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精霊科の初授業

次の時間は初めての精霊科の授業の特別参加だ。この授業ほど荷が重くて行きたくない授業はない。俺のどんよりとした雰囲気を察したクラスメイトが慰めるように肩をポンと叩く。


「まぁ、頑張れ。」

「俺達は精霊科は本当に出会った事がないからな〜」

「精霊科は貴族しかいないし、貴族は食堂も貴族専用食堂使うから全く出会わないんだ。そもそも精霊と関わりが多いのが貴族だからそれもそうなんだけど。」

「ただ貴族が多くいる中に平民で1人紛れて受けるってことは、貴族にとっちゃとても面白くない。」

「たしかにな〜めんどくせぇもんな〜貴族。」

「プライドと血統と魔法の成績だけは高いからな。」

「一般科は実技ないけど、精霊科は実技あるんだろ?どうすんの?実技。」

「そう、それなんだよ。俺魔力もないし、精霊魔法なんか使えない。」

「先生は実技をどう判断するんだろうな。ま、次迫ってるから早よ行け。」

「分かった。行ってきます。」


どんよりとした気持ちで移動する。精霊科の講義室に近づくにつれて刺さる視線と豪華になっていく装飾。全て含めてとても行きたくない。講義室に着くと先生が講義室前で待ってくれていた。小走りで先生の元へ行き、頭を下げる。


「い、一般科の…。」

「あぁ、話は聞いている。編入日ぶりだ。私はレイナ・エリンクトン。精霊科の担任をしている。これは教材だ。」

「エリンクトン先生、よろしくお願いします。教材ありがとうございます。」

「じゃあ早速行こう。」

「は、はい。」


エリンクトン先生が講義室に入り、俺も続いて講義室に入る。俺を見た生徒達が動揺した雰囲気を出す。


「突然だが、この一般科生が今日から精霊科の授業を特別に参加する事になった。そうだ、この前編入した編入生だ。校長先生の命令だから異議申し立ては校長先生に直訴しに行くように。では自己紹介を。」

「ルーク・エルスタインです。よろしくお願いします。」

「じゃああの1番手前の席へ。」

「はい。」


俺が席に着こうとした瞬間、生徒の1人が手を挙げる。


「先生、参加する事に異議はありませんが、試験はどうするんですか?見た感じ魔力や契約している精霊は感じられません。実技があるのにどうやって試験するんですか?」

「エルスタインは実技は参加しない。筆記のみ試験を行う。」

「え、それっていいんですか?他生徒から苦情きませんか?」

「それとも君は実技のできない生徒をわざわざ摘み出して恥をかかせたいということか?」

「...いえ、そういうわけでは。」

「質問には答えた。授業を開始する。ほらエルスタインは座りたまえ。」

「あ、は、はい。」


席に着いた瞬間講義室内にいた精霊達が一斉にルークの周りに集まる。それは生徒の隣にいた契約精霊も同様だった。頭の上に乗ったり、肩に乗ったり、膝の上に乗ったり、机の上を覗いたりととても授業に集中できそうになかった。


「え、ちょっとなんで?」

「なんかいっぱい集まってる。」

「俺の契約精霊...。」

「どうしてあんなにいっぱい?」


またザワザワと講義室内が騒がしくなった事で先生が振り返ると先生も自分の机の周りを見て驚いていた。


「エルスタイン、何か魔法でも使ったのか?」

「...いえ、いつもこうで。」

「そ、そうか...。授業できそう、か?」

「ちょっと待ってください。元いた所へ戻りなさい。」


そう言うと精霊達は命令に従ったかの如く元の場所へ戻っていったが、すぐに戻ってきて今度は邪魔しないようにとでも足元に張り付いていた。


「...ダメでした。これで授業を受けても大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、エルスタインが大丈夫ならいいんだが。続行しよう。では精霊の生態についてだが...」


結論から言うと授業中ずっと精霊達はルークに引っ付いたままだった。精霊科の授業は長く感じ、それも精霊達は感じていたようで自分に身体を預けてすやすや眠っていた。授業が終わり、教材を片付けていると先生が俺の机までやってきた。


「随分と精霊が伸び伸び過ごしているな。精霊は警戒心が強いから普段は草木に隠れて過ごすと授業でも言ったが、生徒達に本当か怪しまれてしまうな。」

「ははっ、草木に隠れている事は間違っていませんし、彼等がこうしているのもあまりよく分かっていないんです。」

「それもそうだな。...エルスタイン、君は誰かに似ているな?誰だろう...。」

「...?」

「...いや、恐らく気のせいだ。ほらもうお昼休みだ。一般科生達が君の事を待ち侘びているだろう。」

「あ、はい。ありがとうございました。」


精霊達を起こさないようにそっと机に置くと精霊科の生徒の1人が俺の前に立った。


「いつも精霊に囲まれているのか?」

「え、は、はい。そうです。」

「あ、そんなに丁寧にしなくていいよ。同年代だし、貴族とはいってもただの子爵家だし。僕はウェイン・アルバーン。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします。」


差し出された手におずおずと握手をすると後ろの席から野次のように声が飛んできた。


「アルバーン子爵家はただのって言ったって伯爵位の叙爵も出てる今1番勢いのある貴族じゃん。なにがただのだよー」

「ヘイヴン公爵家に叙爵やその他功績に手助けをもらったのだから、僕は勢いがあるとは言わないね。」

「ヘイヴン公爵家に気に入られた事自体が勢いがある証拠なんだよね。あ、僕はミゲル・レイラント。レイラント伯爵家の末っ子。」

「あ、よろしくお願いします。ところで...ヘイヴン公爵家って?」

「あぁ、平民だから貴族事情知らないもんな。国王陛下の次に偉いって言われてる四大公爵家の1つで、公爵家は剣術や魔法、錬金術ってそれぞれ得意な魔法があったりするんだけど、ヘイヴン公爵家は精霊魔法に精通しているんだ。この国は精霊に対してかなり信仰心を持っているから必然的にヘイヴン公爵家の地位は高い。」

「でも10年前にそのヘイヴン公爵家の末っ子と、第一王女殿下と、剣術が得意で代々騎士団団長を務めるドミトリスク公爵家の長男が同時に行方不明になってしまって。王妃殿下やそれぞれ公爵家の夫人がみんな意気消沈してしまって勢いが下がってしまったんだけど、最近また表舞台に出てくるようになったんだ。」

「ヘイヴン公爵家の2番目はこの学校の2年生だって聞いたよ。一度見た事あるけど人間じゃないくらい美しい方だった。まぁでもエルスタイン君も大概人間じゃない容姿だけどね。白髪で金色の目を持ってる人は見た事がないよ。」

「たぁしかに。珍しい容姿してるよね。...あ、お昼休みだったよね?ごめんごめん。」

「あ、ほんとだ。引き止めてごめん。」

「ううん!全然!じゃあまたね!」


ルークが講義室を出ていくのを精霊科の生徒達は見送ると皆一斉に大きなため息をついた。


「平民であんな人いるんだ。」

「人間じゃない姿してるよ。人間の形をした精霊って感じ。」

「それはもう上位精霊だよ。」

「ははっ、たしかに!」

「本人は気づいてないんだろうな。」

「...で、エルフ様はあの人どう思う?」


クラスで1人だけ耳の長い少女に皆の視線が向く。


「...私は話しかけるにも憚られるわ。精霊の中でも上位の上位って感じ。そもそも人間かも怪しい。」

「うわ!エルフ様にそんな事言わせるなんてエルスタイン君はすごいや!」

「彼自身に精霊の力や魔力はないけれど、彼の周りにあまりにも集まりすぎてる。寄せつけてるってよりは寄ってきてる?ような気がする。もしかしたら彼...。」

「何?」

「...いや、憶測で物をいうのは良くないわ。やめておく。」

「それがいい。僕達は貴族だし、余計な事を言って皆を混乱させるのは家名に泥を塗る事になる。」

「そうだね。ただ平民のエルスタイン君は苦労しそうだ。貴族じゃないだけに守ってくれる人がいない。」

「...本人に頑張ってもらうしかないさ。社会的地位は本人の頑張りと運でしかどうにもならない。」

「さて、僕達もお昼ご飯行こうよ。お腹空いた。」

「いこー」


少女も席を立って食堂へ向かうが、頭の中にはあの白髪金眼の青年の事ばかりだった。

ルークは急いで講義室を出てなんとか皆に追いつき、息を整えながら席に座る。クラスメイト達はまだ席に着いたばかりだったようで間に合ったと胸を撫で下ろす。


「お、間に合ったなー」

「どうだったー?精霊科の授業。」

「なんか、まぁ普通かも。何人かは普通に話しかけてくれたよ。」

「エルスタインはあんま平民ぽくないもんな〜」

「そう?全然そんな事ないと思うけど。」

「なんか食べ方とか綺麗だよ。育ち良い?」

「俺は施設育ちだから良い訳ないだろう?」

「え、施設育ちなの?全然見えないんだけど。」

「そうかなー」


そう話しているうちに食事が来て皆で食事に手を付ける。精霊科のクラスもそこまで悪い雰囲気ではないが、やはり一般科の方が居心地がいいのでようやく帰ってきた感じがある。会話の途中で唐突に1人のクラスメイトが口を開く。


「最近なんか寝付きが悪くてさ、なんか身体がずっと重くてしんどいんだよね。なんか知らない?」

「そんなの俺達に聞くより治療院行った方がいいんじゃないか?」

「だって治療院は高いじゃないか。なんかこんなのしてたら良くなったよーみたいな経験談あったら教えてくれよ。」


治療院はその名の通り病院なのだが如何せん高く、1回の治療で平民の平均給与の5倍はかかる。始動した最初期こそ平民でも受けられたが、年月経った今は貴族との癒着や価格の高騰、宣伝している価格より大幅に高い値段を要求して受けに来た平民を奴隷送りにする悪質な治療院もあるくらいだ。そんな状況では平民の多い一般科ではとてもじゃないが治療院には行かない。ふとクラスメイトを見るととても症状は深刻みたいでその身体から黒い煙のようなモノがモヤモヤと出ているように見えた。なにかに呪われているのだろうか?


「その症状はいつから?」

「2週間前からかな。」

「2週間前に何か他の人から貰い受けた物はある?または関わった人、もしくは拾った物。」

「え?あ、いや...そういえば道ですんげー綺麗な宝石の欠片を拾った、かも?」

「それかもね。あまり無闇に物を拾っちゃダメだよ。それには何がついているか分からないから。処理に困るなら俺が貰うよ。」

「ほんとか!?相談して良かったぜ!!」

「ご飯の後は大庭園にいるから早めに渡して。」

「ルークお前すげーなー!」

「なんで分かったんだー?」

「なんとなく。まぁ解決できて良かったね。」


皆と楽しくご飯を食べて講義室へ戻り、お昼からは授業がないので各々寮へ帰ったり図書館へ行ったりと自由に過ごしていた。俺はというと相も変わらず大庭園へ赴き、お気に入りの場所で本を開いて精霊達とコミュニケーションを交わす日課。今日はそれがいつもより長くなっただけだ。いつものベンチへ座り本を開くと続々と精霊達が集まってきた、が...まて。なんかみんな大きくないか?いつもの精霊達が昨日よりサイズが大きくなっているように感じる。たまに人型になっているような気もする。おかしくなったか?と首を傾げているとその思考を遮るように声がかかる。


「エルスタイン君、ちょっといいかな?」


声の方に振り返るとそこには生徒会長のウィリアム殿下がいた。相変わらず光の精霊を粉にして撒いたのかっていうくらいに輝きを放っている。平民である俺は苦笑いをしながら隣を空けた。


「こんにちは、殿下。今日はどうされましたか?」

「隣ありがとう。いつもここにいると聞いてね。学校生活はどうだい?」

「まだそこまで経っておりませんので語れと言われたらできませんが、楽しく過ごさせて頂いてます。」

「それは良かった。編入生自体この学校が創設されてから数例しかない。こちらもほとんど初の試みみたいなものだから心配しているんだ。」

「いえ、お気遣いありがとうございます。」

「大丈夫そうならいい。じゃあまたね。」

「はい。」


突然来るのでびっくりしたが、なんとか切り抜けたみたいな感じがして全身の力が抜ける。閉じていた本をまた開くと精霊達がまた集まってきてこれなぁに?と指をさす。


「これはね...」


俺が話し始めると精霊達はご機嫌に微笑んだ。

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