2-8話『図書委員会』
委員会体験週間三日目。水曜日、図書委員会。
委員会体験週間も折り返し地点に着いた。今日は図書委員会、彗斗の希望する中の一つの委員会だ。
図書委員会だからやっぱり小豆沢先生が言っていた通り図書室の本の管理。それが仕事。あまり翠は監査委員会の次に気が乗らない委員会の一つだった。
それはなぜか。答えはすごく単純で、翠は小説を読むのが苦手だから。漫画は大好きだ、だけど小説となるとガクンと一気に気力が消える。小説はほぼ文字ばっかりでどこを読んでいるのか分からなくなるし、難しい漢字を使って文章やストーリーを語るものが多い。さすがの翠も読み書きや漢字の勉強の方が計算よりは得意だと言っても、それを読んでストーリーを理解する理解力はない。
だから漫画の方が好き。漫画は絵と文字で描いてあるから読みやすいし今主人公たちがどんな行動をしているのか、どんな表情で何を感じているのか分かりやすいから。
第七区画の本屋さんには数少ない漫画があってそれを買ってよく読んでいた。区画に尽くす大切さや、主人公の男性が兵士になり他区画を倒し第七区画に平和を訪れるように戦い続けるという話の漫画なんかもあったりした。
とにかく翠にとっては漫画の方が分かりやすいから漫画の方が好きだ。
「翠、顔沈んでるなー」
「まあ……漫画ならいいけど小説はなぁ」
一番の友達の彗斗からしたら翠の考えていること、思っていることは全てお見通しらしい。
図書室には勉強に役立つ本もたくさんあるとは思う。だけどやっぱり休憩というものは必要だ。翠にとってはその時間帯に参考書や小説を読みたくない。漫画を読みながらベットに寝そべっていたい。
ここまでみればだらしない人間に見えると思うがあくまでそれは休憩の時間だけだ。終われば立派な兵士になるための努力はかかさない。
だけども、やっぱりちょっと憂鬱だ。そんなことを思っていると三人は図書室の前に着いていた。図書委員会の集合場所は図書室。
図書室のドアを開き中に入ると、三人に気付き嬉しそうに待ってたよという雰囲気を醸し出している下級生の生徒が一人。数冊の本の抱え三人に気付き軽く会釈する上級生の生徒が一人。そして、翠達が図書室のドアを開けた瞬間その音に驚いたのか背の低い本棚にシュバっと隠れた上級生の生徒が一人。隣には隠れた生徒を半ば呆れた目で見る先生がいた。
「いらっしゃい! 君たちが来陰先輩が言ってた見学者やんな? 図書委員会にようこそ~!」
翠達に気付き嬉しそうな表情をした下級生の女の子が三人に近づき歓迎する。
「三人共もしかして緊張してるん? そんな身構えなくてもいいんよ、皆優しい先輩達やから!」
翠達は緊張してるからポカーンと口を開けて黙っているわけではない。歓迎してくれた女の子の喋り方に驚いているのだ。若干の訛りがあるというのか、一応知っている言葉を使ってくれているおかげでなんとか女の子が何を伝えようとしているのか分かる。
確かこういうのを『方言』と言うんだったか。だけど東の国の内部戦争が始まってからどの区画も戦力の強化、増員に力を入れ、この何十年という月日でその区画独特の言葉、方言は次第に消えていき標準語と呼ばれるものに統治されていったと昔彗斗と二人で呼んだ本に書いてあった気がする。
今でも方言と呼ばれているもので喋る人がいたのか三人は驚く。
「来陰先輩、もう三日目やで! いつまでも本棚の後ろに隠れてたら委員会活動できひんよ!」
「うう……ごめぇん。……えっと、図書委員会に、よ、ようこそ。私は五年三組、図書委員会副委員長の……結城 来陰、です。双子の弟が、いるから……私のことは、下の名前で呼んでほしい、です。よろしく……」
方言で喋る女の子に引っ張り出され、緊張しながらも最後まで言い切った深い青色の髪をミディアムにして、前髪は少し長めの女の子、なんとこの人は結城 陽向が言っていた双子の姉らしい。
一日目に行った自然委員会の陽向と比べて対照的な性格をしている来陰。陽向が明るい太陽だとしたら小陰は月のように静かな感じ。一年三組でいうと優依と似ているかも。
「四年二組の真宵 莉子です。よろしくお願いします」
来陰の隣にいた、さっき翠達と目があったとき軽く会釈してくれた人だ。
莉子は紫がかった黒髪を肩まで伸ばしている女の子。髪が少しガタガタで何も手入れされていないみたいな髪型だ。そして莉子は首元、両腕に包帯を巻いていた。授業中に怪我をしてしまったのかも。
「うちは三年二組の天音 夏希! 皆よろしくなー!」
二人は雰囲気的に図書に似合う感じがしたが、夏希はちょっと似つかないような。それこそ陽向と一緒に自然委員会に所属していそうだ。
夏希は橙色の髪を長く伸ばしハーフアップのお団子にしていた。
「それで……私の隣にいるのが……」
「一年二組担任、ここでは図書委員会の顧問の晴峯 玄弥。以後お見知りおきを」
来陰の隣にいた先生。白髪に理事長ほど歳はいっていないとは思うが、すごくおじいちゃんだ。
「……図書委員会の活動内容とか、今日やることを説明します……」
図書委員会の方の自己紹介が終わり翠達も自己紹介。
オドオドしながら来陰は翠達の前に立ち図書委員会についての説明が入る。
「活動内容は……こんな感じで……今日はこの図書室の本の整理を、やっていきます……」
ほぼ図書室に立ち入らない翠。翠と一緒にいるのでほぼ同じだがたまに本を見にいったり借りに行く彗斗。結構な頻度で色々な本を見たり借りに行く諒。それぞれ三者三様。
図書室の本の整理。別の本棚に置いてある本を元の場所に戻したり、並べられている本をあいうえお順に直したりと。
一人で本棚を見ている翠。一冊適当な本を取りぺらっと開いてみる。たくさん字が綴ってある小説だった。何ページかその小説をめくるが、何が面白いのかまったく分からない。
うなだれている翠の様子を見てた夏希が、
「なになに翠くん、もしかして小説あんまり好きじゃないん?」
「うう、まあ……はい」
「翠くんは漫画派なんやね。けど……」
そこで区切った夏希は翠の腕を掴み別の場所に置いてある本棚へと引っ張る。
「小説も読まないと頭よくならへんよ! 仕事しながらうちのオススメの小説教えてあげる!」
「いや頼んでない……ちょ、天音先輩引っ張らないでください!」
そのまま「ああ~……!」と声を零しながら別の本棚に引っ張られていく翠の姿を横で見ていた彗斗。
そんな彗斗はジャンルが違う本が別の本棚に置かれていたのを回収。今はその本の場所を探しているところだ。
「この本はどこに……あ」
「これはあっち」
本を持ったまま図書室内を彷徨っていた彗斗にひょこっと本棚の影から出てきた莉子が本棚の方向に指を差し、場所を教えてくれた。
「……あざっす」
彗斗が持っていた本は結構奥の方に置いてある本棚に普段はしまっていたようで、おそらく昼休みに図書室にきていて昼休み終わりのチャイムが鳴ったことで近くの本棚に置いて教室に帰ったのだろう。
電気もついているしカーテンも開いて光は多少入ってきているが、図書室の奥の方まで行くとなんだかまるでこの空間に一人になったよう。彗斗もたまに図書室に行くことがあるが、こんな奥まで本を探そうと行ったことはない。
図書室というと本屋が少し広くなったような感じを想像するが、桜木教育学校の図書室はまるで図書館だ。広さでいうと図書館に敵わないが、本棚の配置、本の多さ、空間の雰囲気がこれと合致する。
本を戻し終えた彗斗はまた別の場所に置かれているかもしれない本があるかもしれないと思い、本棚をよく見ながら戻る。
その途中、一人でいそいそと本を本棚にしまう小陰の姿が見えた。来陰が片づけていた本が銃や戦う時の立ち回りなど今一年生がとても見たいであろう本を抱えていた。
「あの、来陰先輩、ここの本棚は銃や戦術とかの本が置かれている場所なんですか?」
「……! う、うん。この本棚以外にも……置いているところもあるけど……」
彗斗が声をかけたことにより肩をビクッと震えた小陰。だけど図書館では静かに、というルールがあるからその叫び声を周りに発することなく、冷静に受け答えする。
「ここの図書室って部屋も広いし、本棚がたくさんあるから本もすごい多いですよね」
「……うん、一年に数回だけ、新しい本を入荷するから……今も図書室の本の数は増えてるよ」
見た限り全部の本棚は既に本でいっぱい。どこに入荷した本を置いているのか疑問ではある。
この図書室ジャンルが様々で銃、武術、戦術の勉強の参考書もあれば、小説だがコメディー寄りの物も感動系のもあったりする。
「い、色々なジャンルの本がたくさん置いてあるから……また借りてみてね」
彗斗は一回だけ図書室で本を借りたことがある。暇つぶし用のタイトルだけで選んだ適当な小説を一冊借りた。その時は確か莉子が受付にいた。普段からそんな注視して図書委員を見るわけでもないため、実質彗斗と図書委員達は初対面。
そう言って来陰は全部の本を戻し終え、いそいそと逃げるように離れていった。
来陰が見ていた本棚を見ているとそこにはこれから兵士として役立ちそうな本が色々置いてある。
何冊か手に取ってページをめくる。銃の種類やその使い手はそういう人が向いているかとか、昔本当にこの作戦を、と思われるものを実行したことがある区画の歴史だったり。
「あー、彗斗サボってるー」
「うるせーな、ちょっと見てただけだよ」
真剣に見ている彗斗の横から茶々を入れるようにやってきた諒。諒は彗斗の横にしゃがみ持っている数冊の本をジッと見る。
「なんだよ。諒はよく図書室に行ってるよな。ここら辺はもう見たのか?」
「ううん、まだ全部は。あ、この本とか結構オススメ」
諒は彗斗が見ている本棚とは別の本棚に手を伸ばし本を取りそれを彗斗に見せるように向ける。
「この本は主人公の男が他区画の住人を殺すことに悩む話なんだ」
「は? じゃあその本の主人公は区画の為に尽くしてないってことかよ」
「そう、全然理解できないよね。だけど主人公は悩んで殺したくないっていう想いから苦しみながらも結局は人を殺していく。追い込まれているからか、主人公がとった作戦が結構勉強になるんだよね~」
諒が見せてきた小説は実話なのか作り話なのか分からないが、何も理解ができない。この小説を読んだことがないから全部のストーリーを知っているわけではないけど。
他区画の住人を殺すことに何の躊躇いがあるのか、悩むことがあるのか。自分達以外の区画以外は敵だ。敵を殺すことに何をそんなに悩むのか、彗斗は何も理解ができなかった。
まあだけどせっかくの諒のオススメということらしいから覚えてたら借りてみることにする。その主人公がとった作戦の数々は彗斗も気になる。どういう作戦で敵を殲滅したのだろう。いつか兵士になったとき参考になるかもしれない。
隣にいる諒はまた別の場所から本を取ってきたのかそれもどういう内容の本なのかの説明をしている。もう彗斗はほとんど聞いていないが。
「それでここの部分が……って、彗斗聞い……痛っ!」
ここで彗斗が自分の話を聞いてないことに気付いた諒は顔を本から彗斗の方へ。
その瞬間、諒の顔が自分の方に向いたときデコピンの手の形をしていた彗斗は諒のおでこに向かって結構強めの一撃を入れる。
余程痛かったのか本を持ってる両手でおでこを押さえる諒。
本でおでこを当ててるように見えて少し面白いと思ったのは声に出さないでおこう。
「もう、いきなり何するの!」
「いや~、なんか油断してるなぁって思って」
ぷんすか怒りながら別の本棚に行ってしまった諒を見つめて、
(これで今俺が銃を持っていたら、あいつはもう死んでるんだよな……こんな簡単なことなのに)
あの本の主人公はどんな感性をしているんだ。
「き、今日は……お疲れ様でした。図書委員会に入りたいって思ってくれたら……私達は、嬉しいです」
「いつでも待ってるで~!」
仕事が全部終了し、来陰と夏希に見送られ、水曜日の委員会体験週間、図書委員会が終了した。
諒と彗斗の横にいる翠が、生気がなくなったみたいに顔が沈んでいる。あれからずっと夏希と一緒にいたのか。翠だけ謎に疲弊した委員会体験週間だった。




