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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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姉弟そろって人殺し

「あ、あれ?」


時計を見ると、時刻は午前1時。今は深夜だ。開けっ放しの窓から、少し冷た目の夜風が入ってくる。


「もう、こんな時間……。喉、乾いたな……。」


喉の乾きを感じ、ライトは自室を出て下の階へと向かう。誰もいない静かな廊下を歩き、螺旋階段を下って、調理室へ。


「小腹も空いたな。」


食材貯蔵庫を開け、小さな果物を取って食べる。水の魔石から溢れた水を飲み、ライトは螺旋階段の手すりに手をかけて、戻ろうとした。その時、


「………な、なに?」


地下へと続く螺旋階段から、妙な空気を感じた。見生臭い匂いと、


「ひ、悲鳴……」


ライトは生まれつき耳がいい。人の何倍もの聴力を持っているからこそ、その悲鳴を聞き取ることができた。


「だ、誰かが困ってるなら……いか、ないと……。」


螺旋階段をゆっくりと下っていく。魔力、呼吸音、足音、気配をできるだけ消しながら、ライトは地下へとたどり着いた。


周りを見渡しても、何も見えず、ただの広い空間が続いている。窓もなく、風も吹き込まないため、ライトの心拍音以外は何も聞こえない。


しばらく周りを警戒してから、何もない事を確認すると、ライトは「気の、せいかな……」と言って、螺旋階段を登っていった。


翌日、


地下室でメイドの2名が、体中にあざを作って死んでいた。


メイドの体を調べると、小さな魔力片が発見。更に調べると、それがライトの物であると発覚した。


「ぼ、僕は……殺ってないよ……‼」

「ハァ……ライト君、君の魔力片が見つかってるんだ。言い逃れはできないよ。」


ライトは否定するも、リアンは腕を組んで落ち込んだように俯いている。


「ほ、本当に……殺っていないのに……」

「僕も信じたいよ。でも、今は君が犯人であるという証拠が揃ってしまっている。どう証言したところで、今更意味はないよ。」


手を振って言うリアン。正しい言葉に、ライトは拳を握りしめる。


「じゃあ、君は牢屋行きだ。」

「………。」

「行くよ。」


ライトの手を掴んで、リアンが牢屋へと連れて行く。証拠が揃ってしまっている以上、どう証言したって、アリバイは証明できない。


そう悟り、ライトはおとなしくリアンに引かれていった。


そして、罰を受けるのかと落ち込んでいたライトの心を、リアンの言葉が一瞬で破壊した。


「残念な事に、あそこには君の姉さんも居る。」

「………へ?」

「姉弟揃って人殺し。エレスト王族の地位は危ないかもね。」


ライトは頭が真っ白になってしまった。姉さんが?と言う言葉だけしか、脳内に浮かび上がって来ない。


今まであんなに優しくて律儀で強かった姉さんが?救済を求める人々に迷いなく手を差し伸べた姉さんが?


『剣聖』の、姉さんが?


……………ありえない。


「そんなわけない‼」

「わ⁉」


ライトは、自身に雷を纏わせ、超高速で回転して、リアンの手を振りほどいて飛び退る。


「そんなのおかしい‼姉さんがそんな事するはずない‼」

「………そう思うのは仕方ないよ。でも、本人がそう証言してるんだ。」

「嘘だ‼その証言は嘘だよ‼」

「………僕も、そう思っている。でも彼女は自ら罪を償いに来たんだよ‼それに、ヒバリが殺したのは、貴族のゲイルだ。関係を考えると……辻褄は合う。」

「ッ‼姉さんはそんな事しない‼」


ライトは激昂して、爆発的に上がった身体能力を全開で発揮して、光の矢の如く迫り、リアンの腹を蹴り飛ばす。が、


「いっ……た……」

「聖剣、グランドリスタ。開放。」


吹き上がった煙の中で血を流したのは、ライトの方だった。リアンは、白く輝く聖剣をライトに向けて、


「僕に暴行をしようとした。そのせいで、君の罪は更に大きくなったよ。もう辞めておいた方がいい。少しずつ、自分の首が閉まっていってる。」

「く………。」


圧倒的な力の前に、ライトは地面を見つめて血が流れる足の痛みを必死で我慢する。 


「最初に足を潰せて良かった。君が全力で走ると、僕でも追い付けないからね。」


両手を広げて、リアンがケラケラと笑い始める。その表彰をキッと、睨んで、ライトは立ち上がる。


「『雷獣の猛攻』‼」

「『斜線』。」


雷を体中に纏い、雷獣と化したライトが、音速でリアンに迫る。両手に大きな魔力を集め、豪雷を叩きつける。


それを、リアンは空間を斬り裂いてできた『斜線』で迎え撃つ。3秒ほど、空間に斜線が描かれ、あたった物質がすべて斬れていく。


「行け。」


リアンが剣先をライトに向ける。すると、空間にできていた斜線が、回転し、ライトを斬り刻む。


「ぐぅ……⁉」


後ろへと飛び退るライト。手のひらに雷を集め、それ手を前へと突き出す。


「『雷獣の咆哮』‼」


黄色い太い雷が、リアンを飲み込もうと迫る。が、


「ハァア‼」


リアンは、それを真っ向から斬り裂き、余った衝撃が、ライトの体を斜めに大きく斬り裂いた。勢いよく血が溢れ出す。


「ぐ……は……」


更に追い討ちをかけるように、リアンが剣を振っていないにもかかわらず、ライトの体には斬り傷がついていく。


「く……ヤァ‼」


空気を蹴り飛ばし、リアンの後ろに回って、渾身の回し蹴りを放った。しかし、ライトの足は、透明な何かに掴まれて、動かなくなってしまった。


「な……あれ……?」

「君は僕の固有能力を知らなかったようだね。」

「『勇者』なんじゃ……」

「それもあるよ。でも、もう一つあるのさ。それは、『見えざる影』、だよ。」


リアンがそう言って笑うと、リアンが何をしていないのに、ライトの肩が斬り裂かれた。


「くぅ……⁉」

「ほらね。」


ライトは驚愕に目を見開きながら、リアンから瞬時に距離を取る。


「ハァ……ハァ……。」


全身の痛みに耐えながらライトは息を荒くする。


「もう諦めてくれないかな。僕は君を傷つけたくないんだよ。」


本気で願って、リアンはライトに語りかける。ライトは少し考えたあと、


「……シィッ‼」

「くぅ……⁉」


利き腕の右腕を、聖剣で守られた胴体に一発叩き込んだ。吹き飛びもせず、リアンは踏ん張って留まる。


ライトはゆっくりと顔を上げ、


「僕はいいけど……姉さんはやってない‼姉さんは……僕が助ける‼」

「ッ⁉」


大きな雷を纏ったライトは、まさしく雷となってリアンを弾き飛ばした。


そして、ライトは追撃を加えず、高速で町中を走り抜けた。


「待て‼ライト君‼」

 

リアンが全力で追うが、ライトの俊足に追いつく事はできない。影から隠れて見張っていた暗部も、ライトを見失ってしまった。


黄色い閃光は、エレスト王国の周りの崖を超えて、川に沿って消えていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ハァ……ハァ……。」


茂みの中、肩で息をしながら筋肉を膨張させ、止血をする。 


ある程度止血を完了させたあと、ライトは空を見上げてため息をつく。


「こ、これから……どうやって……。」


姉さんを救おうか。そう呟こうとした瞬間、


「『魔力吸収ドレイン』♡」

「ッ⁉」


後ろから柔らかい体を押し当てられ、ライトは驚いて距離を取ろうとするが、


「駄目よ。逃さない。」


ライトの体中から力が抜け、踏ん張って抜け出すことが出来なくなる。そのまま数秒魔力を吸い取られ、


「う…ぁ……。」


かけられる吐息が耳をくすぐり、体から力が更に抜けていく。


「ふふ。可愛い。女の子みたいな男の子ねぇ。魔力も沢山あったし……殺すのは惜しいわ。」

「くぅ……やぁ‼」


最後の言葉と殺気によって、一気に雰囲気が変わる。そして、いつの間にか突きつけられていた刃物、クリリナイフをなけなしの力を振り絞って弾き飛ばす。


「あら?まだ力が残ってたのねぇ。いいわ。お姉さんが最後まで遊んであげる。」

「フゥ……。」


距離をとって振り向くと、凹凸が激しい豊満な体つきの女性が、腕を組んでライトを眺めていた。


「ふふ。その目つき、悪くないわ。でも、あなたはお姉さん達の方の邪魔になるから今のうちに消しておきたいのよ。あなたのキレイな魔力だけ全部吸い取って、弱ったところを襲えばいいかしら?それともすぐに終わらせればいいかしら?」

「ど、どっちも……受け付けない……‼」


残りの魔力を小手に流し、雷の虎を2匹作り出す。


「『双雷獣咆』‼」

「『大蛇オロチ』。」


ライトの拳撃に合わせて雷の虎が女性に食いかかる。女性はクリリナイフをゆっくりと振り抜く。すると、クリリナイフが通った空間に亀裂が生じ、そこから大蛇が姿を表した。


「召喚法の一種よ。私の生まれつきの力でね。」

「ハァアア‼」


女性の話を無視して、ライトは現れた大蛇の頭蓋を一瞬で木っ端微塵に砕く。血霧が舞い、生臭い匂いが広がり、


「あ、……う……?」

「その大蛇は、傷口から睡眠作用がある毒を撒き散らすの。あなたは今、その大蛇の体の半分を破壊したわ。それだけ破壊したら、相当の量の毒が出るわね。まぁ、私には、聞かないけれど♡」


体から完全に力が抜け、ライトは地面に倒れ伏す。女性はゆっくりとライトに歩み寄って、睨んでくるライトの顎をクイと持ち上げる。そして、少し微笑んだあと、怪しく輝いたクリリナイフを、ライトの背中に突き刺した。


「あ……が……」

「安心して。あなたの魔力の根源を引き抜くだけよ。痛いだろうけど……まだ、死なないわ。」


女性がクリリナイフを押し込めば押し込むほど、ライトに降りかかる痛みが増していく。しかし、不思議なことにそこからは血ではなく、魔力の根源の魂が、少しずつ液体状なって溢れ出てくる。


それを女性は、懐から取り出した小さなビンに入れていく。


「ハァ……久々の『魔力吸収ドレイン』は疲れるわ。でも、あとちょっとね。」


女性が更にクリリナイフを押し込む。体内から異様なほどに痛みがこみ上げ、ライトはうめき声をあげる。


そして、少しずつ魂が抜けていくため、ライトの意識はどんどん薄れていく。


視界が狭まり、感覚はなくなり、音は聞こえず、声は出ない。廃人となりかけたその時、


「………あら?」


木々の隙間から近づいてきた魔力反応に、女性が意識を向ける。そこには、大きくネジ曲がった角を持った黒い羊が、じっと女性を見下ろしていた。


「こんなに大きな魔物に気付かないなんて、私の感覚器官が衰えたのかしら?」


呑気に女性がそんなことを言っていると、


「ボォオオオオ‼」


大きな声を上げて、羊が蹄を女性に叩きつける。女性は咄嗟にクリリナイフでガードしたが、パリンと音がして、クリリナイフが砕け散った。


「ぐ……ふ……」


いきなり痛みから開放され、意識が戻ってきたライトは、目の前で暴れ始めた魔物を見上げて呟いた。


「十二支幻獣、『未』……。」

「ボォオオオオ‼」


『未』は、雄叫びを上げ、ライトは眼中ないといった様子で、女性を狙い続ける。更に懐から取り出したクリリナイフを振り回して、女性は少しずつ『未』を傷付けていく。


「ふぅーん。これが十二支幻獣?あんまり強くなくて笑っちゃうわ。でも、厄介なのは確かね。」


女性が、たった今『未』につけた大きな切り傷を眺める。すると、瞬く間に傷口が塞がった。


「再生能力が桁違いね。まぁいいわ。」


女性は軽く言って、ライトの方を見ると、


「今回は見逃してあげるわ。でも、あなたが何処に逃げようとも、私達の眷属があなたを追う。愛する姉さんのために、足掻いてみなさい♡」

「う………チィっ‼」


珍しく舌打ちをして、ライトはよろよろと森の中を歩いていった。


その背中を見つめて女性は 


「待ってるわ。いつか私を殺してね♡」


と、小さく呟いた。

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