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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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裏切り者

「邪魔。邪魔だよ。なんで僕の行き先を塞ぐのさ。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔だよ!!」

「ッ!!!」


崩れ落ちたメサイア本部の瓦礫の山。その上に浮かんでいるのは禍々しい見た目をした『邪魔』である。


「ハァ……ハァ……。」


それに相対するのは、蒼い剣を握りしめる渡辺。炎を纏う内田。鎖を鳴らす蛯原。崩落の轟音を聞きつけて駆けつけた槍使いの藤原。魔力を高める西野。そして、渡辺に庇われるように隠れている黒本だ。


「ハァ……強い……。」

「邪魔するなぁ!!」

「ッ!!」


『邪魔』は、その大腕を振り回して渡辺を側面から突き飛ばす。その瞬間に藤原が素早く槍を突き出すが、腕に着いている金属質の骨格がそれを弾き、真上から降り注ぐ日の雨は咆哮で掻き消され、忍び寄る鎖は踏み潰された。


「どうやって勝てってんだよ!!」


蛯原が苛ついて癇癪を起こす。既に愛用の鎖は砕かれ、鎌は鎖から外れてしまっている。


「あんなの……どこから現れたんだ!?」


鉤爪から放たれる斬撃を防ぎながら、渡辺が苦しげに呟く。


「そんなのいいからぶっ殺すぞ!!」


地団駄をふんだ内田が爆炎の塊を発生させて真上から『邪魔』に叩きつけるが、『邪魔』が軽く腕を振るっただけでそれは消え去った。


そして、その大腕から放たれた波動が内田を壁にうちつける。内田が盛大に吐血する。


「消えろ!!」


ピンク色に輝く鉤爪が、壁に埋まる内田を斬り裂く。斜めに大きく傷が付けられ、流れ出す血は止まらない。


「内田!!」

「待ってろ!!今回復薬を……ッ!?」


内田に回復薬を投げ渡そうと懐をさぐった渡辺の手が止まる。いくら探しても回復薬がないのだ。当たり前だ。なんせ、全て快斗が奪ったのだから。


「くそぉ!!あのクズ野郎がァ!!」


頭に浮かぶ快斗の顔に苛ついて、渡辺は黒本を連れて内田を守るために『邪魔』の前から内田を庇うように移動する。


「藤原!!蛯原!!」

「分かってる!!」


渡辺を追ってくる『邪魔』の前に、藤原と蛯原が立ちはだかる。


「僕の邪魔をするなぁ!!」

「くうっ!? 」

「んぐっ!?」


予想以上の力に押し負けて、蛯原と藤原は突き飛ばされる。障壁を乗り越え、『邪魔』は渡辺に鉤爪を振り下ろす。


渡辺が蒼い炎の剣で防ごうとした瞬間、


「ンギッ!?」


『邪魔』の振り下ろした腕が止まり、その体は反対側の壁に強く衝突した。


「渡辺!!」

「ッ、西野!!」


それは、瓦礫の影から現れた西野の『重力操作』による物だ。鉤爪が渡辺に当たる瞬間、その鉤爪にかかる重力を逆さにし、更に体全体にかかる重力を横向きにして吹き飛ばしたのだ。


「大丈夫!?」

「ああ、でも内田が!!」


西野は渡辺の前に降り立ち、血だらけで起き上がらない内田と、渡辺の後ろに隠れる黒本を見て、


「そんなのいいじゃん!!ここから逃げよう!?」

「………は?」


西野が渡辺の腕を引っ張って逃げ出そうとする。


「ちょ、ちょっと待て!!」

「何?早く逃げないと……」

「いや、内田は重体なんだぞ!!それに黒本だって、能力を何かに奪われて、今はただの人間に………」

「何言ってるの?そんなのどうだっていいじゃん!!」

「え………」


渡辺の言葉を聞いても、西野は意志を変えない。ただ強く腕を引き続ける。


「ねぇほら早く!!」


その態度に愕然として、渡辺は開いた口が塞がらない。と、突き破られた壁から、『邪魔』が再び現れ、渡辺と西野を狙う。


「何してんだ渡辺!!」

「さっさと内田を回復させろ!!」


『邪魔』の前に藤原と蛯原が想対し、鎌と槍をもって魔術を放つ。が、大腕の一振で掻き消されてしまう。


「渡辺!!加勢してくれ!!」

「じゃないと俺ら、死んじま……」

「ッ!?蛯原!!」


振り向いて渡辺に加勢を求める2人。渡辺が西野の腕を振りほどいて加勢しようとした時、蛯原の後ろに『邪魔』が瞬間移動。魔力を纏った鉤爪を横凪に振るった。瞬間、蛯原の上半身が飛ぶ。


「蛯原ァ!!」

「ぶ………」


宙を舞う上半身は勢いよく地面にぶつかって潰れ、下半身は力なく『邪魔』の前で倒れる。血と内臓と排泄物を撒き散らして、蛯原は一瞬で絶命した。


「チィッ!!死ねぇ!!」

「待て藤原!!」


それを見て怒った藤原は、槍にありったけの魔力を流して『邪魔』に飛びかかった。


「『ブリュナーク』!!」


強い神聖魔力を纏ったその槍は、一直線に『邪魔』へと投じられた。光の線を作りながら、高速で飛来する。しかし、


「邪魔だよ……なんで邪魔するのさ!!」

「ッ!?なアッ!?」


それはゆっくり飛んできた矢を弾くように、ゆっくりと振るわれた『邪魔』の腕で弾かれた。


「死んじゃえええ!!!!」

「ッ!?やべ………」


藤原は咄嗟に逃げ出そうとするが、『邪魔』が作り出した六角形の結界に捕らえられて逃げられない。


「『迸る邪念』」

「ぐ……お……」

「藤原ぁぁ!!」


掲げられた『邪魔』の手のひらから放たれた無数の光線が、結界を破壊しようとしていた藤原の体を隅から隅まで貫いた。


心臓、頭脳、脊髄、骨盤、あらゆる重要機関を全て撃ち抜かれ、藤原は絶命した。


「く……そぉぉお!!」


渡辺はクラスメイトを失った怒りに立ち上がり、蒼剣を作り出して構える。


「ダメだよ渡辺!!見たでしょ?あんな風に死んじゃうよ!?」

「お前はさっきからなんなんだ!!逃げたいならお前だけで逃げればいいだろ!!」

「それじゃ意味が無いの!!渡辺が生きていてくれないと!!」

「だったら黒本と内田を運んでくれ!!あの2人を見殺しにはできない!!」


渡辺はそう叫んで、逃げ出そうとする西野に激昴する。西野はその威圧に怯んで、


「わ、分かったよ……」


と渋々頷いた。渡辺は黒本達の方へ向かう西野を確認して、『邪魔』の足止めをする為に蒼剣を構える。


西野が2人を運べるかは不安だったが、『重力操作』でなんとかなることを予想した渡辺は、蛯原と藤原の死体を見つめ、涙をこらえて『邪魔』に立ち向かおうとしたその時、


ザシュッと言う音が、背後から聞こえた。


渡辺はこの時、サーっと血の気が引いていくのを感じた。そして、あるひとつの情景を思い浮かべた。その情景が後ろに拡がっていないことを願って、恐る恐る振りかけると、


「西……野……?」

「あ、渡辺こっち見ちゃダメ。見殺しにしたくないんでしょ?」

「いや、お前………何、して……」

「渡辺が逃げ出せないのはこの2人のせいでしょ?だから消すことにしたの。」


笑いながら西野が指さすのは、床に転がった肉塊。それが誰のものだったか、なんだったのか、渡辺は容易に想像できた。


「あああああぁぁぁ!!!!何してるんだお前ェ!!」

「だから、荷物を減らしたの。これで逃げられるでしょ?」

「お前……本気で言ってるのか………」


全身から力が抜け、渡辺はその場に跪く。西野がそれに駆け寄り、


「さぁ、早く逃げよう?殺されちゃうから。」

「触るな!!」

「!?」


腕を掴んだ西野を突き飛ばして、渡辺は激昴する。


「なんでそういう捉えをするんだよ!!なんで殺したんだよお前ェ!!」

「これは渡辺の為で……」

「何が俺のためだよ!!この2人死んじゃってたら俺の為でもなんでもない!!お前はただの人殺しだぁ!!」

「…………渡辺もしかして……」

「アァ?……ッ!?」


怒り狂う渡辺を見て、西野は真顔でゆっくりと渡辺に近づき、手に持つナイフを腹に突き刺した。


「おま、え………なに、して……」

「渡辺、黒本のこと好きなんでしょ。」

「は、ぁ………?」

「そうでしょ。そうでしょ。そうなんでしょ!!ずっと黒本とばっかり話して!!黒本とばっかり戦って!!そうなんでしょ!!」


ナイフを握る手に力が入り、少しづつ渡辺の肉を抉っていく。


「前は好きって言ってくれたのに!!いつだって一緒にいてくれたのに!!なのに!!最近は黒本の事しか見てない!!黒本の事しか話してない!!」

「ぐ……お……」


西野の怒りは収まらない。引き裂かれていく体は、大量の血と痛みで危険を知らせるが、西野が無意識にかけている重力によって、渡辺は動けない。


「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえぇ!!この、裏切り者ぉぉぉ!!!!」


西野はそう叫んで、思いっきりナイフで渡辺の体を斬り裂いた。飛び散る返り血を浴びて、西野は笑う。


「ねぇ、私を好きになってくれないの?ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ。」


西野は泣き笑いしながら、力なく崩れ落ちた渡辺の死体を見つめる。その死体を揺さぶって起こそうとする。目は虚ろ。そこに写るのは、昔の情景。


「今日は……天気がいいね。最高のデート日和♪ね、渡辺。今日、私ね。お弁当作ってきたんだ。渡辺が好きな卵焼き。ほら、ね?あーん。」


1人、幻想の中で、虚無の空間に向かって笑いかける。壊れた脳は機能せず、ゆっくりと後ろから近づく死の気配に気ずかない。


「邪魔だよ。」


西野の幻想の楽しみを断ち切ったのは、静かに響いた、陰鬱な声。その後に続く斬撃が、楽しげに虚無に話しかける西野の上半身を斬り飛ばした。


「邪魔。邪魔だよ。全部全部邪魔だよ。僕が何したって言うのさ。僕は悪くないよ。だから、邪魔しないでよ。邪魔するヤツは………みんな消えちゃええぇぇ!!!!」


『邪魔』は頭を抑えて叫びながら、その翼でその場から去っていった。


残ったのは、数人の死体と肉塊。その中で1番の異様を放つもの。


西野の転がった頭は最後まで幻想を見ているかのように、笑っていた。

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