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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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邪神因子

真っ暗な空間。快斗が死んで魂体になって訪れたあの空間に酷似した空間。


そんな中で、快斗は水に浮かぶように揺らめいていた。


「………んあ?なんだこの空間……。」


快斗が目覚めて1回転。周りを見回して死んだのかと一瞬焦ったが、


「ッ⁉」


背中が震えるほどの魔力と威厳を持った魂の存在を感知して、その焦りが吹き飛んだ。


「おいおい。何だってんだ……。」


後ろから近づいてくる魂に震えながら、快斗は振り返らずにため息をつく。


「こちらを向け。俺はお前に危害を加えるつもりはない。」

「そのウッゼー感じがする口調と声は……」


快斗はゆっくりと振り返る。そこには、紫色の光沢を放つ丸い水晶、否、魂が浮んでいた。そして、それが誰のものなのかなんとなく検討がついた快斗は頭を抑えて、


「ルシファー……。」

「ほう。人の名を覚えていられる程の頭脳の持ち主か。意外だぞ人間。」

「てめぇ、俺を何だと思ってんだよ。」


快斗が苛ついて魂を引っ掴んで振り回すが、ルシファーはどこ吹く風で「気が済むまで振っていろ人間」と言って更に快斗を煽った。


「ハァ………ハァ………」

「気は済んだか。」

「チッ……済んだよ。」

「ならいい。本題に入ろう。」


ルシファーの魂は、快斗の手から離れ、その目の前で止まって話す。


「『月の魔獣』を見たな?」

「あの白くて気持ち悪ぃ見た目した野郎だろ?俺はそれにぶちのめされて……あれ?もしかして俺って死んだ?」

「違う。気絶しただけだ。悪魔ともあろう物が気絶とは、痛々しくて目も当てられないな。」

「一言多いんだよ‼」


魂揺れてやれやれという雰囲気を醸し出すことに苛ついて、快斗が魂を叩き落とす。


ルシファーはため息を付きながらもう一度上って、


「『月の魔獣』は月に封印されていたのは知ってるな?」

「知ってるっつーか、さっき気づいたんだが……。」

「先ずはそこから話す必要があるな。長話だが飽きずに聞けよ。」

「無理なこったな。外じゃルーネスさんとかヒバリとかが戦ってんだからよ。こんなとこでグズグズしてられっかよ。」

「女の名前しか出てこないか。男妖艶魔インキュバスにでもなったらどうだ。」

「余計なお世話だよ‼」


苛ついて指を指す快斗を宥めて、ルシファーはゆっくりと話を始めた。


……………………。


「ふーん。『月の魔獣』はお前の元友達で、本名はニグラネスと。」

「過去に、地獄でやつを拾って以来、共に目的を遂行していた。」

「目的って?」

「それは言えん。だがともかく、奴は今や正気ではない。神に対する憎悪を、神によって増幅させられているのだ。奴自身、既に疲れ切っている。眠らせるのが友の仕事だと思わないか。」

「む。」


意外と友達思いのルシファーを引き目で眺め、快斗は一応の確認をする。


「俺の体を使いてぇって事だろ?」

「そうだ。」

「お前魂体になって乗り移れるんだから、それで本体に語りかけたらどうだ?」

「あれ程暴れていては、入るものも入れん。」

「ふーん………体を渡したときの俺のメリットは?」

「お前は新たな力、もとい、元の力を取り戻す事ができる。」

「デメリットは?」

「お前の心臓が消える。」

「デメリットでかすぎだろ‼」


流石の快斗も、心臓がなくなってしまうとなれば黙って体を預けられない。だが、直ぐに何かを思い出したようにハッと目を見開いた。


「やっぱいいや。体、貸してやる。」

「心臓が消えない方法でも考えたか?悪いがそれでは……」

「そうじゃねぇ。」


快斗はルシファーの魂に笑って、


「心臓を消さないんじゃねぇ。消えたやつをもう1回作るのさ。」

「?」


ある一つのものを思い出して、快斗は一時的にルシファーに体を貸すのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「『絶雪』‼」 

「『猛血』‼」


太陽がギンギンに照らす酸素の薄い雲の上で、血だらけになっている2人は高谷とネロテスラの中の邪神因子である。


邪神因子は大量の魔法陣を作り出し、その中から真っ黒の雪を胞子のように風に乗せて高谷を狙う。


それを、手首から飛び出した血を炎化させて迎え撃ち、そのまま邪神因子を包み込んで爆破する。


「ぐぁ………ハァ……ハァ……」

「諦めて死んだら?無限の命をもつ俺には絶対に勝てない。」

「ハァ……ふぅ……ふふ。そんなこと…ないわ‼」

「ッ⁉」


邪神因子はクリリナイフを高谷の心臓に差し込んでストッパーとし、体を密着させる。


「何を……今更誘惑?」

「違うわ。こうするのよ‼」

「ッ⁉」


高谷が邪神因子を振り払おうとした瞬間、体を傷つけられる痛みとは違う痛みが高谷を襲った。


「ぐ………⁉」

「体は再生しても、魂を破壊したらどんな生物でも死ぬのよ‼忘れてた?この体は妖艶魔サキュバスの物よ‼」


クリリナイフで魂に干渉。魂は異物を排除しようとクリリナイフに抵抗するが、邪神因子は力ずくでその中を動き回り、

  

「ええい‼」

「ッ⁉」


高谷の魂を少し斬り裂いた。分離した魂は、邪神因子が取り込み、それを糧にして傷を回復する。


「ハハハ‼どう?私はあなたに勝てるのよ‼負けるのは魂に干渉出来ないあなたの方よ‼」


邪神因子は高らかに笑うが、高谷はそれを聞いて絶望するでも諦めるでもなく、笑った。


「な、なによ……。」

「んにゃ、魂に干渉できるの自分だけと思ってる?」

「へ?あぐっ⁉」


途端、邪神因子に直接痛みが響いた。その隙に高谷が剣をネロテスラの体に突き刺し、更に魂に近づいていく。


「何故……あなたは魂に干渉できるはずが……‼」

「干渉したのは魂じゃなく、精神だよ。」

「なに……⁉」


高谷は腹にできた口で笑いながら、なくなったネロテスラの腕の切り口を指差す。


「戦いに集中して気が付かなかった?その傷口から、俺の血が侵入していったのが。」

「ッ⁉」

「その血で頭脳の神経細胞を侵食&操作。知らず知らずの間に自分の魂を奥から自分で引出していたんだよ。」 

「でも‼それでも魂にただの人間が……」

「ただの人間?何を言ってるのさ。俺は魔神因子を取り込んだ、特別な人間なんだよ。」


高谷の剣が、邪神因子本体に突き刺さる。


「いいいい‼‼」

「『崩御の剣』‼」


青黒い炎が、剣を伝って邪神因子を内側から焼き尽くしていく。邪神因子は必死に抵抗し、なんとか剣を引き抜く事に成功するが、焼いた炎は『崩御の炎』。大きくその体を削られた。削れた破片は、欠けた高谷の魂を即席で補う。


「あああ‼やってくれるじゃない‼魔神の駒の癖にぃ‼」

「そっちも邪神の駒だけどね。」


癇癪を起こす邪神因子。苦笑しながら高谷が右腕で殴り飛ばす。くの字に曲がったネロテスラの体を、先回りした高谷が真上に蹴り飛ばす。その先に先回りした高谷が、斜め下に蹴り飛ばす。


「ぐ⁉あが⁉うぅ⁉」

「まだまだ‼」


ネロテスラの体を、高谷は蹴り飛ばし殴り潰し、突き上げる。体中の骨にヒビが入り、血管が破け、意識はどこか遠くへ。だが、続けて訪れる打撃のせいで気絶できない。


「うぅ……く……。」


既に今、邪神因子の意識なのかネロテスラの意識なのかは本人達でさえわからない。高谷はただ、ネロテスラを眠らせる為に、その体を殴り続ける。


「い……あ………」

「ハァっ‼」


最後に思いっきり真上に蹴り飛ばし、その先に先回りして剣を構える。力なく吹き飛んでくる体はぐちゃぐちゃで、残る一本の腕はひしゃげ、顔は半分ほど潰れ、足は反対方向へとへし折れている。


「い……や……」

「邪神因子を少し貰っただけなのにこれだけの力。邪神は結構な力の塊を配っているみたいだ。」


手を握ったり開いたりして、高谷は『崩御の剣』を発動。青黒い絶対死の炎が巻き上がる。吹き飛んでくるネロテスラの目尻には一滴の涙が浮んでいた。


「あなたがギドラとどんな関係にあったかは知らない。でも、たとえ敵だとしても、同志の為に命を燃やしてまで協力する姿勢。感動しました。ですが、それもここまでです。そろそろ、お休みください。」

「う………あぅ………」

「フゥ………なんてセリフ。俺が言っても格好つかないな。」


大きな青黒い炎を背負う剣を掲げ、高谷が1人ため息をつく。と、その頬に生暖かいものが触れた。何かと目を剥くと、威力の限界に達してゆっくりと空中に留まるネロテスラが、高谷の頬に触れていた。


既に喋られるような状態ではないのだが、ネロテスラは少し笑って、明瞭な声音で、


「そんなことないわ。あなただってあの悪魔のために自分を傷つけてでも協力してるじゃない。普通の人間考えれば、あなたは既に、何度も死んでいるのだから。」

「そうかな?」

「ええ。私が保証するわ。」

「あなたに保証されてもなぁ。」

「女の言葉を軽口で流していると、そのうち痛い目にあうわよ?」

「はいはい。それじゃ。」

「ふふ。」


少しはにかむネロテスラに、高谷が剣を振り下ろす。その小さな笑顔が、高谷には、妙に魅力的に見えた。そして、死ぬ寸前ネロテスラは、


「ありがとう。あなたの言葉で、少しは報われた気がしたわ。さよなら。」

「フ………」


脳内に直接響いたと錯覚するほどはっきりと聞こえた言葉を鼻で笑い、高谷はネロテスラの体を真っ二つに断ち切った。青黒い炎が威力を失わずに真下へと飛んでいく。


ネロテスラの体は、青黒い炎で消し炭になっていく。


「いやああああ‼もう‼やっと器に入れたっていうのにぃ‼」

「…………。」


残ったのは邪神因子。灰色の光を放つ汚れた魔力の塊は、怒り任せに叫びまわって邪気を振りまく。


「魔神因子……‼魔神因子‼あなたからその器を奪い取ってあげるわ‼」


邪神因子が、高谷に真っ直ぐ飛んでいく。高谷は剣を構えることなく、その突進を真っ向から受けた。


「馬鹿ね‼余裕ぶっこいてたら私に意識を取られても知らないわよ‼」


そう叫んで、邪神因子は高谷の中に入っていった。


残った高谷は、


「フ………馬鹿はそっちさ。俺の中で正気でいれるかな?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


人は誰しも、生まれたてだとしても憎しみと悲しみと喜びと怒りを中に宿している。


魂の入っている『感中』の色は、その4つの感情で一番大きな感情の色になる。


「入れたわ‼なによ余裕じゃない‼」


そこに入り込んできた異物。邪神因子は『感中』の中の魔神因子と、自身の一部を取り込んだ高谷の魂を睨んだ。


「ふふふ。先ずはその貧弱な魂を喰ってあげるわ‼」


邪神因子が魂に触れようとした時、


「ッ⁉」


激しい感情の波に突き飛ばされた。


「な、何……この感情は……⁉」


邪神因子が驚いていると、不意に魔神因子が魔力を発して、


「ここはあなたのいるべき場所ではないわ。出ていきなさい。」

「な、なによ……。」

「私は、ここはあなたが出ていくことをオススメするわ。あなたじゃここの感情の波を耐えられないでしょう?」


舐め腐ったような魔神因子の態度に、邪神因子が苛つきを覚える。


「なんなのよ‼魔神の因子が平気なら、私だって平気だわ‼」


そう言って、邪神因子はもう一度魂に飛びかかる。魔神因子は呆れて、


「馬鹿ね。私はこの子に受け入れられてるから平気なの。全力否定されてるあなたが、私と同じ苦痛なはずないじゃない。」

「ッ⁉」

 

魔神因子が言い終わると同時に、邪神因子は先程よりも強い感情の波に流された。


「な、何……⁉」


溢れ出てくるその感情は、黒色の、憎しみ。


憎悪の感情が邪神因子を飲み込み、呪いのように沢山の腕が、邪神因子を掴んだ。


「い、いやぁ‼に、逃げなきゃ……⁉」


邪神因子が邪気を発して腕を突き飛ばし、ここから抜け出そうとした時、真上からもう1つの感情が降ってきた。それは、赤色の、怒り。


憤怒の感情は高温のマグマのようにドロドロと邪神因子を押し戻していく。


「な…ぐ……、なぁ……‼」


邪神因子は憎しみの腕と怒りのマグマに晒され、その力を押さえつけられていく。


「いやぁ……いやあああああ‼‼」


バンと、音を出して邪神因子は押しつぶされ、取り込んだ高谷の魂とライトの魂を落とした。


高谷の魂は、欠けた部位を補っていた邪神因子の欠片と交換され、邪神因子は高谷に完全に取り込まれた。ライトの魂は、異物として外に押し出されていった。


憎しみの腕に完全に拘束された邪神因子を見て、魔神因子は静かに笑い、


「あなた達は負けるわ。勝つのは、魔神因子をもつ、私達なんだから。」 


そう言って、邪神因子に根をはり、その力を取り込んだのだった。

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