本気
「全力で行く。ニグラネス。お前も全力を出してぇなら出しやがれ。」
雰囲気が変わった快斗が空へと上がっていく。ニグラネスはそんな快斗を見上げ、体を小さく震わせる。
「てか、ルシファー。お前体借りるって言ったくせに、動かしてるのは俺だけどいいの?」
「気にするな。急に面倒になっただけだ。」 「精神世界での話全部ひっくり返すなよ。」
1つの口で二人の言葉を話す快斗に、兵士達は何をしている?と首を傾げている。
「まぁいいや。じゃあ、ニグラネス。とっととこ……」
「ギィア‼」
とっとと来いと言おうとした瞬間、目の前には快斗の顔と同じ大きさ(介との顔は平均よりも小さい)の拳が迫っていた。
「ふ…………」
快斗は自身の力の上がりようを実感しながら、余裕も持って拳を躱す。空振った拳は、その風圧で壁を破壊した。
「ほらほらもっと来いよ。ぶちのめしてやる。」
「ギギィアアア‼‼‼」
ニグラネスが雄叫びを上げて快斗目掛けて鋭い体術を放つ。それらを全て躱し、流し、相殺する。だが、跳ね返りがあるため、流すか躱すことを優先する。
「でも、攻撃しねぇと勝てねぇよなぁ。」
「ギィイイイ‼」
「久々に俺と戦えて楽しみてぇだな。まぁ、昔戦ってたのは俺じゃなくてルシファーだけど。はい、よいしょっ‼」
快斗は嵐の様に放たれる体術の中、余裕の様子で独り言を呟いて、ニグラネスを上へと蹴り飛ばした。
天井を突き破り、遥か上空へ。快斗もそれを追って床を思いっきり蹴り飛ばす。
快斗の攻撃の跳ね返りと、跳んだことによる衝撃で地面が崩れて落ちた。
「「うわぁ⁉」」
「ふふふ。盛大ですね。」
原野とサリエルが同じ悲鳴を同時に発して落ちていき、ルーネスがロンギヌスを抱きしめてゆっくりと落ちていく。
「うん……しょ‼私も、行かなきゃ‼」
「あ、サリエル⁉」
サリエルは翼で空中に留まり、瓦礫を突き破って空へと飛んでいく。
「さてとー。ニグラネス。」
「ギギギィィ………。」
頭から血を流して、ニグラネスは快斗を睨みつける。快斗は狂気じみた笑みを浮かべて、真っ向から睨み返す。
「てめぇをどうやって殺すかは今のところ思いつかねぇけど………え?殺せねぇの?」
快斗が精神から語りかえてくるルシファーの『殺せない』という言葉に拍子抜けだった。と、下から巨大な神聖魔力を感知して見下ろすと、
「快斗君‼」
「誰だお前。」
サリエルが快斗に追いついて肩で息をする。
「ハァ……ハァ……つ、月に封印されていた堕天使……サリエル……です…。」
「ふーん。………え?なんでここに居るの。封印されてるって話だったよな?」
「原野ちゃんに、一時的に解いてもらったの。『月の魔獣』を、再封印する為。」
「なるほど。」
快斗は顎に手を当てて思案をして、その後サリエルの顔を見つめて、
「んー。サリエル、だっけ?」
「え、うん。そうだよ。」
快斗はその瞳をじっと顔を近づけて見つめて、
「涙袋でけぇな。」
「………へ?」
「いい顔してんな。だからこんなに目が出けぇのか。よかったら今度食事行かね?」
「え?えっと……えっと…?」
「ハハ。冗談だよ。なんか見た目がいい女を見ると調子に乗るんだよな俺。」
自身の短所を話しながら、頬を小さく掻く快斗。サリエルはポカンとした表情で快斗を見つめている。その心情は今までの人達で同じで、『印象と違う』と思った。
「ふふ。意外とおちゃめな性格なんだね。」
「俺ってそんなに子供っぽい?」
「綺麗な女性に媚びうるのは男の子の特徴でしょ?」
「どんな偏見だよ……まぁ、違っちゃいねぇな。」
昔、人間だった頃、幼稚園で美人の先生にいつも自分ができることを自慢しまくっていた奴がいた。思い出したのはそれだ。
「ギギギィィ‼‼」
「おっと悪ぃ。今から相手すっから怒んな。」
ニグラネスが放った魔力波が、快斗とサリエルの間を通り過ぎていく。快斗はサリエルに近づいて、
「原野が一時的に封印を解除したんだろ?」
「うん。」
「それっていつまで持つ?」
「いってあと1時間かな。それまでに仕留めるよ。」
「あと1時間ねぇ。本来の力は出せてない感じ?」
「そうだね。無理矢理出てきてるようなものだから。」
「ふーん。」
快斗はまた思案するような姿勢になってから、
「封印を完全に解除してやるよ。」
「できるの?」
「魂に巻かれてる鎖を破壊すりゃあいいんだろ?簡単だよ。」
「悪魔ってそんな万能だったっけ?」
「知らねぇよ。とにかくあいつ癇癪起こしそうだし。ちょいと失礼するぜ。」
「え?ひゃあ⁉」
快斗がサリエルのまぁまぁ豊満な胸の谷間に躊躇なく手を入れ、魂に干渉する。
「んあ?これが神がかけた封印?その割には弱かねーか?」
「は、早くしてぇ……」
「おっと、済まねえ。ニグラネスが来ちまうな。」
「そういう事じゃなくて‼」
快斗は難なく封印を破壊。谷間から手を引き抜いた。サリエルが胸を抑え、目尻に涙を浮かべながら快斗を睨む。
叫びながら飛びかかってくるニグラネスを弾き返して快斗はサリエルに詫びる。
「悪かったって。戦場でちまちま封印なんか解いちまって。」
「だから、そういう事じゃなくて‼ていうか、私の封印解く必要あったの⁉快斗君強いんだから‼」
「んー。俺のこの状態は心臓がない状態だからな。そんなに長く居られねぇんだよ。さて。」
快斗は先程から殺気をガンガン降り注がせるニグラネスを見上げる。
「持って15分。それ以内に瀕死まで追い込む。」
「私も出来るだけ本気で行く。」
「いや、サリエルは来んな。」
「え?」
「俺だけで行く。あいつを仮死状態にスッから、そこで封印してくれ。そのあと、封印ごとぶち壊す。」
快斗の提案に反対しようとしたサリエルだったが、快斗の強さと威厳を感じて引き下がる。
「出来るだけ援助する。」
「まぁそれならいいか。サンキュ。」
快斗は魔力でできた翼で浮かび上がり、ニグラネスと同じ高さで止まる。快斗はニグラネスに手を突き出して、
「俺、思うんだ。『反撃』って反則だって。『魔技・不能の呪詛』。」
快斗が1つ、歌を歌う。すると、ニグラネスが自身の心臓を抑え、理解できないといった顔で快斗を見返した。
「フ………」
「ギィ⁉」
「は、反射しない……?」
その瞬間に、快斗がニグラネスの顔を蹴り飛ばす。が、その攻撃は反射されなかった。
「成功。」
『魔技・不能の呪詛』。『反撃』をウザく思っていた快斗の感情と、ルシファーの能力によって生み出された『魔技』で、相手の固有能力を一時的に封じる効果がある。
だが、その効果時間は10分程度。それに莫大な集中力と魔力、歌唱能力が必要となる。
しかし快斗には十分。条件は今全て揃っており、時間は申し分ない。たかが10分。されど10分。快斗は決意を固めて魔力を高めていく。
「『極怒の顕現』。『赤』。」
髪の色が黒く染まり、右目を中心に十字架が描かれ、左目は赤いスパークを発しながら縦目へと変わっていく。
「んじゃあ、本気で行きますか。」
「ギィ‼」
互いに睨み合う。途端、両者の姿がブレ、その2人の中心地点で足がぶつかり合い、凄まじい衝撃波を生む。
「能力封じても、身体能力がパネェってか。それでこそ殺りがいがあるってもんだよな‼」
ニグラネスの足に自身の足を引っ掛けて回転。その勢いでその心臓部に肘を勢いよく叩き込む。
ニグラネスが突き落とされ、地面に衝突してクレーターを作り出した。その煙の中に追撃をしようと向かった瞬間、煙を掻き分けて一閃の魔力波。顔を傾けて寸前で躱す。
地面に大きなヒビが入り、何かと思うとけむりからニグラネスが飛び出して快斗を殴り飛ばす。衝撃が防いだ腕を伝って肩に響き、押し負けた快斗は空高く打ち上げられる。
「ガァアア‼」
先回りしたニグラネスが踵落としをかますが、
「フ………‼」
その攻撃を腕を振り抜いて相殺。足を引っ掴んで軸とし、踵を後頭部へ勢いよく叩き込む。ニグラネスの意識が一瞬飛び、意識が戻って視界が開けると、目の前には1つの拳が迫っていた。
気付いたが、時すでに遅し。ニグラネスは快斗に顔面を殴られて住宅を破壊しながら街中を転がる。
地面を抉りながらもなんとか勢いを殺し、ニグラネスが怒り混じりに顔を上げると、既にそこには快斗がおり、真下から振り上げられた足に勢いよく顎を蹴り上げられる。
そして浮き上がった顔を引っ掴み、快斗はニグラネスの顔を地面に叩きつける。
ニグラネスは地面に魔力波を放ち、その爆発で快斗を自分ごと吹き飛ばす。
煙を纏いながら快斗が空に浮かぶ。と、下から大きな魔力反応。下を見ると、ニグラネスが大量の魔力派を放っていた。
「面白え‼『ヘルズファイア』‼」
その全てを、獄炎が焼き潰して掻き消す。その隙を狙ったのか、獄炎を貫いて一閃の魔力波が。咄嗟に草薙剣で断ち切る。と、散った魔力波を掻き分けて急接近したニグラネスが先程の仕返しと言わんばかりに顔面を殴り飛ばした。
鼻血を撒き散らしながら、快斗が地面を抉りながら吹き飛んでいく。その後を恐ろしい速度でニグラネスが追う。
「『魔技・穿つ闇柱』」
快斗がニグラネスに捕まる瞬間、草薙剣を上に投げて『転移』。空振って体勢を崩すニグラネスの真上から、容赦なく闇でできた柱で穿つ。
草薙剣を更に遠くに投げて『転移』。数秒して先程いた場所が大爆発を起こす。
「ギギ……ギギぃ……」
有効な怨力に、能力が上がった快斗が使えばかなりのダメージを期待することができる。現に、今のニグラネスの背中には大穴が空いており、再生力がダメージに追い付いていない。
快斗はニグラネスの足元に草薙剣を投げつけて『転移』し、振り上げた草薙剣で真上へ突き飛ばす。
「『魔技・死滅の魔塊』。」
快斗が真上に手を向けると、浮かび上がるニグラネスの周りに黒い魔力の塊がいくつも現れる。
「うぉおオオオオ‼‼」
唸り声を上げて快斗が手を握ると、魔力の塊の1つ1つが獄炎を拭き上げて爆発し、その中心にいたニグラネスは全身が焼かれていく。
ニグラネスは獄炎から逃げ出し、快斗から距離をとった上で、巨大な魔力波を放った。
「どこ行くんだよ?『死歿刀』。」
草薙剣に獄炎を纏わせて、魔力波を真っ二つに斬り裂く。割れた魔力波が快斗の後方で爆発する。
と、剣を振り下ろした体勢の快斗の腹にニグラネスが蹴りを入れ、快斗が血を吐きながら空へと飛んでいく。
「げほ……アァ?」
真下から放たれたのは極太の魔力光線だ。それは魔力が凝縮された必殺の魔法。だが、それを前にして快斗はにやりと笑い、『空段』を発動。地面から90度に足場を作り出す。
「『魔技・絶望の一閃』‼」
快斗は真下から迫る濃厚な死の気配に、絶望をもって真っ向から対抗する。突き出された草薙剣から放たれたのは一閃は、魔力光線とぶつかり合い、強い衝撃波を放つ。
「オオオオオオオオオオオオオオオ‼‼」
「ギィイイイイイイイイイイイイイ‼‼」
互いに雄叫びを上げて、魔力を注ぎ込み続ける。
「チッ………負け……⁉」
「ギイイイイイイイ‼‼」
魔力光線の威力がどんどん増していき、快斗が押され始め、溢れる殺気を含んだ魔力片が快斗の頬を斬り裂いた。と、その時、快斗の真上から巨大な魔力の塊が急接近した。
「おおうっ⁉」
快斗に加勢するように魔力光線とぶつかったそれは、
「『聖槍・ロンギヌス』……ルーネスさんか……」
2つの刃を持つ聖槍が、その神聖魔力を存分に発揮して、逆属性のはずの快斗を癒やし、魔力光線とぶつかればぶつかるほど威力を増していく。快斗が崩れたメサイア本部を振り返ると、ルーネスが祈るように手を合わせて快斗を見つめていた。
「たく……あの人は。惚れちまいそうだぜ。んじゃちょっち力を借りるぜロンギヌス‼」
快斗が更に『空段』を発動し、その足場で回転してロンギヌスを蹴り飛ばす。ロンギヌスはそれに答えるように回転しながら威力を増し、魔力光線を突き破っていく。
「オオオオオオオオ‼‼」
そのロンギヌスの刃の後ろ、逆刃の部分に草薙剣を叩きつけ、魔力光線を消していく。
「死ねぇええええええ‼‼」
「ギィア⁉」
そして、遂に魔力光線を突破し、ロンギヌスは右足に突き刺さり、草薙剣は左腕を斬り飛ばした。
快斗はニグラネスの右足に突き刺さったロンギヌスを引き抜いたあと、
「能力が戻るまであと2分。俺がくたばるまであと7分。十分すぎる時間だな。」
快斗はニグラネスを上空まで蹴り飛ばし、草薙剣を投げて『転移』して追いついた。ニグラネスが痛みをこらえながら目を開くと、周りには分身体の快斗が、ニグラネスを囲んでいた。その手には、この世の生物の体が耐える事のできないエネルギーが籠もっていた。
「「「『魔技・残虐自虐大虐殺』。」」」
「ギィアアアアアア!!!!!!」
全員がほぼ同時にニグラネスの体に触れた。瞬間、焼き焦げた肌を更に焦がして崩していく。
ニグラネスは抵抗して腕と足を振り回して快斗の分身体を全て消し飛ばす。と、真上から強烈な死の気配が。
「『死歿刀』。」
獄炎を纏った斬撃が、ニグラネスの上体を斜めに斬り裂いた。そのまま、連続で斬り裂かれ、ニグラネスは力なく落ちていく。
その下に快斗は先回りをして、
「原野‼」
「ひゃいっ⁉」
戦いを眺めていた原野が、いきなり呼ばれておかしな返事をしてしまう。
「怨念の巣を作れ‼」
「え、あ、うん‼分かった‼」
何故それが必要なのか原野には分からなかったが、取り敢えず快斗に従えばなんとかなると思った原野は、我武者羅に快斗の足元にニグラネスを喰わせていた怨念達の巣を作り出す。
その黒い渦の中に、快斗は手を入れて、
「オオオオオオオオ‼‼」
全力で引っ張り出した。すると、その渦から禍々しい扉が現れた。そして、その扉についている鎖を快斗は草薙剣ですべて斬り裂いた。
「『合魔技・地獄門、開封』。」
扉の隙間に草薙剣を突き刺し、思いっきり上へ引き抜いた。同時にその扉が開きその中から真っ赤に煮えたぎった人々の怨念と血のマグマが真上に吹き出し、落ちてくるニグラネスに直撃した。
そして、天高くそれは登っていき遥か上空で極熱を発しながらニグラネスは大爆発を起こした。
熱風が降り注ぎ、自然に地獄門が閉じて消えていき、快斗は魔力切れで跪いた。
「ハァ………ハァ………これで……どう、だ……。」
快斗が疲労しながら上を見上げると、ほとんど体の部位が残っていないニグラネスが落下していく。
と、急にそれは空中で止まり、その体がボコボコと所々膨らみ、苦しみ呻く声とともに、ニグラネスが凄まじい邪気に包まれた。
「ッ⁉なんだ⁉」
快斗が疑問の声を発した瞬間、大きな地響きと共に、超巨大な気配を感じた。
「あ………」
快斗はその時、目を疑った。快斗の視界には…………超巨大な白い怪物が、街を破壊していたのだ。
「くっそ……何だあれ……。?」
快斗が疲労で痛む体を酷使して立ち上がると、その巨大な怪物の中から、ニグラネスとは違う気配が2つあるのを感じた。
「神々がどうやってニグラネスを縛っているのかが分かったよ。」
「サリエルか。」
不思議がっている快斗の横に、翼をはためかせて、サリエルが降り立った。
「縛ってた方法が分かったって?」
「うん。気配、感じるでしょ?」
「あぁ。2つな。」
「あれは神達が作り出した2人の悪魔。あなたも知っている名前の悪魔よ。」
サリエルは険しい表情をして、暴れるニグラネスを睨んでこういった。
「ニグラネスに取り憑いている悪魔は、
『断末魔』と『邪魔』よ。」
快斗はその言葉を聞いて、
「そんな名前の悪魔がいるのか。名付けセンスねぇな。」
「キューちゃんの前例を聞いたら快斗君にもセンスないよ………。話を戻すけど、今、多分ニグラネスは2人の悪魔の力を奪い取って暴れてるみたい。」
「悪魔の力をか?」
「そう。『邪魔』の能力は自身の目的の邪魔となる障害に対する攻撃力が倍増する。私が封印しようとした瞬間に強くなったのはこれのせいね。そして『断末魔』。死ぬ直前になると力が増すの。」
「なんて面倒な。」
「生命力が低ければ低いほど力が増すから、かなりの持久力が必要なの。快斗君は大丈夫なの?」
サリエルの問に快斗は目を伏せて答える。
「正直本当ならあと1分で俺は死ぬ。」
「ッ………。」
「でも、俺にゃあ最強の回復薬がある。」
「最強の?でも、高谷君はいないけど……」
「高谷の血じゃねぇよ。これさ。」
「………それは……。」
快斗が『魔技・アンデットホール』から取り出したのは、1つの小瓶。その中には、途轍もない魔力が込められた液体が入っている。
川市で高谷が金貨45枚で購入した完全万能薬。
「あのとき高谷が買ってくれて助かったぜ。」
快斗は小瓶の蓋を外して、中の液体を揺らしてから怪物を見上げる。
快斗は小瓶を傾けて、飲み込んでいく。急激に下がり始めた生命力が回復していく。空っぽになった心臓部に心臓が再生され、服装が元に戻り、力が落ちる。
「ハァ……ハァ……」
「快斗君‼負荷がすごいよ‼大丈夫⁉」
「あ、あぁ……なんとか……げほ……げほ……。」
快斗は盛大に吐血しながら、草薙剣を掲げて逆さに持ち、
「さて、第二ラウンドだ。」
心臓を突き刺した。溢れ出た魔力が吹き荒れ、服装は先程と同じ服装へと移る。
「んー。さっきよりも時間は短え。多分12分って言ったところだ。でも力は上がってる。この時間にあいつを封印しねぇとマジで俺は死ぬ。サリエル。予想外にあいつが力上げたから手伝ってくれ。」
「うん。私もここで休んでる気はないよ。」
快斗とサリエルは飛び上がり、ニグラネスの前に移動する。
「行くぜぇ‼『魔技・龍翔の魔症』‼」
快斗が勢いよくニグラネスに特攻し、ニグラネスはそれに気がついて雄叫びを上げながら太い腕を振り上げて快斗を叩き落とそうとする。
「させない‼りゃあ‼」
サリエルは『天の鎖』を操り、その腕を受け止める。
「でぇい‼」
快斗は草薙剣を斜め下から思いっきり振り上げて、その体に斜めに傷を作る。『魔技・龍翔の魔症』は、斬られた傷が徐々に腐り、ダメージが継続的に増えていくという能力である。
「『ヘルズファイア』‼『ヘルズファイア』‼『ヘルズファイア』‼」
離れ際に獄炎の塊を3発連続で放つ。ニグラネスはそれら全て殴り消した。
「攻撃が跳ね返ってこねぇ……?あの『魔技』の効果はとっくに切れてるはずなんだが……」
「巨大化したせいで能力を上手く使えてないんだ。今のうちに……⁉」
サリエルが『天の鎖』を快斗がつけた傷を狙って放った瞬間、何かにそれを弾かれた。それは、ニグラネスの傷口を乱暴に広げ、内側から飛び出してきた。
「あれは……」
「『邪魔』‼」
そこから抜け出したのは長い両手をだらしなくブラブラと揺らす悪魔。『邪魔』だった。
「邪魔……邪魔だよ……僕の障害になる物なんて全部邪魔だよ‼」
「おわっ⁉」
「きゃあっ⁉」
『邪魔』は頭を抑えて狂ったように叫び散らかしながら快斗とサリエルの間を高速で飛来していった。
「やべっ‼」
「快斗君‼前‼」
「な……チィッ‼」
『邪魔』を追おうとした快斗を狙って、ニグラネスが拳撃を放つ。草薙剣の『転移』で躱したが、『邪魔』を逃してしまった。
「やべぇ……」
「大丈夫だよ。」
「アァ?何が……」
焦る快斗の横で、サリエルがその進行先を手で制す。
「あの人達が戦ってくれるよ。」
「あの人達?」
「うん。」
快斗はなんとなくその『あの人達』を誰だか察し、ニヤリと笑うと、
「そうだな。俺らはこっちに集中すっか。」
「うん。でも、私達だけじゃないよ。」
「んあ?」
「その通りだ。この王都の安全を国内の兵士ではない者に任せるわけには行かない。」
「ちょっと寝ちゃいましたけど、ここからは手伝います‼」
快斗が疑問の声を上げると、後ろから凛とした声と少し弱々しい声がかけられ、振り返ると、風を纏って浮いているヒバリと、雷を纏って飛んでいるライトが快斗を見つめていた。
「凄まじい圧力と魔力だ。私が本気を出しても勝てないだろう。」
「凄い力です‼僕はとても追いつけないです。どうやったらそんなに強くなれるんですか⁉」
ライトとヒバリが快斗の力を称賛する。快斗は苦笑いをして、
「済まねえ。今は話してる場合じゃねぇ。この力を保てんのも時間がねぇ。さっさと蹴りをつける。」
「了解した。」
「分かりました。」
「うん。」
4人は街を破壊し続けるニグラネスを見つめて魔力を高める。と、ヒバリが風龍剣を真っ直ぐ真上に構え、
「我が力を。そよ風のように澄んだ魔力で我らを涼ませ、暴風のような強大な魔力で敵を吹き飛ばせ。『風神』。」
ヒバリが剣を掲げると、その体に緑色の澄んだ魔力を纏い、力を全て底上げする。
「では行こう。厄災を断ち切るために。」
「……あぁ。行くぜぇ‼」
快斗は風をを纏ったヒバリに少し見惚れたあと、その言葉を聞いて我に返り、雄叫びを上げてニグラネスに突っ込んでいく。
「行きます‼」
「行くよぉ‼」
「ふ………覚悟しろ。」
その後に続いてサリエル、ライト、ヒバリが魔力を纏わせたそれぞれの武器を構えて挑んでいった。
『断末魔』を取り込んだニグラネスと、エレスト王国内で最強の4人の戦いが始まった。