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02 ダンスはお得意

「さあ姫様、できましたよ!」

「おお、よくここまでまとまったものだ。」


 鏡を見たレイルティアが素直に感嘆を漏らすと、フレイアは得意げに笑った。周りのメイドたちは尊敬の念を込めてフレイアを見ていた。


「姫様、そろそろ‥‥。」

「ああ、コホン。」


 フレイアが耳打ちするとレイルティアはわざとらしく咳をひとつ。


「みんな朝からありがとう。とても素敵だわ。」


 レイルティアは王女の顔でメイドたちに微笑んだ。ここからは王女としての時間である。口調も姿勢も表情も、完璧でなければならない。これは中々疲れるだろうな、と数時間後の自分を想像したレイルティアは心の中で溜息をついた。


 そんな時、部屋の扉が軽く叩かれる。やってきたのはレイルティアの兄、エルヴィス王子。デビュタントのエスコート相手だ。


「レイル、準備はできてる?」

「はい、お兄さま。」


 エルヴィスは王の子供達の中で唯一の男児だ。王位継承権は姉であるオーレリアに次いで第2位。穏やかな気質で、いずれ王となる姉を支えるべく研鑽しており、さらに言えば姉妹に囲まれているため女性の扱いも心得ている、という非の打ち所がない王子である。


「とても綺麗だよ。そのドレス、レイルによく似合ってる。末の妹もデビュタントだなんて、感慨深いね。」

「ありがとうございます。オーレリアお姉さまが選んでくださったの。」

「さすが姉上だ。」


 ふわりとエルヴィスが微笑んだ。オーレリアから「エルヴィスは既に婚約しているというのに令嬢たちからの人気が落ちない」と聞いていたレイルティアは、その笑顔に納得した。なるほど、これは「側妃にでも」と名乗りを上げる女性が大勢いるのだろう。エルヴィスは柔らかく中性的な顔立ちで、その上王子という身分も追加されるのだから、当然の事なのかもしれない。

 我が兄がどれほど女性陣から人気があるのか実際に見てみよう、等とレイルティアが考えていると、目の前にエルヴィスが腕を差し出した。


「行こうか、レイル。」

「はい。よろしくお願いします、お兄さま。」

「階段で転びそうになっても、僕がいるから安心してね。」

「もう子供ではないのですから転んだりしませんわ。」


 レイルがツンとして返すと、エルヴィスがクスクスと笑う。仲の良い兄妹だ、と侍女やメイドたちが微笑まし気にふたりを見送った。




「エルヴィス殿下、レイルティア殿下のご入場です。」


 ふたりが会場に着くと、ドアマンが2階の扉が開く。その場にいた貴族たちが一斉に首を垂れ、ふたりは豪奢な階段を下りて行った。レイルティアの様子を見たエルヴィスが、小さな声で話しかけた。


「レイルは全然緊張しないんだね。」

「当然です。」


 堂々としているレイルティアに、エルヴィスは少し驚いたようだ。前世、誇り高いフェンリルであったレイルティアは、この程度で緊張はしないのだった。


 ふたりが広間に下り立つと、優雅な曲が流れ始めた。ファーストダンスである。もちろん踊るのは、レイルティアとエルヴィスだ。

 前世から引き継いだのは記憶だけで、その頃の力は全く無いレイルティアだったが、幸いにも運動神経だけは良い体に生まれた。そのためダンスは得意だった。


「デビュタントおめでとう、レイル。」


 踊りながら、エルヴィスが祝福を口にする。


「ありがとうございます、お兄さま。」

「こんな日に、こんなことを言うのは申し訳ないのだけど‥‥。」

「?」

「父上が、君の嫁ぎ先を探し始めていると、姉上から聞いた。」

「私も結婚適齢期に差し掛かりましたから。これまでお相手がいなかったのも、陛下はかの公爵家に嫁がせようとしていたからでしょう。」

「本当、レイルは昔から大人びているね。」

「弁えているだけす。私は第3王女ですもの。」


 レイルティアの言葉に、エルヴィスは憐れみを向けた。確かに、この年頃の少女にしては冷めてはいるのだろう。しかしレイルティアから見れば、姉たちやエルヴィスだって十分に大人びていた。今よりもっと若く幼い頃から、王族して生きていた。レイルティアには前世の記憶があるのだから、少しくらい達観していても可笑しくはないのだろう。しかし彼らは普通の人間の子供だ。王族に生まれたというだけで、子供でいられる期間は殆ど無いに等しかったのだ。そんな姉や兄を見ていたから、レイルティアは本能のままに城を飛び出すなんて事はしなかったのかもしれない。



 そうしている内に、ファーストダンスは無事に終わった。レイルティアは、役目は果たしたと言わんばかりに、軽食の並ぶスペースへと移動した。朝から殆ど食べておらず、お腹が減って仕方なかったのだ。


 第3王女というのは権力からほど遠いため、あまり貴族たちの関心の対象では無かった。入場時は他の王族もいたので、貴族たちはマナーを守っただけ。特段レイルティアを敬う気持ちなど無い。

 それが彼女にとってはなんとも有難かった。端で食事をしていても、彼女を気に掛ける者は殆どいない。たまにマメな高位貴族たちが、デビュタントのお祝いを述べに来るが、レイルティアは笑顔で答えるだけで良かった。一言二言交わせば去っていくのだから。なんと楽な王族だろうか、とレイルティアは心の中で思った。


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