『剣聖』参戦
名:ヒバリ・シン・エレスト 種族:魔人
状態:正常 生命力:1250 腕力:1350
脚力:1350 魔力:1450 知力:650
獄値:3025
「な、なんだ?」
各地で目撃された邪気の流星。その着地地点で、快斗はその流星の姿を見て疑問符を浮かべる。
不可思議な色をした卵。そして、発せられる強い邪気。あれが、メサイアの悲願だったと言うのだろうか。
「遂に来たわ。堕天使サリエル‼」
「………サリエル?」
ネロテスラの言葉に、ルーネスが首を傾げる。視線は光を失った術式にこびり付いた血に向けられ、途端、ルーネスの顔から血の気が引いていく。
「まさか……国王様を‼」
「ええそうよ。名前とか顔とか忘れちゃったけど‼国王を生贄にサリエルを呼び出したのよ‼」
ネロテスラが暴露する言葉を聞いて、今度は高谷の顔から血の気が引いていく。
「ヤバイ快斗。これはマズイよ。」
「国王がどうとかどういう?」
「サリエルっていうのはね。昔大罪を犯した天使で、月に封印されていたらしいんだけど、それを復活させる方法があってね。その方法が、エレストの王族の魂と心臓を捧げることなんだよ。」
「…………ンだとォ……‼」
快斗が拳を握りしめ、ライトを見ると、
「え?そんな……え?あの人が……僕の父さん?嘘……嘘だよ……」
頭を抑えて膝を付き、術式についた血を眺める。途端、目尻から涙を流す。それは、父を失った悲しさと、大切な人を死ぬまで忘れてしまっていた事に対する自嘲が含まれている。
「クソがぁ………アイツ、ぜってぇぶっ殺してやる‼」
快斗がギドラへと襲来するが、その行く手をネロテスラが防ぐ。
「んぐ……」
「天使様はまだ力を完全に取り戻せていない……それまで私達が時間を稼ぐわよギドラ‼」
ネロテスラがギドラの肩を叩いて立ち上がらせようとした。が、ギドラは力なく跪いて卵を見つめている。
「どうしたのよギドラ‼早く立って‼私達が天使様を……」
「違う……。」
「え?」
叫ぶネロテスラに、ギドラが力なく答える。その声は、絶望に支配されていた。ギドラはゆっくりと立ち上がると、ネロテスラの方に振り返り、涙を流しながら、
「これは、天使様……じゃない……。」
「え?」
言われた事に混乱して、ネロテスラが情けない声を上げて首を傾げる。
と、そんな光景を見ていた快斗の視界の端に、1つ不思議なものが写り込んだ。
「んあ?」
それは、老いてはいるが、まだまだ元気な魂だった。快斗は直感で、それが先程の国王の魂だと気がついた。そして、同時に疑問を抱いた。
それは、先程の高谷の言葉。
「エレストの王族の『心臓』と『魂』を捧げることなんだよ。」
だが魂ならここにある。つまり、魂は捧げられていない。つまり、今ここに呼び出された卵は、堕天使サリエルではなく……
と、急に卵が振動して、バリンという音と共に一部が壊れ、一本の白い腕が飛び出し、
何かを求めるように動き回ったそれは、ギドラの方を向くと、一瞬ブレて消えた。そして、戻ってきた腕に握られていたのは、
「心……臓?」
血をまとった小さな肉は、心臓だった。それは誰のものかと快斗が卵の近くにいたギドラに目を向けると、
「ぐふ………。」
「ッ⁉ギドラ‼」
口から盛大に吐血し、背中から勢いよく血を流すギドラが。その位置は、心臓を抉り取られたと言われたら納得できる位置だった。
「タリ……ナイ………タリ…ナイィ……‼」
と、卵の中から歪な声が響いたと思うと、ギドラの心臓を卵の中に持ち帰ったあと、再び出現した腕がまたしてもブレて消えた。そして、
「………ギドラ?ギドラァ‼アアアア‼」
戻ってきた白い腕に握られていたのは、ギドラの頭だった。ギドラの体が力なく倒れる。
卵から飛び出している腕は、ギドラの頭を壁に投げつけて潰し、奇怪な声を上げて卵の殻を壊し始める。
ルーネスはその光景を見て、1つの伝説を思い出した。
かつて、神々に認められた魔獣がいた。それは『月の魔獣』と名付けられ、月に封印されたと言う。
「皆さん‼全力であの卵の中の物を殺してください‼あれはマズイです‼」
ルーネスは叫ぶと、卵に向かって『聖槍・ロンギヌス』を投げつける。快斗は条件反射で草薙剣に獄炎を纏わせ、『死歿刀』を放つ。
高谷は快斗程ではないものの、かなり早く反応して、斬り裂いた手首から吹き出した血を炎に変えて攻撃する。ライトは……
「うわぁあぁぁあ‼‼父さん‼父さぁん‼あああああああ‼‼」
混乱状態に陥り、何度も地面に頭を叩きつけている。快斗は悲しげにライトを見つめ、卵に向かって全力の斬撃を放つ。が、
「キェェェエエエエ‼‼‼」
「が⁉」
「くぅ……」
「いたっ⁉」
攻撃に転じた3人が、卵から吹き出した邪気に吹き飛ばされる。
「ね、ねぇ〜?なんかやばくな〜い?」
「逃げたほうが良さそうだよね。」
「ふわぁ………お先。」
メサイア幹部の3人は、本当に幹部なのかと疑うほどあっさりとその場から逃げ去った。
「く………『魔技・狐の化かし芸』‼『魔技・アンデッドホール』‼」
快斗は吹き飛んでいく国王の魂を引き寄せ、一旦『アンデッドホール』の中に放り投げる。
「国王なのかしらねぇが、取り敢えずそこに居てくれ。」
「……………。」
魂は声を発さない。だが、快斗にはその魂が頷いてるように感じた。そして、嘆き続けるライトを見て、少し悲しげな雰囲気になっているようにも。
「なんとかスッから。あんたは安心して待ってな。」
「…………。」
魂は、『任せた』と言うように、静かに『アンデッドホール』に入っていく。
快斗は頷いて、『アンデッドホール』を閉じ、卵に向き直る。卵は既に完全に壊れ、邪気を纏った真っ白の生物が見える。
それは腕が4本生えており、口は頭部と思われる所に縦に大きく出来ている。そして、その口の横には、8つの不気味な目玉がついており、後ろから生える尻尾は、人の腕が何本も繋がっているように見える。
快斗の全身の神経が警報を鳴らしている。あれはヤバイ、と。
「くぅ……『ヘルズファイア』‼」
快斗が上空に草薙剣を投げて『転移』。獄炎を叩きつけた。が、
「なぁっ⁉」
快斗が放った『ヘルズファイア』は、『月の魔獣』に当たるなり、その威力を倍にして跳ね返ってきた。咄嗟に草薙剣を投げ、『転移』で回避する。
「『銀色水華』‼」
ルーネスが銀色の水を纏ったロンギヌスを投げつける。しかし、その攻撃は倍の威力になって跳ね返る。
ルーネスは体を傾けて、跳ね返ってきたロンギヌスを躱す。赤く顔に傷ができる。
ロンギヌスは勢いが留まらず、壁を破壊して町中を破壊し回る。
「お戻りください‼」
ルーネスがロンギヌスに手を向けると、ロンギヌスがそれに答えたように宙を舞い、ルーネスの手の中に戻って来る。
「『猛血』‼」
斬り裂いた手首から飛び出した血を炎に変え、高谷が『月の魔獣』を狙う。だがやはり、
「ぶ………」
倍の威力になって帰ってきた『猛血』を、高谷は全身で受けてしまう。
「クソ‼どうなってやがる。」
快斗が悪態をついて、『月の魔獣』の首に斬撃を入れる。確かに『月の魔獣』に傷はついたが、
「あがっ⁉」
直後、快斗の胸に横一線に傷ができ、血が吹き出した。
「く………」
即座に距離を取る快斗。だが、『月の魔獣』は振り返ると、快斗以上の速度で追撃を仕掛ける。振り下ろされた拳を草薙剣で迎え撃つ。その勢い故に、快斗は地面に埋まって動けなくなった。
「快斗ォ‼グルァ‼」
魔力カツカツな体を酷使して、高谷が無理矢理『血獣化』。肥大化した腕で『月の魔獣』を殴り飛ばすが、
「グワッ⁉」
その真正面から、強い衝撃が高谷を突き飛ばし、血を拭き上げながら、高谷が吹き飛んでいく。
「これは……もしかして……‼」
快斗が草薙剣で『転移』。ルーネスの所へ戻る。
「ハァ……ハァ……。」
「快斗様‼ご無事ですか‼」
「一応は……。ハァ………」
荒く息をつく快斗に、ルーネスが駆け寄る。
「快斗様。あの魔獣の能力……。」
「あぁ。分かってる。」
快斗はヨロヨロと立ち上がり、『月の魔獣』を指さして、
「アイツの固有能力はズバリ‼『反撃』‼。魔術、体術をすべて倍の威力にして跳ね返す。」
「ッ……。」
ルーネスが快斗の回答に体を震わせる。『月の魔獣』は、快斗につけられた首の傷を抑え、数秒間撫でたあと手を離すと、完全に傷が消え去っていた。
「跳ね返す代わりにダメージは受けるけど、耐久力も再生力も馬鹿になんねぇな。」
「あれでも完全体では無いはずです。本当の力を取り戻したとしたら……四大剣将全員が集まってやっと倒せるかどうか。と言えるでしょうか。」
「マジで?エレジアクラスの剣士が4人集まってやっととか、チート級だな。」
四大剣将の1人の実力を知っている快斗からすれば、それはまさにチートの強さである。
「くっそ……ムズイなぁ。魔術はノーダメージ。体術でも極小ダメージ。」
「そして、あの『月の魔獣』は傷をすくに塞ぎ、体力と魔力は底なし。神々でさえ称賛するほどの実力。」
「詰みじゃねぇか。どうするよ。」
快斗がルーネスの顔を見つめて戦術があるのかと問う。ルーネスは少し考え込み、ふと、顔を上げて笑った。
「四大剣将と、同等の方がいらっしゃいましたね。僅かながら、私達の勝機は上がりましたよ。」
「んあ?ルーネスさん以外に四大剣将並の力のやつなんて……」
快斗が言い終わる前に、そのすぐ右に、1つの大きな気配が出現した。快斗が驚いて振り向くとそこには、
「お前……」
「遅れた。と言うには些か早かったか?まぁいい。不服だが、私も力を貸すとしよう。悪魔、天野快斗。」
長い黒髪を優雅にゆらし、鋭く、しかしどこか優しげな瞳を持つ長身の女性。手に持つのは風龍剣。緑色の澄んだ魔力を纏うのは、
「『剣聖』ヒバリ・シン・エレスト様。」
「すまない。何か言ったのだろうが、生憎、呪いのせいで何も聞こえなくてな。」
微笑んで呟いたルーネスに、ヒバリは自身の耳についているピアスを指で弾いて見せる。
「なんでいやがる。逃げろって言ったってのに。」
「国民が危機にさらされているというのに見殺せと?私は『剣聖』だ。そんな事は許されん。」
「おま、俺達だけで解決できるっていう考えは……」
「私よりも弱いあなた達に、私よりも強い魔獣に勝てるはずが無いだろう?」
「うわ。そんなに直球で言わなくてもいいだろ。それにそんなに国民の為とか言ってるけど、死に際は『私は悪くない』とか言って国民に恨み抱いていたじゃねぇか。」
「すまん。今呪いで音が聞こえなくてな。」
「嘘付け俺の声は聞こえるはずだぞおい。」
自身の失態を必死に隠そうと呪いを言い訳にするヒバリを睨みながらも、快斗は草薙剣を握りしめ、
「ヒバリ。アイツは魔術は聞かねぇ。体術と剣術だけで戦え。あと、全部の攻撃が倍になって返ってくるから気をつけろよ。」
「ほう。面白い。私の剣術と身のこなしを見せるまたとない機会と言えよう。」
「またとない訳じゃねぇだろ。」
少し可笑しな発言をするヒバリにツッコミを入れて、快斗は後ろの壁に埋まって休憩している高谷に顔を向ける。
「なぁに休憩してやがる。」
「いやそのさ。いくら死なないと言っても痛いものは痛いし、疲労もするから、手出ししないのが一番いいのかなって。ほら、触らぬ神に祟りなしって言うじゃん?」
「それは相手が女か神のとき以外は無効な。」
「ぐ………分かったよ。戦い方は分かったから。」
渋々といった様子で、高谷が壁から脱出。腰の剣を引き抜いて構える。
「ギィィィィ……。」
『月の魔獣』は不気味な声で唸り、警戒したように高谷達を見つめる。その視線を真っ直ぐ睨み返して、快斗は言う。
「何かよくわかんねぇけど。まだ完全体じゃねぇらしいから、今のうちにぶっ殺すぞ。いいな‼」
「了解‼」
「了解しました‼」
「承知。」
4人は各々の声を上げ、四つん這いの『月の魔獣』へと飛びかかる。
『月の魔獣』はその8つの目を動かして、縦に裂ける口で嘲笑うかのように奇声を上げ、4人を迎え撃つ。その戦いの端で、ネロテスラとライトは静かに戦いを見つめていた。