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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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断罪

処刑場にて、快斗は観客席に座る国民達が選んだ代表や大臣達の視線を一身に受けながら、原野とあることを進めていた。


「か、快斗君。本当にやるの?」

「ん。前からこれはやるべきだろうとは思ってたからな。」


快斗は原野が準備を進める間、何をするのかと疑問符を浮かべる国民達に向かって、


「え~。皆、俺がこの国を一応救ったってことは知ってるよな?」

「…………。」


国民達は喋らない。それは、快斗に対する警戒心と反抗心と恐怖のせいとも言える。


「実質。皆は納得してないんだろ?俺が王宮騎士勲章がもらえるとかどうとか。」

「…………。」


反応は変わらない。が、快斗の話していることは全て真実で、実際、国民達は快斗に国を救ったという事実があったとしても、その前にセルス街での無差別殺人。それ以前に悪魔であるということがある。


新たな英雄と喜ぶことが出来ない理由は簡単だった。


つまりは、


「皆は俺を罪深い悪魔だと思ってるわけだ。」


力なく快斗が笑って言う。原野や高谷達は少し悲しそうな表情で快斗を見つめる。


「まぁ、それは当然の事だ。全員、俺は人殺し。国を救ったとて、罪が消えるわけじゃねぇ。そう思ってるわけだろ?」

「…………。」


国民達は押し黙ったまま。だが、明らかに視線に新たな感情が現れていた。それは、怒り。その当然のことを理解しておきながらヘラヘラと生きている快斗への怒り。


1人の国民が、快斗に向かって石を投げつけた。綺麗な放物線を描いて、それは快斗の目を直撃する。


「快斗君!?」

「いや、いい。」


また1人。また1人と石を投げつける。その勢いは少しづつ増していく。数個から数十個。ゆっくりから速くへ。


快斗は全身を黙って投げつけられる石で打たれながら、反撃も何もせずに、ただそれがおさまるのを待つ。


「快斗君………」

「駄目だ。俺を守るな。それじゃあ意味が無い。こうなるのは当然だよ。本当なら処刑でも足りねぇくらいだ。」


快斗は自嘲を含む笑い声を上げる。そのせいか、石の勢いがさらに強まった。


が、石が無くなってきたのだろうか、段々と勢いが弱まり、数分経って石の雨は降りやんだ。


「ふ………」


快斗は顔や手足の肌が露出した部位に出来上がった大量の擦り傷や痣をみて笑い、国民達に向き直る。


「まぁ、こうなるのは当たり前だと思ってたさ。死んだ人のために、自分達が罰を下すべき。そうなんだろ?」


窘めるような快斗の問に、国民達の雰囲気はさらに最悪になる。快斗は、


「でもよ。別に、お前らが罰を下せとは誰を言ってねぇよな?」

「……………。」


国民達が少しザワつく。今の発言には明らかに煽る感情を感じられた。快斗はそんな国民達を無視し、


「原野。頼む。」

「う、うん。」

「さて、さっき言ったことは忘れてくれよ。皆。」


国民達は再び鋭い視線で快斗を睨みつける。快斗はその視線を睨みで返して、


「まぁ、罰を下すかどうかは………本人達に決めさせようぜ?」

「?」


一同、同時に首を傾げた瞬間、


「行くよ。快斗君。」

「おう。頼むわ。サリエル。原野。」

「『露顕怨念エクシブレモンス』」


原野が快斗に取り憑く怨念達を浮かび上がらせ、サリエルが天使の力を持ってして怨念達に姿と魔力を与える。そして、快斗の影からゆっくりと滲み出てきたのは、


「GLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!」


身体中に無理矢理ツギハグように取り付けられた腕を震わせ、口から垂れる3本の舌からは溶解液が垂れ落ちる。目は顔と思われる部位だけではなく、それ以外の部位の隙間にも大量に付けられていた。そして目立つのは、芋虫のような体の中心に裂くように存る大口。


原野とサリエルが咄嗟に離れ、


「『聖域』」


サリエルが快斗とその生き物を囲むように決壊を貼る。


「GUUUUUUUUUUUUAAAAA!!!」

「さて………存分にストレス発散しな。」


快斗はセルス街で快斗に殺られてから常に取り憑いていた怨念達に、自身を傷つかせるように申し出る。


「GAAAAAAAAAAA!!!」


怨念の醜体は、快斗に勢いよく飛びつき、その大量に付けられた腕で全身を殴り潰していく。が、快斗は抵抗しない。


足、腕、肋骨、骨盤、指、全ての骨が、お手本のようにバキバキと折られていく。


前歯が折れ、額は割れ、目玉は爪で掻き抉られ、快斗はあっという間に重体となった。


「ば……ばはぁ………」


口に、喉につまる血塊を吐き出し、傷つく器官から押し寄せる空気を無様に吐き出す。


誰が見ても瀕死。国民達は反撃も回避もしない快斗を驚きの目で見つめている。


「GYAAAAAAAAA!!!」

「んぐ……」


フラフラと揺れる快斗の脳天を、真上から醜体が拳で撃ち抜く。地面に激突した快斗を中心に、地面が蜘蛛の巣のようにひび割れる。


醜体がそのまま快斗の頭を潰そうとした瞬間、


「殴って気が済むならいつまでも殴れよ。相手取る。」


いつの間にか完全に回復した快斗が、自ら拳に向かって身を投げた。


轟音を響かせ、快斗の顔が真正面からぶち抜かれた。鼻血が吹き出し、口端が切れ、脊髄に多大なダメージを負わせる。


「ふ………ぐ……」


垂れる血を拭い、快斗が顔を上げると、剛拳が鳩尾にねじ込まれ、内側から破裂する。口からは押し出された血と内臓が溢れ出し、その勢いで心臓が破裂した。が、


「ゲボ………はぁ、はぁ」


快斗は瞬く間に再生し、もう一度最初の状態に元通りになった。


それは、歯の裏に仕込んだ、高谷の血が入ったカプセルを噛み砕いたからである。


「GLLLLLLLLLLLLLL……」


醜体は、快斗を見下ろすと、


「GYAAAAAAAAA!!!」


露顕させられた時に比べ、明らかに速度と威力が劣る一撃を、快斗に放った。それは、怨念達が少しづつ、快斗に対する恨みの念を晴らし始めたという証拠。


「先は……長い……!!」


それから、快斗は数時間に渡り回復と負傷を繰り返し、怨念は既に消えかけていた。


国民達は、誰一人としてその場から動かずに、じっと快斗と醜体を見つめていた。


「…………。」

「ハァ、ハァ………」


何度目ともわからぬ吐血。折れた歯が散らかり、吐きだされてきた内臓はそこら中に散らかっている。


回復していたとはいえ、やはり体には限界というものがあるようで、


「ぐは………」


快斗は地面に跪いた。醜体は、快斗の頭を掴み、持ち上げる。そして、快斗を自分の目と同じ高さまで待ちあげると、間近で睨み付ける。


快斗はその視線に目を合わせると、


「ふ………」


小さく、じっと見ている醜体にしか分からないような笑い。それは醜体に対してでも、惨めに貶される自分に対してでもなく。


自分が生まれてきたことに対しての、自嘲だった。


「……………。」


それを感じとった醜体は、


「………痛み悔みその罪を魂に刻め……」

「苦しめ…苦しめ…苦しめェ!!」

「許されざる……許されざるモノ!!」

「死ね……死ね……死ねェ!!」

「憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎……!!!!」


体から浮き出てきた人々の顔が言葉を発し始め、快斗の頭を掴む力が強まり、


「決して消えない傷を!!癒えない苦しみを!!忘れられぬ罪を!!その魂と体に刻め!!」


醜体の体から、鎌のような形状の刃が生え、高く構えられたそれは、


「『断罪』」


快斗の左目を、縦に引き裂いた。そしてそれは、心身だけではなく、魂そのものに、大きく傷をつけた。


「あ………」


醜体は消える。炎のようにもうもうと揺らぎ、塵となって風に押し掻き消されて行った。


「ぐふ……」

「快斗!!」

「快斗君!!」

「快斗様!!」


地面に倒れ伏す快斗に、高谷と原野とルーネスが駆けつける。


高谷が快斗の口に血を流し入れる。身体中の傷は跡形もなく消え去る。が、左目に付けられた傷は、痛々しい跡となって残ってしまった。


「魂に刻む……これは、絶対に消えない傷みたいだ。」

「な、直せないの?」

「無理だね。それに、もし直せたとしても、それだと怨念達は快斗を許さない。これは残しておくべき傷だよ。」


高谷は気絶した快斗を背負い、処刑場を出ていく。原野とルーネスがその後に続き、ヒバリとライト、そして国民達はその背中をじっと眺めている。


「皆さん。聞いてください。」


そんな中、処刑場の中心に、サリエルが翼を広げて浮かび上がる。


「彼は、怨念達に決して癒えない傷と罰を与え、そのことを条件にお許しになさりました。」


サリエルは祈るように手を合わせ、


「どうか、彼をお許しください。生涯、彼は魂からの痛みに苦しみ事でしょう。それは、この罪に対する正当な償いなのです。かれは、この先人々を殺めないと誓うでしょう。彼を、どうか……」


サリエルの言葉に、国民達は動かない。と、その中で1人、ヒバリが立ち上がり、


「私は許そう。彼を。罰を受けた彼のことを、私は信用しよう。」


そう言って、颯爽と処刑場を出ていった。


「ぼ、僕も許します!!国を救ってくれた快斗さんを、僕は姉さんの次に信頼します!!」


立ち上がったライトも、大声で叫んでから処刑場から出ていった。


国民達は、出ていった2人を見届けたあと、1度サリエルを見つめ、全員ゆっくりと処刑場を後にして行った。


「……無理しないでよね。」


サリエルはそう呟いて、自分で作り出した怨念達の醜体で快斗を傷つけてしまったことを悔やむのだった。

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