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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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助けてくれた人

夢を見た。2日も連続で。珍しい事だ。


「………フ。」


まさか、2度も同じ者が夢に現れるとは。


頭から異様に離れない快斗のことを思い出して、ヒバリは苦笑する。


綺麗な白銀の髪に、赤と青の瞳。鋭く尖った牙。上物と思える刀。


なんの関係もない人物のことを、何故ここまで気にしているのか、ヒバリには理解ができない。


ヒバリが考えないようにしようとしても、やはり彼は脳内で笑っている。


昔、親戚の子と話した事がある。その子には、想いを寄せている人が居るのだと聞いた。


一度人を好きになったが最後、その人のことが頭から離れなくなるのだとか。不要な感情。ヒバリはそれをそう捉えていた。


「それが………今私が想っていること、か……」


快斗に握られた手。あの時の体温はとても暖かく、自身が持つ不安事を全て吹き飛ばしていく。


「………フ。我ながら、何という……傲慢なことか……。」


一度快斗の噂を聞いたとき、とんだ悪党だと思った。殺すべき相手だと考えた。消えるべきだと恨んだ。


だというのに、『必ず助ける』、という言葉1つかけられただけで、自分は彼を想ってしまうのか。


人の心は、弱い。自分は強く有りたいと、そう思ってきた。


「……拒んだほうが……良いのだろうか……。」


その自信の気持ちを拒むべきか、受け入れるべきか。ヒバリには分からない。


そんな事を考えていた時、


「おい。犯罪者。」

「…………。」


いつの間にか、鉄格子の前に看守が立っていた。思考にドップリハマっていたせいで、気が付かなかったようだ。と、看守がいきなり鉄格子の扉の鍵を開け、ヒバリの腕の枷を取り外した。


「立て。出所だ。」

「…………?」


ヒバリは訳の分からぬまま、看守に連れて行かれる。牢獄を抜け、地下から地上へと向かう。


「あぁ、そうだ。忘れるところだった。」

「?……う……。」


と、階段を登っている所で看守が振り向き、両手でヒバリの耳に触れたと思うと、バチンという音と共に、鋭い痛みが耳に響いた。


「つ……。」

「おら。これをつけろ。」

「?、はい……。」


渡されたのは、紫色の宝石を埋め込まれている、大きな輪っかのピアスだった。それを見て、先程の痛みは穴を開けた事によるものだと理解した。


「う………つ…。」


開けたばかりの耳の穴に、ピアスを押し込む。ズキズキとした痛みが伝わるが、それでもヒバリは両耳にピアスをつけた。


「つけたな。では、」

「?」


ヒバリがピアスを付けたのを確認すると、看守が紫色の玉を取り出し、魔力を流す。すると、その玉からピアスに向かって紫色の光の糸が通じ、そこで1つ、看守が呟いた。


「呪術、『聞こえない音(サイレント)』。」

「ッ⁉」


その呟きに警戒したヒバリだったが、耳の痛み以外特に痛みを感じなかった。体にも異変はなく、動きにも不自由がない。が、


「あ……あぁ?」


途端、世界から音が消失した。正確には、ヒバリが音を聞き取ることができなくなった。


「これは耳を聞こえなくする呪術用具だ。もうお前は死ぬまで一生音を捉える事はできない。この言葉も聞こえていないだろうがな。」


口を動かしているのを見て、ヒバリは自分の耳が機能しなくなった事を理解する。


「さぁ、ついてこい。聞こえてはいないだろうが、理解はできるだろう?」

「………。」


ヒバリはゆっくりと、看守についていった。

そして、30分ほど歩いて、ヒバリは、たくさんの人々の前に跪けさせられた。


「ここ……は……。」


目隠しをされ、手を鎖で繋がれ、誰かに引っ張られて進んでいく。階段があり、ヒバリは視力と聴力以外の感覚を頼りに、しっかりと階段を登っていく。


ここに来るまで、いくつか不思議に思うことがあった。


1つは、周りに人の気配が全くないこと。

2つは、城の方から強い魔力を感じる事。

3つは、何度も襲ってくる魔力波の地震。


何かが起こっていることを想像しながらも、ヒバリは頭を振って、引かれるままに進んできた。


そして今、首をなにかに嵌められ、楽とは言えない体勢へと移された。


隣には1人の人の気配があり、動きを感じるに、何かを大声で話しているようだった。


その言葉に、自分を見上げている沢山の人々の気配が歓喜に満たされた。


と、真上から強い殺気を感じた。それは少しずつ近づいてくる。


隣の人が笑うのがわかる。鋭い殺気は、自分を見つめている人々からも注がれる。


そして、ヒバリは1つ、思い出した。夢を見るときは、その人が強い喜びを感じた時、そして、死期が近いとき。


ガラガラと、何かが引きあげられる振動が伝わる。ヒバリの頬に冷や汗がつたる。


「………あれほど死のうとしていたと言うのに、今更……怯えるなどと……。」


震える手と足を制そうと、活を入れるために声を出すが、その声さえ、ヒバリには聞こえない。


「く………。」

「ククク。震えるか『剣聖』。人殺しが死を恐れるなど、なんて傲慢な‼神の裁きを受けよ‼」


ヒバリには聞こえないが、処刑人と思われる人間が、怒りと嘲笑混じりの言葉を放っているのが伝わった。


思い出されるのは夢の中。ギロチンで刎ね飛ばされた自身の首。もう1つの結果を夢を見ていた自身を哀れに思う。


処刑人は目隠しから溢れるものを見て笑い、手に持つ鞭を振り上げて叫んだ。


「処刑、開始‼」

「「「おおぉぉおぉぉおおぉおお‼‼」」」


その声につられて、沢山の人々、避難所に密集した人々が雄叫びを上げる。


そして、ヒバリの真上、ギロチンの刃が降ろされた。高速で首に刃が迫るが、ヒバリの走馬灯で時空が遅くなる。


「あぁ……私は、死ぬのか……」


1人、呟く。


「私が……悪いのだ……。」


1人、嘲笑う。


「私が……悪いのか?」


1人、首を傾げる。


「私は……殺っていない……。」


1人、否定する。


「私は……悪くない……。」


1人、決意する。


「私は……私は……私は……‼」


脳内に流れるのは今までの出来事。風龍を倒した時。『剣聖』の力に覚醒した時。ライトが生まれた時。………母が、死んだ時。


「ッ‼」


思い出せなかった、母の言った1つの言葉が、今、脳内に響き渡った。


『ヒバリ……ライトを守ってね。でも、ライトばかりに気にかけないで、自分のことも大切にして。あなたはきっと、幸せになれるから。』


何だ。この気持ちは。何だ。この焦りは。何だ。この恐怖は。その全ての疑問を、その言葉が打ち砕いた。その答えは……


「私は、死にたく……ない‼」


遅くなった世界で、ヒバリは1人大声で叫んだ。それが誰かに聞いてほしいなどと思っていない。だが、その言葉を聞きたいと思っている者がいた。


「聞いたぜ。言質とったかんな‼あとで後悔すんなよ‼」

「ッ⁉」


とてつもなく大きな魔力と衝撃を感じ、ヒバリが驚いて肩を上げる。


と、上から迫る強い殺気が消失。腕にはめられた枷が壊れ、首をはめられたギロチンが破壊される。


「ぎゃあああ‼‼」


そして、隣にいた処刑人の気配も消失した。 

何かがボトボトと落ちる衝撃が伝わる。


「っぶねぇ。マジでギリギリだった……。間に合ってよかった……。おい、大丈夫かよ?」

「あ……あ……?」

「何これ鉄の目隠し?センスねぇなぁ。俺だったな鎖のやつにするんだが……。てあ?」


目隠しを取り外され、ヒバリの視界に、牢屋で何度も思い出した顔が映り込む。白銀の髪、鋭い牙、赤と青の瞳。それに追加で、所々に傷と血がついている。それは紛れもなく、天野快斗その人だった。


「おいおい。なんで俺が助ける女って大体泣いてるんだよ?グッシャグシャじゃねぇか。」

「………へ?」


ヒバリは自身の目を擦って、手にくる水の感覚に目を見開いた。今まで汗だと思っていたそれは、目から流れた涙であったのだった。


「泣くことなど……何年ぶりだろうか……。」


生まれた瞬間しか泣かなかったヒバリにとって、涙というものは新鮮の一言だ。涙というのは、こんなにも温かいのか。


「ハァ………ほれ。俺の服で吹いていいぞ。」

「あ、あぁ……。あぁ?」


目の前に差し出された袖で涙を拭きながら、ふと疑問に思った。


「何故……貴様の声は聞こえる……?」

「んあ?何その哲学的問題。俺が声出してんだから、聞こえるに決まってんだろ。」


快斗はそう言っているが、これは快斗の声だからである。快斗自身知らないが、これもまたエレメロの仕業で、快斗に入れた魔神因子に、呪術無効の能力を付けておいたのだ。


「まぁ、お前が助かってよかった。んじゃほら、これ。」

「……これは……。」


快斗が手に持っていた白い鞘に収まった剣を差し出す。受け取って引き抜いてみると、薄緑色の長剣が姿を現した。


「風龍剣……。」

「メサイア教会の中にありやがったぜ。それ使って、こっから逃げな。俺は戻んなきゃなんねぇ。」


快斗が立ち上がって、後ろを振り返る。その先には、煙がもうもうと吹き上がるメサイアの教会があった。


「あれは……」

「じゃあな。安全なところに逃げておいてくれ。」

「ま……」


快斗がそう言って飛んで行ってしまった。ヒバリは、『剣聖』として、彼を止めるべきだったのだろうかと考えた。が、今の気持ちは、それでは無いと気付く。だが、それが何なのかはわからない。


ヒバリが薄く笑いながら立ち上がる。鞘に収まった風龍剣を握りしめ、鎖から開放されたことにより使用可能となった魔力を爆発的に高める。ヒバリを中心に暴風が吹き荒れる。


「私は……貴様に……いや、あなたに付いていこう。」


そう言って、ヒバリは風を纏って、高速で街を走り出した。風に押されて、ギロチンが落下して、下にいた看守が押しつぶされる。


そして、ヒバリが去った後に残ったのは、避難した人々の、困惑の沈黙の音だった。

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