費用はお前の小遣いから。
「俺には、何故だかしらねぇけどもう怨念がついてねぇ。だから、お前が怨念を作って具現化してくれねぇか?」
処刑場に向かう途中。言われたのは衝撃の一言。
快斗が言うには、怨念の具現化したもので自身を傷つけさせ、国民達に罪を受けたと言うことを証明したいらしい。
サリエルは納得する。快斗は分かっていなかったのだろうが、既に快斗が殺めた人々は、ニグラネクスを貫いた時に消え去っている。
エレストの国民達を守るその行為を目の当たりにして、全員が許したということだ。
だと言うのに…………
「………わかったよ。」
サリエルは、小さくそう答えたのだった。
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「ふぅ………」
「これでよろしいですか?」
「あぁ。サンキュ。ルーネスさん。」
目が覚めた快斗の左目に黒い眼帯をルーネスが取りつける。快斗は左目を擦りながら立ち上がり、
「国民達はどうだった?」
「ひとまずは様子見……といった様子でしょうか。」
「あそこまでやって様子見かぁ……まぁ、大量虐殺者なんてそうそう信用出来ねぇか。」
「私は信じています。」
「ん。あんがと。」
自分を虐げる快斗に、ルーネスが切ない表情になる。そんな顔を見て、快斗は苦笑して、
「んま、何はともあれ、これでやるべきことは片付いただろ。あとは、少しづつ国民達から信用されるよう、死力を尽くすっきゃねーな。」
「そうですね。ふふ。」
切り替えの早い快斗を見て一笑したルーネスは立ち上がって快斗の後に続く。
と、快斗は「そういえば」と呟いて振り返り、
「なんでルーネスさんドレスなの?」
「今宵は宴だからですよ。国民に王族に大臣達に貴族に……この国の殆どの人々が、今宵、盛大なパーティを開くようです。貧民街にも、炊き出しなどの食料が提供されるようです。」
「ふーん。それ、誰が決めたの。」
「ヒバリ様とライト様ですよ。1番苦労した快斗様の為に宴を開きたい、と仰っていました。」
「へぇ……1番ねぇ……。」
快斗は腕を組んで考える。思い出されるのは始まりの。川市で出会った時のライト。
姉は捕まり、誰にも信じられず、魂を削られ、身も心も弱っていたはず、それでも、姉を救おうと走り回った。
誰にも話すことは出来ず、相談することは出来ず、ただ影に愚痴を吐くのみ。追われ続ける恐怖とプレッシャー。それは決して小さなものではなかったはずだ。
つまり、今回のMVPは……
「あ、そういえば、」
「どうなさいましたか?」
ポンと手を叩いて、快斗はあることを思いだす。
「ルーネスさん。俺が頼んだやつってさ。」
「そういえば、そろそろ完成している時間ですね。」
「だよね。俺取ってくるわ。ルーネスさん。は、宴の会場に緑結晶の柱でもたたておいてくれ。場所分かんないから。」
「了解しました。」
快斗は急ぎ足で、廊下の窓を開けて、街へ飛び出して行った。
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「ぼ、僕は男の子なんだけど………」
「いえライト様!!こちらの方がお似合いです!!」
「ええ!!まったく!!お綺麗ですよ!!ねぇ?リドル様?」
「その通りじゃ!!ライト!!ここは妥協してこの衣装でいておくれ!!儂は目を癒したいのじゃ!!」
大きな鏡が用意された部屋の中で、ライトは宴に出るための衣装を着用していた。
が、その衣装は、
「ど、ドレスなんて……僕に似合うのかな………」
「ライトはどんな衣装でも似合うぞ!!自信を持つのじゃ!!」
「で、でも僕男の子なのに……」
黄色いドレスに、赤いリボンでポニーテールにされた金髪。そこらの貴族令嬢も足元に及ばないほどの美人に仕上がっている。
「こんなので、父さんは癒されるの?」
「息子の着飾った姿を見て癒されん親などおらん!!儂は今のライトを見て眼福じゃぞ!!」
「そ、そうなの?」
戸惑いながらも、ライトはフリフリのドレスを来て部屋を出ていく。慣れない服装に転びそうになるが、2人の侍女が支えているため転ぶことは無い。
「良い事じゃ。儂は幸せものじゃのぉ。」
「息子にドレスを着せることが良い事なのですか?」
「ぬお!?ヒバリいたのか!?」
壁に立てかけられたリドルに軽蔑の眼差しを向けるのは、真っ黒なドレスを来たヒバリだ。
「おお!!ヒバリ!!似合っておるぞ!!」
「ドレスは苦手だ………」
普段の楚々とした雰囲気の服装とは違い、黒い薔薇やリボンで飾られ、開かれた胸元からは隠れていた巨乳がさらけ出されている。
「眼福じゃなぁ……儂の子供は2人とも麗しいのじゃ!!」
「今のあなたは見下げたものですけどね。」
「辛辣じゃ!!」
見下す姿勢でリドルを見つめから、ヒバリはため息をついてリドルを持ち上げて部屋を出ていく。
「うむ。いい光景じゃ。愛娘の神秘の双丘がこんなに間近で見られるとは。」
「気持ち悪いです。人として価値がないですよ父様。」
「言い過ぎじゃ!!」
リドルの変態発言にさらに気分を悪くしたヒバリはそそくさと宴の会場を向かう。早くリドルを自身の身から離したいのだ。
だが、こうして親子水入らず、とは言えないが、数少ない親子の会話を少なからず楽しんでいることを、ヒバリは誰にも言わなかった。
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宴の会場は城の前の大広場。そして、真ん中の大きな噴水の上には、
「『緑結晶の塔』。」
美しい緑色の結晶の塔が天高く形成され、集まった人々は、宴が始まるのを待ちながら、その塔に目を奪われていた。
「ルーネスさん。快斗君は?」
「少し用事がおありでして、そろそろ来ると思うのですが……」
既に準備は整っている。あとは主役が来れば開演というところなのだが、その主役様は未だに姿を見せない。
「一体何してるんだ快斗……。宴があることは言ったんでしょう?」
「ええ。」
「快斗に限って忘れるなんてことは無いはずなんだが………」
高谷は顎に手を当てて呆れている。いつもとは違い、服装は真っ白なズボンにタクシードのようなスーツのようなものを着ている。
どちらにしろ、原野は高谷の衣装を見て撃沈したのだが。
「快斗さんはまだ来ないんですか?」
「あ、ライト君、ってライト君!?」
「ええ!?何その衣装……?」
「父さんがこれを着て欲しいと言ったので。」
「あ、あの人は……」
「でも似合っちゃってるんだよねぇ……」
後ろから現れたライトの衣装を見て、原野と高谷は驚きの声を上げる。命じたのはリドルと知って、2人は更に呆れる。
「どうじゃヒバリ!!ライトの衣装は!!似合っておるじゃろう!!」
「ライトは何を着ても似合います。ですが………流石に、ドレスはないと、私は思うのですが……」
その後ろから、リドルを抱き抱えたヒバリが現れる。瞬間、貴族の男連中の視線が一斉にヒバリへと注がれる。どの視線も、ヒバリに少なからず下心を含んだ視線だ。
それに気付いているヒバリはため息をついて、
「私は婚約などしない。生涯、剣を振り続ける1人の戦士として生きていくつもりだ。それを弁えて貰いたい。」
ヒバリがそう言うと、視線を向けていた貴族達は残念そうに顔を逸らした。
「高谷さん。僕の衣装って似合っているんですか?」
「うん……多分……似合ってるよ。なんとなく、ライトがどんどん女の子に変えられていってる気がするけど。」
ライトは高谷に、他では見せないような笑顔を向けて話している。それを見たヒバリ、原野は顔をしかめて、
「ライト。一旦こっちに来い。」
「?はい。姉さん。」
「高谷君。こっち来て。」
「?なんか、原野顔怖いよ?」
ヒバリがライトを引き、原野が高谷を引く。
「いいかライト。まだお前は14だ。嫁に行くには早い。それ以前に、まだ互いのことをよくわかっていないだろう?」
「え?」
「もう少し時間を置くべきだ。理解し合い、協力し合い、欠点を埋め合う。その能力があるかどうか判断できるまで、私は高谷殿との交際は認めんぞ!!」
「儂もじゃ!!」
「姉さん!?父さん!?なんの話しをしているの!?」
「高谷君もだよ。」
「交際なんてするつもりないよ!!」
家に連れられてきた男を評価する親の如く、ヒバリはライトに言い聞かせる。
と、盛大な勘違いで起こった騒ぎを沈めたのは、
「お、見っけた見っけた!!おーい!!」
天空からの声。皆が上を見上げた瞬間、地面に鈍い音ともに何かが突き刺さる。それは、草薙剣と掘られた美しい紫色の刀で、
「と。いや~悪ぃ悪ぃ、時間かかったわ。ちょっち選ぶのに時間がかかっちまってな。」
その草薙剣の傍に前触れなく『転移』して現れたのは、
「おし。宴の主役様。天野快斗見参!!しゃあー!!酒をよこせー!!」
「いきなりすぎるよ!!」
ジーンズに灰色の服、ではなく、真っ黒なスーツとブーツを履いた、楚々とした雰囲気を漂わせる服装をした快斗が、酒樽に向かって全力で走り出した。
急な出来事に周りの人々はしばらく黙っていたが、豪快に酒を飲み干す快斗と、それを見て騒ぎ始める高谷達を見て吹っ切れたのか、盛大に騒ぎ始めた。
「快斗さん!!」
「おお!!ライトかってなんだその服!?」
「やっぱりそうなるよね。」
「でも、似合ってるんだよね。」
酒樽をそのまま傾けて飲み干そうとする快斗に飛びつくライトを見て、快斗は瞠目する。
「やったら美人だと思ったらライトだったのかよ。つーか、もうライト女子じゃん。本当の女子も超える超絶美少女じゃん。てあ、そうだ。」
ライトの頭を撫でながら、快斗は苦笑いして『アンデッドホール』を開き、ある物を取り出す。
「ほい。ライト。」
「なんですか?これ。」
「まぁ開けてみろよ。」
それは1つの箱。快斗はライトにそれを開けてみるように促す。それに従って、ライトが箱を開けてみると、
「わぁ、ナックルですか?」
そこに入っていたのは、幾何学的な模様が描かれている銀色のナックルだった。
「かなり精密に作ってあるはずだぜ。絶妙な温度で熱した軟鉄が指の部分に配合されてて、指を曲げることをできるらしい。あとは、ここ。この穴。」
「なんの穴ですか?」
「ライトは雷鳴魔力を使うだろ?だからさ。1つ思いついたんだよね。これはめてから魔力を流してみて。」
「はい。」
ライトがナックルを取り出して、細く白い腕にそれをはめ込んで魔力を流す。すると、
「わぁ!!」
甲の部分についている穴から、ライトが流した雷鳴魔力が刃の形になって突き出された。
「どうよ。剣持ち槍持ち弓矢持ちと対抗するため、俺が考えに考え抜いた結果出来上がった機能がこれだ。刃を防ぎつつ、威力を底上げ。そして最後にこの穴から飛び出す魔力刃だ。」
快斗は親指と人差し指と小指を立て、ウィンクしながら、
「名付けて、『光の刃』、だ!!」
「「え。」」
パクリじゃねぇか!!と心の中で叫ぶ高谷と原野を置いて、ライトは目を輝かせて喜んでいる。
「ありがとうごさいます!!大切に使います!!」
「ん。今回のMVPはライトだからな。ちなみに……」
快斗はゆっくりと高谷に視線を向ける。高谷は何故快斗がこちらを見たのか分からなかったが、1つの予想が浮かんだ瞬間に急に青ざめて……
「これの費用は、高谷の小遣いから引かせてもらった。」
「おぃいいい!!」
「はは。逃げろ逃げろぉ!!」
それから数分間快斗と高谷が走り回る光景を、国中の人々が目撃して笑い話になってしまったのは、関係の無い話である。