ヒバリ・シン・エレスト
「おーい。おーい。」
「快斗。あんまり騒ぐなよ。ここは敵陣地みたいなところなんだぞ。」
「まぁそうだな。」
快斗と高谷は現在、城の地下にある牢獄に来ていた。
地上の警備は厳重で、侵入できるような場所はなかったのだが、そこで快斗達は地面を掘って地下から攻めることにした。
高谷の血で硬い地盤を脆くして、快斗がそれを掘って穴を作って進んみ、暫くして人工的に作られた壁を発見。
破壊して中に入ると、牢獄だったというわけだ。そして今何をしているのかと言うと、
「全然起きねぇな。」
「そうだね。」
2人は両手を鎖で繋がれ、土下座のように座り込んで動かない女性の前に立っていた。
「キュー、頼む。」
「キュイキュイ。」
キューに頼んで、女性を起こしてもらうように頼む。キューは鉄格子の隙間に入り込み、動かない女性の肩に乗って体を揺する。
「キュイ。キュイ。」
「ん……あぁ……?」
揺れる感覚に、女性がゆっくりと目を覚ます。ぼんやりとする視界の中、女性は真っ白の髪を見つけてじっと見つめる。
そして、その正体に気がついて表情を険しくする。
「あなたは……いや、貴様は……。」
「おう。魔神の一番の駒、天野快斗様とは俺のことよ。」
「む………何故、貴様がここにいる?」
女性は快斗の発言で一瞬驚いたが、すぐに冷静になって質問をする。
「先に聞くけどよ。お前はヒバリで合ってるか?」
「あぁ。」
「よし。じゃあ次。俺が神達のふざけた遊びの駒だってのは知ってるだろ?」
「あぁ。」
「お前にはその仲間になって欲しいのさ。」
「………何?」
いきなり言われた言葉を理解しようと、ヒバリは、頭を回転させる。
噂に聞いた大悪党に、自身は今誘われているのだと、遅れて気づく。
「前科持ちの私を誘うか……よっぽど人が足りないらしい。」
「それもあるけど、俺はお前に前科があると思ってねぇよ?」
「………そうか。」
ヒバリは少し切なげに快斗から目を逸して自嘲したように笑う。
「お前、弟がお前のためにあっちこっち走り回ってるのは知ってるか?」
「あぁ。それは聞いたことがある。」
快斗の言葉に、リアンから聞かされたことを思い出す。
「俺はさ。今、お前の弟の仲間なんだよ。」
「………なんだと?」
「あいつはお前を助けがってる。俺はあいつに協力してんだよ。」
「ライトが……貴様と……?」
予想外の言葉に、ヒバリが困惑する。噂に聞いた大悪党、天野快斗の仲間に、ライトがなってしまった?
「ライト……。」
「別に悪いことさせてるわけじゃねぇから安心しな。」
「………。」
信じていないような表情で、ヒバリは快斗を睨む。快斗は両手を上げて降参のポーズをしたあと、
「さて、率直に聞くぜ。お前は、貴族の野郎をぶっ殺したのか?」
「ッ………。」
何度も聞かれた質問。正直答えれば家族が死に、答えなければ自身が死ぬ。
ヒバリは嘘が嫌いだ。だが、家族を救うためならと、ヒバリは自身を追い詰める。
「あぁ。私が殺した。奴は気色が悪かったからな。」
「………。」
快斗が難しい表情でヒバリを見つめる。ヒバリも同じように快斗の赤と青の瞳を真っ直ぐに見つめる。
他の連中にも同じ事をやってきた。バレるはずがない。そんなヒバリの考えを、快斗は見事にぶっ壊した。
「お前、自分のことを追い詰める嘘ついて、何がしてぇんだ?」
「………何?」
帰ってきた答えが予想とは違い、ヒバリはなぜバレたのかと、頭を回す。そんなヒバリを見ながら、快斗は、両手を前に突き出して、左手の親指と小指をたたむ。
「人間が嘘をつくときの特徴は8つ。『下を見る』、『右上を見る』、『左上を見る』、『まつげ越しに見る』、『ぐっと上を見る』、『片目を細めて眉を上げている』、『瞳孔を開く』そして、『まっすぐ見つめる』。」
「ッ……⁉」
あの行動が、自身の嘘をバラしていた事に驚くヒバリ。その表情を見て、快斗は少し笑う。
「何があったんだ?何を言われたんだ?脅されているのか?」
「………。」
ヒバリは大いに迷った。この事を打ち明けていいのかどうか。打ち明ければ、家族が死んでしまう可能性がある。が、打ち明けなければ、ヒバリは処刑され、死んでしまう。
ヒバリがそうして考えていると、ふと、昔の事を思い出した。
小さなときから、よくヒバリに懐いたライト。そんな光景を微笑ましげに見つめてくれていた、優しい父が………
「…………?」
そこまで思い出して、ヒバリは首を傾げた。父の顔が思い出せないのだ。確かにヒバリの父はエレスト王国の父だ。
顔を見せない時のほうが多い。だが、ヒバリはそれでもいいまで一度も父の顔を思い出せなかったことはない。なのに、何故今は思い出せないのか。
「おい。大丈夫か?」
様子が変わったヒバリを心配そうに見つめて、快斗が声をかける。
その時、
「快斗。タイムリミットみたいだ。」
「あぁ。気づいてるさ。看守だ。それと……出口の方からもう一つ。」
近付いてくる気配に気が付いて、快斗は立ち上がる。
そして、もう一度ヒバリを見た。ヒバリも、頭を押さえて快斗を見上げる。深淵を思わせるような黒瞳が、真っ直ぐ快斗を見つめる。
快斗は笑って、鉄格子の隙間に手を入れ、
「お前に何が合ったのかは知らねぇ。でも、お前を助けようとしてるやつは俺の仲間だから、俺はお前を助ける。」
そう言って、形の整った顔を傾けて、力強く言い放った。
「待ってろ。絶対に助けてやるからよ‼」
ヒバリは眩しく感じた。想像とは違いすぎる快斗の有り方に、眩しさを感じた。
反射的に手を掴んだ。快斗が肩を震わせる。互いの体温が伝わり合い、ヒバリは目を細める。
「ライトを……お願いします。」
「おう。任せろ。」
そう言って、快斗はキューを回収して、そこから立ち去った。
「別れは済んだ?」
「あぁ。別れっつってもさっきあって今離れただけだけどな。」
「ハハハ。でも恋人同士見たいな別れ方だったじゃないか。」
「そうか?」
快斗と高谷は、ここに来るのに利用した穴の中を駆け抜けながら、話をする。そして、
不意に快斗が地面の石を掴み上げ、何もない空間に投げつける。
キン‼という金属音が響き、影から1人の人物が現れる。
「井上か。」
「お前ら……やっと見つけたぞ‼」
影から井上が現れた。井上はナイフを掲げて、殺意剥き出しで、快斗と高谷に宣言した。
「お前らをここで殺してやる‼俺の修行の成果、見るがいいさ‼」
宣戦布告。それを綺麗を受け取って、快斗が笑いながら言い放つ。
「それは負けた時に痛々しくなる発言だなぁ?」
睨み合う。殺気と殺気がぶつかり合い、互いの士気が高まる。
「高谷。」
「分かってる。」
呼ばれた高谷が、天井に剣を突き刺す。
「行くぞ‼」
「来いよチビ。実力の差ってやつを教えてやる。」
悪役のようなセリフを言い放ち、快斗は草薙剣で井上とぶつかる。
戦闘が始まった。