旅の前の準備運動とヤバイ肉・・・
僕の直ぐ側にある建物から小さい魔物が襲い掛かってきたので咄嗟に避けた。しかし、襲撃した魔物は反対側の建物へ姿を隠してしまいすぐに見失ってしまう。
「智香!気を付けて!小さくてすばしっこい魔物がそっちの建物に隠れたよ!」
「え、はい!!分かりました!」
智香に魔物の存在を知らせると僕が指した建物の方を警戒しだした。
・・・しかし、それが不味かった。
「危ない!!智香避けて!」
「!え!?」
僕が襲われた時に出てきた方の建物から同じ種類の別の魔物が智香に襲い掛かった。智香が反対側に注意を向けたときを狙ってもう一匹が攻撃したのだ。
僕たちはまだ戦いなれているとは言えないから不意打ちは警戒しておかないといけなかったのに。
「うおおおお!!」
――間に合え!!!
「闇魔法[ダークボール]!!」
智香に魔物の攻撃が当たるギリギリの所で僕が放ったダークボールが命中して智香はダメージを受けずにいた。
「大丈夫か!?智香!」
「う、うん。私は大丈夫!えっと、ありがとう。」
「ああ、ごめん。僕が智香に注意を促したばっかりに君を危険に晒した。」
「で、でも!聡君は助けてくれたから!」
「ああ、――ッ!!?」
僕がありがとうと言おうとしたその時、僕が避けたほうの魔物が僕を狙って攻撃してきた。それを瞬間で抜いたベルゼトスで切り落とす。
「これは、蝙蝠?[鑑定]」
[クイックバット](Cランク)
常人では目視できない程のスピードで飛ぶ蝙蝠の魔獣。敵の死角から無音で接近し命を刈り取ることからアサシンバットとも呼ばれている。ただし、飛んでいるときは一直線にしか動けないので見えていればさほど脅威ではない。なぜならクイックバットの体は普通に殴るだけで殺せるほど柔らかいからだ。
この魔物は中々厄介だな。僕のステータスならどうにか見えるし、対処できるけどあの速さは智香には反応するのはかなり厳しいはずだ。
となると、
「智香、僕の側に居て。良い?敵が接近してきたらすぐにしゃがんで。そしたら僕が倒すから。」
「わ、分かりました。」
智香が側に寄ってきて周囲を警戒した。
――ゴガガ・・・
呻き声のようなものが聞こえたのでそちらを見るとナイアルがビザールジャイアントの首に剣を突き刺している所だった。ナイアルは剣を振ってビザールジャイアントの首を落とすと今度は剣に付いた血糊を振り払った。
・・・見た所ナイアルは無傷のようなので結構楽勝だったんじゃないか?こっちは大変だったって言うのに。
「・・・・・・。」
無言でこちらに来て、僕に跪いて来た。そんなの初めてされたんだけど?
褒めて欲しそうなので頭を撫でていると、
「聡君!」
「――っ!!」
智香が叫んだので振り向きざまにベルゼトスで切り裂くとクイックバットが真っ二つになってドシャッと地面に落ちた。・・・思った通り、コイツは心臓を狙って攻撃しているようだ。胸の高さで切ったから多分合っているだろう。中々殺意が高い奴だな。
周りを見渡すと魔物の影は何処にも見えなかったのでもう近くには居ないだろう。・・・一応警戒はしておくけど。
「はあ、終わったようだね。」
「はい、結構強かったですね、敵。」
強いだけじゃなくて、ビザールジャイアントに注意を向けている時に人の死角から不意打ちしてくるという凶悪さもある。戦術や戦略のような物に近い行動を持っているのだろう。ヘルハウンドの時のようにゴリ押しで倒せるほど優しくは無いようだ。
「取り敢えずここから離れようか。戦闘音で他の魔物が来るかも知れないし。」
「はい。」
――グルルルルルゥゥッ!!!
おいおい、マジですか。久しぶりのヘルハウンドさんじゃないですか。
「さ、聡君!後ろからも来てる!」
智香に言われて振り返ると、色んな魔物が群れを成してこちらに向かってきていた。・・・さっきまで誰も居なかったのにいつの間に?
そんな疑問が浮かんできたが敵は僕たちを待ってくれるほど大人しくは無いらしい。
グルゥッ!!!ガアアアッ!!!!
ヘルハウンドが大きな声で吼えながらこちらに向かってきた。
「ナイアル!合図したらヘルハウンドを相手して!」
「(コクリ)」
ナイアルが頷いたのを確認して僕はヘルハウンドの口目がけてM26を投げる。この距離ならこっちまで爆風や破片が来ることは無い。
「・・・今だ!」
僕が合図するとナイアルがヘルハウンドに向かって走り出す。前回同様ヘルハウンドは口をズタボロに裂かれていた。
ヘルハウンドはナイアルに任せるとして、こっちは僕がどうにかしないとな。
「智香、援護を頼むよ。」
「はい!分かりました。任せて下さい!」
取り敢えず、敵の数を少しでも減らさないとな。僕はMK3A2を取り出して魔物の群れにありったけ投げつけた。
ドオォォォン!!!!
盛大な爆発音と共に魔物の肉片が飛び散り、アスファルトは血の水溜りで紅く染まっている。少し時間が経つと雨が降り出した。それはねっとりと生ぬるく真っ赤な雨水で、この惨状を物語っていた。
「ちょっと!聡君!?なんか凄いことになっちゃっているんですけど!?」
「えっと、テヘペロッ♪」
「可愛く言っても誤魔化されませんよ!?私の援護要らないじゃないですか。ってうえぇ、く、口の中に血がぁ、肉が~、ペッペッ」
うん、何かやり過ぎたようだ。群れはこっちからかなり離れていたはずなのに敵の血肉が全身に降りかかってくる。一応、魔物は駆逐したようだけど、二次被害が半端ない。
・・・グルゥ―――
どうやらナイアルも終わったようだ。・・・戦闘は無傷で勝ったけど全身が血生臭くて素直に喜べないな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
戦闘が終わった後、近くの建物(民家)に入った僕たちは風呂に入った後、台所で料理をしていた。
「はあ、お風呂はやっぱり気持ちよかったです。」
「そうだね。全身血まみれだとよく分かるよ。」
「それを言わないでください。聡君がもう少し手加減していたらあんな事にはならなかったんですよ!」
「ごめんって、次は気を付けるよ。ただ、手加減して敵が中途半端に残っていたら嫌だったから今回は持っている爆弾全部使っちゃったんだ。」
「まあ確かにそれは嫌ですけど・・・。」
因みに智香が風呂に入っている間に爆弾の補充はした。そしてポイントは40000を超えていたのでステータス値を上げてスキルも幾つか取っている。今回の戦いは中々得る物が多かったな。SAN値はゴッソリ持って行かれたけど・・・。
「よし!ご飯出来たよ。」
「わあ!サイコロステーキの丼ですか!とっても美味しそうですね。」
「ああ、ヘルハウンドの肉を使った奴だからね。かなり美味いと思うよ。」
最初に食べたヘルハウンドのカレーは自分でもビックリするくらい美味しかったからな。この料理にはかなり期待している。
「え!?へ、ヘルハウンドの肉・・・ですか?食べれるんでしょうか?」
「ああ、100g最低でも100万円の高級肉って説明だったし、僕もそれを見なかったら食べなかったと思うけど。味は保証するから食べてみて。」
「ひゃ、100万円!?どんな高級肉ですかそれ・・・。取り敢えず食べてみます。―――ッ!!!?」
「美味しい?」
「お、おいひいぃぃ~~!!」
智香はヘルハウンドのサイコロステーキ丼を一口食べたと思ったら突然物凄い勢いで皿にがっついた。
いや、そこまでするほど美味しいのか?
「まあいいや。頂きます。モグッ―――ッ!!!?」
僕もステーキ丼を食べようとスプーンで掬って口に入れると・・・全身に雷撃を受けた。そこからは何も覚えていなかった。ただただ全身を襲う快楽に近い幸福感を得るために口を動かしていた感覚はなんとなく理解していた。しかし、頭のなかにはこの料理が美味いということだけ認識していた。
美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い・・・・・・・・・うま・・・・い・・・。
さすがは100g100万円の最高級肉。人間の思考力や理性すらケダモノに変えるとは・・・。ヘルハウンド(ケダモノ)だけに。