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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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今行く

迫るピンク色の閃光は、下から振り上げられた刀によって斬り裂かれ、その効力を失うが、術者はその刀の主に打撃を加えるには十分な時間を作った。


「んがっ⁉」

「せぇい‼」


鋼鉄とかした豪腕に顔面を殴られ、鼻血を撒き散らしながら快斗が吹き飛んでいく。その後に容赦なく『怪光線』の追撃を放つのはギドラだ。


「『ヘルズファイア』‼」

「予想済みだ。」

「ぐおっ⁉」


『怪光線』を打ち消そうと、快斗が放った『ヘルズファイア』に隠れてギドラが快斗の後ろへ回り込み、整った顔を握って地面に叩きつけた。


「く、そぉぉぉ……」

「どうした悪魔。その程度か。」

「3人分の魂抱えてズルしまくってる奴が正攻法で挑んでる奴に口出しすんなよ。」

「これはお前で言う鍛錬と同じだ。ズルでも何でもない。」

「見苦しい言い訳を。それでもメサイア最高司令官かよ。………キューから聞こえてたけどよ。てめぇ、ルーネスさんの母ちゃんのこと殺したらしいな。」


フードの中から、キューが『異空間』と繋げた音声だけを聞き取った快斗は、抑えきれない怒りを爆発させかけていた。


「俺は今ガチ怒プンプン丸だ。今すぐにでも斬り裂いて殺してぇ。次のお前の発言次第で、俺の攻撃の加減が変わるぜ。」


少しずつ頭を上げる力を強めながら、快斗が苛つき混じりで発言。ギドラはそれを鼻で笑って、


「フン。あれは娘を思っての試練と学習だ。戦い方を見せるための贄となった奴も、きっと喜んでいるだろう。」

「…………てめぇやっぱクズだな。」

「む⁉」


快斗は無言で魔力を高めて、『剛力』発動中の左手で頭を抑えるギドラの腕を掴み、怒り任せにギドラを地面に叩きつけた。


そのまま脇腹を強く蹴り上げ、蹴った方へ回転して勢いをつけて倒れ、ギドラの鳩尾へ肘を落とす。ギドラが吐血する。


「やるではないか。」

「えらっそうに喋んなクソ野郎。」


先程の軽い口調とは一変。快斗の声音には明確な怒りが纏っている。その事を裏付けするように、一撃一撃の力が格段に上がっていく。


ギドラは全ての攻撃を相殺、またいなしてニヤリと笑うと、


「お前が我が娘にそこまで本気になるのは感動だが、1ついいことを教えてやろう。」

「ンだと………」


拳をぶつけ合った衝撃で互いに距離が開く。


「お前がこの国に来た理由、それはなんだ?」

「言うと思うか?」

「言わなくともいい。既にこちらは知っている。」

「んじゃ何で聞いたんだよ。」

「保険だ。言ってくれれば、その過程の信憑性が高まるのでな。」

「ウザったらしい……」


草薙剣を投げつけ、『転移ワープ』でギドラの脳天を断ち切ろうとしたが、一瞬で反応したギドラは易々と攻撃を躱し、


「『岩束』」

「チッ……」


地面を陥没させ、出来上がった穴を埋めため、快斗を拘束する。


「話を聞け。」

「クソッタレ。腕まで拘束されて耳が塞げねぇ。」

「お前らが来た理由は……」

「俺の発言にはノータッチかよ。」


ギドラは快斗を見下ろして言った。


「ズバリ、『剣聖』の救助と『拳聖』の魂を取り返すこと、だろう?」

「わーすごーい。やくあてたねーえらいねー。」

「……煽っているのか。」

「この口調で煽りじゃなかったらそれはもう何でもねぇよ。」


快斗がそう言うと、その顎を強く蹴り飛ばされ、地面を刳りながら吹き飛んでいく。


「悪魔が……なんとウザったらしい……やはり人間には悪影響だ。」

「それは単にお前が煽られて苛ついてるキッズ並みの頭脳だからってだけじゃねぇのかよ?」

「黙れ戯け。」

「おっと。」


煽りが止まらない快斗にギドラが『怪光線』を放ち続ける。着地地点には何度か岩の槍を出現させ、快斗を殺そうと狂気を突きつけるが、素早く動く快斗を捉えることができない。


だが、またギドラは口元を歪める。


「何笑ってやがんだ。」

「フン。お前はここで俺の相手をしていていいのか?」

「アァ?」

「知らないのか?」


疑問に疑問で返されたギドラが、笑って攻撃を一瞬やめ、


「『剣聖』の処刑日が、今日であるということに。」

「………ハァ?」


その合間に言われた事が理解出来ずに、快斗は致命的な隙を晒してしまう。


「フン‼」

「んがっ⁉」


下から振り上げられた大拳を真っ向から受け、快斗が天井で跳ね返って勢いよく地面に落ちる。


「く……アァ?今日が処刑日だと……?あの紙には明後日って書いてあったぞ‼」

「あの紙?……あぁ、あの張り紙か。なればお前は愚かだな。その紙を貼り付けたのは一昨日だ。」

「…………ンだとォ……‼」


自身の失態に苛つき、快斗が地面を握りつぶす。


「今からでも助けに行ったらどうだ?行かせる気はないが。」

「くそテメェ……。」


快斗はこの時、表情以上に焦っていた。必ず助けると約束したのだ。既に処刑が始まろうとしているのなら、ヒバリの魔力を探して助け出さないといけない。


だが、そんなことギドラが許すはずもなく、


「焦っているか?悪魔よ。その無様さには滑稽を通り越して呆れしかない。」

「クソ……アイツ煽るのが異常に上手い‼」


場違いな感想を大声で叫んで、快斗は拳を握りしめる。


どうするべきだろうか。快斗はよく回る頭を回して考える。チラと目だけを動かして高谷を見るが、


「遅いです」

「くう……痛いねぇ……でも、負けないよ‼」

「ほぼ互角。2人の相手をするのには荷が重すぎっか。」


互角にやり合うルージュと高谷を見て、快斗は奥歯を噛み締めながら呟く。


「余所見していていいのか?悪魔。」

「るせぇっ‼」


真上から振り下ろされる剛拳を蹴り返して、快斗は雄叫びを上げる。  


「ここで慌てるか……。無様だ。お前にはもう、処刑を止める手立てはない。」

「く……図星すぎて何も言えねぇ……。」


快斗は悔しがりながら、脳内に仲間を思い出す。ライトはルシファーと名乗る者が乗り移っていて、高谷はルージュの相手で精一杯。そして原野とルーネスはキューの中。 


「詰みじゃねぇか……」

「ふ………更にお前に不幸な知らせを聞かせてやろう。」

「んあ?……ッ。」


ギドラが上を見た瞬間、天井から3つの魔力反応が降り立った。


「これが悪魔かぁ……あんまり強くなさそう……。」

「う〜ん。貧弱そうな男ね。アタシはもっとマッチョな漢が好きだわ‼」

「ふわぁ………はぁ……僕は眠いんだ……さっさと終わらせよう。」


全員メサイアの白装束を纏い、それぞれが自己紹介を始める。左の小さな男性はつまらなそうに。真ん中の男は体をくねらせ、右の男は眠そうに。


「メサイア幹部『7番』セシルマ。」

「メサイア幹部『6番』ノストル。」

「メサイア幹部『5番』ユリメル。」

「おおぅ……終わった……。」


快斗は自己紹介を聞いた途端に負けた気がしてならなくなった。


「ん〜。どうすっかなぁ……。」

「見てよノストル。アイツ頭抱えて悩んでるよ。」

「駄目ね〜。漢は物事をビシッと決めるべきなのよ〜。」

「じゃあ、彼は男じゃないみたいだね。」


3人は各々言いながら手を前に突き出し、この世界に魔力を干渉させる。


「『ベノムブレス』」

「『狂える炎』」

「『赤熱霧』」


3つの魔術は交わり、快斗に覆いかぶさるように迫った。


「『魔技・地獄の門番(ヘルゲートキーパー)』」


快斗から漏れ出した黒い魔力が盾を形成し、全ての魔術を防ぎきる。


「ん〜面倒くさいわね〜。」

「そういうの嫌いだよ。」

「ふわぁ……さっさと殺そう。」


3人は各々の武器を取り出し、快斗に勢いよく飛びかかった。即座に判断し、快斗は一番近いセシルマを草薙剣で突き飛ばし、次に迫ったユリメルを殴り飛ばした。


そして、最後に迫ったノストルを蹴り上げようとした瞬間、


「『堕識』」

「ッ⁉」


ユリメルが快斗を指さして呟いた。瞬間、快斗の体中の神経が一瞬機能を停止。足が止まり、ノストルを蹴り飛ばすことが出来なくなる。


「まず……‼」


眼下からノストルの双剣が迫る。それはゆっくりと首へと吸い込められるように近づいていき、そしてそれが、快斗の首を跳ね飛ばすことはなかった。


「……アァ?」

「間一髪でした。間に合ってよかったです快斗様。」


それは、双剣が突如現れたルーネスの持つ金色槍に受け止められたからである。


「あなたは……」

「お初にお目にかかりますね。メサイア幹部『6番』ノストル様。」

「その口調とその姿……間違いないわ。噂に聞いた元メサイア幹部のルーネスさんね⁉」

「え、ルーネスさん?」


刃越しに会話するノストルは、涙を流してルーネスを見つめている。が、快斗は一瞬その人がルーネスとは分からなかった。纏っている覇気と魔力が普段と段違いなのだ。


何より、ルーネスは今、髪が金髪でポニーテールと言うことが一番大きいのだが。


「美人のルーネスさんなら何でも似合うな。」

「あらあら。ありがとうございます快斗様。」


頬に手を当てて少し体を振るルーネスを苦笑し、快斗はすぐに表情を険しい物に変える。


「ルーネスさん。実は……ッ⁉」

「ええ。分かっていますよ。全て聞いていましたから。ここは私にお任せください。本来の力を存分に発揮いたします。」


ヒバリの事を言いかけた快斗の唇を、綺麗な人差し指でそっと抑え、ルーネスは美しい笑みを浮かべて、快斗を送り出す。


「む……分かった。怪我しないでくれよ?美人が台無しだから。」

「ふふふ。ご心配なさらず。この体はもはや私一人のものではありません。……快斗様の物です。」

「ふぇ?俺の物にした記憶ねぇんだけど……」

「………私なりの告白に気が付かないのですか?ですが、それでも快斗様は素敵です。」

「んあ?それはどういう……。」

「早く行ってらっしゃいませ。」

「え?あ、うん。分かった‼」


快斗はルーネスの言葉を理解するのを一旦辞め、教会の入り口へと走る。と、


「ん?………ハア‼」


突如不思議な魔力を真下から感じ、地面を殴って穴を開けると、


「これは……」


それは柄に入った美しい長剣だった。


「剣が魔力を……」

「それは『剣聖』の愛剣、風龍剣です快斗様。まさかここにあったとは……。それを持って早く‼」

「お、おう‼」


快斗はルーネスの怒声に近い声に押されて、地面を蹴って走っていく。


「待たんか‼」


だが、その前にはギドラが立ち塞がった。


「行かせんぞ。」

「どけぇ‼」


快斗はそう叫んで、思いっきり草薙剣を振り下ろした。が、それは鋼鉄と化したギドラの腕に弾かれる。そしてそのまま草薙剣は快斗の手を離れ、天井の隙間を抜けて天高く吹き飛んでしまった。


「う……」

「ふ、無様なものだ。ここで剣を捨てるとはな。」

「……それはお前な。俺はもうお前の前から逃げているも同然なんだぜ?」

「…………何?」

「じゃね〜」

「ッ⁉」


快斗が馬鹿にした笑いを上げながら軽く手を振った。瞬間、快斗の姿が消失し、ギドラが困惑するが、すぐに自分の遥か真上にその魔力が出現したのがわかった。それは、快斗の『転移ワープ』によるものだ。


「さぁて……いたな。」


快斗は上空から魔力を探り、そして、ヒバリのものと思われる風のように澄んだ魔力を発見する。


「あれは……避難所?国民がめっちゃいて……ギロチンを囲んでやがる?チッ‼今行くぜ‼」


快斗は『遠目』で処刑器具を捉え、『剛力』発動させた腕で思いっきり草薙剣を投げ飛ばした。


自身が落下していく中、処刑器具に近づく草薙剣を眺め、


「待ってろよ。今すぐ助けてやるからな。」


そして、地面スレスレのところで、快斗は『転移ワープ』した。

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