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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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呼び名変更

「街に入る前に、俺達の呼び名を改めておいたほうがいいんじゃね?」

「え?」

「確かに。もう全世界に名前知れ渡ってるもんな。」

「そうそう。有名人って大変だよな。」

「悪い方の有名人だけどね。」


快斗の提案に乗って、高谷と原野が肯定の頷きを示す。


確かに快斗や高谷、特にライトなんて名前は、小さく呟いたとしても、地球の住人より遥かに優れた聴力に拾われてしまう。


今までは名前を呼んだとしても、そもそも正体がバレている時点だったから問題が無かったものの、今回は完全にお忍びという事で、迂闊に呼んでいたらすぐに気付かれてしまう。


ライト以外が世界中から狙われている身、そして残りのライトはエレストの影の組織から狙われている身。


全員は、今や重要指名手配犯のような立場にある今、そろそろ呼び名を変えるべきである。


「どうするの?」

「んー、取り敢えず、高谷はアニメオタクの略のアニオタ……この世界に合わせてアニタでいいんじゃね?」

「よくそんなの思い付くよな。」

「私は?私は?」

「原野は……なんかねぇ?」

「んー……原野はなんかあだ名とか無かったの?」

「えっと、原野と花凛で、ハーカって呼ばれてた。」


微妙な顔つきで高谷が快斗に向き直る。快斗は指を大きく鳴らして、


「んじゃ、アレンジして『バーカ』にすっか。」

「なんでそうなるのよ‼」

「だってお前、地球に居たときも、学力は下から数えた方が早かったじゃねぇか。」

「酷いよ‼コンプレックス‼」

「取り敢えず‼原野はハーカで‼俺はアニタ‼次は快斗だぞ。」


言い争いに呆れて、高谷が2人を制して、意識を快斗に向けさせる。


「俺ぁ、天才でいいんじゃねぇか?」

「全世界の勉強嫌いの人を煽ったね。」

「天才が駄目なら英語版のグニスでいいだろ?」

「意味が同じなのが癪だけど、そっちの方が違和感はないね。」

「ハァ……次、ルーネスさん。」


呆れを隠しきれず、高谷は額を押さえてルーネスの呼び名を考え始める。


「私は、ルとネを逆にしてネールスでいいかと。」

「分かりやすいし、その方がいいな。」

「あの、ぼ、僕は?」


ライトが不安そうに、快斗の服の裾を引っ張ってくる。快斗は笑って、


「ライトのは考えてあったんだ。」

「な、何ですか?」


快斗はライトの手をとってウィンクをして言った。


「ズバリ‼ひかるだ‼」

「ひ、光?」

「あーなるほど。ライトとひかりを取ったのか。」

「そ。いい名前だろ?」

「は、はい。気に入りました‼」


嬉しそうにライトが飛び跳ねる。男とは思えない可愛げに、原野が少し気負けする。


「んじゃ、それで行くか‼」

「そうだね。」

「変装も済ませましたし、あの橋を渡っていきましょうか。」

「え?」


ルーネスが、エレストに続く大きな橋の隣にある小さな橋を指差す。歩行者用の橋であり、何故だがすぐに崩れそうに見える。


「もし落ちても、俺と高谷は大丈夫だな。」

「私達の心配をしてよ‼」

「落ちる事前提の話を辞めなよ。」


快斗を先頭に、全員が橋を渡っていく。狭いため、密着し合い、互いの体温が伝わり合う。後ろの高谷に触れている原野が赤面し、それによって高まった体温が前にいる快斗に伝わる。


「勝手に発情すんなよ。」

「ししし、してないよ‼」

「何よりもその反応が答えじゃねぇか。」


慌ただしく振る舞う原野が、真っ赤に染まった顔を向けて、快斗の意見に全力否定する。


「にしても、高え。」


外には深い崖があり、底が見えない。世界を分ける4つの大河が全て流れ込み、盛大な滝となっている。


まるで、自然の堀のようだ。外側と内側には、巨大な鎖がいくつも付けられており、エレスト王国を支えている。


下から感じられる不思議な魔力は、紫色に輝いてており、エレスト王国を下から押し上げている。


「これが自然に出来たのか?」

「伝説では、過去に罪を犯した罪人たちを閉じ込めるための蓋となったと言われています。」

「蓋の上に王国を作ろうって考えたやつは馬鹿だったんだな。」


ライトの解説を聞いて、快斗は嘲笑って鼻を鳴らす。


そんなこんなで、全員がエレスト王国の中に、あっさりと入る事ができてしまった。


「見張りとか税関とか居ると思ったんだけどな。」

「今は魔物が強くなる時期ですからね。装備の取り立てなどに人手が回ってしまうので、そう言った役の人は足りなくなってしまうんですよ。」

「へぇ。そんなに大変な時期なのか。」


暗くなりつつある空を眺めて、快斗が目を細める。地平線から顔を出すのは、欠けに欠けた銀色の月である。


自然と、あの夜の事を思い出した快斗は頭を振り、一旦頭からそのことを振り落とす。


「さ〜て、暗くなってきた事だし、宿探すか‼」

「そうだな。」

「部屋わりは〜?」

「俺と高……アニタと光で一つ。ハーカとネールスさんとキューで一つでいいだろ。」

「うん。そうだよね。それが当たり前だよね。」

「あわよくばアニタと、なんて考えてねぇだろうな?」

「かかか、考えてないよっ‼」

「何よりもその反応が答えじゃねぇか。」


ガヤガヤくだらない事騒ぎながら、一行は宿を探していった。


その一行を見て、息を呑んだ人物がいた。


「あ、あれは……天野……?」


片手に買った食材をぶら下げて、その人物は雷の速さで仲間の元に走っていった。


その魔力の存在に気がついた快斗は、


「明日は、色変えるか。」


自分の髪を弄って、小さく呟いた。

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