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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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3-2話『情報収集と称した聞き込み』

 想いの否定に意気込む翠。自分にそう唱えながらまずは身近の人から教えてもらおうと考える。

 翠にとって一番近くにいる存在は彗斗と諒だ。手始めに二人から聞き出そう。あくまで、情報収集のために。


 そう思っていると部屋のドアが開く。ちょうどいいところに二人一緒に帰ってきたようだった。委員会がある日は彗斗と諒の二人で部屋に帰ってくることが多い。二人は学校の中での委員会だから終わって寮に帰るときにたまたま会うことがほとんどなのだと思う。


 翠が所属の自然委員会は基本外での活動だから彗斗や諒とばったり会うってことが少ない。そのまま寮に帰れちゃうのも理由の一つにある。


「おかえり、二人とも」


 二人は返事をしながら伸びをしたり机に向かったり色々している。まだ委員会に所属して数日しか立っていないため、結構授業とは別で委員会もちゃんと疲れてしまう。委員会体験でやったことは活動の一部でしかないから今頑張って活動内容を覚えて実践できるように皆努力中だ。


 翠は自分一人で花壇の世話をしており、その手の知識の本を図書館や本屋で買ったことがあってその知識は今の自然委員会ですごく発揮出来ている。数日の内に渚や自然委員会の皆にすごいって褒められたことだってある。あれは純粋に嬉しかった。


「ねえ、あのさ、二人は同じ委員会の一年はどういう子……なの?」


 二人に向かって控えめに声を掛けるとすぐに振り向いて顔を傾げる。二人の反応は彗斗だけすごくうーんと悩んでいる様子だ。あのツインテールの女の子とは翠が思っているより干渉し合っていないのかも。さっき見た光景もすごく淡々としていたし。


「うーんと……白崎(しろさき)はなぁ、なんて言ったらいいかな……」


「その子は白崎っていうの?」


「ああ、一年一組の白崎(しろさき) 美桜(みお)。あいつは……なんていうかサラッとしてるのにすごい男前っていうか」


 翠の質問に答えてくれて新たな情報が出てくる。白崎 美桜がさっき翠が空き教室Aで見たピンクのツインテールの女の子だろう。可愛らしい見た目なのに彗斗から男前という単語が出てきたことによって、その見た目はうわべだけではないということが分かった。


「僕のところは影澤(かげさわ) (れん)くんっていう彗斗が言ってた美桜ちゃんと同じ一年一組の子なんだ。――廉くんはね、すっごくネガティブなんだ」


 廉の容姿は緑がかった黒髪。諒から話しかけることもあるが廉がネガティブすぎて、廉と小陰が一緒にいるとその周りが淀んでいるように見えるらしい。あとそんなに自分のことを否定されると諒的にはすごく申し訳なくなるという。


「ネガティブっていうか、自分に自信がない子なのかなぁって思ってる。でも廉くん僕より背が高いから、僕じゃ届かない所にある本を取ってくれたり優しいところもあるんだ」


 翠はすぐ彗斗から出た情報と諒から出た情報を頭にインプット。諒が言ってた廉って子はそういう性格なら落ち着いていて静かな雰囲気のある図書委員会でよかったのかもしれない。夏希だけは少し要注意だ。現に翠は隣でオススメの小説をずーっと教えてくるということをされたことがあるから。その話題なら諒なら嬉しいのだろうが翠は無理だ。だって小説苦手だから。


「そっかぁ、二人のところはそういう子なんだね」


「なんでいきなりそんなこと聞くんだ?」


 突然聞かれた質問に彗斗は椅子の背もたれに体を預けて首を傾げながら翠に聞く。諒もそれに賛同するように「うんうん」と言いながら座っていた椅子を翠の近く移動した。


「えっとね、廊下でも談話室でもすれ違うことはあるけど知ってるのは同じ委員会の子だけだなって。今日の委員会で一年一組の、望月 叶奏っていうんだけどその子が一年二組の子と話してて、どこで接点を持ったのかなって思ったんだ」


 本当の気持ちは絶対に言えないと思って咄嗟に別の理由を作って二人に話す。だけどいきなり質問を返された翠の挙動不審さに二人は気付かなかった。

 意外に二人は「ああー」と納得したように頷く。そういえばと、隣にいる諒が言葉を呟く。


「僕達って委員会体験週間で他の組と当たってないよね。三組同士ではあったけど」


「そういや浦風とか夜見とかがその話をしてるの聞いたことある。一組、二組の奴らと委員会体験週間一緒になったとかって」


「あ、そうなんだ!」


 諒と彗斗の発言に翠も気付いた。翠達は火曜日に整備委員会で伊月、彼汰、功雅と一緒になって、最終日の金曜日に飼育委員会で優依、來香、沙良と一緒になった。確かに自分たちは一組、二組と一回も一緒にならなかったのだ。


 あの時は委員会体験週間っていうある意味イベントみたいなものでこの一週間で色々な委員会について実際に体験して色々学びたいって思っていたから、組み合わせは何も感じていなかった。


 ということは叶奏は一年二組の遥と一緒になっているから、意外に皆他の組と一緒に委員会体験をしたことがあるのだろうか。そうしたら翠が極端に他の組を知らなすぎるのにも納得できる。


 他の組の情報を聞くには、彗斗が言った伊月や沙良に聞いてみたほうがいいっていうこと。

 だとすれば今度は三組の誰かに聞こうと意気込む。妙にやる気を出している翠に諒と彗斗は疑問が浮かぶが、


「あ、もうこんな時間か。食堂がもう開く時間だ、そろそろ行くぞ!」


 食堂は行くのが遅ければ遅いほど席がなくなっていくため翠達はなるべく早めに行っている。

 そのため彗斗の言葉に三人は急いで部屋を飛び出した。



・・・・・・



 翌日、授業終わり、翠は教室掃除に励んでいた。今週は翠達が掃除当番なのだ。


 掃除当番は席の横列で一班となっていて、一番前の真ん中の席の彗斗は両隣の優依と諒が一緒の班。一番後ろの真ん中、翠の後ろの席の功雅は両隣の沙良と彼汰が一緒の班。肝心の翠は両隣の來香と伊月の班だったりする。


 伊月も來香も底抜けに明るいし結構隣にいる翠に絡んでくるけど、掃除の邪魔をするような絡みをしない二人。


 最初はこの班で大丈夫かなと思っていた翠だったが意外にちゃんと真面目にやる二人ですっごく驚いた。翠から見れば伊月は箒持って野球しようぜとか言い出しそうな気がする、と密かに思っていたし、來香もそれに乗って一緒に野球ごっこするんじゃないかと心配していた時期が翠にもあった。


 だけど結果的にはそんなことなく、心配していた以上に二人と気兼ねなく話せる仲になっていった。


「來香ー、こっち箒終わったから机運ぼうぜ」


「うん、分かった!」


「黒板もう少しで終わりそうだから、終わったら僕も手伝うね!」


 「分かったー!」という伊月と來香の元気いっぱいの返事にちょっとほっこり。


 基本三人で教室掃除をする。三人じゃ少ないって感じるかもしれないけど意外にそうでもない。

 一つの教室に生徒は九人しかいないから教室もそれに合わせてるのか学習校舎より広さは小さめ。


 学習校舎は一つの教室に二、三十の机と椅子があってそれなりに広かった。それと比べると桜木教育学校の教室は全部九人用だから自分達の教室以外の空き教室も広さはそんなにない。


 だから三人でもあまり教室掃除が苦痛とは思わない。今はこの場にいないが小豆沢先生も手伝ってくれるから。


 今日の教室掃除での翠の役割は黒板消し。大体代わりばんこでローテーションしている。だが黒板だけは翠か伊月が担当しているのだ。


 それはなぜか、來香の背が三組の中で一番小さいから黒板の上まで届かないから。


 だから黒板だけは翠と伊月の二人で代わりながら担当。


 黒板の方を終わらせた翠は二人と一緒に机運びを手伝う。と言ってもあと二つしかなかったが。


 それでも一個運び、それが終わったら三人で集めたゴミをちりとりで取ってゴミ箱へ。


 全ての掃除が終わったタイミングで小豆沢先生が用事から戻ってきて終わりの会を行った。


 「終わったー!」と來香が言いながら三人は教室を出る。


「ねえ、二人とも!」


 そのままどこかへ行こうとする伊月と來香を後ろにいた翠は大きめの声量で声をかける。


 二人は「ん?」と言いながら後ろを振り返る。

 実は二人の予定を翠は把握していなかった。一組、二組の子達を聞くための人選として次に翠が選んだのは同じ班の伊月と來香。


 学校に入学して数十日は立っている今、教室内はなんとなくグループ分けが出来上がっていた。


 全員が寮の同室メンバーと固まっていることが多い。休み時間、昼休み、食堂で一緒に食べるメンバー、翠なら彗斗と諒。伊月、彼汰、功雅の三人。優依、來香、沙良の三人。


 大体こんな感じで一緒にいるメンバーが固定されつつあるのだ。


 かと言って四六時中ずっと同じかと言われるとそうでもない。教科の授業中は隣で喋ることだってある。


 だけど休み時間は決まったメンバーで話すことが多いから、掃除の時間まで伊月と來香に話せなかった。


「今日って……委員会とか、ある? なかったら二人に聞きたいことがあるんだけど……」


 こんな放課後に聞くことになってしまったから口をつぐみながら、徐々に声が小さくなっていく。

 いきなり聞くはめになって困るのは二人だ。二人の都合を自分は何も考えていない。


 返事を聞くのが怖い。きっと断られてしまうけど、二人の目を見れなくて俯いてしまう。


「全然いいよ、今日俺委員会ないから!」


「私も今日は委員会休みだよ!」


 俯いていたら上から明るい二人の声。ちょうど二人は放課後委員会活動ない日だった。

 初めて彗斗じゃなくて他区画の人にホッとした。命の危険を感じたわけじゃなく、二人の都合を聞いて空いてるって言ってくれて安心してしまった。


「じゃあどこで話す? 部屋は……異性を入れちゃだめって栞に書いてたから談話室いこーぜ!」


「おー! 三人でお話会だー!」


 翠が入る隙なく決まっていったお話会、場所は談話室に決定。伊月と來香に手を引っ張られて談話室へ向かった。


 二人に手を握られて、なぜか嫌ではないと思ってしまった。諒と彗斗と初めて手を繋いだ自然委員会の体験のときと同じ。

 手を握られて、とても暖かかった。手を握ると、触れている手が暖かくなるのは当たり前だけど、感じたものはどこか違った。


 それにどうしてか二人に放課後の予定を聞くとき特に二人のことを考えてぼそぼそと話した。なぜかさっき予定を聞くだけなのに断られたらどうしようとか、二人の都合を何も考えてなかったとか、それに対する返答を聞くのが怖くて、二人に呆れられるように答えられたらどうしよう、とか。


 敵の都合なんて考えなくてもいいはずなのに。なのに必要以上に二人のことを考えて。


 自分はどうしてしまったんだろう。翠が思う以上に敵に絆されてしまっていることを身に染みて感じて、次からはそんなこと思わないように意識を切り替えようと意気込んだ。

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