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にがあまメモリーズ  作者: 空犬
『陽春の章』
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2-6話『初めての友達』

 畑仕事もさっきやっていた花壇の仕事と大体やることは同じだった。

 余計な雑草抜いて、最後は水やり。ここの畑は一つしかないのに対し面積が大きい。


「この野菜はいつか収穫するんですか?」


「うん、五月くらいに予定してるよ」


 翠の横で一緒に作業していた渚に聞く。この量の作物を自然委員会メンバーだけで食べると思うと全部食べ切れるのか不安になるが、採れたての野菜をすぐに食べれるのは最も新鮮な状態で食することができる、それはそれでいいなと思う翠だった。


「収穫の話してたらお腹空いてきたなぁ。渚先輩、今年は春野菜使って何作るんですかー?」


「うーん、まだ決めてないけど、陽向から何か要望があるなら聞くよ?」


 渚とは遠くの方で作業していた陽向が大きな声で尋ねる。会話の内容からして渚がこの野菜たちを使って料理をするのだろうか。


「伊集院先輩の作る料理はどれもおいしいんだよ!」


「そうだぞー! 渚先輩は六年生の中で一番料理上手だから、どれもおいしいんだ!」


 既に渚の料理の虜になっている心優と陽向はほっぺを片手で触れながら自慢げに語る。対照的に渚は二人に言われ「ありがとう」と言ってとても謙虚な姿勢だった。


「そういえば、三人はどこの委員会に入るか決まってるの? ふふっ、自然委員会に入ってくれる子はいるのかな?」


 翠、彗斗、諒に向かって顔を傾かせて微笑みながら質問する渚に、隣にいた翠はあまりの顔の良さに少しドキッとした。一番近くにいる分破壊力が高い。この人もイケメンだ。


「あ、あの! 僕、自然委員会に入りたいって思ってて!」


 ちょっと勇気を出して、自然委員会メンバー全員に聞こえる声で言ってみる。その返答に渚は嬉しそうににっこり笑い、心優はぱあっと嬉しそうな表情をしながら俯いていた顔を起こし、陽向は「よっしゃー! メンバーゲットだぜ!」とニカッと笑い、片手を空へ向けて上げガッツポーズなるものを作っていた。


「おりゃー!」


「へ!? ゆう……陽向先輩!?」


 嬉しさが限界突破したのか陽向は翠のいる場所まで足早に向かい、軍手を外しそのまま持ち上げた。


「ちょっ、陽向先輩降ろしてください~!」


 陽向は全然聞かずそのまま翠を持ち上げながらくるくる回りだす。陽向は終始ずっと笑顔で、嬉しそうに二人でぐるぐる回っていた。翠自身は恥ずかしかったが、周りで見てる皆が笑っていたから、自然と自分も笑っていた。


 その数秒後、見ていた渚が「陽向、そろそろ翠くんを降ろしてあげて?」と言ってくれたことにより、翠は陽向による抱っこから解放されたのだった。

 少々目が回るが、まだ作業は終わってないため気持ちを切り替えて作業に勤しむ。


「大丈夫? 翠くん」


「はい。少しびっくりしましたけど……」


「一日目で翠くんがここに入りたいって言ってくれたからもあると思うけど……陽向的には、純粋に自然委員会に入りたいって言ってくれたのが余計に嬉しかったんじゃないかな」


「そうなんですか?」


「自然委員会は一年生が入りたいランキングでは下の方だからねぇ。結構自然委員会は監査委員会と同じく、入りたかった委員会に入れなかった子が入る委員会みたいな感じで、消去法みたいな選ばれ方されちゃうんだ」


 それと付け足しで「心優もそんな感じで入ってきたんだよ、今はここでよかったって言ってくれてるけどね」と渚から語られた。色々聞くと、渚と陽向は翠と同じく自然委員会が第一で入ってきて、心優は元々総務委員会に入りたかったとか。色々な事情が巡ってるんだな、と感じた翠だった。


 ここで渚は持ち場をチェンジし、なぜか代わりに諒が翠の隣に。


 と言っても諒も何も話さず作業に集中していたから翠も集中する。もうそろそろ、水やりをしてもいいんじゃないかなと思い始めてきたとき、


「ねえ、翠」


 不意に名前を呼ばれた。返事しながら諒の方を見るが、諒自身は畑から目を離さずに黙々と作業をしていた。だから独り言かと思って自分も作業に戻ろうとすると、


「さっき手繋いでくれて嬉しかったよ」


「え……いや、あれは」


「お礼言いたいな~って思ってたけど、翠ずっと伊集院先輩と一緒にいるから」


 だから渚が自分から離れたタイミングでこっちに移動してきたのか。翠自身なんでそうしようって思ったのかと聞かれたら、すぐに答えは出せない。なんでなのか分からないけど、こうしてあげたいと思ってしまったから。


「あはは、変だよね。翠は住む区画が違うのに」


「まあ、そうだね。僕も彗斗ならまだしも、諒くんに対してそう思っちゃったし……」


 その時、諒もこっちを見た。謎に見つめ合って、それでお互いぷっ、と吹き出した。


「翠は僕の話を聞いて、手を繋いでくれたんだよね?」


「うん、なんか傍にいてあげたいな~って謎にそう思っちゃったんだ」


「なんか手を繋ぐって友達同士みたいで嬉しかったよ」


 ――友達。翠と彗斗は友達。じゃあ翠と諒は、友達?


 翠と諒はただのクラスメイト、同室、住む区画が違う人間、そして――敵。

 だけど、諒と彗斗と三人でいる時間は翠にとってそこまで悪くなかった。クラスメイトであり同室でもある二人。三人で一緒にいる時間が多いからか初日のような警戒、敵視は少なくなった気がする。かと言って諒は住む区画が違うのだから敵であることには変わりはない。


 だけど――、


「じゃあ、学校にいるときは僕達友達になろう!」


「……ぷっ、あはは!」


 諒は翠の言葉に吹き出して笑った。自分でも少し変な言い方になってしまったのは理解している。諒と翠は敵同士、だって住む区画が違うから。だけどこの学校にいるときぐらいは、彗斗みたいな存在というものを作ってもいいんじゃないかと思ったのだ。


「もう、笑わないでよ! 言っとくけど諒くんと僕は敵同士だからね! 忘れないでよ!」


「分かってるよ~」


「ちゃんと分かってるのー? 学校卒業したら僕もっと強くなってるから。諒くんなんか一捻りで殺せちゃうんだからね!」


「それはどうかな? 僕は武器製造の家の息子だからね。稲浪家が作る武器で翠をさくっと簡単に殺しちゃうよ?」


 笑いながら、少し怒りながら、二人は話していた。こうやって協力し合って、大人になったら成長して、お互いが驚くような人間になりたい、そう思った。


 そのままお互い話しながら畑作業を行い、時間が立ち水やりをやって、月曜日の自然委員会の体験が終了した。


「今日は皆お疲れ様。次の委員会でも頑張ってね。翠くんは考えが変わらなければ是非自然委員会に来てね、僕達皆待ってるよ」


 自然委員会委員長、伊集院 渚の言葉を聞き、月曜日の委員会体験週間は終了。

 空は橙に染まり夕方になっていた。自然委員会の三人は後片付けがあるからと、翠達とはそこで別れた。三人は外で作業していたからすぐに手洗いをして部屋に戻った。

 諒はお花摘みに行ってくるなんて言っていて、もう一回花壇に行くのかなと思いつつ翠は気を付けてね、とだけ言って彗斗と先に部屋に行った。


 部屋に戻った二人は夜ご飯までまったりと部屋で過ごすことに。彗斗はベットに、翠は椅子に。


「委員会体験のときは話せなかったけどさ、俺らがこうやって話すようになったのも花壇で、だよな」


「ん、そうだね」


 てっきりベットにすぐ上ったから仮眠でも取っているのかと思っていたが違うようだ。

 翠と彗斗が友達になったのは学習校舎に設置されていた花壇で、二人は話すようになった。懐かしいな、と思いながら翠は過去を振り返った。



・・・・・・



 翠は昔からずっと一人でいることが多かった。それはハブられたわけでもいじめられたからでもなくて、単純に友達を作ってこなかったから。翠は普通の人と違って体力もないし、色々な話ができるわけじゃない。他の皆は自然と近所の子同士で遊んだりしてて、翠とその子達の差を勝手に感じて自分から友達を作らなかった。


 自分が友達になっても、皆がやりたい遊びについていける体力がないかもしれない。あんなふうに楽しい話をして周りが笑顔になる、そんなことができる自信がなかったから。


 翠は怖かった。自分がその輪に入ることによって皆が不機嫌になるのを。


 自分はできないことの方が多いから、それで皆を呆れさせちゃうかもしれないから。だから友達を作らないで一人でいた。


 翠が七歳になる頃、この頃から学習校舎に通い始めた。

 色々な子達が集うこの場所では優しい子もいれば明るい子、面白い子、色々な子がいて翠も何回か一緒に喋った記憶がある。だけどいい子達ばかり集まるわけじゃなくて当然悪い子も一緒の教室で勉強するときもあった。


 やっぱりそういうことをする子にはひ弱な翠は絶好のターゲットらしい。


 学習校舎に通い始めてから、翠は悪い子に目をつけられることが多くなりいじめられることが増えた。と言っても頻度は少なかった。そのいじめっ子達とは家の場所も遠いし、毎回必ず学習校舎で会うわけでもなかったから。


 だけどその子達は学習校舎で翠と会うと必ずいじめてくるのだ。


 いじめられていた翠だけどその問題を解決せず放置していた。いつもいじめられるっていうわけじゃないから。


 翠が十歳の時のことだ。その日は学習校舎にていじめっ子達も翠と同じ日に通っていた。

 その日はいじめっ子のリーダーの人に人気のない空き地に呼び出された。この日のいじめっ子のリーダーはなんだが酷くむしゃくしゃしていたようだった。いつもなら物を取られるとか悪口を言われるばっかりだったのがこの日は手を上げられることが多くて、さすがの翠も暴力は体も痛くなるし、少し参っていた。


 翠はいじめられて一度も反抗したことがない。なぜなら勝てないから。

 だからいつも受け身で、その日もいじめっ子達が満足して帰ってくれるのを待とうって思っていた。その日がいつもと違ったのは空き地に入口付近に人影が立っていたことだった。


「あ? お前何見てんの?」


 いじめっ子のリーダーが不機嫌そうに自分達をずっと見ていた人影にそう吠えた。この日のいじめっ子のリーダーはずっとイラついていて、場合によればその人影も一緒にいじめてやる、みたいな雰囲気を漂わせていた。


 翠はそのいじめっ子のリーダーの言葉でその人影に気付いた。その人影こそ、彗斗だったのだ。

 彗斗は翠達を見たあと、ずんずんとこっちに近づき、


「――お前ら何? こういういかにも弱そうなちんちくりんいじめて楽しい? お前らとこいつの差が開きすぎてこんな弱そうなやつにイキってるお前らの程度に呆れる。こんな状況なのに誰にも助けを求めないで耐えてるこのちんちくりんの方がお前らより度胸あるしよっぽど強いわ」


 彗斗が発したその言葉はいじめっ子のリーダーによく効いたようで、すぐにターゲットは翠から彗斗に移っていた。翠は何もなかったかのようにいじめっ子達は彗斗に切り替え、胸ぐらを掴んで押し倒し、暴力の限りをつくしていた。


 その時翠は倒れている彗斗と目が合い、その目は『今の内に逃げろ』と言っているように聞こえて、足早にその場を去った。


 金河 彗斗。翠達の歳の子達はほとんど彼を知らないものはいない。彼は悪い噂で有名だった。

 誰彼構わず悪態つくとか、態度が悪い、素行が悪い等々悪い噂が立っていたことで有名になっていた彗斗だった。


 初めて助けてもらったあの日から翠は彗斗の認識を少し改めたのだ。言ってくれた言葉は言い方は悪いし自分のこと弱いやつとかちんちくりんとか色々言われたけど。そんな悪い噂で埋め尽くされるような人ではないんだろうなって。


 数日後、翠はいつもやっている花壇の世話をしていた。学習校舎の見栄えのために設置してあるのか、世話する人がいないただあるだけの花壇の世話。


(皆きれいに育っていってるな)


 じょうろを持って満足そうに花壇の花たちを見つめる。先生達はただ種を植えて放置。世話が不必要な花もあるって聞いたことあるけど今植えられているのはそうじゃない。ちゃんと育てないとすぐ枯れてしまう。


「あ……この前の……って、怪我してるじゃん!」


「それはお前もだろ」


 彗斗が偶々翠のいる花壇にやってきた。目があって最初は少し気まずいなって思ってしまったけど、彗斗の顔、腕、足に貼られているたくさんの絆創膏を見てその気持ちはすぐに心配に変わった。


「お前は、俺の見て何とも思わないのかよ」


 心配で駆け寄る翠に慣れていないのか彗斗は怪訝そうに、不思議そうに尋ねた。彗斗の目は少しの怯えが入っていた。悪い噂のせいであまり人と関わることがないからこそなのか。翠はただ彗斗のたくさんの怪我を見て心配になっただけだ。


「まあ、ヒーローみたいに颯爽と助けてくれるのかなって思ったら、すごい言われようで多少びっくりはしたけど……」


 これは素直な感想だ。思ったことを言っただけ。だけどそれでも自分を助けてくれたことに変わりはないから。


「……それは俺も、意図して言ったけど」


「でも、助けてくれてありがとうね」


 そう言ったら彗斗のしかめっ面な顔がぱっと嬉しそうな表情に変わった。そこから翠と彗斗は段々と喋るようになって、一緒に遊ぶことが増えて、次第に友達と思える関係になったのだ。



・・・・・・



 彗斗は勘違いされやすい。だけどそれが彗斗の優しさで、器用な癖に人間関係というか、そういうことには途端に不器用になってしまう彗斗を翠は唯一それを理解して知った上で今もずっと一緒にいる。


(僕は彗斗の不器用な優しさに助けてもらったからなぁ)


 友達として彗斗の良い部分を知ってほしいという気持ちもあれば、余計なことはしない方がいいかなって思ってしまう二つのことでせめぎ合っている。


 だけど皆知らなくても自分が知っているからいっかと思って納得する翠だった。

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