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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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次から次へと災いが。

「正直、お前の事は何が何でも信じたくないんだけど。」

「それは俺も同じだ。だが、今回の件は、俺の尽力によるものと考えるべきだろう?コイツの魂の隙間を埋めているのは俺だ。」

「腑に落ちねぇ……。」


ライトの体でペラペラ喋る何か。その気配に嫌悪感を抱いて、快斗が苦虫を噛み潰したような顔になる。


「う……ハァ……」


2人の会話を他所に、黒本が密かに雷を纏って逃げ出そうとするが、


「『魔技・恨みの引きずり』」

「あぐ……。」


地面から出現した腕により拘束され、身動きが取れない。


「対象から固有能力を引き剥がすなんてできるのか。」

「1つの生物につき、1度だけ使う事ができる。魂を探れ。その真ん中に魔力の紅玉があるはずだ。」

「はいよ。そんじゃあ、失礼するぜ黒本。」

「え……あぁあ‼がぁ……‼」


快斗が黒本の胸に触れる。一瞬動揺した黒本だったが、突如降り注いだ痛みに悶絶し始めた。


「ん〜〜。あった。」

「魂を見つけたなら、それに包まれた紅玉を取り出せ。」

「どうやって?」

「魂を破壊すればよかろう?」

「む………それだと、コイツ死ぬんだけど。俺はできるだけ美女は殺さない主義なんだけど。」

「戯けが。そうも言ってられんだろう。」


魂に触れながら、快斗が余裕を持って何かと話す。その間、黒本には言い難い痛みが降りかかり続ける。


「い……た……。」

「おおっと、悪ぃ。すぐに終わらそう。」


喘ぐ黒本に気づいて、快斗が魂に意識を向ける。


青い水のような丸い玉の中に、紅く光る玉が浮かんでいる。その紅玉から、ビリっとした純粋な魔力を感じる。


「『魔技・魔奪の欲物』」  


快斗から黒い魔力が溢れ出し、黒本の魂にゆっくりと浸透していく。


水の様に柔らかい魂の中を、ゆっくりと黒い魔力が進んでいき、紅玉を捕らえる。


「驚いたな。本気でこの小娘を死なせないつもりか。」 

「いいだろ別に。俺は美女は殺さねぇんだよ。よっぽど嫌いなやつじゃなきゃな。」

 

振り返らずに、快斗は何かに忌々しげに答える。その余裕な声と裏腹に、快斗は冷や汗を拭いきれない。


莫大な魔力と集中力が消費され、神経が摩り下ろされていく。1つ間違えば、黒本が死ぬ。


「1人1人の人間をそこまで気に掛けるか。」

「だから言ってんだろ。美女限定だっての。」

「なら、この体の主はどうなのだ?男であるが?」

「だって、ライトイケメンだし、女顔だし、何なら女として接せるし。」

「それだけか?」

「それだけではねぇけどそれだけだ。」

「理解できないな。」

「理解してほしくねぇ。」


嫌悪感剥き出しで、互いに嫌味を言い合う2人。


だが、言葉の節々に楽しみの感情が込められているのは何故だろうか。


ライトに取り憑いた何かがそんな事を考えていると、


「ハァ……うし。なんとか、取り出せた……ぜ。」

「ご苦労なこったな。」


快斗が黒い魔力で覆われた紅玉を見せる。空間がバチバチと音を立てて走る雷に荒らされている。


「なぁ、黒本起きねぇんだけど。もしかして死んだ?」

「ハァ……魔力の根源をそのまま抜かれたんだ。今は体から残りの魔力が紅玉に乗り移っている最中だ。体が強制的に意識を喪わせている状態。暫く目覚めることはない。」


快斗がさっきまでの死なせない信念はどうしたとばかりに、倒れて動かない黒本の頭を踏みつける。


「まぁいい。さっさと紅玉を……」

「天野ォ‼」

「んあ?」


ライトに乗り移った何かが紅玉を受けとろうとした瞬間、天井を突き破って渡辺が突入してきた。


「投げろ。」

「わーってる。」


何かが後ろへ走り去り、その方向へ快斗が紅玉を投げ渡す。


「紅玉を埋め込むまでかかる時間は10分程度だ。それまで耐えろ。」

「従うのは癪だが、ライトのためとなりゃしかたねーな‼」


草薙剣を受けに放り投げ、快斗は渡辺荷拳を突き出す。


「そんなもの、当たるわけ無い‼」


渡辺が真っ向から迫る拳を流して、蒼剣を快斗の顔面に叩きつける。が、蒼剣に手応えはなく、ただ空気を斬り裂く音だけが響いた。


「な……どこ、にっ⁉」

「残念。上だぜ‼」 


渡辺が周りを見渡した瞬間、その左腕を深々と斬り裂かれた。何かと目を剥くと、草薙剣を振り下ろした体勢の快斗の姿が。


最初に草薙剣を放り投げたのは、上に『転移ワープ』するためだ。真っ向から渡辺に向かっていったのは、意識を反らすためだった。


「くう……。」

「おいおい。回復薬とかズルすぎだろ。」


渡辺が懐から小さな瓶を取り出し、その蓋を割って、中の液体を傷口に振りかけた。傷がゆっくりと塞がっていく。


「ウザったらしいな。」

「なんとでもいえ‼」

「死ね。」


渡辺が快斗を蒼い炎で取り囲み、ドーム状に拘束して爆破する。


爆炎が広がり、激しい衝撃が部屋を荒らす。が、


「『魔技・静寂の闇鎧』」


爆炎の真ん中で、快斗は真っ黒な鎧を身に着けて立っていた。


「クソぉ‼」

「お前じゃ俺には勝てねぇよ。」


飛びかかってくる渡辺の斬撃を草薙剣で受け流し、右足の健を斬り裂いて動きを妨害する。


「づっ⁉……クソ……ハァ……」

「回復薬は使わせねぇぜ?『魔技・狐の化かし芸』」


快斗がニヤついて、懐を探る渡辺に手を向ける。


渡辺が警戒して構えるが、特に異変は起こることは無い。


「何をして……」

「ん?これ。」


不思議がって渡辺が首を傾げていると、快斗が手に握る物を見せた。そこには、渡辺が持っていたはずの回復薬が乗っていた。


「な……。」

「使わせてもらうぜ。」


先程の爆撃で少なからず出来た傷を癒やしていく。


「んあ?これは回復薬じゃねぇな。能力を一時的に上げる薬か?こんなもん使って勝とうとしてんのかよ。正々堂々自身の力でかかってこいよ。まぁ、俺もそっち側だったら喜んでこの薬を使っただろうけどな。」

「クソ‼『蒼龍の雄叫び』‼」


渡辺が立ち上がって能力を発動。蒼い炎が渡辺を包み込み、やがて静かに散った。すると、


「力を上げる能力もあんのかよ。」

「ぶっ殺してやる‼」

「だから、出来ねぇって。」


高速で接近した渡辺の拳を間一髪で躱して、草薙剣の柄を首筋に叩きつける。


飛びかけた意識を繋ぎ止めて、渡辺が蒼い大腕を振り回す。


「もっと狙えよ。」

「あぐっ⁉」


が、決して遅いとは言い難い速度で振るわれ続ける大腕の攻撃の隙間を縫って、快斗が渡辺の顔を掴んで床に叩きつける。


「な……」

「『極怒の顕現』」


急激に上がった能力で渡辺を押さえつけ、快斗は余裕の表情でライトを見つめる。


「あとどんくらい?」

「中々に複雑だ。10分と言ったが訂正する。残りあと15分だ。」

「ええぇ……。」


面倒くさいという空気を大噴出して、快斗は渡辺に更に体重をかける。と、天井が更に崩れ、


「ぐわ⁉」

「ぐお⁉」

「フゥ……‼」


血塗れになった蛯原、内田、高谷が落ちてきた。


「快斗‼て、ライト?なんか気配違くない?」


落下で折れ曲がった右腕を治癒して、高谷がゆっくりと快斗の所に歩いてくる。


「まぁ、それは後で説明するわ。取り敢えず、まだなのかよ‼ライトの中のやつ‼」 

「ハァ……ルシファーと呼べ。まだかかる。それまで俺を守れ。」

「はいよ。」

「んん?まぁ、快斗に従ってればいっか。」


ライトの気配や、快斗ととの会話に首を傾げながらも、高谷は適当に割り切る。


その割り切りの良さに苦笑して、快斗は渡辺を見下ろす。


と、すぐに高まる魔力を感じた。


「『魔技・恨みの引きずり』」

「ぐ……。」

「あぁ。内田達にも、『大赤血斜連腕』」

「うぐ……」

「あ……。」


快斗と高谷が跳び上がって、下に広がった蒼い炎を躱す。そして、それぞれで3人を全員拘束した。


「まぁ、これで少しは落ち着くだろ。」 

「他のクラスメイトは来ないのかな?」


2人で降り立って、ルシファーの方へと歩いていく。


「まだなのかよルシっち。」

「正式名で呼べ。俺はルシファーだ。」

「ええっと……えっと?」


目を閉じて集中しているルシファーに、快斗がいたずらで体をつついていく。


頭の上に疑問符を浮かべ続ける高谷に、快斗が説明を始める。


「ふーん。そんな事が。ルシファーって?」

「なんか、お前は誰だって聞くと、俺はお前だとか意味不なこと言い出すんだ。」

「へぇ。なんか繋がりがあるんじゃない?」

「嫌悪感しかない。」


ライトの肩に寄りかかって、快斗がウザったらしげに答える。その割には仲が良さそうと思った高谷は、言い争いをする2人を微笑ましく見つめた。


そうして、気が緩んだ瞬間、強烈な魔力を感じた。


「な、なんだ……?」

「………これは、強い神聖魔力。」

「またメサイアがなんかやってんのか?」

「だろうね。どうする?」

「ほっといて良いんじゃね?」

 

呑気に話していると、また一人天井を崩しながら降り立った。煙でよく見えないが、目を凝らしてみてみると、


「2人とも‼無事⁉」

「原野か。」

「なんで誰もこの部屋に正規ルートで入って来ないんだ?」


走ってくる少女の正体に気付き、快斗と高谷は手を振る。そんな2人に手を振らずに、原野は焦った様子で叫ぶ。


「来て‼2人とも‼大変なの‼」

「アァ?」

「何があったの?」


息切れして止まる原野に駆け寄って、ふらふらの体を支える。こんなに消耗してどうしたのかと、快斗が不思議がっていると、


「る、ルーネスさんが……死んじゃう‼」

「………次から次へと何なんだよ‼」


予想以上に深刻な問題を、原野が大声で叫んだのだった。

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