2-5話『自然委員会』
月曜日、委員会体験週間当日。
翠達は授業終わりの放課後、それぞれ見学する委員会の元に向かう。自然委員会の集合場所は空き教室B、翠は初日紫雨からもらった学校の地図を確認し教室の場所を確認する。
翠、彗斗、諒の三人は空き教室Bの前まで着き、緊張しながらドアをノックし教室に入った。
「君達が見学者の一年三組の子たち? いらっしゃい、ようこそ自然委員会へ!」
ドアを開けると三人の生徒と一人の先生が翠達を待っていたかのように手厚く歓迎する。
この教室は机を横に並べてその上に沢山の鉢を乗せていたり、隅には元々引いていたのであろうブルーシートが四角く畳まれて置いてあった。
「今日は一年三組から三人だから、これで全員だね。じゃあこっちから自己紹介」
そう言って教室に入った翠達に声を掛けた、青髪を長く伸ばし所々ピンクのメッシュが入ったハーフアップにしている上級生が他の二人の生徒達を手招きし翠達の前へやってくる。
「僕は六年三組、自然委員会委員長の伊集院 渚。髪は長いけど男だよ。よろしくね」
青い長髪を靡かせて、自然委員会委員長の伊集院 渚は三人に自己紹介する。見た目はまるで伊月のような感じ。落ち着いていて大人びた雰囲気を持つ人だと思った。
「俺は五年三組、自然委員会副委員長の結城 陽向。俺には双子の姉がいるから名前を呼ぶときは下の名前で呼んでくれ。よろしくな!」
橙色の髪が特徴的で、髪色と同じくらい明るい雰囲気を漂わせる人。自己紹介の最後のニカッと笑った顔はなんだか後ろからスポットライトのようなもので照らされているような気がした。
「三年一組、自然委員会所属の星奈 心優です! よろしくお願いします!」
ベージュ色の髪を上に一つに縛っている女の子。少し緊張していたのか、自己紹介のとき終始声が裏返っているときがあった。
「心優、自然委員会の見学なんだから自然委員会所属って言わなくてもよかったんだよ?」
「あ……すみません! 伊集院先輩!」
ふふっと笑いながら話す渚に向かってぶんぶんと頭を下げる心優に「まあ、自己紹介は緊張するもんな!」と若干のフォローを入れる陽向。少しほっこりする場面になっていた。
「で、僕達の隣にいるのが自然委員会の顧問だよ」
「一年一組担任で顧問の詠田 琴梨です。皆よろしくね」
詠田先生は桃色の髪を上に一つに縛った髪型をしている。
さすが先生と言ったところか。先ほどの心優と比べて自己紹介がスマートだった。最後に顔を緩ませ微笑んだのもポイントが高い。少し小豆沢先生と似たような雰囲気を感じる先生だった。
「じゃあ次は君たちも自己紹介をお願いするよ」
渚に促され、入学式の日と同じように三人は自己紹介を行った。今回は名前だけだった、プリントのおかげで翠達が一年三組の生徒というのは分かっているから。
「活動する前に、ざっと仕事内容と今日やることを説明するね」
委員長直々に翠達と委員会メンバーの前に立ち、簡単な説明を受けた。その間渚以外の全員は床に座り、説明を聞いていた。
説明は委員会体験週間の説明をしてくれた小豆沢先生が言っていたことがほとんどだった。花壇の世話とか、植物の世話、そして畑の管理などだ。
「あの、その畑っていつからあるんですか?」
昔の自然委員会委員長が作ったらしい畑。それについて疑問に思った彗斗が渚に質問する。
「これは僕が入学したときにはもう作られてたものなんだ。その時の自然委員会委員長が当時の委員長に言って作ってもらったものなんだって」
だから年数で言ったら六、七年前の出来事だ。そんな前から今の今まで畑を取り壊さないでずっと使っていたものなんだろう。
「じゃあさっそく活動開始だ! 皆、僕に着いてきて、外に出るよ~」
渚の呼びかけに全員で校舎を出る。学校の正面の壁にも花壇が設置されているなと思っていたが、学校の裏側、横、色々な場所にも花壇はあった。
今はまだ蕾が開いていないものがほとんど。だけど花壇に植えているものはどれも枯れていない。それぐらいお世話されていてこの子達はこれから元気に育っていくのだろう。
「じゃあまずは花壇の世話から」
陽向と心優から軍手とビニール袋をもらう。最初にやるのは花壇に生えた雑草の草むしり。
列のように並んでいる花壇にそれぞれ均等に位置につき、軍手を装着したらスタートだ。
「えっと、これとこれ……あ、これは抜かない方がいいやつで……」
「おー、翠くん手際いいね」
夢中で花壇の土とにらみ合いっこしているとき自分の持ち場の花壇とは反対だったはずの渚が翠の隣で一緒にしゃがんでいた。
「えへへ……そうですかね」
「翠はよく学習校舎の花壇の世話してたもんな」
そう、彗斗の言う通り、翠はよく学習校舎の花壇の世話をよくしていた。あれはただ植えられていただけで誰も世話する人はいなかった。翠は一人でいることが多かったため、時間潰しも兼ねて自分で世話をいていた経験がある。それが今活きているというわけだ。
「……ねえ、その、学習校舎って何?」
その一言で諒以外の全員がえ、と思わせる表情になった。全員のその表情を見て諒はわたわたと慌てている。何故翠達はこんなにも驚いたのかというと、諒除く全員にとっては知らない人なんていないって思う程その建物は身近にあり、一度は絶対に話されることだからだ。
「諒くん学習校舎知らないの!?」
「お前通ってないのにそんなに頭いいのか!?」
二度目の翠と彗斗による詰め寄り。諒はそんなに、とハテナを思い浮かべている。これには自然委員会のメンバーも目を丸くしていた。
『学習校舎』は全区画に絶対に設置されてある建物で、学校みたいな役割を持っているもの。
区画には桜木教育学校みたいな学校はないため、皆その学習校舎に通って勉強する。軍の教育機関はあくまで兵士としての知識を学ぶ場所だから、読み書きや計算などは教えてくれない。
学習校舎は読み書きや簡単な計算など、最低限の知識を教えてくれる。これらを無料で学べるが、保護者からお金を取っていないので一方では通う強制がなかったりする。だから好きなときに通って、好きな時間に帰る、そんなことは日常だ。義務や強制がないため、面倒くさがってそもそも通わない子もいたりする。だから頭の良さは偏りが激しい。
「っていう場所なんだけど……」
翠の説明になるほど、と頷く諒。その反応で本当に知らないんだと分かる。じゃあ諒はどこで読み書きや計算を習っていたのだろう。
「……僕、家から出たことないから知らなかったよ」
「家から出たことないの?」
「うん、だって侍女や執事がそういうことを教えてくれるし、家の中でずっと武器のこととか、稲浪家の当主になるための勉強してたから」
翠は諒が答えてくれたその言葉に一般人と武器製造の家の人間の違いを感じた。
翠も学習校舎に通って勉強をしていた。だけどそれは諒と比べれば、自分はあまりやってこなかった方になるのだろう。翠は思った、だから諒は大人びてみえるのかなって。多分遊ぶってことを諒はやったことなくて、ただ必要な知識だけを脳内に詰め込まれているから。
(あ……だから、なんだか楽しそうだったのかな)
翠がもう一つ思ったこと。それは大人びてみえる反面、どこかこの環境を楽しんでいるような気がすること。
寂しかったのかな、と翠は思ってしまった。翠も彗斗と友達になるまでは一人でいることが多くて、それでいていじめのターゲットになることが多かった。
一人でいることは楽だと思う。誰にも気にかけなくていいし、自分の自由で動けるから。けどやっぱり友達っていう存在は大事だと思った。彗斗といるようになってからそれがよく分かるようになった気がする。
「よし、皆大体終わったみたいだね」
渚は全員の進捗状況を見てそう判断する。最後にじょうろで花壇の水やりを終えて、雑草などが入っているビニール袋を回収した。
「よーし、次は畑に行くよ」
渚が手招きしその後をついていく。
諒も立ち上がり、後ろをついていこうとする。翠はなぜかは分からないけど、傍にいたいと思った。
だから、無意識で諒の手と彗斗の手、両方の手を握って渚の後をついていった。
「え、翠……?」
「翠? どうしたんだよ?」
案の定二人はとても驚いている。翠も理由は分からない。だけど諒の話を聞いて、こうしたほうがいいって思ってしまったのだ。
「わ、分かんない! けどこうしたいって思ったの!」
彗斗ならまだしも、他区画の諒とは少し恥ずかしい。けど案外手を繋ぐという行為は不思議と悪い気はしなかった。
その光景に前を歩いている渚や陽向、心優はほほえましそうに笑っている。
「なあ、恥ずかしいからもう手離してもよくないか?」
「僕は……嬉しいけどなぁ。まだこのままでもいいくらいだよ」
前方で優しく見守っている自然委員会メンバーの優しい目線に正直三人は恥ずかしさで顔は熱かった。
彗斗は恥ずかしさからそう提案するし、諒はこのままでもいいよと顔を赤らめながらも笑顔でそう言っている。
だけど翠は手を放すつもりはなかった。せめて畑に着くまでは。
「はーい、到着。ここが自然委員会が育てている畑だよ」
畑に到着し、まず最初はお互い繋いでいた手を離した。
「はあ、やっとだ……」
「ご、ごめんね彗斗!」
顔を赤くしながらため息をつく彗斗に謝罪を込めてきちんと謝った。翠の勝手な行動だとはいえ、二人を巻き込んだものだから。そこについてはちゃんと誠心誠意謝罪した。
「ここでもやることは一緒だから、頑張ろうね」
花壇の世話はしたことがある翠。だけど畑は初めてだ。畑はビニールハウスの中にある、だけどそのビニールハウスが結構な大きさを誇っている。
「あ、もう育ってる!」
翠が指差す方向はビニールハウスの中。外からでも分かるくらい、色々な野菜が植えられている。
ざっと見る限りキャベツ、アスパラガス、玉ねぎ、じゃがいも、豆など色々栽培されているようだ。
よし、と翠は意気込み、軍手をしている手のひらを握ったり伸ばしたりして、初めての畑作業にワクワクするのだった。




