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罪深い男の想像話  作者: 病み谷/好きな言葉は『贖罪』
《第一章》 怒る彼は全てを殺し尽くす
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アシメル

「フゥ………やっと、元に戻ったね。」


広いベランダから見える町並みをゆっくりと見渡すのは、メサイア幹部、アシメルである。


セルス街は、快斗が開けた大きなクレーターを埋める作業、家を建てる作業、そして、死んでいった人々の墓造り作業を行っていた。


今のセルス街は、前ほどではないものの、活気は徐々に戻りつつあり、住民達の顔にも笑顔が現れるようになった。


街の子供たちは「メサイアになる‼」なんて言い出して、修行に明け暮れる姿がたびたび目撃される。


破壊された家は殆ど元通りになり、2ヶ月程の月日を経て、セルス街の復興は終了した。


メサイアの教会の前の噴水があった場所は、今は慰霊碑となっており、死んでしまった人々の名前がズラリと書かれていた。


そして、その一番上には、メサイア幹部のクレイムの名前も。


「全く、一番弱いからってすぐに死ぬなんて……ね。」


頬杖を付きながら、既に居なくなったクレイムに向かって軽口を叩くアシメル。持ち前の元気さで人々を励ましつつも、クレイムの死は、アシメルの心を少なからず傷つけた。


「そんな事言ってる場合じゃ無いけどね。」


伸びをして、アシメルは街の西側の森、『楽園エデン』が出来ている方角をじっと見つめた。


アシメルの目に魔力が流れ、視力が通常の5倍程に強化される。


その目には、簡易的に作られた家や露天風呂、そして笑いながら走り回る子供達、木でできた人形を斬りつける大人達、壁の周りを歩き回る見張り、そして、


「『怒羅』の店。」


大量殺戮者の悪魔、天野快斗と共に消え去った酒場のオーナー。そのオーナーが営んでいた店と全く同じ名の店が、森の中にできた村の真ん中に存在していた。


「………チッ。」


珍しく、アシメルは表情を怒りに染めて、大きく舌打ちをした。


セシンドグロス王国王都から、貧民達が忽然と姿を消したということは聞いていた。そして、王都に快斗達と『怒羅』のオーナーがいたという話も。


アシメルは、人殺しの快斗に従い、今、笑顔で生活している貧民達に怒りを隠せない。


そんなやつに与えられた幸福など、すぐに壊れる。壊されてしまう。それでも良いのか。お前らは呑気すぎる。考えなしすぎる。それに気付けないなら、自分達が壊しに行くのみ。


「あたしは……あんたらを絶対……。」


アシメルが掴んでいる手すりにヒビが入る。バキバキと音をたてながら、破片が飛び散り、そして……


「アシメル様。」

「ッ……」


不意にかけられた声に驚いて、アシメルが肩を上げる。振り返ると、白装束を纏い、背中に長剣を背負った美青年が、跪いていた。


「あぁ。スティンか。気が付かなかったよ。」


いつも通りの笑みを浮かべて、アシメルは元気に笑いかける。それが作り笑いである事に気づいた美青年、スティンは綺麗な顔を歪めて、悔しさに唇を噛むが、すぐに落ち着いて


「例の悪魔の件でお話が。」

「あぁ。すぐに行くよ。」


アシメルはゆっくりと、スティンについて行った。


「にしても、やっぱりスティンはイケメンさんだね〜。惚れちゃいそうだよ。」

「………自分はアシメル様に心を寄せております。」

「ほーほー。嬉しぃこと言ってくれるねぇ。元気づけられるよ。ありがと‼」


アシメルが力強くスティンの背中を叩く。メサイア『四番』の力は並ではなく、スティンは背骨が折れそうなほどの痛みを耐えて押し黙る。


「さて、凹んでる場合じゃないね‼あたしはあたしのやる事やんないといけないもんね‼」


赤茶色の髪を揺らして、アシメルが会議室まで走っていく。その小さな背中を見つめながら、スティンは、


「………いつかあなたを、私の物に……」


誰にも聞こえないように呟きながら、拳を握りしめた。

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