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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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原野の役目

「ルーネスさんの母さんが……」

「……ギドラは、もう私の父ではありません。敵です。必ず倒します。」

「その、ルージュって言う人は……。」

「出来る限り傷付けたくないです。あの子は何も……悪くありませんから。」


悲しく微笑んで、ルーネスは金色槍に手をかける。ゆっくりと立ち上がるルーネスを、原野は止める勇気がない。


ルーネスは痛みを耐えて姿勢をただし、動かせる体を酷使して、『無垢無心』のキューに外に出してくれるように頼んでいる。原野はゆっくりと振り返って、


「ルーネスさんはなんで本気で戦わないの?」

「…………本気で戦っていますよ。」  

「嘘よ。だってルーネスさんの魂の強さと実力の差が激しすぎるもん。魂が見えると、本当の実力とか分かるんだよ。」


ルーネスの胸をつついて、原野が見透かした様に微笑む。嘘を通じないと分かったルーネスは、諦めたようにため息をついて原野の隣に座った。


「私は、ルージュの為に自分を弱くして来ました。それに慣れてしまったみたいで、本気を出す感覚を忘れてしまったのです。」


体内の魔力の流れを感じ、ルーネスは最大出力にしてみる。金色の魔力が溢れ出し、自然に『金閣』が発動する。が、そこで終わりだ。魔力がそれ以上増えることはない。


原野はうっすら見える魔力の通り道を眺め、その原点の魂を見つめて、顔を上げる。


「違う。感覚を忘れたんじゃない。感覚は覚えているけど、魔力を出す事ができないんだ。」

「……………。」

「また、嘘をつくの?まだ、私に本当のことを話してくれないの?」

「……すみません。」


自身を蔑もうと嘘をつくルーネスに、原野が悲しみのままに聞いてしまう。その度に、ルーネスは成功しない嘘を反射的についてしまう。


「私は……。」

「ルーネスさんってさ……さっきルージュさんが自分を傷つけすぎだとか言ってたけど……」


原野はルーネスの形のいい鼻をつついて笑い、


「ルーネスさんが一番、自分を傷つけているの思うよ?」

「…………。」


不意を付いた原野の言葉に、ルーネスは黙り込んでしまう。考えれば、確かに自身が一番傷ついていたように感じる。だが、ルーネスはその考えを否定する。


それを肯定してしまえば、ルージュ報われなさすぎるのだ。


生まれたときから姉と比べられ、無理に鍛えられ、感情と本当の自身を消して生きてきたルージュ。そんな彼女よりも、その身を心配していただけの自分が一番傷ついているなど、言ってはならない。


「私は、傷ついていていません。それよりもルージュが……」

「………ハァ、もういいよ。ルーネスさん。後ろ向いて。」

「?はい。」


呆れたようにため息をついて、原野はルーネスを後ろを向かせ、背中に手を当てて、ルーネスの魂に干渉する。


その魂を締め付ける1本の鎖。その鎖に、半透明の白い糸が結び付き、鎖を締め付け、


「んんん……‼えぇい‼」

「ッ⁉」


白い糸が、勢いよく鎖を砕き、ルーネスの魂が本来の輝きを放つ。その瞬間に、ルーネスの中で、一瞬とてつもない痛みを感じたが、それを直ぐに落ち着いた。


と、ルーネスの魔力の通り道を、溢れんばかりの魔力が押し流れ、溢れ出していく。


「これは……」

「一時的に封印を解除したよ。かなり無理矢理だからすぐに戻っちゃうと思うけど。」

「原野様……?」

「凄いね。ただの信念だけで自分の魂にこんな強い封印を付けちゃうなんてね。」

「あの……。」

「こんだけ魔力があったら、傷も治ったでしょ?ほら、行ってきてよ。」

「あの……‼」


先程の止めるような体勢はなく、原野はルーネスの背中を、『無垢無心』のキュー前へと押していく。


「もう、呆れた。ルーネスさんは自虐好き過ぎ。」

「………。」

「だからもういい。その力を使って、ルージュさんを止めてきて。誰が一番傷ついたとかどうでもいいや。今はライトのお姉さんも助けなきゃいけないし……。」

「原野様………。」

「……私は弱いから、ルーネスさん達が戦うのを補助するしかないの。少しでも強くなってほしいから、元気づけようとしたんだけど………無理みたいだから、私。」


投げやりに言って、原野は拗ねたように頬を膨らませて回復薬をルーネスに手渡す。


「………ふふ。」


そんな原野を見て、ルーネスは少し可笑しくなって吹き出してしまった。その反応に、原野が小さく怒り始める。ルーネスは原野を制して、


「出来るだけ、強くなって戦いますよ。原野様、封印を解いていただいてありがとうございます。」

「………うん。行ってらっしゃい‼」 

「はい。」


ルーネスは、先程の重たい考えを捨て、『無垢無心』を通して、前世に干渉する。


「怪我しないでね。」

「出来るだけ、そうしますね。」


快斗から教わったウィンクを完全に使いこなして、ルーネスは『異空間』から出ていった。原野はベッドに横たわり、近づいてきた『無垢無心』を抱きしめて目を瞑った。


「封印解いたら、疲れちゃった……。」  


感情のないキューを顔に押し付け、その甘い香りを嗅いで落ち着く。


「んん………。」


そしてそのまま、原野はゆっくりと………

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