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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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ゆっくり眠れ

「『魔技・殺戮の怨霊(サーレルグラッチ)』!!」


快斗が草薙剣を横凪に振るう。その刃に連れられて、地獄から引き釣り出された怨霊達がニグラネスの体を引き裂いていく。


「フゥ!!」


下から振るわれた大腕を弾き、その反動で快斗は回転しながらニグラネスの顔の横に移動し、蹴り飛ばす。ニグラネスが体勢を崩して倒れるが、


「ハァァァアア!!!!」


獄風を纏ったヒバリの足がその体を蹴りあげ、無理矢理体勢を戻させる。


「グォォォオオオォォォ…………」


痛みにニグラネスが唸る。その脳天に快斗が力強く踵を落とす。衝撃が逃げ場を失い、ニグラネスの体内で爆発。口から大量の血が流れでた。


「こりゃ後で掃除が大変だな。」

「そんなこと言ってる場合!?」


余裕の表情で飛翔する快斗に呆れながら、サリエルが『天の鎖』を操ってニグラネスの動きを封じる。


そしてその真上に鎖を丸く配置し、その真ん中にゲートを作り出す。サリエルはその綺麗な腕を振り上げて、


「『トレイアス・ニューグライネス』!!」


そう高らかに叫んだ。すると、そのゲートから黄色く輝く極太の魔光線が放たれ、ニグラネスの体を焼き滅ぼしていく。


「ヒュ~~やるねぇ。」

「天使を甘く見ないでね!!」

「天使は天使でも堕天使だけどな。」

「一言多い!!」


快斗の軽口をしっかりと捌いてサリエルは迫る魔力波を相殺する。


「『死歿刀』」


獄炎の斬撃がニグラネスの体を斜めに斬り裂く。その体はバツ印の大きな傷が着けられた。


「ぎぃいいいいあああああ!!!!」


ニグラネスが目玉を光らせ、魔光線を放つ。


「『魔技・地獄の門番(ヘルゲートキーパー)』。」


快斗は左腕を前に突き出し、滲み出た黒い魔力で盾を作り出して防ぐ。


「余裕そうだな悪魔。」

「まぁな。実力的にゃあ余裕ってことよ。」


風で浮き上がったヒバリの言葉に共感して、快斗は苦笑する。が、その表情とは反面、実は中はボロボロで、


(やべぇな……もう、あと5分くらいか……俺の体は持っていられるか……)


頬をつたる冷や汗を拭き取って、快斗は口元をゆがめて笑う。


「時間制限付きの大戦闘。いいねぇ。テンション上がるぜ!!」


快斗はそう言って、黒い魔力を全身に纏う。


「さて、援軍が来たな。」


快斗は下を見る。ヒバリもつられて下を見ると、光の速度でニグラネスに突進した1つの光が爆裂した。


それに追加で、ドロドロの赤い液体が刃を形成し、ニグラネスに寄生する形で突き刺さった。


「あれは………」

「ライトと高谷だな。」


現れた援軍の正体を判別して、快斗はそれとは違う方向を見下ろす。


「そして、もう1つ。」

「?」

「ルーネスさんと原野だ。」


ニグラネスの足元から、大量の白い腕と金色の一閃が舞い散る。それは、ニグラネスの体勢を崩すには十分だった。


「今がチャンスだ。行くぜ。こっから全力だ!!」


快斗が『空段』で足場を作り出し、蹴り飛ばして急接近。ヒバリも後に続く。


2人の接近に気がついて、戦闘中の全員がその近くに集まった。


「快斗!!その体!!」

「その話は後でだ。とにかく時間がねぇ。」


快斗の体の限界を見抜いた高谷が心配して声を上げるが、快斗はそれを手で制す。


「俺がこの状態でいられるのはあと3分!!それまでに仕留める!!」


全員に呼びかけて、快斗は草薙剣を掲げて、


「『魔技・開戦の鈴鳴』」


と、全員の魔力量が増幅し、全てのステータスが爆増する。


「行くぜぇ!!」

「了解!!」

「承知!!」

「行きます!!」

「王都を救うために!!」

「もう眠ってニグラネス!!」

「みんな頑張ってぇ!!『怪手乱殺』!!」


全員が飛び上がり、原野が『怪手乱殺』で生み出された腕で全員を包んで守る。


「ギィイイイアアアアア!!!!」


最後の戦闘だと悟ったのか、ニグラネスは魔力を最大限に高めて立ち向かう。その目玉から魔光線が放たれるが、その攻撃は原野が作り出した『死者の怨念』の腕が防ぎ切る。


ニグラネスは拳を握りしめて、真正面からそれを突き出す。それに真っ向から立ち向かうのは、


「行け光!!」

「『光の矢(ライトアロー)』!!」


体全体で矢となったライトが、そのスピードに乗ってニグラネスの拳を蹴り飛ばす。強靭なニグラネスの骨が折れ曲がり、痛みに絶叫する。


続けてニグラネスは力かま入らなくなった右腕を引っ込めて、左腕で全員を弾き飛ばそうとするが、


「させない!!『流星鎖』!!」


空から黄色い閃光がいくつも降り注ぎ、その左腕を吹き飛ばす。ニグラネスは何とか体勢を元に戻し、弾かれた左腕を勢いよく振り下ろす。


「『血獣化』!!グルルァァッ!!!!」


肥大化した右腕を思いっきり振り上げて、高谷がその勢いを相殺する。ニグラネスの懐に、ルーネスと快斗とヒバリが入り込む。


「流れだと私の番ですね。『緑結晶の暴風(クリスタルテンペスト)』!!」


ルーネスが槍を振り上げると、足元から緑色の暴風が出現し、ニグラネスの体を上へと弾く。


「行けるかヒバリ。」

「無論だ。私は『剣聖』だぞ?」

「そうだな。」


剣を振り抜いて答えるヒバリに苦笑して、快斗はその場から飛び上がる。ヒバリもそれに続いて飛び上がる。


それに気がついたニグラネスが両腕を振り下ろすが、


「『絶手』!!」


大量のゲートが出現し、そのから現れた腕がそれを受け止める。快斗は「ナイス原野!!」と叫んで、右腕へ。ヒバリも同じように左腕に乗った。そして、互いに剣を握りしめて、


「『死歿刀』!!」

「『奥義・太刀筋一刀』!!」


静かに、しかし盛大に振り下ろされた2つの刃は、全く血を流さずに、それこそ斬られたことすら気づかないほど洗練された斬撃を、互いに乗っている腕へと放った。


そして、その両腕は嘘のように軽い音を出して切り飛ばされた。


「ギィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」


痛みにニグラネスが絶叫する。無意識に生み出された魔力波は、全員を吹き飛ばした。


が、快斗は『空段』で踏みとどまり、波動がやんだところで走り出す。


「全員、全力で攻撃を放て!!」

「「「「「ッ!!」」」」」


全員は声を出さずに頷いて、急速に魔力を高める。その気配に、快斗は自分の意思が伝わったことを確認すると、全ての魔力を草薙剣に注ぎ込む。


「オオオオオ!!!!俺に応えろ草薙剣!!」


草薙剣と刻まれた文字が光り出す。


「アアアアアア!!草薙剣、解放!!!!」


掲げられた草薙剣が黒い魔力で覆われ、続けて禍々しい魔力を放つ。そして、その光が晴れて現れたのは、


「神斬刀草薙剣」


そう刻まれた紫色の刀だった。


「覚悟しろ。ニグラネス。」


快斗はニグラネスを睨み付ける。ニグラネスはその視線を真っ直ぐ睨み返した。


「全員、準備はいいか!?」

「いいよ!!」

「いつでも!!」

「大丈夫です!!」

「準備完了でございます!!」

「いいぞ!!」

「行こう!!」


その答えを聞いて満足した快斗は、ニグラネスに向かって走り出す。その後ろで、5人はそれぞれの技を放つ。


ライトは雷を纏った、2頭の虎を。


「『双獣雷咆哮』!!」


高谷は崩壊の青黒い炎を。


「『真・崩御の剣』!!」


原野は全てを恨み、潰していく怨念を。


「『怪手乱殺』!!」


サリエルはどんな厄災をも封じ、抑え込む鎖の光を。


「『光の神聖鎖』!!」


ルーネスは金と銀を纏う聖なる槍を。


「『金鐘天下の流星槍』!!」


そして、ヒバリは全てを斬り裂く澄んだ風の刃を。


「『秘奥義・風乱輪輪廻』」


それぞれの技が、快斗に向かって飛んでいく。快斗はそれに向き直ると、神斬刀草薙剣を掲げる。すると、全ての技がそこに吸い込まれるように向かい、そこに刻まれた文字にぶつかる。


「神!! 斬!! 刀!! 草!! 薙!! 剣!!」


多重の魔力を纏った神斬刀草薙剣を構え、快斗は最後の攻撃を放つ。


「ギィイイイイアアアアアアアアアア!!!!!!」


ニグラネスは大きく吠え、その大口から真っ赤な極太の魔力光線を放つ。快斗はニヤリと笑って、神斬刀草薙剣を前に突き出して叫んだ。


「『魔技・絶望の一閃(フラッシュデスペアー)』!!」


真っ向から2つの光線がぶつかり合い、大きな衝撃波を生み出して、押し合いが始まる。


「んぐ……ぐぅううぅぅううう!!!!」


凄まじい重さの攻撃に押され、快斗が唸る。ニグラネスはここぞとばかりに勢いを強める。


「ぐ……あぁぁぁ………」


押される。が、快斗は後ろの人達を思い出して全力をかける。


「やぁああああああああぁぁぁ!!!!」


押し返す。その強さに、ニグラネスは瞠目する。既に本気は出し切っている。それを、快斗は押し返してきている。


「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


近づいてくる。死を誘う悪魔が。着実に近づいてくる。


「ぎ、ギィア……」

「いい加減に………」


快斗は俯いてから、顔をばっと上げて、


「眠れやがれぇえええええええ!!!!!!」


左目から溢れたスパークが、神斬刀草薙剣に纏われ、快斗が地面に手をついて跳ぶ。その勢いはニグラネスの魔力光線を消し飛ばし、その胸に大穴を開けた。


「ぎ、あ………」

「フゥ………俺の、勝ちだ。ハァ…………」


胸を突き抜けて宙に浮かんでいた快斗が、全身から血を吹き出して落ちる。ニグラネスは数秒固まり、やがて、胸に空いた大穴からヒビ割れていき、完全に崩壊し始めた。


「…………。」


快斗は顔だけ上を向けて、崩壊していくニグラネスを見つめて一言呟いた。


「ゆっくり眠れ。ニグラネス。」


そして、走りよってくる仲間達を視界に収めながら、快斗は静かに意識を手放したのだった。

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