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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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呪い

「快斗!!」


大量の血を流して倒れる快斗を持ち上げて、高谷は手首から溢れる血を口に流し込む。


「意識は戻らないか……。でも、傷は治った。」


快斗は心臓を突き刺して行う覚醒。いわゆる禁呪を使ったため、高谷の血でさえ起こすことは不可能である。いずれは目覚めるだろうが。


「快斗様!!」

「「快斗君!!」」

「快斗さん!!」


続いてルーネス。サリエルと原野。ライトが駆け寄ってくる。


「快斗君は!?」

「意識は戻ってないけど、体は修復したから大丈夫だよ。死にはしない。」

「本当ですか……あぁ、良かった。」


ルーネスが快斗を抱きしめてその頭をさする。快斗の顔が、豊満なルーネスの胸に埋まる。


原野が高谷に近づいて、


「ルーネスさんと快斗君ってあんな仲だっけ?」

「どうだろう。少なくとも……ルーネスさんから快斗に向かっての好意は感じる。」


こそこそと話す2人には気づかずに、ルーネスは力強く快斗を抱きしめた。


「全員聞こえるか。残念だが、まだ安心は出来ないぞ。」

「え?」


その後ろから、ヒバリは剣を構えて空を見上げている。その視線の先を全員が追うと、


「ッ!?」


崩れて消えたニグラネスの破片の中に、黒い1つの玉が浮いていた。その玉からは、1本の大きな腕が生えており、その手のひらには大きな目玉がついていた。


「じ、にだく……なぁい……アアアアア!!!!」


悲鳴をあげて動き回るそれは、


「『断末魔』………」


ニグラネスに取り込まれていた『断末魔』だった。


「ギィアアアアアアアア!!!!」

「うぅぅ……」


そのかん高い悲鳴に、原野が耳を抑える。サリエルが原野に触れて、


「『幸福と安泰を願います』」

「ッ………」


神聖魔力を存分に使って、その症状を消し飛ばす。


「ここからは殲滅戦ね。天使の私が責任をもって戦うわ。」

「待てサリエル。貴殿が戦うなら私もだ。魔力はまだ有り余っている。」


飛び上がるサリエルに続いて、ヒバリが隣へ風で浮あがる。


「あなたが戦う理由はないわ。」

「ここは王都。我らの庭園を荒らすのなら我らの敵。滅す理由がないわけがないだろう?」


止めようとするサリエルに真っ直ぐに言い返して、ヒバリは自信ありげに『断末魔』に向き直る。


「では行こう。サリエル。援護を頼む。」

「………いいえ。その必要はなさそうよ。」

「何?」


飛びかかろうとしたヒバリを制して、サリエルは空を見上げる。


「感じるでしょ?あの人が来ていることを。」

「………なるほど。確かに私の出る幕はなさそうだ。」


ヒバリはその言葉の意味をくみ取って、風龍剣を鞘にしまう。


「死にたくなァァァい!!!!」


『断末魔』が叫びながらヒバリとサリエルを狙う。その腕についた鉤爪は容易に肉と骨を断つ業物。そして2人を引き裂こうとした瞬間、


「んなっ!?」


真上から凄まじい勢いで、神聖魔力の塊がいくつも降り注ぎ、『断末魔』を地面に叩きつける。


「『聖帝の怒槌』」


明瞭に響き渡ったその声に続いて、真っ白な槌が真っ直ぐ落下し、『断末魔』を捉える。


着地と同時に爆裂し、その爆風で皆は飛ばされると思われたが、


「…………あれ?」


生まれた爆風は白いベールとなり、人々を包み込んでその身を癒した。心に安心感を与え、傷を癒しては力を高める。


闇を滅して光を救う。対効魔術と呼ばれる高等魔術だ。


そんな技を容易に放つことが出来るその人物は、


「ごめん。案外グルドラゴがしぶとくてね。コイツだけは僕に任せてくれよ。」


地平線から上がる太陽の光を反射させる美しい剣を持つ青年。ゆっくりと地面に降り立った彼を見て、ライトが表情を明るくする。


「『勇者』リアン。かなり遅れた登場だけど、最後の敵は、君達の代わりに僕が討つよ。」


全員に向かって、リアンはにっこりと微笑んだ。


「よく……もぉ……よく、もおぉぉおおおお!!!!」

「かなりの恨みの念を感じる。君には相当辛い出来事があったようだね。」


這いずり回るように蠢く『断末魔』の怒声を受けて、リアンは哀れみを含んだ表情で『断末魔』を見下ろす。


「大丈夫。直ぐに浄化してあげるよ。」

「しに、たく、なぁあい……!!」

「ごめんね。生きていたいのはわかるよ。でも、君はもう眠るべきだ。そんな体じゃ、どの道死んでしまう。」


リアンは『断末魔』の体を見てつぶやく。それは、端々からボロボロと崩れ始めていた。リアンは、手に持つ聖剣、グランドリスタの切っ先を『断末魔』に向け、


「君に、真神からの幸福と慈悲があらんことを。」

「い、嫌だああああああああぁぁぁ!!!!!!」


絶叫する『断末魔』は静かに、一瞬で光に包まれて消滅した。ボロボロの灰のような破片が空へと舞い上がり、最後の恨みとばかりにリアンへ小さな魔力波を放った。


「受け入れるよ。」


リアンはその魔力波を真っ向から受け、頬から血を流す。『断末魔』の破片は、そのリアンの行動に驚いたのか満足したのか、風に煽られて消えていった。


リアンはフゥ……と息を着くと、振り返ってニッコリ微笑んだ。


「よく頑張ってくれたね。君達に、『勇者』として、この国の住民として、感謝を。」


惚れ惚れするような清涼さで、リアンが頭を深々と下げた。全員はそれを見て唖然とする。


「リアンさん……」

「やぁ、ライト君。君には色々と大変な役を押し付けてしまったね。辛かっただろう。本気に申し訳ない。」


歩み寄るライトに、リアンはもう一度頭を下げる。ライトはあわあわと手を降って


「別にいいですよ……姉さんを助けられたら、それで。」

「君の慈悲深さに感謝するよ。ヒバリも、僕が無力なあまり、苦労をさせてしまって済まない。」

「?何か言ったか?済まんが全く聞こえん。」

「…………ヒバリ、そのピアス。」


ピアスを弾いて表すヒバリに怪訝な顔をして、リアンはそのピアスを見つめる。そして、それがなんのピアスなのか気が付いて、リアンは顔を青くする。


「ヒバリ……!!本当に済まない……!!」

「?リアン?」

「そうか。僕の声が聞こえない理由はそれか。………一生の不覚だ。」


リアンは膝を着いて呟く。ヒバリは未だ疑問符を浮かべて表情である。


「それは『聞こえない音(サイレント)』。無聴覚に陥らせる呪具だ。それをつけられたら最後、仮に外そうが壊そうが、音を聞くことは出来ない。」

「…………。姉さん。」

「?どうした。そんなに不安そうな顔をして。……そうか。このピアスの話をしているのだな?」


ヒバリはピアスを指で弾いて納得したように頷くと、ライトの頭をそっと撫でる。


「心配するな。私は『剣聖』だぞ?耳が聞こえなくなった程度で死にはしない。」

「うん……。でも……もう、姉さんが好きな音楽とか……聞けない……」

「済まない。サリエル、ライトは今なんて?」

「あなたの好きな音楽が聞けない、ですって。」

「そうか……気にするな。音楽を聞かずとて、死ぬわけでない。」


ヒバリはライトの頭を抱き抱えて宥める。ライトが涙を流し始めた。久しぶりに抱かれたことでの安心感と、自分の声が届かない虚しさで、ライトの心はいっぱいになる。


と、そんな時、


「ふむ。哀れだな。もう少し他の法を試そうとは思はないのか。」

「ッ……快斗君?」


ルーネスに抱き抱えられたまま、今まで眠っていた快斗が目を覚まして立ち上がる。が、高谷は直ぐに、それが快斗では無いことに気がついた。


「あなたは……」

「ルシファーだ。コイツの意識は未だ常闇の中だ。話を聞くことぐらいは可能だがな。」


ルシファーは快斗の体を使って立ち上がり、ヒバリのピアスを眺めて考える。


「無駄に強力な呪力をかけたか。こんな呪い、戦闘の妨げにもならんぞ。」


ピアスに触れてから、ルシファーサリエルへと向き直る。


「サリエル。」

「………あなたは、本当のルシファーなの?」

「今はその話をする機会ではない。それよりも、だ。」


ルシファーはピアスを指さして、


「お前なら外せるだろう?この程度の呪具ならば。」

「当たり前よ。天使を甘く見ないでよね。」

「堕天使だろ?」

「ちょっと今快斗君出てこなかった?」

「出ていない。」

「むぅ……それで?外せたとして、それでどうするの?」


サリエルが少し嫌うようにルシファーを見つめて問いかける。ルシファーは「ふむ。」と言って、サリエルにピアスを片方だけ外すように言った。


サリエルは言われた通り、ピアスが外れないようにする魔術を容易く解いて、ルシファーに手渡す。


「これをどうするの?」

「まぁ、落ち着け。さて、高谷とやら。」

「?」


呼ばれた高谷は首を傾げてルシファーを見つめる。ルシファーは目を閉じてから、


「この体の修復は頼んだ。」

「………んん?」


どういう事だろう?と、高谷が首を傾げた途端、


「『時よ。巻き戻るがいい』。」


傲慢な様子でルシファーが呟いた。瞬間、握られていたピアスが震えだし、埋められた宝石から光が消える。と、ルシファーの体から血が吹き出した。


「ッ!?」

「修復しろ。高谷とやら。」

「ぐ……はい。これを飲んで。」


手首を斬り裂いた高谷が、そこから溢れる血をルシファーの口に流し込む。ルシファーは体が治ったのを確認したあと、


「このピアスが呪術をかけられる時まで、ピアスの時間を巻き戻した。今なら片耳だけ、音が聞こえるはずだ。」

「……ライト。」

「はい。」

「………聞こえるぞ。片耳だけだが。」


ヒバリがピアスのついていない耳を抑えて確かめる。その結果に満足したルシファーは、


「『極小・陰光』」

「ッ!?」


自身の耳たぶに小さな穴を開け、そこにピアスを付けた。


「ちょ、ルシファー?」

「なんだ。」

「なんで、快斗君の耳にピアスを?呪いは解けたんだから、そんなのそこら辺に捨てて………」

「俺はピアスの時を戻しただけだ。つまり、時間が経てばまた呪いが再発するということだ。」


全員がその言葉を聞いて表情を固くする。


「だが、それは心配無用だ。」

「どうして?」

「簡単な話よ。俺の体、つまりは快斗とやらに、この呪いを移植する。これで、『剣聖』は聴覚を取り戻すことが出来よう。と言っても、片方だけだがな。」

「お、おい待て。私の呪いの半分を悪魔に肩代わりさせるのか?そんなことできるはずがない。呪いを受けるのは私1人で十分だ。」


淡々と述べるルシファーに、ヒバリが抗議する。ルシファーは面倒くさそうにため息を着くと、


「これは、快斗とやらが望んだことだ。俺が無理矢理やっている訳では無い。」

「あ、悪魔が?」

「馬鹿な話だ。自分の聴覚を犠牲にしてまで、『美女の為』と吠えている。奴は相当お前を………と、これは言うなと言われているのだったな。」


ルシファーは口を抑えて、それから自身に付けたピアスを弾いて笑う。


「せいぜい片耳で音色を聞き取るがいい。」


ルシファーはそう言ってヒバリに向かって指さして大きく笑う。そして、


「それと、この馬鹿が起きるのは3日後だ。それまでは動かないだろう。雑務は全て、この堕天使にやらせるがいい。」

「な!?なんで私!?」

「では、さらば、だ。」


ルシファーはそう言って軽く手を振ったあと、身体中の力が抜けたのか、盛大に顔面から地面に倒れた。それと同時に、ピアスの宝石が輝き出す。呪いの発動を知らせるサインだ。


「全く、快斗はなんでそんなかっこいいことが出来るのかね?」


高谷はそれを見て、呆れたように笑って、快斗をおぶった。


「取り敢えず、休憩できるところに行こうか。」


高谷はそう言って、なんとなく城に向かって歩いていく。ルーネスや原野もそれに続いていく。


「悪魔が……私の呪いを?」


ヒバリは未だに混乱している。ライトはそんなヒバリを見つめてから、


「快斗さんの意志だって言うんなら、それを受け取っても、誰も姉さんを責めないよ。」

「そうなのか?」

「ヒバリは1人で背負い込みすぎなのさ。たまには、あんなふうに助けてくれる人に乗っかるのも悪くないと思うよ?」


疑うヒバリに、リアンが快斗を見つめて呟く。ヒバリは少し考えたあと、


「そうだな……やつが目覚めたときは、宴でも開くとしよう。」

「それがいいさ。」

「快斗さんすごく喜びそう。それまでに準備とか片付けとかしなきゃね。」

「そうだな。ここはひとつ。王国の騎士として、奔走するとするか。」


ヒバリはライトとリアンの言葉を聞き入れて背伸びをしたあと、快斗達の後に続いて歩いていったのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「反応が消え去りました。」

「………そうか。」


大きな椅子に座る男は、部下が伝えた言葉に苛つき気味に言葉を返した。


「天使を呼び出すかと思いきや、ましてや『月の魔獣』を呼び出すとは、とんだ失敗作よ。」


男は天を仰ぎながら、大広間からベランダへと移動する。空を見上げれば、そこには沢山の飛行物体。いわゆる飛行船があちこちに飛んでいる。下を見れば、沢山の高層ビルに、高速で走り回る浮かぶ車。リニアモーターカー。


そして、1番目立つのは、そんな町の真上を埋めるように浮かんでいる円盤型の巨大な飛行船。その中では、大量の実験と、戦士達の増力が徹底されているだろう。


「……やはり、我が乗り込む必要があるようだな。」


男は笑う。口に無煙タバコを咥え、向かう地で栄えた文明を壊す光景を想像して。


「勝機は我らにあり。」


男はそう言って、自室へと戻って行った。

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