大胆
部の順番変えてます
原野の報告を受け、快斗が壁を突き破り、メサイアの教会の中へと飛び込んだ。
「ルーネスさん‼」
「か、快斗様……⁉」
「快斗……あの悪魔ですか。」
快斗が入った時、ルーネスは体中から血を流し、特に足の傷が痛々しく目立っている。
そして、ルーネスの血と思われる液体がついた槍を持っている女性、ルージュが座り込んだルーネスの首に槍を突きつけていた。
「てめぇ……‼」
「動かないでください。出なければ、この女性の首を突き刺します。」
「く………」
ルーネスを人質として取られ、快斗は思う様に動けない。が、直ぐに落ち着いて草薙剣を構える。
「今の言葉が聞こえなかったのですか。あなたが動けば、私はこの女性の首を……」
「行っけぇキュー‼」
「キューイー‼」
快斗はルージュの言葉を無視して、フードから飛び出したキューを勢いよく投げつけた。
「何をするかと思えば。そんな弱小魔物を投げつければ、気を反らせるとでも?」
そう言って、ルージュが飛んできたキューを真っ二つに斬り裂いた。が、
「『分身』……⁉」
「キュイ‼」
斬り裂かれたキューが靄となって消え去り、その影から本物のキューが飛び出して、ルージュの下を潜り抜け、ルーネスに飛びつく。
「ですが、そんな弱小の魔物に何が……」
「キュ、キュ、キュ、キューイー‼」
ルージュが槍で、ルーネスごとキューを突き刺そうとしたが、そこでキューの『異空間』が発動。ルーネスを『異空間』へと取り込む。
そして、その突き出された槍を、
「ハァァアア‼‼」
真上から降り立った高谷が踏みつけた。キューを掴み、快斗へと投げ返す。
「ナイスだぜキュー‼後で上物の肉食わせてやる‼」
「キュイ‼」
キューをフードの中に入れ、快斗がルージュを飛び越えて、奥で止まっているギドラを狙う。
「ほう。俺を狙うか。」
「てめぇが元凶だろ‼悪は元から断ち切るのが1番手っ取り早いぜ‼」
「なるほど。だが、貴様如きが俺に勝てるか。悪魔よ。」
快斗が勢いよく真上から草薙剣を叩きつける。ギドラが腕を上げ、そこに草薙剣が直撃。腕ごと切り飛ばすかと思われたが、
「なぁっ⁉」
「フ…………。」
金属音がして、草薙剣が弾かれた。空中で回転し、快斗が地面に着地する。
「お前……」
「分かるか。貴様の元教師の能力だ。」
「なんで、お前が持ってやがる‼」
腕を上げて悠然と話すギドラに、快斗が糾弾する。それは驚きが占めている。
当たり前のことだ。他人の能力を奪う事はできるが、固有能力を奪うというのは、悪魔でさえも出来ないのだ。
それこそ、あのルシファーでない限りは、
「固有能力を魂から引き剥がすなど、伝説上の悪魔しかできない。と思っているだろう?」
「む……。」
「だがな。それは完全な状態だった場合だ。」
「何?」
「まだ分からんのか。うちの妖艶魔とて、魂を切り裂いて一部を取り出すことぐらいは可能だ。」
「む……マジで?」
意外にも落ち着いている快斗は、サラッと言われたとんでもない事をサラッと受け流した。
「誰のやつ取り込んだわけ?」
「元教師と言ったであろう。」
「いや、お前それ以外にも取り込んでるだろ。お前の魂にきったねぇのがへばりついてんの、丸見えだからな?」
「やはり悪魔には魂関係の嘘は通じんな。」
「ハッ‼悪魔じゃなくとも、お前の汚れた魂ぐらいは見れるだろうよ。」
快斗がそう言った途端、ギドラが鉄鋼とかした腕を振り上げて潰しにかかる。
快斗は草薙剣をギドラの顔めがけて投げつけるが、ギドラが首だけを傾け、草薙剣を躱した。が、その瞬間に快斗は『転移』。目の前の敵が前触れなく消えたことに驚くギドラの首を斬り裂く。が、
「フ……」
「かってぇ……」
金属音がして、快斗のほうが吹き飛ばされてしまった。
「今や俺の体は全て鋼鉄‼簡単には斬り裂けまい。」
「そんな老いた体で全身魔力行使なんて耐えられんのかよ。」
「俺をそこらの廃れた老人共と一緒にするな。」
「同じだろォが。」
一瞬で目の前に接近したギドラの大拳を受け流し、快斗はすれ違いざまに草薙剣を腹に叩き込む。が、やはり斬ることは叶わず、ギドラを吹き飛ばすことしか出来ない。
「『連撃』‼」
着地したギドラの足元に草薙剣を突き刺して『転移』。下から強く斬り上げたあと、『剛力』を発動した両拳で『連撃』を叩き込む。
そして、ギドラが反撃を入れるタイミングで、上に放り投げた草薙剣に『転移』。
「『死歿刀』」
「ぐ……⁉」
ギドラの硬い首筋に思いっきり草薙剣を叩きつけ、その勢いのまま、地面にギドラの顔面を埋める。教会が震え、地面の大部分にヒビが入る。
「始まったか。」
その戦闘を少し遠くから見ていた高谷は、その声とは裏腹に凄まじい力で槍を踏みつけている。
「離していただけますか。」
「無理だね。俺は快斗が元を断ち切るまで、あんたを止めさせてもらう。」
肥大化した腕を唸らせ、ルージュを殴り飛ばす。咄嗟に槍を握る力を上げたルージュは槍から手を離さず、高谷の拘束が抜け出す。
「あ……逃しちゃった。」
「父上、今向かいます‼」
「行かせない。」
ギドラを助けに向かおうとしたルージュの前に高谷が立ちはだかる。肥大化した腕を、正面から迫るルージュに向かって突き出すが、
「邪魔です。」
「ぶ……」
光の速さで回転した銀色槍が、しなやかなルージュの動きに合わせて高谷を斬り裂く。腕、足、腹、胸、首を深く斬り裂き、倒れた高谷を蹴り飛ばしてルージュはギドラの方へと向かう。
「父上……⁉」
ルージュが跳んで向かう瞬間、地面から突如生えた赤く太い腕が、ルージュの足を力強く掴んだ。
「な………」
振り抜くとそれは、先程切り裂いた高谷から流れ出た血の池から飛び出していた。
「これは………」
「死んだと思った?申し訳ないけど、俺は『不死』なんだよ。」
と、盛大に血を流して、死体のように動かなかった高谷が、いきなり目を開いて立ち上がる。その深々とした傷からは想像もできないほど安定した形で歩んでいる。
「『不死』とまでは聞いていましたが……そこまでしぶといとは……」
「俺だってここまでしぶとくなろうって思った訳じゃないよ。」
血の流れる傷を完全に治癒して、最初の無傷の状態へと戻る。
「血は俺の最強の武器。その血を浴びたのなら、服でも脱いで見たらどうだい?」
高谷が冗談混じりに、血の滲んだルージュの白装束を見つめる。それは、高谷は本当に冗談のつもりで言ったのだが、
「なるほど。忠告感謝します。」
「………あれ?」
真に受けたのか、ルージュが上半身の白装束を脱ぎ捨て、美しい双丘の大部分が除く下着姿へとなった。全く予想と違う反応に、高谷が目を隠して慌てる。
「ちょっ、マジで脱ぐの?俺結構冗談のつもりだったんだけど……」
「あなたの血の能力はこの目で見ました。ですので、先程あなたが言ったことをあり得るだろうと、判断いたしました。」
「だからって、そんな大胆な……。」
「私に女としての感情はありません。私はただ、父上に認められるため……出来れば、この体を捨てて強力な魔物にでもなってしまいたいところです。」
「うぇぇ……発想がすごくて引くよ。まぁ、平気で服を脱げるほどの決意があるっていうのは分かったけど……。」
目を隠すのを辞め、高谷は戦闘状態へと移行する。ルージュは足を掴む赤腕を斬り裂き、銀色槍の矛先を高谷に向ける。
「『不死』のあなたを殺す術を、私は持ち合わせません。ですので、拘束させてもらいます。」
「できるかな?俺も本気で戦うから、難しいと思うよ?」
「私は、どんな事でもやり遂げます。それが、父上に認めてもらえるのだとしたら……」
「うーん……ルージュさんって言ったっけ?完全にあんたファザコンだね。」
苦笑と共に覚醒した高谷は、両腕が肥大化し、口元に真っ赤なマスクが出来上がり、しっぽと翼が生えてくる。
「ガァァア………」
「いきます。『銀閣』……。」
四つん這いになる高谷の剣と、銀色の魔力を纏うルージュの銀色槍がぶつかり合う。
荒々しい魔力波と共に、2人の戦いが始まった。