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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
12/30

2-7話『整備委員会』

 委員会体験週間二日目。火曜日、整備委員会。

 火曜日は諒が行きたいと待ち望んでいた整備委員会。今日、学校案内で中を見せてもらえなかった武器庫の中に入れると思うとワクワクする。整備委員会の集合場所は正に武器庫なのだ。


 武器庫に続く渡り廊下を進み、三人は武器庫の前に。


 新しい環境はやっぱり緊張する。整備委員会委員長はどういう人なのだろう。整備委員の人達はどんな人なのか。緊張するとともに、新しい場所への期待とワクワク感。それが同時に体の中で駆け巡る。


 武器庫は小豆沢先生曰く厳重に施錠されているらしい。じゃあどうやって翠達は入ったらいいのだろう。

 三人共同じことを思ったのかお互い顔を見渡す。すると、


「ふわぁ……あ、君らが残りの見学者? 一年三組だよね?」


 重そうな武器庫の扉が開き、中から明るい茶髪の男性が現れる。恰好を見る限り紺色の制服を着ている、ということは上級生だ。もしかしたら整備委員会委員長かも。


「はい、僕達三人整備委員会を見学しに来ました」


 前に立った諒が上級生に返事をする。諒の顔はどことなくはしゃいでいる雰囲気がある。昨日の翠と同じように見学したかった委員会に来れての嬉しさも混じっているのだろう。諒は言葉ではなく態度でそれを思わせる癖がある。


「んじゃ、オレに着いてきてー」


 そう言ってその上級生は三人を武器庫の中に案内する。翠達に会ったときも、武器庫の中に入るときも、その上級生はあくびをしながら武器庫の前にいた翠達に声をかけ、着いてきてと言ったときも頭をかきながらその役目をこなしていた。ちょっと大丈夫なのかと思う三人だったが、とりあえず今は何も言わず中まで入った。


「ここが武器庫の中ね。オレは整備委員会委員長。名前は自己紹介のときにするから」


 案内された武器庫の中。そこは正に諒にとって憧れとでもいうのか。それくらい今の諒は目をキラキラ輝かせている。入ってすぐの場所にも形状からしてハンドガンが壁一面に飾ってある。これには翠と彗斗も同じくらい興奮を隠しきれない。


「……あ、翠に彗斗に諒じゃん! お前らも今日整備委員会だったんだな!」


 武器庫の入り口入ってすぐはちょっとした広間になっている。その奥で大きい声でぶんぶんとこちらに手を振る人物が一人。


「あ、伊月くん。彼汰くんと功雅くんも今日は一緒だったんだ」


 翠の左隣の席、伊月が「お前らもこっち来いよー」と今度は両手でぶんぶんと手を振っている。

 おそらくあそこは翠達と同じく三人で委員会を巡っているのかも。あそこの三人は寮の部屋も同室で実技の授業中もあそこで組むことが多いから。


「よーしお前ら、全員来たから委員会活動するぞー」


 茶髪の整備委員会委員長の声掛けで翠達三人、伊月達三人、そして整備委員会所属の二人が集まる。


「まずは自己紹介な。オレは六年二組、整備委員会委員長の狩谷(かりや) (さとる)。よろし……」


「はいはい! 僕は三年三組の陽高(ひだか) 真白(ましろ)でっす! よろしくお願いしまーす!」


 悟の自己紹介中の最後の言葉で見事に遮って我こそはと割り込みで自己紹介した者がいた。逆に最後まで待てなかったのかと思わざるを得ない。

 割り込んだ犯人は悟と同じく茶髪の男の子。だけど一本の編み込みが入っていて、顔立ちもどちらかと言えば女顔だ。


「真白、オレが最後まで言ってから自己紹介しろって。これ去年の委員会体験週間のときも言った気がすんだけど」


「まあまあ、それくらい僕が楽しみにしてた証拠ですよ!」


 もうこれが当たり前のやり取りなのか、ため息をつくがそこまで怒っていなさそうな悟と自分からやったのにわははと笑って話をする真白。この二人の絡みを隣でジッと見ているもう一人の生徒がいた。

 その視線に気づいた悟がその生徒に「ごめんごめん、自己紹介していいよ」と言い、


「二年一組の涼風(すずかぜ) 紫信(しのぶ)。よろしく」


 悟の言葉を受け取った水色の髪の少年が自己紹介する。この子は翠達が武器庫の中に入ってから今の今まで表情が変わっているところを目撃していない。彼汰と似たような性格をしているのか、ただ単にいつもそういう表情なのか。


「んでー、顧問に小豆沢先生がいんだけど……」


 悟が次の言葉を言おうとした瞬間、ドアがバンっと開き外から小豆沢先生が息を弾ませ、顔に疲れた、という言葉が全員見えているであろう状態で、


「ごめーん悟くん! 他の先生にちょっと呼び出されちゃってーー!」


 開始一番に整備委員会委員長に謝る小豆沢先生が入ってきた。


「別にいいですよ。小豆沢先生こそ大丈夫なんですか?」


「うん、もう用事は済んだから」


 二人の会話に一段落つき、昨日と同じように翠達も自己紹介。それが終わると悟は見学者である翠達に主な整備委員会の活動内容と今日実際に何をやるかの説明をする。


「……ま、活動内容の説明はこんな感じ。今日やんのはハンドガンの手入れと模擬武器作り。分かった?」


 翠達一同はい、と言ってここから整備委員会の体験スタートだ。


「さて……面倒臭いけどやるかぁ」


 スタートした矢先、委員長である悟のこの発言から作業を進める。


「んじゃ、まずハンドガン一人一つずつ、紫信か真白から受け取って」


 ハンドガンが入れてある箱を持って待機していた紫信と真白。翠達六人は二人から受け取り、悟からは手入れする為の道具を受け取った。


「そのハンドガンはある程度使ったものだから。まず、目に見える範囲でハンドガンに不調がないか確認。傷や汚れ、詰まり汚れ、部品が緩まってないか」


 悟の説明通りに全員手入れを開始する。翠が受け取ったハンドガンは目立った傷はなかった。だけど多少の汚れがあったためタオルで拭いておいた。すると功雅と彗斗が、


「狩谷先輩すいません、俺がもらったハンドガンって……ここに付いてるものは傷ですか?」


「あ、俺もちょっと見てほしいです」


「おっけ~、功雅はオレが見るから、彗斗の方は紫信が見てあげて」


 功雅には悟が、彗斗には紫信が。マンツーマンで教える。彗斗の方は問題なかったらしく、功雅の方は、悟が功雅が持ってるハンドガンを全員に見えるように持ち、


「この銃さ、ここの隙間に泥が詰まってるのが見えるでしょ? これを、このブラシで取り除く」


 悟が取り出したのは細く先端の周りにブラシが付いているもので、それを使って隙間に入った汚れを取り除く。


「で、次は銃身はこのブラシを使って中の汚れを掻き出す」


 悟はさっき隙間汚れで使ったようなブラシと似たものを銃口から入れて中をかき混ぜて汚れを取る。


「このオイルを付けてブラシで何回か擦るのを繰り返して汚れを浮かせて……それを布で拭き取って綺麗にする。最後に銃口内に油を引いて、完了」


 皆、手本の悟の真似をして初めての本格的なハンドガンの手入れを体験する。皆それぞれのハンドガンに汚れが溜まっていたようで、擦ったブラシはすすや汚れで黒くなっていた。


「分かんなかったらすぐにオレか真白、紫信に聞くこと」


 全員、整備委員の三人の指導の元、とりあえず一人一つ持っているハンドガンの手入れが完了した。


「……うん、全員おっけおっけ。手入れする銃によって多少やり方変わるけど、基本はこんな感じ」


 ハンドガンの手入れが終わり、次は模擬武器とやらを作る行程だろうか。と思った時、ふと諒が呟くように、


「このハンドガン……作りが若干違うような……」


 その呟きは皆聞こえていて、三組男子の彼汰以外は皆頭上にはてなマークが浮かび上がる。


「おー、よく気付いたね。学校の銃と区画の銃は若干作りが異なってんの。じゃないとオレらが発泡したのか侵入者が発泡したのか違いが分かんないでしょ?」


「狩谷先輩は、侵入者に対して銃を撃ったことがあるんですか?」


 諒は探るように悟に問いかける。この質問は聞いていいことなのか翠達には分からなかった。答えようによっては悟はもう人を殺してることになる。だけど遠くで見ている小豆沢先生が何も言ってこないということは、大丈夫なんだろうか。


「……撃ったことあるよ。だけど授業中や侵入者に対してはオレら上級生は実弾じゃなくて非殺傷弾で撃ってる」


 それは授業中などの誤射を防ぐためなんだろう。兵士学校だが、授業中の誤射が原因で死んだなんて笑われてしまう。


「そもそも下級生は銃や武器を授業以外で持つこと自体禁止されてるからね。上級生は自衛と下級生を守るっていう意味で持つことを許されてるけど」


 桜木教育学校自体よく思われていないことの方が多いため先生の数は少ない。だから少しだけ何かあったときの為の戦力という意味合いでも持つことを許可されてるんだろうか。


「まあ、実弾を持つことを許可されてるのは先生か安全委員会ぐらい……あ、安全委員も銃持つこと許可されてるから下級生でも持てるんだよ。オレらを守ることが活動みたいなもんだからね」


 そう言って整備委員の三人が立ち上がり奥の部屋に入っていく。数秒後、大きさ長さが程々ある木の柱が沢山入った箱を悟は一人で、真白と紫信は二人で抱えてこちらに持ってきた。


「じゃあ次は模擬武器作りー。まあ主に使ってるのが五、六年生だけなんだけど。消耗品だからね、これもオレら整備委員会が作ってる。今日はナイフを皆で作るよ」


「これを取りに行くのも大変でしたよねー。体験週間の為にここ一週間毎日、門庭にある山に出向いては大量の木材を取って運んでを繰り返して……紫信はどうだった? 初めてやったでしょ」


「去年は僕も一年生だったからただ用意されたもので作ってただけでしたけど……今年は先輩達がこんな大変な思いしながら準備してたんだって思い知りました」


 真白と紫信の表情を見る限り相当キツかったらしい。そういえば委員会体験週間の知らせを受けた放課後に勧誘を受けたが、そこに整備委員会はいなかった気もする。


「じゃあそれぞれ木材持ってー。これ削る用のナイフね、最初に手本見せるからオレらを真似してやってみて。ナイフの扱い方は気を付けてね」


 悟の手本を見て、翠達も作業に取り組む。ちゃんと整備委員監視の元で。


「みっどりー! 俺と一緒にやろー!」


「うえ!? ちょっ、伊月くん引っ張んないでー!」


「あはは、分かんなかったら僕が教えるよー! なんでも聞いてね!」


 翠は伊月に強制連行され、二人きりに。そこに真白が教え役として加わり三人でナイフ作りをすることに。


「やっぱり鬼塚って自己紹介の時言ってたからまさかとは思ったけど」


「はい、俺は第十二区画出身です」


「初めて名前聞いたときは皆彼汰くんの方見てたよね」


 別の場所では別のグループが。そこは悟、彼汰、諒。最初は彼汰の鬼塚という名字から、今は諒の専門分野の銃の話で盛り上がっている。


「コツ掴めば意外といけるな」


「え、彗斗すごいな……」


「ふふ、功雅くんはへたっぴだ」


 別の場所では彗斗、功雅、紫信が。

 紫信は功雅が作ったガタガタの木製ナイフを見て、感情を表さず口角を上げて笑うようにばかにする。


「こらこら、紫信。功雅は初めてなんだからそんなこと言わない!」


 様子を見ていた小豆沢先生も、彗斗達の方へ。


 そして翠達全員一個。模擬武器の木製ナイフを作ることが出来た。


「今日はお疲れ。諒以外は皆結構疲れたんじゃない? けどこれから皆銃に触っていくことになるから、こういう行程を知っておいてよかったのかもね」


 整備委員会委員長、狩谷 悟の言葉で火曜日の委員会体験週間、整備委員会を終了した。


 ここの委員会は本当にこれから兵士になる翠達が知っておいて損じゃない知識を沢山聞くことができた。

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