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39 炎の魔人、イフリートさん登場

新連載、開始しました!


スキル『精霊たらし』で精霊との橋渡しをしていたのに、コミュ障だからと王国を追放される。

でも精霊たちには慕われていたことを知り、精霊姫からは溺愛。

王国では精霊たちが暴れているようですが、もう知りません。


このお話のあとがきの下に、小説へのリンクがあります!

 わたしはサウナのような熱気に満ちた空間を、仰向けのまま落ちていった。

 サウナというのは狭いものだけど、そこは活火山の中みたいな広大な洞窟。


 天井はまっくらで、一番星みたいな穴がポッカリひとつ開いていた。

 星にはヴェノメノンさんの顔があって、「リミリアー!」と叫んでいる。


 わたしはヴェノメノンさんがいるあの穴、厨房の床にあった跳ね上げ扉から落ちてしまったんだ


 跳ね上げ扉の下には鉄のハシゴがかかっていて、その下には鉄の吊り橋がある。

 普通に落下した場合、本来はあの吊り橋に着地するはずなのに、わたしの身体は橋からそれて空中に投げ出されていた。


 ということは何者かの力が働いて、わたしは横に引きずり落とされたということになる。

 その何者かの正体は、なんとなくわかった。


 わたしの周囲には、炎に包まれた妖精のような存在が「キャーッキャッキャッキャーッ!」と楽しそうに笑いながら飛び交っていたからだ。


 手のひらサイズの彼らは、『炎の精霊』。

 モンスターの一種なんだけど、炎が燃える原理とされており、炎がある所には必ず彼らがいるそうだ。


 普段は人間の目には見えないように隠れているんだけど、マグマなどの多くの熱がある場所などでは姿を現すという。


 わたしは精霊の生の姿を見るのは初めてだった。

 こんな状況じゃなければ、彼らをもっとよく観察したかったんだけど、今はそれどころじゃない。


 わたしは猫のように、空中で身体をクルンと回転させて真下を見る。

 ぼこぼこと泡立つマグマの海が、ぐんぐん迫って来ている。


 高所落下の受け身なら、お稽古事でさんざんやらされた。

 50メートルの高さの崖から突き落とされた時は、衣服をモモンガみたいにして広げ、着地時には転がって衝撃を和らげた。


 しかもそれだけじゃなくて、着地したあとに続けざまに崖から転がってくる大岩から走って逃げなくてはならなかった。

 その時の事に比べたら、このくらいの高さならなんともないんだけど、地面がマズい。


 こんな1000度はありそうな地面、触れただけでも骨まで灰になりそうだ。

 しかも、まわりには安全地帯は皆無。


 吹き上げてくる風はヒリヒリと肌を焦がし、まるでアイロンが鼻先にあるかのよう。

 マグマのまぶしさに目を開けることできなくなって、いよいよわたしは覚悟を決める。


 ……お、おわった……!

 ……この魔王城に来てからというもの幾度となくそう思ったけど、今度こそ、本当に……!


 わたしが太陽の黒点となろうとしていた瞬間、


 ……しゅばぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!


 まるで空を飛ぶ、大人にならない少年にでもさらわれたかのように、一気に急上昇した。

 わたしの身体を、誰かがガッチリと捕まえている。


 「サプラ~イズ!」と、おどけたような声。

 ハッと見やるとすぐ間近に、なんだか今風な男の人の顔があった。


 ボワッと逆立てた赤髪に、こうこうと光る赤い瞳、通った鼻筋に、頬には炎のタトゥー。


 わたしは直感する。

 この人はわたしに一番縁遠い人種、パーリーピーポーだと。


 わたしはいちおう問う「どなたですか?」と。

 すると彼はパッチリした二重の瞼で、パチッと火花が散るウインクを飛ばしてきた。


「さっすがリミリアちゃん! 噂どおり、レバーが座ってるね!

 マグマに突き落とされても、悲鳴ひとつあげないなんてさ!」


「わたしのことをご存じなんですね」


「当たり前じゃん! 厨房にいるリミリアちゃんのこと、ずっと気になってたんだからさぁ!

 僕は『イフリート』! よろしくねん!」


 わたしは目が点になる。


「……イフリート? もしかして、あの『炎の魔人』」の……?」


「びっくりした? 人間の前ではメラメラしてっから、この姿を見た人間は、リミリアちゃんが初めてかもね! きゃはっ!」


 イタズラが成功した子供みたいに笑う、イフリートさん。

 『イフリート』といえば、炎の精霊のなかでも最強の部類に入るモンスターで、炎の精霊における『王子様』のような存在。


 しかし今の彼は魔人どころか、精霊にすら見えない。

 強いて言うなら、シューフライ様のご友人にいそうなカンジの人だ。


 炎の要素なんてどこにも……と思ったら、意外なところにあった。

 イフリートさんは足の裏からジェット噴射のように炎吹き出し、わたしを抱いたまま空を飛び回っていた。


 いつのまにか厨房の入口があった場所を離れ、洞窟を奥へ奥へと進んで行っている。

 眼下に広がっていたマグマの海はなくなり、周囲の景色は製鉄場のような空間に変わる。


 イフリートさんがしみじみと言う。


「シルヴァーゴースト帝国がもっと大きかった頃は、ここもフル稼働して『メラ・ゾーマス』や『アイアンプレート』を作ってたんだよねぇ」


 どう見ても製鉄場だったそこは、どうやら食品工場のようだ。

 驚きの連続だったけど、なんとなくおよその事態が飲み込めた。


「魔王城の炎を制御しているのがイフリートさんだったんですね」


「そうだよん」


「あの、どうして上の厨房の炎を弱めたりしたんですか?」


「そんなの、リミリアちゃんに気付いてもらうために決まってるじゃん」


「えっ」


「火を弱めたら、リミリアちゃんが僕のことを知って、会いに来てくれると思ったんだよね~」


「そういうことだったんですか、だったらそんなことをしなくても、普通に呼び出してくだされば……」


「ホントにぃ? ホントに呼んだらこんな所に来てくれたのぉ? 俺の知ってる女の子は誰も、こんな所は来たがらなかったけどなぁ」


「マグマはたしかに怖いですけど、それ以上に炎の精霊に興味がありますから。

 いまこうしてまわりを見ているだけでもいろんな炎の精霊たちがいて、とっても楽しいです」


 するとイフリートさんは、夜空の花火みたいな、驚きと喜びが入り交じった笑顔になった。


「マジでぇ!? そんなこと言ってくれた子、リミリアちゃんが初めてだよ!

 やっぱリミリアちゃん、さいっこーっ! うぇ~いっ!」


 飛行中にハイタッチを求めてくるイフリートさんと、わたしはおそるおそる手を合わせる。

 悪い人じゃなさそうだけど、この若者特有のノリだけは人間軍にいた頃からぜんぜん慣れないな、と思った。

次回、リミリアとイフリートの元に、あの人が……!

そして新連載、開始しました!


スキル『精霊たらし』で精霊との橋渡しをしていたのに、コミュ障だからと王国を追放される。

でも精霊たちには慕われていたことを知り、精霊姫からは溺愛。

王国では精霊たちが暴れているようですが、もう知りません。


このあとがきの下に、小説へのリンクがあります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリがチャラ男なイフリート参上! リミたんは相変わらずハイスペック!! 受け身に岩避けってΣ(・ω・ノ)ノ 鬼やな王家( ; ゜Д゜) 次回はチャラ男VSコック!? うわ~!待ち遠しい…
[良い点] 久々の更新、お待ちしておりました!(`・∀・´)キリッ リミリアが無事で良かった〜。厨房の火が弱まったのは、「イフリートがリミリアに会いたかったから。」と知って、ホッとしました(『八百屋お…
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