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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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みんな死んでく。

大きな椅子に寄りかかって、老人は目の前の3人を見下ろす。


左から順に、酒井、柳沢、加賀が跪いている。


「あの、私達を呼んだ理由は、何でしょうか?」


柳沢が恐る恐る顔を上げて、老人に疑問をぶつける。老人は目を瞑ったあと、立ち上がって、


「貴様らは……もう、いらん。」


と、告げた。一瞬静かになって、呆けていた3人がようやく言われた言葉を理解する。


「い、いらん……とは?」

「そのままの意味である。貴様らは用無しだ。」

「ハァ?意味がわからねぇ。説明しやがれ‼」


ゴミを見るような目で見られたことに腹を立て、酒井が立ち上がる。


「貴様らは、もうこれ以上強くならない様だ。」

「アァ?」

「少年少女らは、成長期と言うことで、これからも伸びていくだろうが……貴様らはもう伸びん。ここらでご退職願おう。」

「な……」


自身ではどうにもできない『歳』を理由に捨てられたことに、3人は腹を立て、


「ふざけんじゃねぇぞ……てめぇは俺達よりも弱えくせに何ほざいてやがる‼」


酒井の堪忍袋が切れ、腕を鋼鉄と化して、老人、メサイア最高司令官のギドラに殴りかかる。が、


「ハッ‼」

「なぐっ⁉」


ギドラと酒井の間に一瞬で人影が割り込み、その細い腕で、大男の酒井を一発で突き飛ばした。


「流石だ。ルージュ。」

「いえ。」


ギドラは立ち上がって、左手につけている腕輪に魔力を流す。腕輪に埋め込まれた緑色の宝石が輝き、ギドラを包む。


「精々、抵抗するがよい。」


そう言って、ギドラは光に包まれて消え去った。そして、


「では、あなた方にはここで、死んでいただきましょう。」


ルージュは銀色の槍を回して、3人に矛先を向けて構える。


「なんだとぉ……殺ってやろうじゃねぇかクソアマァ‼」

「私達を馬鹿にしたこと……許さないからね‼」

「ハァアア‼『怪光線』‼」


放たれる魔力攻撃を全て躱して、ルージュは確実に酒井達にダメージを与えていく。


高速で迫る光線を躱し、下から突き出す石槍を避け、正面から放たれる拳撃を相殺し、鋼鉄の体を、それ以上の硬度の槍が斬り裂いていく。


悲鳴と爆発音、血が吹き出す音が立て続けに聞こえ、部屋の中は、戦場から惨劇の場に変わっていた。


立ち上がる煙の中で立っていたのはただ一人。


「任務完了。では、死体を持っていくとしましょう。」


銀の槍を背負ったルージュだった。ルージュが言い終わると同時に、部屋に何人かのメサイア隊員が入ってきて、3人の死体を丁寧に持ち上げて、地下へと持って行く。


ルージュは、『結界』がはられて、傷がつかなかった部屋を少し眺めたあと、


「………フゥ。」


一息ついて、隊員達の後について行った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「………ん?」


汗を拭きながら、渡辺は急に感じた違和感に声を漏らした。


「どうしたの?渡辺。」


隣から聞いてくるのは、不思議そうな顔した西野である。渡辺は微笑んで、


「いや、なんか……強い魔力派が来たような気がしただけだ。」


何もないと言って、渡辺は汗を吹いたタオルを桶に入れて洗う。


「そう?ならいいけど。」


西野はその話を忘れて、違う話をし始めた。仲良く二人で話していると、急にドアが開かれた。


「渡辺ー‼」

「あ?」


入ってきたのは黒本である。腰につけた剣の柄を掴んだまま、慌てた様子である。


「どうした?」

「さ、酒井先生と、バスの人達が…ハァ……死んだって‼」

「………ハァ?」


黒本から放たれた言葉に、渡辺は耳を疑った。今は誰とも戦闘しているときではない。それに、大人の3人はそれほど修練に出向いていた訳でもない。なのに、何故死んだのか。


「り、理由は分からないけど、今日、急に死んだって……最高司令官の人が……」

「マジで?いくらなんでも怪しすぎるだろ。」

「そう言ったんだけど、貴様らには関係ないって、突き放されて……」

「………俺達は取り敢えず、強くなってこう。それは忘れて。」

「どうして?」

「だってさ……。」


渡辺は頭を掻いて、面倒臭そうに答えた。


「別に、あいつら居なくなったって、悪い事何一つないじゃんか。」


欠落した感覚が、どんどん渡辺の精神を捻じ曲げている。狂い始めた渡辺を見て、黒本は少し怯えたあと、


「………そうだね。」


何故だが納得できてしまった。欠落し始めたのは渡辺だけではない。クラスメイト全員が、何かの『死』に対しての恐怖が無くなりつつある。


死んだからなんだ?殺されたら死ぬのは当然の事じゃないか。


そう言った考え方が、いつの間にか渡辺達に芽生えていた。理由は簡単。メサイアによる洗脳術である。


部活でいい結果を出せば出すほど、部活が好きになるのと同じで、戦いで、殺せば殺すほど、その者は称えられ、尊敬される。


この世界の説理に、渡辺達は適応しつつあった。


それがいい方向に向くか、悪い方向へ向くかは、本人達次第だが………既に一人、悪い方向へと進んでしまったクラスメイトがいる。


しかし、それが誰だかは、誰一人として分からなかったのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


とある洞窟の中で。


「ここは……どこなの……私は、どこに逃げてきたの………?」


やせ細って白い体を必死に動かして、滲みた水が滴る洞窟内を歩くのは、逃げ出したクラスメイト、矢澤である。


クレイムと長、宮澤の死を目の当たりにした矢澤は、戦うことに嫌悪感を覚え、エレストにつく直前に逃げ出した。それからずっと走り続け、しばらくして雨が降り出し、手当たり次第雨を凌げる場所を探していたら、洞窟があった。


中に入ると、更に奥に続いているようで、行く宛もない矢澤は奥へ奥へと歩いていった。


奥に進むに連れ、どこからか漂っていた魔力が濃くなっていく。魔物か何かは分からない。だが、自分の現状に頭が痛くなるほど悩んでいる矢澤には、それを考える余地がない。


「もう、やだ……。最悪……‼何で私がこんな目に……‼そもそも、あんなクズが存在しなければ‼」


今までの事を思い返して、矢澤は自身を殺した快斗を思い出す。


「クソっ‼クソっ‼もう、どうすればいいのよ‼」


ヤケクソになって、どこにぶつければ良いかもわからない怒りを、矢澤は走って解消する。


不自然に平らに整えられた道を走り続け、息が続かなくなった所で止まる。


「ハァ……ハァ……、もう……帰りたいよ……。」


泣きじゃくりながら、矢澤はまたトボトボとあるき出す。突き出した石を越え、虚ろな目から涙を流し、乱暴に拭き取る。


腹の虫が盛大に鳴り、収まることのない飢餓感を抑えながら、自身の死を悟る。


とその時、


「なに?」


壁に寄りかかって座り込んだ矢澤の前に、何かが立っている。いつの間にか目の前に現れた何かは、逆光で何も見えない。だが、影の形は、人間だった。


「だ、誰ですか……?た、助けてくださいませんかぁ……?」


掠れた声で、矢澤は目の前の人型の何かに右手を伸ばす。


その何かは少し止まったあと、手と思われる部分で矢澤の手に触れた。微熱が伝わり、矢澤には、手を掴まれた感覚があった。


(引っ張り起こしてくれるのかな?)


そう思って、救われたと涙を流す矢澤。すると、手に加わる圧力が少し強くなり、矢澤の事を引っ張ってきた。


「ありがとう。」


矢澤は、自身の体重をかけて、立ち上がろうとした。


途端、手から引っ張られる感覚が消えた。


「え?」


支えてくれる軸がなくなって、矢澤が勢いよく壁にぶつかって倒れる。


「ちょ……何すんのよ……。」


疲れた顔で、矢澤が起き上がろうとしたその時、不意に強い違和感を感じた。


……………右手の感覚がない。


咄嗟に右手を見てしまった。


血が滴る、綺麗な断面をさらけ出した、自身の手首から上をなくした右手を。


「い、いやあああああああああ‼‼」


遅れてのしかかってくるのは、右手をなくしたことにより生じた肉体の悲鳴。


右手を抑えて、大粒の涙を流しながら、矢澤は人型の何かを見上げる。


それは、人ではなかった。


腕と思われる部位は、大きな牙が生え揃った口がついており、背中からは鋭い鉤爪のようなものが3本ついていて、自由自在に動いていた。


人型の何かはゆっくりと矢澤に視線を向けると、


「……バいばぁイ。」

「へ?」


奇妙な声を上げ、それを理解する前に、矢澤は、いつの間にか開けられた背中の大きな大穴から、脳以外の全ての内臓を吸い取られて閉まった。


「ッーーーー‼‼‼」


壮絶な痛みがこみ上げ、死ぬまでの一秒が、その時の矢澤には、何時間もの長い時間に感じた。


そして、矢澤はここで死亡した。


その事は、ここにいた『何か』しか知らない。だが、安心するがいい。この『何か』はきっと、


誰が葬ってくれるだろう。

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