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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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鬼人の国へ。

「………ふむ。」


大きな月が浮かぶ夜。手すりに寄りかかりながら、1人の妖艶な鬼人は、背後からかけられた言葉に、思考を深めていた。


「よもや、悪魔と出会うとはのう。」


月の浮かぶ方向。エレスト王国があるであろう方位を目を細めて、鬼人はゆっくりと後ろを振り返る。


そこには、黒い布で顔を覆った、何人かの忍達が、鬼人の前に跪いていた。


「伝達せよ。一言も違えず。いいな?」

「は。」


鬼人は1人の忍にそう告げる。手に持つ気の太い棒を前に突き出し、ゆっくりと振りながら、撫でるような声で言い放つ。


「我が息子を連れてこい。鬼人化できるようになったのなら、妾に見せるのも許されよう。」

「承知。」


そう言うと、忍は一瞬で消え去った。それに続いて、他の忍達も去っていく。


「…………誰じゃ?」

「む。バレてしもうたか。」


全員の忍がいなくなったところで、鬼人は外に向かって面倒くさそうに呟く。と、その窓から、1人の少女が飛び込んできた。


「女帝殿の察知能力は流石でござるなぁ!!」

「今更何を言うか。妾が気づけぬ戯けなどおらん。むしろ、あれほどの忍の者達の誰にも気づかれぬお前の影の薄さを称賛すべきじゃ。」

「そうなのでござるか?女帝殿が言うのならそうでござるな!!」

「阿呆者。少しは自信で考えたらどうじゃ。」

「無理でござる!!拙者は考えるのが苦手な故!!思考など拙者には絶対に出来ぬでござる!!」


真っ白な長髪を揺らして、少女は平べったい胸を張る。対して巨大な胸を持つ鬼人はため息をついて、


「直に、我が息子がこの国に来るであろう。」

「ほう。女帝殿の息子でござるか。強いのでござるか?」

「妾は成長した奴を知らん。それはこの国で確かめるとしよう。」


棒をゆらゆらと揺らして、鬼人は夜空を眺める。そして、ゆっくりと舌なめずりをしたあと、


「息子を妾の物にする。エレストからは取り返さなければならん。」

「というと?」

「お前の協力が必要じゃ。」


鬼人は棒で少女を指し示して、


「亡き父の形見。喉から手が出るほど願うのじゃろう?」

「む………。」


押し黙った少女は、直ぐに顔を上げて、


「何をすれば良いのでござる。」

「ふむ。簡単な事じゃ。お前は息子を瀕死まで追い込め。治療と称して我がものにしよう。」

「承知致した。」


少女はそう言って立ち上がると、窓の手すりに乗っかって、


「約束。決して違えぬよう。」

「分かっておる。」


その言葉聞いて、少女は微笑んで頷いたあと、


「では、その時に。鬼人の女帝、零亡レイナ殿。」

「頼むぞ。四大剣将が1人、斬嵜ザンザキアカツキ。」


少女、アカツキは手すりから飛び降りる。高さは100m以上。60重塔の頂点から落ちていくアカツキは、地面寸前で、腰にしまってある刀を引き抜き、地面に魔力をたたきつけて威力を殺す。


「さて、拙者も寝床に着くとするでござるか。」


刀をしまい、アカツキは顎を抑えながら街中を歩いていく。


それは暗い、暗い暗い夜道だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「大変じゃー!!大変なのじゃー!!!!」

「るっせぇな朝っぱらから!!」


大きな声が城に響き渡る。寝起きの快斗は、その声の主を蹴り飛ばして黙らせる。


「こ、この儂を蹴るとは何事じゃ!!」

「お前は既に王の座破棄してんだから関係ねぇだろってんだ。んで?大変なことって?」


壁に突き刺さったリドルを引き抜いて、快斗は面倒くさそうに頭を掻きながらリドルに問う。


リドルが蹴られた轟音と、壁に突き刺さる轟音に、侍女やヒバリ達が目を覚まして歩いてきた。


「朝から何事だ?」

「ヒバリ聞いてくれぃ!!今世紀、いや、世界の歴史史上1番大変なことが起こったのじゃ!!」

「大袈裟だろ。」


饒舌に喋り散らかすリドルに、快斗が呆れの視線を送る。ヒバリはため息をついたあと、


「して、その大変なこととは?」

「うむ!!それはだな………」


ヒバリの問に、リドルは一息を置いて、


零亡レイナがライトの鬼人化を見たいというのじゃ!!」

「………あ?」


リドルの言葉に、快斗が疑問形を浮かべて首を傾げる。


「それだけなら別にいいじゃねぇか。」

「それだけじゃないのじゃ!!考えてみろ。零亡レイナから儂は親権を奪ったのじゃ。その恨みとして、ライトを儂から奪い取ろうという魂胆に違いないわい!!」

「考えすぎだっての。」


相変わらず大袈裟なことばかりほざくリドルをもう一度壁に突き刺し、快斗はライトに振り返る。


「ライトは鬼人の国にいったことはあるのか?」

「ないです。父さんに行くなと言われてたので……」

「ライトがあっちに行ってしまったら、儂は心配で心臓が爆発するのじゃ!!」

「お前はちょっち黙ってろ。はぁ……んで?どうよライト。産みの親がお前に会いたいんだとよ。」


ライトは少し考えたあと、


「姉さんはどう思う?」

「私があまり口を出せるものではないが……1度、産みの親にあってみるのも悪くは無いんじゃないか?」

「じゃあそうします。姉さんがいうのなら!!」

「シスコンに拍車がかかってやがる。」


姉絶対主義のライトは、鬼人の国に行くことを決意する。その安易すぎる決断に、快斗と高谷は顔を見合わせて笑う。


「んま、心配すんなってリドル。俺がついてんだから、お前は何も心配せずにライトを送り出せって。」

「むぅ……しかしぃ~……」

「可愛い子には旅をさせろっていうでしょ?俺も行きますし、大丈夫ですって。」

「た、高谷殿まで……。むぅ……ルーネスよ。お前はどう思う。」


リドルは考え込むような声を上げ、ルーネスに助けてくれという気持ちを精一杯のせた言葉をかけると、


「私は、快斗様の言う事に従います。」

「なんでなのじゃ!!」

「つか、それだとルーネスさんが女王になってる意味が無いんだが……。」


判断は快斗に任せる。と言っているようなもの。ルーネスはそんな爆弾発言をケロッと言ってのける。


「私は快斗様を信じておりますので。」

「ん。それはありがと。それじゃ、鬼人の国に行くってことで決まりだな。」


快斗が話を先導すると、皆が頷いた。


「み、皆が言うのなら……分かったのじゃ、ライトを任せるのじゃ。」

「おう。しっかり任されたぜ。」

「ただし……1つ条件があるのじゃ!!」

「なんだよ。」


渋々納得したリドルは、大きな声を上げて、快斗にその条件を話した。その条件を聞いて、快斗は、


「ん。構わねぇ。」


と、二つ返事で返したのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


翌日、鬼人の国に向かうため、皆が王国の防壁の前に立っていた。


メンバーは、快斗、高谷、原野、サリエル、ライト、リン、ヒバリ、そしてヒナ。


追加で、


「誰が来るかと思ったら、」

「おう!!俺が来てやったぜ!!」


背中に巨大な荷物入れを背負った、『拳豪』エリメアが、晴れ晴れとした笑顔で合流した。


「リアン達は?」

「もう次の任務に出ちまった。『勇者』は忙しいもんだな!!」

「お前もその一員だけどな。」


やれやれと首を振るエリメアを見て、快斗は呆れたようにため息を着く。


「んで?何故にヒナも着いてくるんだ?」

「鬼人の国には、沢山の美味しいものがあると聞いていたので、行ってみたかったんですよぉ!!いや~ついに行ける日が来るなんてなぁ~。」

「なんで今まで行かなかったんだよ。」

「お金がなかったんです!!」

「堂々と言うな。」


小さなリュックを背負ってピョンピョン跳ねるヒナは、既に馬車の中に乗り込んでいる。


快斗もそれに続いて馬車に乗り込み、次に乗り込むヒバリの手を引いて中へ連れ込む。


「すまない。」

「気にすんなよ。」


視線を交わして一言。快斗はヒバリの手の感触を忘れまいと手を上げたままにする。


「もう今日はこの手洗えねぇ。」

「汚いよ。食事の時は洗ってね。」


正論をたたきつけた高谷に、快斗は「えー」と残念そうに唸って手を降ろす。


「全員、乗り込みましたでしょうか?」


ルーネスが馬車の中を覗き込み、全員が頷いた。


「では、快斗様がいなくなるという災害レベルで悲しい出来事ですが、どうぞ良い旅を。」


ルーネスは名残惜しそうに、出来るだけ快斗を見ていたいと目を離さずに後退していく。


何してんだと笑う快斗は、膝上に座るリンの頭を撫でながらルーネスの後ろに集まっている『侵略者インベーダー』達に目を向ける。


「行ってくるぜ!!」


快斗が叫んで手を振ると、全員が元気よく手を振り返した。


やることは終わったと頷いた快斗は、馬車馬の手綱を握るライトに指示を出す。


「いいぜ。」

「はい。行きます。」


ライトが手綱を弾く。馬はそれに反応して走り出した。


「さて、どうなるかな。」


高谷は隙間から見える空を見つめて、小さく呟いた。


快斗はリンとヒバリとじゃれ、原野とサリエルは高谷を挟んで話し、ライトはヒナと話しながら馬を操っている。


「楽しくなるんじゃねぇか。」

「そうなるのいいんだけどね。」


つぶやきを耳にした快斗が高谷にそう言った。高谷は苦笑してそれに答える。


快斗は草薙剣に触れて笑うと、


「鬼人の国って、正式名称は……」

「鬼人の国だよ。」

「やっぱりそうなのか……」

「露骨に残念そうにしないの。」


全く関係のない問いをかけ、馬車内の空気を明るくしたのだった。

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