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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ただいま、かな?

「お疲れ様です。」

「はい。お世話になりました。」


礼儀よくお辞儀をして、高谷は牢獄をあとにする。門番は軽く会釈をして、またいつものように、どこかをじっと眺めるようにして黙り込んだ。


高谷は苦笑して頬を掻きながら、衣服などが入った荷物入れを持ち上げて柵の出口へと向かう。


繰り返された処刑、1つ1つを思い出し、高谷は斬られた感覚と、1発1発の処刑人の気持ちを考える。


何度も同じ人間を斬るなど、処刑人にとっては苦痛だったのかもしれない。現実で罰を受け続け、その苦痛から救うための斬首だ。


だと言うのに、何度斬っても苦しむだけの高谷を見て、処刑人は何を思ったのだろうか。


それは本人しか知らない。だがなんとなく、高谷もその気持ちがわかるような気がした。


例外、というものはいつだって付き物だ。それを得と捉えるか、そんと捉えるか。それが重要なのだろう。


彼女はどう思っただろう。気持ち悪いと内心で損を主張していたか。刀を振る練習になると内心で得を主張していたか。


そんなこといつまで考えたって分かるはずもないのに、高谷は不思議とその思考にのめり込んでしまう。


そして周りが見えなくなりかけたその時、


「高谷~!!」

「ッ………わぁ、たくさん連れてきたなぁ……」


出口の前。高谷とは反対側の柵の前に、『侵略者インベーダー』の人々と、ヒバリ、ライト、ヒナ、リン、ルーネス、原野、サリエル、そして快斗が、元気よく手を振って、高谷の帰りを祝福していた。


「ハァ………感動しちゃうなぁ……」


友人達に帰還を喜ばれる嬉しさに浸りつつ、高谷は柵の扉をゆっくりと押し開ける。


「「高谷君!!」」

「高谷様。」

「高谷殿。」

「高谷お兄ちゃん!!」

「「高谷さん!!」」


見知ったメンツが、高谷に飛びつくように群がる。「わぁ、」と声を上げて高谷は驚いた。


「な、なにさ。皆そんなに……」

「どこも痛くない!?大丈夫!?首斬られたんでしょ!?もう大丈夫だから!!」

「う、うん……。」


原野が高谷の首を勢いよく叩き、腕を掴んでブンブンと振り回す。もげそうになる腕を諦め、高谷は原野を宥める。


「もう!!心配したんだから……本当に……。」

「うん。ごめん。心配してくれてありがとう。」


怒ったような泣きそうな顔の原野に、謝罪と感謝の言葉をかける。原野は納得したように頷いて、「次は相談して!!」と鼻をつついて戻っていく。


「俺は『不死』だから心配なんて必要ないのになぁ………」

「それ以外でも心配してんだろうよ。あいつは。」


頭を搔く高谷の横に並んで、快斗は面白がるように笑って原野の背中を眺める。それから直ぐに高谷に向き直って、


「まぁ、俺が言うのもなんだけど、おかえり、ってな。」

「うん。ただいま、かな?」


苦笑いの快斗に苦笑いで返して、高谷は皆に続いて歩き出す。


「高谷様!!」

「ん?」

「あれは………」


と、そんな高谷を1人の女性が引き止めた。背が高く、長い髪をポニーテールに纏めたその人は、


「ルージュさんじゃないですか。」

「は、はい。」


処刑されかけたルージュだった。


「何か用ですか。」

「あの、助けていただき、ありがとうございます。この大恩は必ず、何かしらの形で……」

「いや、別にいいんですけど……」


早口に言われ続け、高谷は重要部分を切り取って理解する。


「大恩って……」

「斬首という苦しい刑を、私のために30回受けてくださったんです。決して、この恩を返さない訳には……この命に変えても……」

「急に重たくたったなぁ……」


頭を深々と下げて淡々と述べていくルージュに、高谷は若干引き気味だ。


「まぁ、恩はなんでもいいんですね?」

「はい!!慰めるのにも、踏みつけるにも、ここで殺すにも、どうぞお好きに……。体には自信があります!!」

「そんな性奴隷みたいな扱いはしないよ。」


最低な自分の扱いを望むルージュに呆れつつ、高谷は顎に手を当てて考える。快斗はその耳に小さな声で呟く。


「どうせだったらもう性奴隷として貰っとけよ。」

「なんでそんな最低なことしなきゃならないのさ。」

「だってよ。あのスタイル見てみろよ。男児の夢だぞ。ルーネスさんと同じくらいだ。」

「ん……確かに……」


耳元で囁かれる甘い言葉に、高谷は徐々に流されるが何とか思考を戻し、高谷は思いついたように指を鳴らして、


「じゃあ、この先で俺が求めた事を1つだけ、反論も何もなしに受け入れてください。」

「そ、そんなことでいいのですか?」

「うん。別に構わないよ。斬首も……いい経験とは言えないけど、なかなかない物だからね。ポジティブに捉えていこうってことさ。じゃあ、そういうことで。」


そう言うと、高谷はそそくさとルージュの前から去っていく。快斗が「勿体ねぇ!!」と叫びながら高谷について行く。皆もそれに続き

、ルージュの前にはルーネスだけが残った。


「じ、女王様……。」

「今はルーネスでいいです。」

「ね、姉上……。」

「高谷様の慈悲に溺れましたね。」

「………はい。」


ルーネスの言葉に、ルージュは忝ないという様子で頷く。ルーネスは「ふぅ……」とため息をついて、


「良かったですね。高谷様がお優しい方で。」

「優しいなんて物じゃないと思います。あの方は、慈悲深すぎる。」

「そうですねぇ……」


頬に手を当てて、ルーネスは歩いていく快斗と高谷の背を眺める。


「ルージュは、高谷様になんと言われると思っていたのですか。」

「………服を脱いで四つん這いになれと。」

「どんなプレイですか。高谷様はそんなこといたしませんよ。」

「確かに、そうですね。」


軽く笑うルージュを見て、ルーネスは「ふふ。」と微笑んで、


「ルージュは笑った方が綺麗ですよ。」

「いきなりなんですか。」

「いえ。これからの為のアドバイスとして受け取ってください。」

「これからの為のアドバイス?」


ルーネスの言葉をオウム返しに聞き返すルージュの唇に指を当て、ルーネスは快斗の真似をしてウィンクをする。


「高谷様を手に入れるための、ですよ。」

「ッ!!」


ルーネスの言葉に、ルージュは驚愕1色で染まった表情になり、その場から1歩下がる。


「て、手に入れるため……とは?」

「冷静を装っても分かりますよ。」

「な、何を言って……」

「高谷様にゾッコンなんでしょう?」

「そ、そんなわけ……!!」

「高谷様との会話で、あなたの心拍数は著しく増加しています。そして、頬が赤くなるのが見えれば、誰だって気づけますよ。」

「ッ!?」

「あなたという人は、隠すのが下手くそですね。」

「あ、姉上はオープン過ぎるのです!!」

「私は一途な思いを口にしているだけです。これが普通だと思うのですが?」

「普通じゃありません!!」


ルーネスの軽口に食らいつくようにルージュが反論する。


「そうカッカとならないでくださいよ。せっかくの美人が台無しです。」

「ま、また話を逸らすのですね……」

「とにかく、高谷様を手に入れたいのならば、まずは笑顔と、『愛してる』の言葉です。一緒に練習しましょう。」

「絶対に嫌です!!私はそんな言葉を口にできる根性は持ち合わせておりません!!」

「あら。残念。」


ルーネスは悩むように首をかしげながら城へと歩いていく。ルージュもそれに続く。


「快斗様は、『愛してる』と言う度に喜んでくれますよ。高谷様もきっとそうです。」

「ですから、私は高谷様のことをそんな……」

「そんな装いはいいですから、高谷様をルージュに惚れさせる方法を考えましょう。取り敢えず、『愛してる』からです。」

「姉上それ好きですね!!それと、私は断じてそんな言葉を言いません!!」


ルージュは顔を俯かせて、


「20代後半の女性が、よくそんな言葉を……」

「何か言いました?」

「い、いえ……なんでもございません姉上。ですから、その殺気を私に向けないで下さい!!姉上!!謝りますから!!誠心誠意謝りますから!!」


のしかかる殺気に振るえて、ルージュがルーネスの前から逃げ出す。


「逃がしませんよ。しっかり調教しましょう。」


その後をルーネスが負う。年甲斐もなく屋根の上を走り回る2人。ルーネスは覚醒した体を駆使して容易にルージュに追いつき、ルージュは『銀閣』を発動してさらに逃げる。


「久しぶりのかけっこですね。本気で行きましょう!!」


『金閣』を発動したルーネスがルージュを追う。高速にすぎていく景色。様々な形状の家を駆け抜けるのは、かなりの体力を要し、この後の2人は、揃ってくたびれ果てていた。


だが、この疲れや汗がなぜだか懐かしく感じられ、2人は姉妹としての初めての思い出を噛み締めるようにして、仲良く城の大風呂へと向かっていった。


その後、高速に走り回る2人の女性は、王都のあちらこちらで目撃され、後に『女王に歳を聞くことなかれ』ということわざが出来上がるほどに有名となった。


これを聞いた快斗は、「確かに」と納得してしまったのだという。


ちなみに意味は、言葉を選ばずに話せば、いつしか逆鱗に触れてしまうため気をつけろ、というものだった。



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