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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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無理な話

「ルージュ・サンネルフは、王国転覆に、悪意極まりない暴行や、何より、妖艶魔サキュバスの力を借り、偽りの力で民を脅していた。しまいには、この国を滅ぼしかねない厄災を呼び起こした。」


両腕を後ろで縛られ、十字架の前で跪かされるルージュの頭上から、野太い男の声が響く。


「その罪、死をもって償いなさい。」


コン、と大きな音が響く。周りから一気に視線が集中されるのが分かる。


「よって、1000回の鞭打ちの後、30回の斬首の刑に処す。」


こうなることは理解していた。住民は死ななかったものの、街に重大な被害を出し、王国に対する敵対していると考えられても仕方がない。


故に、ルージュはこの下された判決に、


「異論はあるか。」

「………ありません。」


異議を唱えることなく、その刑を受け入れた。脳裏に姉の顔が浮かぶ。愛すと言ってくれた姉を裏切るような形となってしまった。

そんな自分が不甲斐なくて、ルージュは乾いた笑いが飛び出した。


「罪人を処刑場へ。」


野太いその声、それは裁判官のもの。ルージュはその言葉に従ってゆっくりと立ち上がり、首に付けられた鎖に引かれ、その裁判所から出されると思われたその時、


「待って。異議だよ異議。」

「………何?」


観客席の方から1つ。真っ直ぐに手が挙げられた。それは、


「高谷殿?異議、とは?」

「うん。」


高谷は裁判官に問われ、先程ルージュがいた所に飛び降りる。


「まぁ、異議って言っていいのか分からないんだけど」

「異議ならばはっきりと申してください。」

「分かりました。では言います。………この刑、俺が受け持ちます。」

「ッ!?」


高谷の言葉に、観客達やルージュは驚愕して目を見開いた。高谷は振り向いてルージュに微笑むと、


「ルージュさんには、まだ必要としてくれてる人がいるでしょう?ここで死なせる訳には行かないよ。」

「高谷殿……?」

「処刑は俺が受け持つよ。大丈夫さ。俺は死なない。『不死』だからね。」


それからはルージュにとって夢のような出来事が続いた。高谷は頑なに自身の意見を貫き通し、反対する大臣や観客達を黙らせて行く。


裁判官の顔は見えなかったが、その雰囲気は1つ。面白い、というものか。


「………分かりました。」

「…………。」

「罪人、ルージュ・サンネルフの罪は、英雄、高谷殿に引き継がれる。」


観衆がざわめく。ルージュはただ驚きの表情で高谷を見ている。高谷は大きく頷いたあと、


「気にしないでよ。」


と、言って、ルージュの肩を叩いた。それから、高谷は兵士達に連れられて、処刑場へと向かっていったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今ので処刑は18回目。首は18回刎ねられた。


斬られる瞬間は、毎回変わらず死の痛みがする。王国公認の呪術により、『慣れる』ということが、今の高谷にはすることが出来ない。


その痛みは、何度受けても耐え難い。首が戻った瞬間のトラウマは、今でも鮮明に蘇る。


「今日は……何回やるんだろ。」


快斗が寝ている間に1日6回の処刑が行われたため、今日もそれと同じと考えてるべきであろう。


高谷は閉められた牢屋の中から、その檻の前で退屈そうにする看守を見て、


「今は何時ですか?」


と問いかけた。看守はゆっくりと高谷の方をむくと、


「知らん。」

「………そうですか。」


ぶっきらぼうな表情でそう言い放った。


彼は何度問いかけたとしても、その言葉しか話さない。否、話せないのだ。


過去の罪人。アールド。数年前に牢獄内に出現した魔獣を退治したという功績が認められ、牢獄から出されるところまでは行かなかったが、比較的自由な環境で、看守として採用された。


高谷同様、王国公認の呪術によって『知らん』としか喋られなくなってしまったのだが。


と、入口方面から1つの気配を感じて、高谷がそちらを向くと、


「よぉ。高谷。元気にしてっか?」

「快斗か。うん。元気にしてるよ。」


快斗が軽く手を振りながら、高谷の前に現れた。


「ビクッたぜ。お前が処刑されてるって聞いてな。」

「ごめん。言う時がなかったのさ。」


高谷が軽く微笑んだ。


「ルージュって人を庇ったのか。」

「あの人はまだ死んじゃいけないと思うんだよ。ルーネスさんの大切な妹でしょ?それに俺は死なないんだし。」

「だからって処刑を受け持つなんて普通は考えねぇけどな。」


快斗は心配そうな表情だが、内心では意外と元気な姿の高谷を見て安心していた。


それを感じたのか、高谷はにっこり笑って、


「処刑されたぐらいで俺は壊れないよ。」

「………なら、いいんだけどよ。」


快斗は頭を掻いた後、思い出したというように手をポンと叩いて、


「原野からの伝言だ。」

「伝言?」

「そ。あいつ自分でいえばいいのに勇気がないんだとよ。」


快斗はやれやれというふうに頭を振って、高谷の目の前に座ると、


「『無茶しないでよ。』だと。」

「………わかった。ごめんって伝えてよ。」

「了解。」


快斗は高谷の願いを受け入れて、そそくさと牢獄を後にした。


高谷は快斗の後ろ姿をしばらく眺めていたが、それが見えなくなると手に嵌められた枷を握りしめて、


「………それは、無理な話だ。」


1人、鉄格子越しに空を眺めていた。


そしてこの日は、いつもより高谷が処刑を求めたため、9回の処刑が行われたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その夜、


「ケインさん。これあっちに持ってってくれますか?」

「はい。分かりました。」

「あ、リンちゃんはこっちの野菜切って貰えますか?」

「分かりました。斬るのは得意です。」

「『きる』の字が違いますよリンちゃん!?」


グツグツと煮えたぎる大きな鍋を掻き混ぜながら、大きなツインテールの少女。ヒナはケインとリンに料理の指示を出していた。


「快斗さんと高谷さんが言っていた『かれー』とはこれのことでしょうか?」


入手困難だった様々なスパイスを組み合わせて、ヒナは少しずつ茶色に染っていく鍋の中身を味見して頷く。


「いい感じですね。夜ご飯はこれで大丈夫そうです。」

「野菜はこの皿に盛っておきますね。」

「ありがとうございますリンちゃん。」

「ヒナさん。ご飯が盛れたのでルーをかけてください。」

「分かりました。」


お玉で丸く盛られた白米にルーをかける。湯気がたち、ホクホクの白米が旨みのベールを被る。


「美味しそう!!」

「待ってくださいねリンちゃん。今水を持ってくるので。」


ヒナはカレーの前ではしゃぐリンを微笑ましげに見つめてから、グラスを取りに棚に向かった。


棚を開け、逆さまに立てられたグラスを取ろうと手を伸ばしたその時、


「あれ?」


グラスが大きく揺れ、続いてヒナも重力に負けて地面に倒れた。


後ろではいくつかの皿が割れる音と、リンの物と思われる小さな悲鳴が聞こえた。


「大丈夫ですか!?」


ヒナがそう言ってリンに駆け寄る。


「怪我してませんか?」

「はい。私はしてない、です。でも今のは何?」

「分かりません。きっと地震だと思うのですが………ッ!?」


ヒナがリンにそう言い聞かせようとした時、楽園エデンの防壁を超えて高速でこちらに向かってくる魔力を感知した。


「ケインさん伏せて!!」

「分かっています!!」


ケインもそれを感知したようで、すぐさま地面に伏せた。すると、ヒナの真上を掠めて、斬撃が家を斬り飛ばした。


「きゃあ!?」

「く……一体、何者ですか!!」


ヒナが瓦礫が吹き荒れる中、その斬撃を放ってあろう人物に叫ぶ。煙の中から現れたその人物は、


「メサイア幹部『四番』、アシメル。悪魔、天野快斗を殺すため………君達を人質にするよ。」


獰猛に瞳を輝かせ、赤茶色の髪の少女、アシメルは、両手に持つ鉈を月光に反射させて、そう宣言したのだった。

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