1.前編
気の向くまま書いたので、設定など深く考えずにお読みいただけると嬉しいです。
「其方だけが頼りだ」
ただ一人、敬愛する王の望みを心に刻みながら、クリスティーヌは両手を胸の前に重ね、口を開く。
「…御心のままに」
目の前に立つ王を見つめながら恭順の意を示した。
皇帝唯一の同母妹であり「帝国の華」と呼ばれたクリスティーヌ・アンジュ・ヴィクトワールが同盟国に嫁いだのは15の時。
夫である国王には嫁ぐ時点で高位貴族の令嬢が数名側室として入宮しており、子も成していた。
国王は皇女であるクリスティーヌを蔑ろにする事はなく、またクリスティーヌも王妃としての役割を全うした。
それから2年。
クリステーヌの目の前には夫である国王、その隣には愛らしい容貌の貴族と分かる令嬢が控えている。
「腹に私の子がいる」
またかと、クリステーヌは内心呆れた。
国王は為政者としては及第点であったが、如何せん女癖が悪い。嫁いで以降も様々な女性に手を出し「好色王」などという不名誉な名もつけられている。
最近では女性と過ごす時間の方が長く、側近達からの嘆願もあるくらいだ。
そんな国王でも唯一の救いは数多くの女性に子が生まれなかった事だろう。
子はクリステーヌが嫁ぐ前に産まれた女児だけで、世継ぎとなる男児は居ない。
子を成したとなると…クリステーヌは娘を見やった。
2年の間に培った貴族令嬢の記憶を思い起こす。
確か男爵令嬢であったか…他の側室達に比べ身分が低い。ましてや子が出来たとなっては側室達からの風当たりも強かろう。
「ねえ貴女。お名前は何とおっしゃるのかしら?」
クリステーヌの問いかけに娘はビクリと肩を震わすと緊張した面持ちで口を開く。
「マルグリット・ドルセンと申します。王妃殿下」
「ではマルグリット。貴女の事はわたくしが庇護いたします。安心して陛下の御子を産みなさい」
責められると思っていたのか、想定外の言葉を返されたマルグリットは目を見開いて驚きの表情を隠せていない。
反して国王は満足気に微笑んでいる。
「子が出来たからにはマルグリットは側室として召し上げる。其方だけが頼りだ。無事、子が産まれるよう頼む」
「仰せのままに…」
「其方だけが頼り」その言葉を何度聞いただろう。
手を出した女性達の対応は王妃であるクリステーヌに託されていた。その度にこの言葉を聞かされる。
クリステーヌに任せれば今まで同様、万事取り計らってくれると全幅の信頼をおいているのだろう。
故に世継ぎを産む可能性があるマルグリットの庇護を任せられる訳だ。
クリステーヌは国王に向かい微笑んだ。
そう…敬愛する王の願いを叶える事がクリステーヌの全てなのだから。