。そして、綺麗な白髪を後ろで纏めてアップスタイルにしているスタイルがいい女性に案内されながら上ってきていた。世話になりすぎじゃないのか、と翠は思った。それに護衛役なのか分からないけど、理事長と一緒に朝礼台に上がってただ後ろにいるだけの黒髪の男性。前髪は長くて表情はよく見えない。色々世話になりすぎて理事長は色々な人達から守られている存在に見えた。


 しかも朝礼台付近に立っている小豆沢先生や他の大人たち、皆あの人に敬意を向けている。理事長だからこの場所で一番地位が高いのかもしれないが、それにしたって皆あの人に尽くしすぎだと思う。


「はい、ご紹介に預かりました、桜木教育学校理事長の貴野江 修司です。一年生の皆さん、この度は入学おめでとう。この学校は一年生の皆、いやこの国中があまりよくないと思っているかもしれないね」


 理事長自身にその自覚があったことに翠は驚いていた。

 桜木教育学校建設秘話はおそらく全区画に知れ渡っている。桜木教育学校は他の区画と区別するために『第零区画』と呼ばれている。だけどそもそも第零区画という区画は存在しない、じゃあなぜそう呼ばれているのか。それは元々第零区画は第九区画の土地だったからだ。


 今から二十年前、翠や彗斗、六年生の人達すら生まれていない時代。まずどの区画にも『主力軍隊』という軍がある。これはその区画で一番の力を持つ大規模な軍隊。軍隊以外に小隊(しょうたい)というものもあるが、それらを束ねる一番偉い軍隊だ。


 当時、第九区画主力軍隊の一番偉い地位『大将(たいしょう)』の席についていた名字は貴野江だった。そして大将の息子二人もそれぞれ二番目に偉い地位『中将(ちゅうじょう)』三番目に偉い地位『少将(しょうしょう)』についていたらしい。


 そして貴野江 修司は中将の地位にいた。だけど反乱を起こし第九区画の土地を半分以上奪ったのち、そこにできたのが桜木教育学校だという。


 桜木教育学校は全区画から生徒として迎えている、敵同士なのに。だけどそれでもこの学校に通う選択ができるのは、それ相応の結果が存在してるから。桜木教育学校の卒業生はもれなく戦場や色んな場所で活躍している。その功績があるから、この学校は経営できている。


「銃の扱い方や体術、戦場の知識、それは一年生にとって大事だ。だけど一番に私がここで学んでもらいたいのは、人としてなくしてはいけないもの。ただそれだけだ」


 その言葉に一年生は皆困惑する。翠は思った、なくしてはいけないもの、それは絶対に勝利を勝ち取る志だと。全ては第七区画の勝利のために。きっと彗斗もそう思っているはずだ。


「この学校は私のわがままで続いているもの。だけど私が感じているものを君たち一年生にも知ってもらいたい。決して敵対することだけが正義ではないということ、一つの可能性として、君たちに知ってほしい」


 終わります、と言って理事長の言葉は終わった。理事長はゆったりとした喋り方を崩さず、終始優しい表情だった。逆に怖い、そう言って自分たちを戦えなくさせる作戦なんじゃないかって警戒してしまう。


 そのまま入学式は終了した。言っていることが翠が知っている常識と違いすぎて困惑を隠しきれない。

 戦う知識は教えてくれるくせに、敵対することだけが正義じゃないとか。言っていることが矛盾している気がする。教えてくれるならありがたく学ぶことに集中する。良くない噂だらけの学校だけど、ここの卒業生は皆優秀だと聞く。成果がちゃんとあるなら、身を委ねてもいいかもしれない。


 緑仙が一年生の担任を紹介、とか言っていた気がするが、翠はあまり聞いていなかった。


・・・・・・


 入学式が終わり翠達は自分達の教室に戻っていた。席に着いた翠達は担任の小豆沢先生の指示を待つ。


「皆、入学式お疲れ様。色んな先生や生徒がいるけど少しづつ慣れると思うから。さて、入学式が終わった後は学校案内があるんだけど……」


 そこで一句区切った小豆沢先生はごほんと一つ咳払いをして、


「これからクラスメイトとなる君たちに、自己紹介をしてもらいます。緊張する子や苦手な子もいると思うから、名前と出身区画だけ言ってほしい。他に言いたいことがあれば各自言っていいよ」


 初めて小豆沢先生の言葉で心底安心した。なぜなら翠は彗斗しか友達がおらず、加えてあまり積極的に行動する派ではないから。多分どちらかといえば人見知りする方なのかもしれない。


 翠は三列ある机の二列目の二番目の席。ちょうど九個ある机の中でど真ん中に位置する。

 後ろは見れないが、前、横の席の人達は余裕で見れる位置にいる。ちょうどいいからこれから同じクラスメイトという存在になる人達を見てみようと思う。


 翠の前には彗斗がいるが、彗斗はあまり緊張しないタイプ。器用で大体なんでも卒なくこなすことが出来る。

 翠の右斜め前にはプラチナブランドみたいな髪色で眼鏡をかけた男の子がいる。全部の表情が見えるわけじゃないが、あまり緊張していなさそう。さっきの入学式の移動中のとき横顔がとても整っていて、思わずかっこいいと思ってしまった。

 左斜め前にはくすんだ水色の髪を下に一つ結びしている女の子がいる。この子は打って変わって斜めからでも分かるくらい緊張している。俯いているし、若干握っている手が震えている気もする。多分すごく人見知りが激しい子なのかも。

 右横には紫の髪を長く腰まで伸ばしている男の子が座ってる。横顔がすごくきれいで美少年っていう感じがする。緊張はしていなさそう。


「よろしく!」


「!」


 右横にいる男の子をチラッと見ていたら、見ているのがばれてしまった。更には小声でよろしく、と笑顔で言われてしまい、翠は恥ずかしくなってすぐに正面を向いた。


(チラッと見てただけだったけどばれた……右横の子は視線を感づきやすいのかな、気を付けないと!)

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