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18 スノーバードの能力

 最終決戦とばかりに、迷路の中央で待ち構えていたスノーバード様。

 しかもそれはひとりではなく、ふたりであった。


 ふたりとも全く同じ、剣を正面に構えたポーズを取っている。

 客席は驚愕に包まれた。


「おい、見ろよ! スノーバード様がふたりいるぞ!?」


「まさか、スノーバード様は分身魔法の使い手だったのか!?」


「そんなわけあるかよ! 分身魔法はこの帝国でも、魔法に人生を捧げたようなヤツにしか使えないんだぜ!

 まだ14歳のスノーバード様に、使えるわけが……!」


「ってことはあれは、スノーバード様にそっくりな影武者ってことか!」


「ったく、あのお坊ちゃんは、なにからなにまで他人任せだってのかよ!」


「しかし、どっちがホンモノのスノーバード様なんだろうな!? まったく見分けがつかないぜ!」


 部屋に入った魔人兵も見分けがついていないらしく、遠巻きにふたりのスノーバード様を交互に見ていた。


 わたしは檻の中で祈る。

 「どうかその距離で、魔人砲を撃ちませんように」と。


 魔人兵は腕のコアを破壊されると、魔人砲を主力武器として使うようになる。


 魔人砲は、放たれた矢のようにまっすぐ進む光線兵器。

 多大なる魔力を必要とするものの、有効射程100メートル内の鉄や岩を紙のように貫通する。


 いまスノーバード様と魔人兵が対峙している部屋は、100メートルの広さもない。

 もしこの距離で本物が見分けられてしまったら、魔人砲で跡形もなく消し去られてしまうだろう。


 しかし魔人兵は魔人砲を撃つことはせず、ガシャンガシャンとふたりのスノーバード様に近づいていく。

 鈍色の悪魔のような存在に近づかれても、ふたりのスノーバード様は微動どころか、瞬きすらしない。


 観客席の誰かが、立ち上がって叫んだ。


「わかったぞ! スノーバード様の狙いが!

 魔人が見誤って、影武者に向かって魔人砲を撃てば、そのスキに胸のコアを攻撃できるからな!」


「ってことは、確率2分の1ってことじゃねぇか!

 まさに、生きるか死ぬかじゃねぇか!」


「でも、それだったらなんでふたりともピクリとも動かねぇんだ?

 二手に分かれて襲いかかればいいのに……」


「たぶん、動きのクセでニセモノを見破られることを怖れているんだ!

 ふたりとも動かなけりゃ、見た目で判断するしかねぇからな!」


 そう。

 難攻不落の胸のコアを落とすために、わたしが考えたのは『影武者』を使ったいちかばちかの作戦。


 魔人が魔人砲を撃てば、胸のコアを守る魔法結界は一瞬だけ無くなる。

 しかも『影武者』に向かって撃っていれば、本物のスノーバード様はフリー。


 従来の攻略法である、『魔人砲をかわしつつカウンターで胸のコアを狙う』という高難易度の剣技をする必要がなくなるんだ。

 左右、どちらのスノーバード様が本物なのか、わたしにも見分けがつかない。


 あとは、魔人が騙されてくれれば……!


 しかし、勝算はあった。

 なぜならばこれまで、魔人は人間や魔物などの生物と同じで、『見た目に騙されて』くれていたから。


 コロシアム内には行き詰まるほどの緊張感が支配する。

 魔人兵がふたりのスノーバード様を凝視するため、頭蓋骨を蛇の頭のように動かす音だけが響いていた。


 そして魔人兵はついに、意をを決する。

 頭蓋骨の奥に埋め込まれた水晶玉がひときわ強く輝き、ひとりのスノーバード様を照らした。


 それは、左っ……!


 がぱあっとアゴが外れるように開き、巨大な注射針のような砲身が飛び出す。

 骨格が輝き、骨の中を血液のような光の粒子が流れ、砲身へと集まっていく。


 『魔人砲』、エネルギー充填、完了っ……!


 死の咆哮が、今まさに解き放たれようとしたとき、審査員席にいた、ある人物が立ち上がって叫んだ。


「魔人兵よ! 右が本物のスノーバード様だ! 右を狙うのだっ!」


 途端、魔人兵の頭は右を向く。

 間を置かずに発射された。


 ……ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 赤き熱線が周囲の空気を震わせ、蜃気楼を起こすほどに歪める。

 狙われたスノーバード様の首は吹っ飛び、首から下はドロドロに溶けていた。


「や……やったか!?」


 と観客たちは前のめりになる。

 しかしその視線は否が応でにも、あるものに引きずられた。


 それは、スノーバード様の背後にあった、金属の壁。

 伝説の魔法金属と呼ばれたダーイング鋼が、紙のように燃え上がり……。


 いや、とうとう紙として燃え上がり、壁の中にあった木組みが露出。

 火は一気に燃え広がり、砦のようだった迷路の正体を白日のもとに晒していた。


 そう、それは……。

 絵でできた、紙の砦っ……!


「えっ、えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「だ、ダーイング鋼が燃えちまったぞ!?」


「バカ! ありゃただの絵だったんだよ! ダーイング鋼そっくりに着色した紙だったんだ!」


「み、見ろ! 通路の穴も燃えてる! 穴だと思っていたのは、床に描かれた絵だったんだ!」


「ウソだろっ!? どう見ても本物の穴にしか見えなかったぜ!」


「ま、まさかこの絵……スノーバード様が描かれたのかっ!?」


「すっ、すげええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 『魔王族の儀式』ではどんな手を使ってもよいが、挑戦者の能力を示さなくてはならない。

 だからわたしはスノーバード様の絵と粘土細工のうまさを発揮できるように、この手を考えたんだ。


 迷路は紙に絵で描いて、木組みの上に貼り合わせたもの。

 『影武者』は言うまでもなく、粘土細工で作ってもらったもの。


 見た目はどちらも本物そっくりだったけど、魔力で動いている魔人兵に通用するか心配だった。

 でも、まさかここまでうまく騙されてくれるなんて……!


 そして肝心のスノーバード様は、魔人砲を逃れてフリー状態。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 裂帛の気合いとともに、魔人兵のガラ空きの胸に剣を突きたてていた。


 ……ガキィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 魔人兵の心臓である胸のコアは魔法結界だけでなく、魔法金属で覆われているので、並の剣では歯が立たない。

 せっかくの一撃も、表面のカバーにカスリ傷を付けるだけで終わってしまった。


 「ああっ……!」と残念そうな声が、客席から漏れる。


「せ、せっかく魔人兵のヤツを騙したってのに……!」


「最後の最後で、剣が効かないだなんて……!」


「あと少しで、魔法結界が復活するぞ! そうなったらもう、二度とコアを攻撃できねぇ!」


「ああっ、おわった……! 終わっちまった……!」


 しかし、まだ終わりではなかった。


 コアを覆う魔法金属についたわずかな傷が、膿のようにジュクジュクと泡立つ。

 それは金属を食い荒らす細菌のように広がって、あっという間にカバーをボロボロにしてしまった。


 スノーバード様は儀式に際し、2本の剣を持ち込んでいた。

 1本は普通の剣で、もう1本は毒の剣。


 わたしは檻の中から客席にいる、毒をくれた人物を見下ろしていた。

 こんな時でも白いコック服の彼は、わたしの視線に気付いたようで、


『だから言っただろ? 俺の毒は魔法金属でも腐食させちまうって』


 と言いたげに、ウインクを返してくれた。


 そしてついに、最後の時がやってくる。


「今度こそ、もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 スノーバード様はふたたび胸のコアに向かって剣を突きたてる。

 守るもののなくなった心臓は、これまでのしぶとさが何だったのかと思うほどに、あっさりと貫かれていた。


 ……ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


 背中から鮮血のような液体を撒き散らし、倒れる魔人兵。

 しばらく死にかけの蜘蛛のように蠢いていたが、やがて、瞳の光が消え去るとともに動かなくなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴェノメノン料理長もこっそり協力している事に 「フフフ、こやつめ味な事を。料理なだけに。」 と微笑んでいる自分が此処に!
[良い点] 芸術家だって戦える! あれ、弟が奮闘したら魔王さま感動で泣いちゃうんじゃ…照れ隠しは壁ボコでは済まないレベルになったりしてwww [一言] 元々の『メラ・ゾーマス』ってさ…ヴェノメノンさん…
[良い点] 遂に、スノーバードが、魔人兵相手に、完・全・勝・利! 勝因は、ズバリ『リミリアの肉体改造メニュー&作戦』、『スノーバードの特技』、そして『白いコック服の彼の協力(ここ重要!)』ですね。 …
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