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ショートショート4月〜4回目

電池

作者: たかさば

 ……ああ、うっかり落し物をしてしまった。

 まずいなあ、あれが誰かの手に渡ってしまったら…問題が起きるかも。

 早く見つけださないと。

 今日はどこを歩いたんだっけかな、とりあえず、今来た道を引き返そう。

 ……ああ、今日も…疲れている。


 昨日、しっかり寝たはずなのに…体力が回復していない。

 激務の続く毎日で、どれほど休んでも、寝ても、疲れが解消しきれないのだ。


 少しだけ回復した体ではまかないきれない、万年エネルギー不足状態に陥っている。

 まるで、体力が根こそぎ奪われていくような…日に日に命が尽きていくような、この…けだるさ。


 ああ……とても、顔を上げるだけの、気力がない。


 視線をアスファルトに落としたまま、交差点のところまで……、うん?


 何か…、落ちている。

 ……赤い、電池?


 ずいぶん古そうな電池だ、こんなところになんで…。


 ここは人通りが多い場所だ。

 近くに大きな病院があるから、お年寄も多い。


 ……危ないな。

 手を伸ばし、電池を手に取った。


 人差し指と親指で電池を挟み込んで、ボディを見やる。

 古いデザインなんだろうか、見たことが…ない。

 なんとなく、大きさも…中途半端だな。

 単一にしては小さいような、単二にしては大きいような?


 …………。


 ちょうど信号が赤に変わったばかりということもあり、手持ち無沙汰だ。

 まじまじと電池を見つめながら、青信号を待つ。


 最近は…電池なんてめったなことじゃ使わない。

 昔、ミニ四駆を動かすために小遣いをはたいて買ったことを思い出す。

 充電式の電池が販売された時は喜んで……、懐かしいことだ。

 パワーに満ち溢れた子供時代が頭に浮かんで、口元がほころぶ。


 ……少しだけ、力が漲ってきたような?

 この電池で、充電できたのかも…なんてね。


 この先に郵便局があったな、乾電池回収箱に入れてくるか。

 ポケットに電池を入れて、信号の変わった大きな交差点へと踏み出した。




 ……ああ、今日も…やらかした。


 どれほど自重しても、反省しても、パワーが抑えきれない。

 周りを巻き込んだ、完全大暴走状態。


 日に日に人脈が尽きていくような、この…空回り。

 まるで、嫌われるために行動しているような…毎日。


 ああ……とても、自分の欲を自制するだけの、我慢ができない。


 がっくり肩を落として視線をアスファルトに向け、交差点のところまで……、うん?


 何か、落ちている。

 ……赤い、電池?


 ずいぶん古そうな電池だ、こんなところになんで…。


 ここは人通りが多い場所。

 近くに大きな病院があるから、お年寄も多い。


 ……危ないなあ。


 手を伸ばし、電池を手に取る。

 人差し指と親指で電池を挟み込んで、ボディをまじまじと見つめる。


 電池ってこんなデザインだったっけ、じっくり見たことがないから、新鮮。


 …………。


 ちょうど信号が赤に変わったばかりだし、手持ち無沙汰なんだよね。

 電池を見つめながら、青信号を待つ。


 あんまり電池なんて使わないからなあ。

 学生時代にお母さんに頼まれてコンビニに電池を買いに行ったのを思い出す。

 単三とかわかんなくて、間違えて買っちゃってさ。


 ……懐かしいな。


 人見知りで店員さんに何も聞けなかった子供時代を思い出し、口元がほころんだ。


 少しだけ、おしとやかだったころの自分が戻ってきたような?

 この電池に、余分なパワーを吸い取ってもらえたのかも…なんてね。


 そうだ、この先に郵便局があったはず、乾電池回収箱に入れてあげよう。

 ポケットに電池を入れて、信号の変わった大きな交差点へと踏み出した。


 ……ああ、良かった。

 問題が起きる前に、何とか失くし物を見つけることができたよ。

 ずいぶんご機嫌な様子で、つやつやとしているじゃないか。

 少々勝手に充填と放出をしていたようだけど、おおむね混乱は起きていないようでなによりだ。

 やはり電池のデザインが良かったんだろうなあ。

 今後はもっと、人間の持ち物を意識したものをたくさんばら撒いて……。


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