旅の始まり
旅が始まる・・・。
「ひぃぃいいー!?」
「ほら、腰が引けているぞ。もっとしっかり敵を見ろー。」
「なんで聡さんは、そんなに暢気なんですかー!少しくらい優しくしてください!」
「智香がこうしたいって言ったんだろ。大人しく構えてしっかり戦い方を学べ。」
「どうしてこんな事に・・・。」
今、僕と智香は戦闘の訓練中だ。旅をする前に戦闘の流れを確かめておこうと僕が一人で特訓してたら智香が足手まといにならないよう自分もやりたいと言ってきたので適当な魔物を見つけて訓練をしている。正直に言うと智香は剣を振り回すのが下手だ。本当にただ振り回しているだけで刃が立っていなかったり自分に剣を当てたりで、もはや下手とか苦手の範囲を超えている。
その代わり物を投げるのは得意みたいで石とか瓶とかは必中とまでは言わないけど10回投げて7~8回くらいは当たる。やっぱり後方から支援を任せた方が良いようだ。
「智香、もう下がっていいよ。後ろから毒瓶投げて。」
「は、はい!・・・えい!」
智香が蛙みたいな魔物に毒瓶を投げて毒状態にする。
「よし、いくよベルゼトス。」
(ふん、このような矮小な魔物に一々我を使う必要があるのか?)
「そう言うなよ。お前を強化するには必要なんだから。」
(まあ良いわ。それより毎回我に声を掛けなくても良いのだぞ?)
「気にしないでくれ。ただそうした方がなんとなく決まっているような気がするだけだ。」
(ほーう。そうかそうか。(ニヨニヨ))
「ニヨニヨするな気持ち悪い、別にいいだろ。」
(なんのことだ?我は何も駄目とは言っていないぞ。)
う、うぜぇぇー。こいつ、一々人の癇に障るなほんとに。
「聡さん?どうかしましたか?」
「っ!い、いや、大丈夫だよ。」
「そうですか?早くあの魔物を倒した方がいいと思いますよ。」
「うん、そうするよ。」
ベルゼトスと言い合いしていたら智香に話しかけられて少し驚いた。そのまま魔物を倒したけど、さっきのはちょっと駄目だったな。戦闘中にベルゼトスと喧嘩なんかしていたらいつかさっくり死んじゃうな。早く慣れていかないと・・・。
「よし、これで大丈夫。智香はどれくらいポイント貯まった?」
「えっと、全部で3400ポイントくらい貯まりました。」
結構貯まったな。これだけあればしばらくはポイントに困ることはないだろう。智香は剣は全然駄目だけど後方支援はそれなりに出来てきたから、もうそろそろ旅に出てもいいだろう。剣に関しては・・・諦めよう。これは一日二日で直るものじゃない。短剣のスキルを取ればいいんだろうが、智香のスキル構成は智香自身に任せている。正直そこは僕が口出しするところじゃないだろう。それに、智香曰く”すぐに貯まったポイントを使うよりはある程度まで貯めてから計画的に使った方がいいと思います。”と言っていたのでポイントをステに振るのはもうちょっと後になると思う。
「そろそろ戻ろうか。」
「はい。蛙の魔物はどうしますか?」
「一応、解体して食べる部分だけ持って帰ろうか。」
「はい!早速解体しますね。」
智香は凄く楽しそうに蛙の解体を進めていく。昨日、この蛙の肉を使って作ったご飯が美味しかったからだろう。最初に蛙の肉っていったときはちょっと驚いていたけど、一口食べてからはそんなに気にすることがなくなった。むしろ蛙を見つけたら率先して倒そうとするくらいだ。・・・そんなに蛙肉が好きなのか。もっと美味しい蛙料理を作ってみても良いかもな。
解体を終わらせたらいつものホテルに戻り料理をする。ちなみに智香はその間に風呂に入っている。
・・・覗かないよ?
ここに来てもう(?)5日目、この暮らしも今日で終わる。明日は千葉に行く予定だ。何処に行くか細かくは決めていないけど、それくらい大雑把の方が後々楽だし変更もしやすい。一応、徒歩で行くということでここから千葉までは大体10時間くらいになると予定している。まあ、戦闘とかハプニングとか起こったら一泊するかもしれないけど。
「今日の夕食は蛙肉のリゾットだ。」
「おぉ~、蛙肉のリゾットとっても美味しそうです。いただきます。」
「召し上がれ。」
いや~、それにしてもまさかこのホテルの厨房が使えるとは思わなかったな。今まではポイントでガスコンロとか買って料理を作っていたけどこれなら色々美味しい料理ができるから凄く良い。まあ、それも今日でお別れなんだけど。
「・・・んん~。とっても美味しいです。蛙肉はさっぱりした鶏肉みたいでコッテリしたリゾットといい感じに合いますね。」
「それはよかった。」
夕飯を食べたら僕は着替えたりして、智香は先にベッドで寝る。その後僕も明日の準備を確認してから寝る。ちなみに寝る場所は別の部屋だ。僕が1000号室で智香が999号室だ。当たり前だが念のため言っておく、変な事はしないよ?
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日差しが眩しい。
今日も晴れた朝が来たようだ。旅日和だな。
「聡さん、おはよう御座います。今日は絶好の旅日和ですね。」
「ああ、おはよう。そうだね、いい天気だ。ちょっと待っててすぐ準備するから。」
「はい、私も荷物の確認をしておきます。」
よし、ご飯も食べた、荷物も持った、部屋を片付けた。たつ鳥跡を濁さずだからな。これで準備万端!さあ行こう、千葉へ。
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とは言ったものの、中々進まない旅の道程・・・。
「やっぱり、魔物が結構多いですねー。」
智香の言うとおり、ホテルから離れれば離れるほど、魔物の数が増えていった。まるで昔のRPGみたいに3歩進んでエンカウントくらいの頻度だ。・・・もう少ししたら戦闘中に魔物が乱入して長期戦になるんじゃないかこれ?
――ドォン ドォン ドォン・・・
・・・やはり一筋縄では行かないようだ。
「聡さん!!大きいのが来ます。」
「ああ!分かってる!」
ドォン ドォン ドォン・・・
建物の影から出てきたのは人型の魔物。しかしその体は人のそれよりも巨大で、身長は3mくらいありそうな巨人だった。そして、人と違うのは頭部。大きく膨れ上がった後頭部に、前頭部にしか生えていない髪、眼は黄色く濁っており顔面は皺くちゃで醜悪だ。まるで鈍器か何かで殴られたような見た目だ。高かったと思われる鼻は右にずれて凹んでおり、口も細剣のような細いもので刺された痕が幾つも見える。唇は紫色にプックリと腫れているようだ。
「[鑑定]!」
[ビザールジャイアント](B+ランク)
通常の人間には有り得ない巨体と異様な頭部を持つ魔人。人の言葉を発することは出来ないが、理解することは出来る。巨体から繰り出される攻撃は見た目よりも早く重い。棍棒を持っていることもあるが持っていないときの方が強いので注意。それなりにダメージを与えると地面を叩いて地震を起こすので早めに倒すのがお勧め。
おお!!結構情報が多いぞ!なるほど、巨体だが速さはあるのか。気をつけないとな。棍棒は持っていないようだから、強さは変わらないか。地震を起こされるより先にケリをつけないとな。
「アイツの名前はビザールジャイアント!見た目よりも素早いから気をつけろ!」
「はい!」
よし、それじゃあ・・・
「召喚[暗黒騎士 ナイアル]」
黒い魔法陣から禍々しいオーラを出して、漆黒の鎧を纏った暗黒の騎士が召喚される。それはまるで深淵が騎士の形を模したかのようだった。
「ナイアル!敵の動きを止めて!」
ナイアルは僕の命令に頷くとビザールジャイアントに走って行く。
――ゴガアアアアァァァ!!!!
ビザールジャイアントが雄たけびをあげてナイアルに向かって走ってくるが、ナイアルはそれを真正面から受け止めて跳ね返している。
・・・最近、ナイアルを出していなかったから分からなかったけど滅茶苦茶強くね?まあ、ヘルハウンド相手に互角だったことを考えればB+ランクのビザールジャイアントは劣っているんだろうけどね。
「わわ!ナイアルさん、すっごく強いですね!あれを正面から受けて力で押し返しているなんて・・・。」
「ああ、そうだな。――ッッ!!?」
旅が始まると思ったか?その前に戦闘だ!
因みに智香ちゃんとのフレンド登録的な奴は既に済ませてあるので普通にポイントとかも得られるようになっています。後、作者はMMORPGやスマホのバトルゲーはよく分からないのでこの作品のキャラクターを成長させる方法はポイントによるものだけという設定にしています。