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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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俊足

今回は時間軸画戻ってます。


分かりづらくてすみません。

「と、いう……訳で…す。ぼ、僕は真剣な話を……」

「あぁ。分かってるって。ふざけてすまねぇ。んで?その姉さんを無罪と言える証拠はあんのかよ?」

「い、今は、無いですけど……ある場所は、知っていま……す。」

「ふーん。それは何処だ?」


快斗は前かがみになって、ライトに問う。ライトは少し俯いたあとすぐに頭を上げて、


「エレスト王国の、メサイア本部です。」


言い切った声は、今までの小さな声とは比べ物にならないほど、明瞭に響いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お前は、あと数週間の命だ。精々、自身が犯した罪を悔やんで生きるんだな。」

「………はい。」


牢屋の中、後ろの壁に鎖で繋がれた腕輪に、口には金具が取り付けられ、舌を噛みちぎることはできない。


鎖からは魔力が持続的に吸われ、魔術を放つ事もできない。


(なんて……愚かな……)


自身の現状を客観視して、罪人ヒバリは嘲笑する。少し開いた口の隙間から漏れる笑い声は、静かな牢屋の中を埋め尽くすように響き渡った。


(家族を助けたいが為に……ライトは……)


ヒバリが地面に額を叩きつけ、被害妄想しようとする自身の弱気心を打ち砕く。


(何を馬鹿なことを‼私は……私は……)


自身の失態に怒り、ヒバリが更に額を地面に叩きつけていると、廊下の方から足音が聞こえた。


そして、自虐行為を繰り返すヒバリの前で、足音の主は止まる。そのことに気が付いて、ヒバリもゆっくりと顔を上げる。


視線の先にいたのは、残念そうな表情をした

『勇者』リアンだった。


リアンは大きなため息をつくと、重々しく口を開いた。


「ヒバリ。調子は……どうだい?」

「…………。」

「あぁ、そっか。喋れないもんね。じゃあ僕の話を一方的に聞くことになるけど、いいよね?」

「…………。」


ヒバリはリアンを認識して、ゆっくりと頷く。その反応にホッとしたリアンは話を続ける。


「初めに言うよ。………君は、貴族ゲイルを殺してないね?」

「ッ………。」


意外な言葉に、ヒバリが目を見開く。リアンは微笑んで、


「君が感情に任せて人殺しなんて、考えられないんだ。だから、少しばかり調査させてもらったよ。」

「…………。」

「先ず調べたのは、君の剣、風龍剣。調べたら、いくつかの血痕が付いていたけど、あれはゲイルの物じゃないと思うんだ。なんでかって聞かれると困るんだけど、君の技量なら、あそこまで剣に血をつけることもないと思うんだ。」

「…………。」

「次に調べたのは、貴族ゲイルの死体。僕はあれを見た瞬間に理解したよ。絶対に君ではないってね。」


リアンは自信ありげにいって、少し考えたあと、また話を続ける。


「またこれも憶測にはなってしまうけど、君の技量なら、あんなにぎこち無く引き裂くような傷はできないはずだ。本気を出したら空気でさえ斬り裂ける君が、人間の神経ごときを見出して斬ることはないはず。」


リアンは話し続ける。全てはヒバリの力を信じての話だ。完全なる証拠は無い。確信して言えることではない。しかし、リアンは「確信してる」といった。そのことが、ヒバリには少し嬉しかった。


「本当なら、僕はこれを公表した執事を問い詰めて、それを保護してるメサイア本部に押し入りたい所だけど、どちらかって言うと、僕よりもメサイアの方が信憑性がある。ヒバリは仲間だったから、そういうところも関係してくると解釈される場合だってある。それに、これから魔物達が強くなる時期でもある。だからこそ、『勇者』の僕は内部で争っている場合じゃないんだ。」


そこで区切って、リアンは牢屋の外から手を入れて、ヒバリの顎をクイと持ち上げ、


「だから、君の弟にこの事を暴いてくれるよう、僕は仕向けたのさ。」


ヒバリとリアンしかいない牢屋と廊下の中を、リアンの声が反響していた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


川市を出て、広がる大地を駆け抜けているのは、


「オオオオ‼」

「キュウウウウ‼」

「ハァ……ハァ……」


現在の高速3兄弟、キューと快斗とライトである。快斗が1度でいいから勝負したいと申し出たので、今はそれを実行中である。


既に後ろにおいてきた高谷達は見えない。荒野の中を盛大な砂埃を上げながら、2人と1匹は駆け抜ける。


「クッソ‼足の速さでこの俺が負けるだと⁉」

「キュイキュイ⁉」

「ぼ、僕の足の速さは生まれつきで……すいません。」

「煽りにしか聞こえねぇ‼」


かなり前を走るライトを血走った目で追いかけながら、快斗が叫ぶ。既にキューは体力が尽きてリタイア。今は快斗の頭の上で休憩中である。


雷を操るライトは、生まれつきながら足が早く、本気を出せば、1日で王都を3周できるのだとか。


ライトの本気は、雷と同等の速さを誇っている。時速約72万kmと言ったところか。


「んなの勝てるわけねぇ‼」

「な、なんか……すみません……。」

「やっぱ煽りにしか聞こえねぇ‼」


後ろからかけられる声に答えながら、余裕の様子でライトが謝る。帰ってきた反応に苦笑しながら、ライトは少し楽しんでいた。


協力してくれる理由はかなり驚いたが、それでも一緒に戦ってくれる仲間ができて、ライトは楽しかった。


今はただ、心配事を忘れて走っていたい気分。ライトは笑って、雷を纏って一気に突き進み、振り向いて折り返す。


急に居なくなった事に驚いている快斗の手を掴んで、先程とは逆方向に走り出す。


「おわっ⁉全く見えねぇ‼」

「じゃあ、戻りましょう。高谷さん達が待っていますから。」 

「まぁ、そうだな。」


そうして、また先ほどと同じ速度でライトが走っていると、驚くことに、快斗が並走してきた。ライトがそのことに驚いていると、快斗はニッと笑って、


「やっと心開いてくれたな。さっきまであんなおぼつかねえ喋り方だったのによ。」


そう言って、快斗は『極怒の顕現』を発動。無駄に魔力を使いながらライトを抜いて走っていった。ライトは、先程向けられた笑顔を思い出して少し赤面してから、頭を振って全力で走り出す。


どんどん距離が縮まっていく。ライトはこの時、走る距離が、心の距離のように縮まっていくのを感じて、嬉しくて笑っていた。


それを知っているのは、後ろを向いて休んでいたキューのみ。だが、その清々しい笑顔は、いずれ快斗達にも見ることは出来るだろう。


なんたって、今は彼らは仲間なのだから。

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